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7. 常夜の荒野にて

 いきなり視界が開けた。


 茫漠とした荒れ地の向こうに、漆黒の城壁が高々とそびえている。

 その上方にバベルの塔もかくやという建造物群が、偉容を覗かせている。

 宝石箱をひっくり返したような色とりどりの星気(アストラル)灯火が、その壁面を飾り立てる。


 常夜の国の不夜城、新宿歌舞伎城だ。


 屹立するいくつもの塔の建築様式は、さまざまなものが渾然一体となってまさに混沌(カオス)である。それでいて一定の美観を保っている不思議な建築群だ。


 背景の星空よりなお一層の輝きを放ち、妖しく誘う城塞都市。

 その下に広がる昏い荒野には、淡く燐光を放つ精霊たちの群れが行き交っている。


 本来ならば俺は、街の中に直接入れる隠世ゲートを使うはずだった。

 しかし、テルオさん救出のために、イレギュラーな扉から入り込んだわけだ。


 現世にいったん戻って正しいゲートから入り直すことができるのなら、それが一番早いのだが、出入りにはなぜだかクールタイムのようなものがある。

 現世に戻ると、すぐには入り直せないのだ。

 待っていたら約束の時間には、確実に間に合わなくなるだろう。


 というわけで地上を急いでやって来たわけだが、この荒野をどう渡るかだ。


 超常の者を引き連れて行くと、城から攻撃される可能性がある。

 歌舞伎城は、超常の者立入禁止なのだ。住民保護と、独立性を保つためである。


 近づいてからシンを戻せば、問題ないとは思うが、さっきみたいな熾焔球術式(セラフィムセフィラ)をいきなりぶっ放す、馬鹿がいないとは限らない。ないとは思うが、やられたら避けようがない。


 それよりも問題は、この距離を徒歩で行くとなると時間が掛かり過ぎることだ。何らかのアクシデントに巻き込まれる可能性も高い。

 もうひとつ深刻なのは、歌舞伎城の入り口が、ものすごく分かりづらいこと。探すのに時間が取られるとアウトだ


「バスに乗っていこうと思うんだ」


「バスに乗るのは初めてじゃな」


「セオ姫さまは乗れないから、停留所までだよ」

「なぜ乗れぬかや?」


「そういう規則なんだよ」 

「ならば、バスと競争じゃな」

「やめましょう」


 この女神さまは、何をしようとしてらっしゃる?


「妾は歌舞伎城の歓楽街とやらを、一度でいいから見てみたいのじゃ~!」

「超常の者は入れないんだ。ゲ―トで捕まっちゃう」


「なれば、妾が吾が君の恋人のフリでもすれば良いのじゃ」

「セオ姫さま、完璧に人のフリができるのかい?」

「別にフリじゃなくとも、たまさかの恋人になってみてもよいぞ」


 ドサクサに紛れて何を仰るか、この女神さまは。


「いや、問題はそこじゃなくて! 水の羽衣や領巾を引っ込めて、人の服を着て、強つよアストラルとか霊威とかを、しっかり抑え込んだりできるかってことだよ」

「フン、造作もないわ」


「完璧にできる?」

「万が一露見したとしても大事ない」


「大事ないって? どうして?」

「見た者の口を塞げば善かろう」


「却下!」


 土蜘蛛は終始無言だったが、最後に「うむ」と肯首した。

 却下に頷いたのか、バスに乗れないのに同意したのか分からないが、多分後者だ。

 どのみちバスのドアをくぐることはできないだろう。彼の体格では。

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