23. 氷獄の蟲封じ
― 前回のあらすじ ―
仙族の外法蟲師に囚われた有栖川理沙
麻痺毒に冒され体の自由が利かない
蟲師は淫らな欲望を彼女に向ける……
※ ※ ※
スノウドロップの放った吹雪が収まったあと、辺りは深い冷気に包まれていた。
「吹きとばせ、コロンバイン!」
「行くわよ!」
ピンク系の可愛らしいピクシーがくるりと一回転すると、空気が震え風が生まれた。
天井や壁や床に凍りついた無数の妖虫どもが、突風に吹き飛ばされて、通路の奥へと押しやられていく。
枯れ葉のように飛ばされながら、エーテル残滓の光を放ちつつ消えていった。冷気も一緒に押し流される。
「どうマスター? コロンバインちゃんにかかれば、あっという間にスッキリなんだから!」
「うん、助かったよコロンバイン、いつも善き風をありがとう!」
「フフ~~ン!」
あと片付けをしなくて済むから、こいつは助かった。
死骸を見るだけでも胸クソ悪くなるものだ。
それに暗闇の中とはいえ、ちょっとでも明かりが差せば、目に入ってしまうわけで、風日祈さんが間違って見ないとも限らない。
これで余計な心配をせずに、突っ込んでいける。
「行くぞ! 八郎丸、ヴァレフォール、ヤドゥルにピクシーたち! プリンスも前衛に来てくれ!」
「はいですん」
前衛の皆がそれぞれ返事をして前に出てくる。
「ベトベトさんの一人は前へ、一人は後方で皆を守りながらゆっくりフォロー! 風日祈さんは、鳴女といっしょに後方の先頭に。他のみんなはその後ろだ」
「私も、行きます」
「いや、無理するんじゃない。聞き分けて後方の主力となってくれ」
初めての俺の命令口調にも、すなおに頷く風日祈さん。
ガラにもなく強く言っちゃったけど、強引に指示された方が、彼女にとっては楽かもだ――ここはそう思っておこう。
道を左に折れた先に、天津神族使徒の有栖川理沙さんがいるはずだ。
交戦中の敵も、待ち構えているかも知れない。
陣容を整えた俺は、警戒しつつも小走りで角を曲がった。
しかし、そこには誰もいなかった。
彼女は炎で蟲どもを焼いていたはずなのに、燃えカスの灯りひとつ見えない。
焼き尽くされて、死んで消滅してしまったか……。
「誰かいませんかー!? 有栖川さん!?」
その先の暗闇に向かってビームライトを照らした。
浮かび上がったのは、スノウドロップの術式にやられ、白く凍り付いたまま分解を待つ無数の妖虫の死骸ばかりだ。
「コロンバイン、こいつらも吹っ飛ばしてくれ!」
「お任せあれなのよ!」
風が吹き荒れ、残りの死骸もすべて消滅した。
その奥からも、何の反応もない。
「おかしいな……」
後方を振り返り尋ねる。
「風日祈さん! 有栖川さん移動してないかな?」
「はい、移動してません。地図の表示ではこの場所にいるはずです」
どうなってる?
透明になって隠れてるとか?
いや、今風日祈さんの声が聞こえたろうから、それなら返事があるはずだ。
「マスター、なんか落ちてるのよさ」
「あー、ブルーベルずるい! コロンバインちゃんが今言おうとしたのに~」
ブルーベルとコロンバインが、ホバリングしながら地面に近づく。
震えるように羽ばたくその翅から、煌めき落ちるアストラルの光の粒が、床の上に残されたスマノー――俺がそう呼んでいるだけだが――の滑らかな革表紙を照らし出す。
「良く見つけたな、ブルーベル」
「コロンバインちゃんが先に見つけたんだもん」
「そうだった、コロンバインは鋭い目をしてるな」
「もっと遠くだって見えるんだからね!」
「他にナニか見えないかい?」
「んー、奥の方には死んだ蟲と死にかけた蟲と生きた蟲がいるよ!」
「じゃあ、スノウドロップと二人で片付けちゃって」
「承けたまりましたわマスター。コロンバイン、残らずやってしまいますよ」
「ハイ、お姉様の恐ろしさ、蟲どもに思い知らせてやってください! そしたらコロンバインちゃんが世界の果まで吹き飛ばしますわ」
スノウドロップ AI生成を加筆修正
二人のピクシーたちが、盛大に蟲掃除を始める。
俺はスマノーを拾い上げると、風日祈さんのところまで急いで戻った。
「これ、彼女のかな?」
「今、現在位置が近づいて私と重なりました。間違いなく有栖川さんのものです」
胸騒ぎがする。
「有栖川さん! 聞こえませんかーー!」
だめだ、返事はない。
「鳴女に!」
「え?」
「今すぐ鳴女に探らせます。お願い、鳴女」
「はい、姫さま」
茶色の美しい羽根色をした大きな雉がトコトコと出てくると、暗闇に向かって「ケン!」と高い声で鳴いた。
確かこういう強い鳴き方は雄しかしないはずだが、そこは超常の者ゆえだろう。
この声がソナーのように広がり、その反響を用いて探査しているのを感じる。
少し間があったあと、鳴女の全身が柔らかな光に包まれると、突然着物姿の女性になった。
いろいろな不思議を隠世で目にはしているが、予期しなかったのでちょっと驚いてしまう。
ビクッ! と肩が跳ねたのを見られたらしく、背後から「クスッ」と小さな笑いが聞こえた。
(う……ちょい恥ずい)
朽葉色した着物姿の小柄な女性が、黙したまま十数歩奥へ進んで立ち止まった。
おもむろに右を向くと、小袖からすらっと伸びた手で壁を指差し、涼やかな声で告げるのだった。
「この向こうに通路があります」
「この壁を壊して進むの?」
風日祈さんが鳴女に尋ねる。
「いいえ、姫さま」
「いや、多分こうだ」
俺は歩み寄ると、壁に手を押し当てた。
すると、すっと手が壁の中に吸い込まれる。
「この壁は幻だ。行くぞ、みんな。有栖川さんはこの先にいる!」
※ ※ ※
「――――ケン」
鋭い声が地下道の奥にまで響き渡った。
蟲使いの卑しい指の動きが止まる。
「あれあれ? これはもう一人の子の、シンの探査の声なんだな」
有栖川理沙は、小さく息を吐いた。
ほっとしたのもつかの間、すぐに焦燥感に駆られる。
この状況はまずい。
風日祈珠子が、独りでこいつに勝てるわけがない!
(来ちゃだめだ……風日祈!)
「ごめんね理沙ちゃん、ちょっと待っててね。さすがのボクも、この格好で使徒と鉢合わせしたら下手打つと思うからさ、蟲鎧着ないとなんだな」
「待って!」
「もう理沙ちゃんたら、焦っちゃだめなんだな」
男は昆虫の外骨格のようなアーマーを再び着込むと、肩を揺らしながら嗤った。
「んふふふふ、蛇蟲、蜈蚣蟲、さあ、行って来い!」
「私を放置していいの? もうすぐ動けそうだし」
「チッチッチッ、まだまだ無理なんだな! それより楽しみにしててね~、珠子ちゃんもパーティーに誘っちゃうんだな!」
唇を舐め、いやらしく目を細める。
「理沙ちゃんはクールビューティーな美人さんだけど、珠子ちゃんはまだロリっぽさが残ってて、もうボク、ブヒブヒいっちゃいそう!」
「このクズ豚野郎!」
「ブヒブヒ! 罵られてボクとっても嬉しいんだな」
男は期待に胸を膨らませ、フルフェイスのヘルメットを装着すると、体を左右に揺らしながら駆けて行った。
残された理沙は、荒い息を鎮め、再び体内の気を練り始める。
急いで回復しなくては、風日祈まで無惨な体験をすることになる。
四肢に力を循環させるように、静かに呼吸を整えていった。
睦樹の救援は、間一髪間に合いそうだが
麻痺毒を持つ蟲は、極めて危険である
果たして、蟲師との対決は!?
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ここは中野ブロードウェイ隠世屋上
カンビヨンD「並木樹木の修復100%達成……やっと終わった」
カンビヨンABC「「「おめでと~~~!!!」」」
カンビヨンA「甘いミルクティーだよ」
カンビヨンB「甘くてふわふわのケーキだよ」
カンビヨンC「カタモミです……」(ワキワキ)
カンビヨンA「座って座って」
カンビヨンB「はい、あーんって口開けてみて」
カンビヨンC「お疲れさまでした」(モミモミ)
カンビヨンD「今さらこんなこと………されても……」
カンビヨンA「ごめんね、木の直し方、マスターに注入されてないの」
カンビヨンB「その代わり、いっぱい甘やかす」
カンビヨンC「私はマスターにやらされてるから、これできるの」(ムニムニ)
カンビヨンD「みんな……あ………ありが……とう………」
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次回、令和7年11月2日 日曜日更新予定!!




