10. 歌舞伎城地下★仙族地獄の一丁目
― 前回のあらすじ ―
新宿地下サブナードの地下駐車場から、浮浪者の照夫さんの力で
新宿隠世、歌舞伎城の地下ダンジョンに転移させられた睦樹
危険度が高いということで、11体のシンすべてを召喚した
「おやおや? ここは歌舞伎城じゃあないのかい?」
悪魔ヴァレフォールがなぜかニコニコ顔だ。
何がそんなに嬉しいのか? 大泥棒の血が騒ぐとかか?
なんにせよ、面倒くさそうだ。
「ヴァレフォール、服変えたのか?」
服装も前と違って、革でできた動きやすそうな服を着こんでるんだが、無駄に露出度高めだ。
「前のは隼坊ちゃんの上流階級への憧れみたいなのがモロに出てたヤツで、アタシの趣味じゃないのさ。どうよ、こういうのは?」
「似合ってるけど、ちょっとあれだよ……」
「何かな~~?」
「その……目のやり場に…困るんだがっ!」
なで肩で手足が長くスレンダーな割に、胸とかはしっかりあったりする。
褐色の革製のブラジャーのようなものに押し上げられたそれは、柔らかそうな谷間を露わにして俺のすぐ目の前にあった。
細い腰と臍も露出していて、同じ材質の革のホットパンツからしなやかな脚が伸びている。
「別にガン見したっていいんだよ? マイ・マスター」
そのスレンダー・ボディですり寄り、俺の体に密着してくる。
「その恰好って、俺の趣味に合わせてるわけじゃないだろ?」
「そうだよ。あくまでもアタシの趣味」
「主さまから離れるのですん、この変態露出魔めが」
「木偶のくせに、人並みに嫉妬かい? 可愛いじゃないか」
「主さま、やっぱりこのスベタ悪魔を速やかに滅ぼすですの」
「すわ滅ぼしましょうぞ、我らが主よ。こやつときたら、もはやロードでもないくせに我が物顔で、我らが中野隠世でやりたい放題……」
ここぞとばかりに狗神の八郎丸が加わり、讒言してくる。
「八郎丸、話はあとで聞く。とにかくみんな止めるんだ、ヴァレフォールも離れてくれ」
そんな簡単な命令すら聞こえなかったかのように、さらにグイグイ来ながら俺の耳元に囁いた。
「地下から気づかれないように歌舞伎城に侵入ってことはマスター、仙族ぶっ潰してアタシらで支配するのかい? クフフフ……」
どうやら新しい揉め事とかが、大好物の輩のようだ。
「わお! ほんとですの? さっすがコロンバインちゃんのマスター、小狡い仙族なんか、どりゃっとぶっ倒しちゃうのですわ!」
ピンク色した超耳聡い妖精コロンバインも、もちろんその輩だった。
そして、ヴァレフォールが他に聞こえないようにしていた気遣いが、これで全部パーだ。
物騒な話を耳にした皆が、ざわつき始めている。
「歌舞伎城攻略なんかしない。いきなりここに迷い込んだだけだよ」
「「「え~~?」」」
ダメな輩が増えている。
「ここら辺は、強い超常の者が出現するから、みんなに来てもらった。充分注意しながら行こう。今回は探索しながら、水生那美さんの救出を目指すのが大目的だけど、生き残って帰るのが最優先だ」
「へー、国津神族第一使徒って何かピンチなんだ?」
「いや、ちょっと行方不明なだけ」
「悪魔族に余計な情報を漏らしてはダメなのですん」
「もう俺のシンじゃないか」
「でも悪魔族ですの」
「大丈夫なのだよ、ヤドゥルのお嬢ちゃん。アタシだけでなく、悪魔にとって契約は絶対だからね。裏切ったりはしないのさ、ニンゲンのようにはね」
「悪魔は嘘つきなのですん」
これでは埒が明かない。
「ヤドゥル、とりあえず今はヴァレフォールを信じてやろう」
「むうーー」
ヤドゥルは膨れっ面をして口をつぐんだ。
スマノーでステイタスをチェックすると、皆EPもAPもマックス状態。
俺が一晩ゆっくり休んだことで、全回復したということだ。
「さあ、みんな気を付けて進むぞ」
俺たちは霧の中に、危なげな一歩を踏み出した。
※ ※ ※ ※
シンメトリーのように白刃が煌めき、二閃の斬撃が中央から左右へと放たれた。
鎧ごと破壊された幽鬼どもの肉体は、エーテル状態を維持できずにガス状になる。
その消えゆく影を突き破って、新手の幽鬼二体が飛び出した。
白い軍服の美丈夫たちは、一瞬の不意を突かれた。
小ぶりの斧が素早く振り下ろされるのに、鋼の刃がそれぞれ辛くも合わせる。
キンッ! キンッ!
金属が打ち鳴らされる鋭い音と、青白い火花が散った。
カヒュッ!
甲高い音に続いて、トッ、と手応えの軽い音。
醜い鬼の眉間には、私が放った矢が立った。
音もなく、口からアストラル気炎を吐きながら、その者は仰け反り倒れた。
斧の圧から自由になった刃が、もう一体の鬼を袈裟斬りにする。
その刀を振り払った軍服姿がこちらに振り返り、親指を立てながらにこやかに笑いかけてきた。
「ナイス・フォロー、珠ちゃん」
「はい、ありがとうございます」
さっきからこの殿方――渡邉さんからは、戦さの緊張感が微塵も感じられない。
そんなので大丈夫かなと思った矢先、最後の幽鬼が隙だらけの背中に打ち掛かった。
私の弓矢は間に合わない!
でも、もう一人の殿方が足技で転ばせると、地面に縫い付けるようにして仕留めた。
「おい宗興、気を抜くな」
やっぱりだ。また立花さんに怒られてる。
「え? 最後のは靖の分だろ? 続けて取っちゃ悪いしさ」
暖簾に腕押し、糠に釘だ。
「そういうことじゃないだろう」
「ちゃんとクリアしたんだし、問題なしってこと」
「ふぁ~あ……つまんな……」
もっと緊張感皆無の人がいた。
術式担当の有栖川さんだ。
有栖川理沙 AI生成に加筆修正
「理沙、お前も少しは仕事しろ」
「んー……まだその時じゃないのー……」
「せめてイヒカを使え」
「ニヌルたんは、あーしのSPだからダメ」
「無常鬼は死神の最下位の雑魚だ。護衛は不要と言ったろ?」
「あいつら……下っ端の死神? 死神の下っ端でも強いのいるよ?」
「そうなのですか? 有栖川さん?」
それは私の調べた情報と違う。
だけど、有栖川さんの情報源が私と違う可能性がある。
でも、彼女のはおそらく怪しいと思うのだ。
「理沙ちゃん、それってどこ情報?」
渡邉さんが的確かつ軽い感じで指摘してくれた。
「アニメ……かな?」
ため息を吐き、頭を抱える立花さん。
ここは話題を変えるために、何か言ったほうがいいか私は迷っている。
「何てアニメ?」
あ、そのまま付き合ってさし上げるんですね。
渡邊さんお優しい。
「なんかー…、漂白剤みたいな名前のー……」
「漂白剤みたいな名前の薬剤? まさか……カルキじゃあるまいな」
「アハハ、カルキなんか出てきたら、僕らでも瞬殺されちゃう」
「いや、仙族と仲の悪いディーヴァ神族の最上位クラスの神が絡んでいるわけがない」
カルキとはよっぽど恐ろしい神さまなのだろう。
後で調べておかなくてはですね。
「そもそもアニメの設定など気にするな」
やっとそこに戻ってくれましたか。
「無常鬼は、お前でも術式なしで倒せるくらいの相手だ。イヒカを俺達の支援に出せ」
「やだもん」
そういって有栖川さんは、尻尾のある半水棲怪人に見える亜人に抱きついた。
このイヒカさん、見た目は難があるものの『古事記』にも登場する由緒正しい国津神だ。
私も使徒として経験を積めば、こんな質感の怪しいシンにも、別け隔てなく接することができるのだろうか。
「我侭は通らないぞ!」
「まあ、いいじゃないか靖、俺達と珠ちゃんで今んところ大丈夫だ」
「お前はすぐ理沙を甘やかす」
「式神のバフ☆デバフもいることだしさ」
「そのバフ、デバフって安直な名前止めろって言ってるだろ?」
「僕のはもうバフって銘々したよ。靖が自分のをちゃんとデバフって名前付けてくれれば問題ないぞ」
「絶対にするか!」
最初怖くてとっつきにくい人だと思ってたけど、今は立花さんの気持ちが一番良く分かる。
このチームをまとめていくのは、なかなか大変だなと共感してしまうのだ。
でも、その気持を言葉にして伝えるのは、どうもうまくできない。
やっぱり私にとって立花さんは、ちょっと怖い人であるのは変わらないからだ。
どんなふうに話しかければいいだろうか。
独り静かに悩んでいると、私のシン――鳴女から警報が入り、その視界が共有された。
私は状況を皆に伝える。
「新たな無常鬼の群体、押し寄せて来ます。数、九体! その背後に別の超常の者、牛の頭と馬の頭の鬼です。それから黄色の体に人面の四足獣です」
「地獄の獄卒馬面鬼、牛頭鬼か。どうもここいらは冥府絡みの奴らばかりだね。でも、その獣は何だろう?」
「たぶん、合窳ではないかな。人を好んで喰うやつだ。手強いぞ」
「やっと出番なの……かも、かも?」
雌の地味な雉の姿をした天津神の神使、鳴女が逃げ帰ってきた。
睦樹と同時に歌舞伎城に入り込んだ天津神族パーティー
これから二者がどう交わるのか?
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蘭花「・・・・・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「・・・・・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「・・・・・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「・・・・・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花(なんか喋りたいデス~~!!(TÅT)
蘭花「・・・・・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「・・・・・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「釣れませんね、老師さま・・・・」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「老師さま?」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「ろ、老師さま?」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「まさか、老師さま!」
老師「・・・・・・・・」
蘭花「はぁ、目ぇ開けて寝てんのか、このクソジジイ・・・」(ホッ)
老師「誰がクソジジイじゃね?」
蘭花「ひゃぃいいい!」
次回!! 令和7年6月1日に更新できたら自分を褒めてやりたい予定!




