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9. 闇と霧の隠世

― 前回のあらすじ ―


  一色あやのサイン会に参加すべく

  新宿地下サブナード商店街を行く睦樹

  天使のような幼児二人にいざなわれ

  地下駐車場で出会った浮浪者の老人によって

  異世界に送り込まれた

 俺は暗闇の中にぽつんと独り、立ちすくんでいた。


 スマホを取り出すとスマートノートと化しており、俺はアストランティアのアーマードスーツを着込んでいる。

 つまりここは隠世(かくりよ)だ。


 手に持っていたてるてる坊主は、変化せずそのままだ。

 棄てるのも忍びないので、とりあえずポーチにしまっておこう。


 ()()()()で辺りを照らすが、霧が漂っていて視界が悪い。

 高円寺脇道の濃霧ほどではないが。

 俺はどうしていいかも分からず、周囲を警戒した。


「いったい何だったんだ、あの爺さん!」


 それにガキンチョ天使どももグルに違いない。

 可愛い姿してたのは、やっぱり罠の餌だったってことだ。


「くそ、俺には幼児好き属性なんて無いんだってば……」


 もし、罠にはめた黒幕が俺をそのカテゴリーに放り込んでいるとしたら、一重にヤドゥルをいつも連れているせいに違いない。


「そう、何もかもヤドゥルが悪いんだ」


「んん~~主さま~、どうして宿得が悪いのですん?」


 後ろからの声に振り向くと、やっとヤドゥルが伸びをしながら現れたところだ。ヤドゥル全体がほんのり光って見えて、闇の中で浮かび上がって見える。


「たぶんヤドゥルのせいでここにいるんだってことさ」

「そんな……宿得は悪くないですのぉ……」


 そうだった、ヤドゥルにはあんまり冗談が通じないんだ。

 本気で俺がヤドゥルが悪いと思ってると考えてしまう。


「ごめんごめん、冗談だ」

「お(たわむ)れでしたの?」

「ああ、お戯れお戯れだ」

「むう……」


 ヤドゥルは、可愛くふくれっ面をしながら、辺りを見回した。


「………ここはどこですん?」


「それは俺が聞きたいとこだよ。新宿の隠世のどっかだと思うんだけどな。真っ暗でよく分からん」


 相馬吾朗の記憶を探っても、周りが見えないので照合しようにも上手くいかない。

 シンのステイタス・チェックでもすれば、光の魔法を持ってる奴がいないか確かめられるかもだ。


「お待ち下さいですの……ん~~~~~~~~~……」


 ヤドゥルは目をつむって唸りながら、なにやらサーチでもしている様子だ。


(ヤドゥルちゃん可愛い)


 両手を斜めに下げて掌をぷらぷらさせ、ちょっと仰向き加減で目をつむっている姿は、確かに微笑ましくもあるが、奇妙な姿ともいえる。

 でも彼女に合わせておこう。


(うん、たしかに可愛いな、アストランティア)


 自分の無意識人格に、とりあえず話合わせるってのは、どうなんだ?

 それも筒抜けじゃないのか?

 ツッコミがないってことは、はっきり伝えようと意識しないと通じないのかもしれない。


 それと、俺は分かったぞ。

 小っちゃい子好き属性は、アストランティアのせいだ。


「分かったのですん。ここは歌舞伎城の地下迷宮の脇道のひとつですの」


 こちらも分かったようだ。

 現世(うつしよ)でも地下駐車場は歌舞伎町の隣だ。

 それほど変な場所に飛ばされたんじゃなくて良かった。


「ヤドゥル、ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

「はいですん」


「なんか、俺にしか見えないちっこい天使ちゃんたちに誘導されて、浮浪者の爺さんが開いたゲートに呑まれたんだけど、こいつら何者か心当たりない?」

「うーんと、そのお爺さんはたぶん、天使族使徒の成れ果てのお爺さんですん」


「成れ果てってなんだ?」

「隠世で何度も死んで、使徒の力は失ったけれど、隠世の記憶を残している珍しい事例の人ですの」


「死に過ぎるとあんな風に廃人っぽくなっちゃうのか?」

「小日向照夫さんは廃人じゃないのですん。ちょっと優しすぎて、現世の人たちと上手くやっていけないだけですの」


「じゃあ、チビ天使は?」

「現世に天使が現れることは、無いことはないですけど、とても珍しいのですん」


「爺さんのシンってことじゃないのか?」

「照夫さんは、もう天使をシンにすることはできないですの」


「ああそうなのか、じゃあ何者なんだろう? なぜ爺さんに従う?」

「もしかしたら、護衛かもしれないのですん」


「護衛? あんな幼児天使が?」

「天使だったら、大きさに関わらず、そこそこ強いですの」


「そんなもんか。しかし、護衛を付けるほど照夫さんって人は大物なのか?」

「多くの使徒が、お世話になっているのですん」


「珍しく現世のことをよく知ってるんだな」

「特別ですん。照夫さんが現世で悪漢に襲われたとき、相馬吾朗さまを呼んでヤドゥルが助けたですの」


 ドヤ顔のヤドゥルだが、実際助けたのは吾朗じゃないのか?

 だがしかし、今聞き捨てならないことを言った。


「ちょいまち、ヤドゥルはどうやって照夫さんの危機を知ったんだ?」

「照夫さんのてるてる坊主と繋がっているのですん。危ないことがあれば、知らせてくれますの。その目を借りることもできますん」


「で、そのてるてる坊主で、吾朗を呼んだのか?」


「違うのですの。現世の吾朗さまが、ヤドゥルとお話しできる、すまほあっぷるというものを入れたと仰っていたのですん」


「スマホアプリだな」

「すまほあぷり……」


「そんな便利なアプリがあるのか。何てアプリ?」

「?? すまほ…あぷり、ですの?」


「いや、スマホアプリってのは、スマホ、ほら、このスマートノートの現世の形のやつに入れるプログラム全般をいうんだよ。なので、何ていうスマホアプリなのか、ってのが分からないとダメなんだ」


「ヤドゥルは現世のことは分からないのですん」

「うーん、じゃあヤドゥルはそのスマホアプリで吾朗とどうやって話してたんだい?」

「吾朗さまが、ヤドゥルにカワイイすまほをくれたですの」


「え、じゃあそれ見せて?」

「ごめんなさいですん。この前歌舞伎城で死んだときに、壊れてしまったですの」


「え……そっか、辛いこと思い出させちゃったな。こっちこそごめんな」

「謝らないでくださいですん。ヤドゥルは平気ですん」


 本当に平気なのか、それとも無理をして言っているのか、イマイチ分からない。

 アプリに関しては手がかりなし。誰かほかの使徒に遭ったときに、聞いてみるか。


「そうそう、俺もてるてる坊主を照夫さんから貰ったんだけど、なんか意味あるのかな?」


 俺はてるてる坊主を取り出して見せた。

 ヤドゥルはじっとそれを見つめていたが……


「んんん~~、分からないですの。ごめんなさいですん」

「謝らなくてもいいさ」

「でも、照夫さんが渡してくれたのなら、何か意味があるですの」


「あ、そうだ。その照夫さんが、俺をこっちに飛ばすときに、『たすけて』とか言ってたんだけど、どういうことだろう? 照夫さん自身を助けて欲しいって感じじゃなかったんだ。誰かを助けてって意味じゃないかと思うんだけど、心当たりないかな?」


「きっとお(ひい)さまのことですの」

「うーん、やっぱそう思うか」


 だとすると、照夫さんもおチビさんたちも味方ってことになるな。

 俺に水生那美を助けてもらおうとしていたわけだ。


「照夫さんと那美とは、どういう関係だったの?」

「知っている仲だとは思いますけど、どれだけお友達だったかは知らないのですん」


 照夫爺さんとのコミュニケーションをまともに取れる自信ないが、今度会えたら情報を聞き出したい。

 その前に彼女をこの隠世で助けられたら、もっと良いわけだが。


「ところでヤドゥル、この辺の超常の者は、かなり強いかな?」

「強いですん。でも、今の主さまとシンたちなら、ギリギリ生き残れますの」


 おいおい、ゲームバランスぶっ壊れたところに放り込まれたのかよ!


「じゃあ、シンぜんぶ出さないとだな」

「はいですん」


 俺はステイタスを確認しながら、シン全員を召喚した。


 大ネズミのオイリー・ジェリー

 妖怪スネコスリ

 妖怪ベトベトさん×2

 巨大蟇蛙プリンス・クロウリー

 狗神の八郎丸

 エルダー・ブラウニーのちいさいおじさんことともぞうさん

 ピクシーのブルーベル、コロンバイン、スノウドロップ

 そして悪魔ヴァレフォールだ。


 彼ら自身がぼんやりの暗闇で光って見えるので、認識はできる。

 うちもすごい大所帯になったもんだ。


「残念だが、明かりのスキルを持っているシンが居ないみたいだな」

「わたくしが、下位精霊のスプライトを召喚できますわ」


 スノウドロップが美しい蜂のような可憐な羽根でホバリングしながら、少し輝きを増した。


「スプライトが光のスキル持ちなのかい」

「いいえ、スプライト自体が光ります」


「ああ、そうだった。それじゃお願いできるかい?」

「たまさかに生きる者よ、無垢なる精霊たちよ、ここに集いて吾が命に報じよ――サマン・スプライツ」


 スノウドロップに召喚されたというより、呼びかけに応じたように周囲の霧の中から朧気な緑色の光が幾つも集まってきた。


 その光は、小さな羽根の生えた妖精の姿から発している。

 ひとつひとつの光は弱くとも、集まることで暗い地下回廊がほんのり照らし出された。



挿絵(By みてみん)

  歌舞伎城地下通路 AI生成のダンジョンイラストに、キャラと霧は加筆



 目前に人工的な石材で組まれた、堅牢そうなダンジョンが現れた。

 霧がかかっているので、スプライトの光を集めても、すぐ先は闇に沈んでいた。


 超常の者は光って見えるし、ジェリーを偵察に出すからそうそう奇襲はないと思うけど、これは探索自体が難易度高そうだ。


いきなり強敵ステージに放り込まれた睦樹

実は私も、こんな夢をよく見るのですよ

そしてバトルして死んでも、同じところからリスタート

絶望を感じながら、何度もリトライ・・・


ダニエル「あれ? ムッキーもう隠世に行ってもうたん? あかんなあ、こりゃ合流できへんで」

空夜「君の楽して儲けようプランも水泡に帰したか」

ダニエル「人聞きの悪いこと言わんといて~、ムッキーを露払いに使うなんて、これっぽっちも思うてへんで」

空夜「なるほど、根は正直者のようだね」


次回!! 令和7年5月25日更新予定!


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― 新着の感想 ―
ヤバいところに飛ばされましたなぁ。 頑張ってほしい。久しぶりのヤドゥルも嬉しい☺️ ところで、脱字を見つけましたのでご報告。 俺にか → 俺にしか と思われますん。 「なんか、俺にか見えないちっこ…
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