4. 幻視
山童と同期した俺の目は、金縛りにあったように動かせない。
つり上がった大きな目の中の赤い炎、それが瞳だ。
距離があるのに、眼前に火を吹く双眸があるように錯覚する。
その火の奥には、山羊のように横長の瞳孔が見える。
女のように細い顎、赤く薄い唇がニッと嗤う。
緋色の巻毛がふわぁっと熱く揺れた。
何かが頭の中に入ってくる!
鮮やかな原色の映像だ。
それも燃えるように赤い。
絵の中に俺が……いるのか?
赤い水溜まりを、前にしている……
鮮烈な赤の……血の広がりか?
……俺の血……なのか!?
誰か倒れている……赤に浮かぶ白と黒
うなじと黒髪だ……
まさか、そんな……あの娘は!!!
「・・・・・!!!」
俺が何か叫んでいる。
誰かが俺を呼んでいる。
「……サマ……ジサマ……アルジサマ!」
ふっと我に返った。
かたわらにはヤドゥル。
「主様よ、いかにされた!」
俺は土蜘蛛の四つの手に支えられながら、地面に足を投げ出していた。
どうやらその肩から落ちたのを、土蜘蛛が捉えてくれたようだ。
「目が、悪魔の赤い目が……」
「ふっ、魅入られたかぇ? 吾が君も未熟モノよの」
「なんか鮮明な映像を見せられたんだが…………あれ? なんだっけ?」
さっき頭に入ってきた映像が思い出せない。
とても重要なものを、見せられた気がするんだが……
「なんと忘れてしもうたのかぇ? 魅入られ損よの。悪魔に心を覗かれて、その対価の心映も失のうとは」
「しまった、どのくらい経った?」
「ほんの少しですん」
(山童、ダイジョブか?!)
しかしテレパシーに反応がない。シンクロも断ち切れたままだ。
「山童が危ない! 急ぐぞ!」
俺たちは全力で駆けつけた。
すでに周囲に悪魔とレギオンの気配はなかった。
廃ビルの二階に昇るが、山童の姿が見えない。
隠形をしているのか、それともすでに悪魔にやられてしまったというのか?
「山童! どこだ?」




