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5. エレベーターの四人

― 前回のあらすじ ―


  中野ブロードウェイ隠世での戦いの後処理はほぼ終了

  カンビヨンの燕たちは、出花隼に分かれを告げる

  ヴァレフォールとその眷属であるカンビヨン、

  そして新ロードとなった狗神が中野に残った

 狗神とヴァレフォール以外のシンを戻した俺とダニエルは、ヤドゥルと空夜とエレベーターに乗り込んだ。

 空夜が地下一階のボタンを押す。


 屋上には、出花とそのシンたちが残る。

 ヴァレフォールたちは、次に乗るために近くまでやって来ている。

 狗神の八郎丸が膝を付いて、深々と礼をする姿の前で扉が閉まった。


 カンビヨンは多すぎるので、一度ではエレベーターで運べない。

 そこで狗神はヴァレフォールが引率している間、屋上で彼女らを見張り、最後には一緒に降りていくことにしたのだ。


挿絵(By みてみん)

    カンビヨン



 しまった、ヴァレフォールのステイタス確認を忘れた!

 次回隠世に入るときまでのお楽しみになってしまった。


「ワイがあとで隼ちゃんの様子、見に来たるさかいな。まあ、そない心配せんでええで」


 俺がステイタス・チェックを忘れたのを悔やんでいたのを、そんな風に見られたか。ちょっと恥ずかしい。

 それに今気がついたが、シンだから、アナライズしなくても良いのだった。隠世ならいつでも見られるのだった。

 ちょっぴりの忸怩(じくじ)たる思いを隠し、ふつうに受け答えしておく。


「ああ、任せて良いのかい?」


「かまへんかまへん、これは貸しにもせえへんよ」


 わざわざ言うってのは、貸しと思ってもええんやで、と取るべきか。考えると面倒なので、空夜に話を振る。


「空夜くんは、あやのライブのスタッフか何かなのかな?」


「なんて言ったらいいかな……直接スタッフとして動いてるわけじゃないけど……彼女に不都合が起きないように、いろいろ手を回している」


「ボディーガードには見えないけど?」


「まあ、彩夜(あや)の影、とでも言っておこうか」

「影か……なんか、厨二病っぽいね」


「フム、君の想像にお任せするよ」

「うーん、エロい想像でもいいのか?」


「馬鹿なのか君は?」

「失礼な、主さまは馬鹿ではないのですん」


 まったく表情を動かさず空夜が言い放つ。

 少しくらい笑ったところを見たかったんだが、大失敗だ。

 穴があったら入りたいってのが、マジであるんだ。

 ヤドゥル、今すぐ穴を開けてくれ!


 ダニエルも、こういうときこそ、黙ってないでなんとかしろ! と思ったらちゃんとボケた。


「ワイも想像してええのんか?」

「ダメだ」

「ええ~、なんやそれ~」


 ダニエルも即轟沈。でも、少し気が楽になった。サンキュ、ダニエル。

 エレベーターはゆっくりと上層階を通り抜け、現在地表示は③になってる。


「また会うこともあるだろう。その時は君の味方とは限らないからな」

「ああ、でも敵にはなりたくないね」

「だといいね」


「あ、やっぱワイ一階で降りるわ、装備なんとかせんとな」


 確かに彼の装備はズタボロだった。

 俺のもそこそこ傷ついているが、今はコンサート優先だ。

 ダニエルがボタンを押すと、すぐに一階で停止し、ドアが開いた。


「みなさん、ほな、さいなら~」

「ああ、それじゃな」


 奇妙なサヨナラ・ポーズで停止している姿を残し、ドアが閉まる。


「殺しそこねたですん」


 まだ命を狙っていたのか、ヤドゥル!

 そしてすぐにエレベーターは地下一階に着き、俺達を吐き出した。


「空夜くん、改めて礼を言わせてくれ。君が来なかったら、俺は出花を殺さなきゃ勝てなかった。ほんとうに、ありがとう」


「僕は忠告を守らず四階に行ったことを謝ってほしいけどね」


「いや、それは謝らない。だって、それであの生贄になった女の人を救えたんだろ?」


「やれやれ、君はかなり頑固者だな。でもそうだと思うよ。多分彼女の命は救われただろう。それにその前に犠牲になった人たちも」


 それが本当なら、俺はガチで良いことをしたと思う。

 絶対に反省などしない。

 世界改変バンザイ!


「出花はこうやって世界を改変して、妹を救えないんだろうか?」


「時間が経ち過ぎているからね。それだけ凄まじい改変になる。そのためには相応の力が必要だ。並大抵の成果では無理だろうな」


「そうか……」


「さあ、このゲートから戻ることができる」


 俺たちは現世との出入り口のゲートに立っていた。

 薄い膜の向こうに、ゆらゆらと現世の商店街の人通りが見える。


「先に行かせてもらうよ。急いで彩夜に会わないといけなくてね」

「ああ、どうぞお先に」


 空夜がゲートの向こうに出て、その姿が水の中のように揺らめいて見える。

 走る動きもゆっくりになるので、ほんとうに水中のようだ。

 優美な彼の動きが、舞を踊ってるみたいだ。


「さてさて、ステイタス・チェックだ」

「ヴァレフォールですの?」

「そうだよ。ヤドゥルは好きじゃないかもだけど、かなり強力な戦力だぞ」

「それは認めますん。でも、ピクシーより信用できないですの」


 俺はスマート・ノートを取り出すと、シンのステータスのページをめくる。

 ヴァレフォールは今エレベーターに乗っているのか、真っ直ぐに立っている。



【名称:ヴァレフォール】

[固有名:ヴァレフォール]

[分類:上位悪魔]

[種族:悪魔]

[種族:幻魔]

[レベル:22]


[スキル:見えざる手:両腕の先を不可視にして自在に伸ばすことができる]


[スキル:究極の怪盗:対象が自分を目視していなければ、見えざる手で対象の持つ物を奪うことができる。あるいは、見えざる手を現世に伸ばし、物品を掴んで隠世に持ってくることができる]


[スキル:風盾:対象の周囲に竜巻を発生させ、風の盾として用いる]


[スキル:風刃:不可視の風の刃を複数出現させ、風属性の攻撃を加える]


[パッシブスキル:盗癖喚起:影響下にある者に、物を盗む欲望、盗む行為の快感、盗みが成功したときの達成感を与え、盗みが発覚しない加護を付与する]


[ソロモン王によって封じされたとされる七十二の魔神の第六番の者。十のレギオンを率いる地獄の公爵。盗賊の守護悪魔]



「こいつはすごいぞ、レベル22もある」

「主さまの倍以上ですん。ふつうはあり得ないことですの」


「俺、良くまともにやり合えたよな」

「主さまは無敵なのですん」

「そんなわけはないぞ、ヤドゥル」


 俺より強いはずの相馬吾朗は、俺の知る限り二度も死んでいるのだ。

 いや、でもまともに戦って負けたことは無いのかも知れない。


 レッド・ドラゴン戦での死亡は、最後に事故ったようなものだし、中野の敗北もルーラーが討ち取られたためだ。

 俺がその力を引き継いでいるとしたら、かなり無敵に近づけるかもだ。よし、頑張ろう俺。


「さあて、現世に還るか」

「しばしのお別れですの」


 そう言ってヤドゥルは手を差し出してきた。

 手を繋いでゲートをくぐると、現世では時間がゆっくりのため、角を曲がって走り去る空夜の姿が目に映った。


 俺の武装は解かれ、ヤドゥルも不気味人形に戻っている。

 現世の匂いと喧騒が、どっと押し寄せてきた。


 ※   ※   ※   ※   ※


 犬養睦樹たちが現世に戻り、狗神とすべてのカンビヨンがエレベーターで降りて行った後、庭園は静けさに包まれ、小川が流れる音だけが聞こえている。


 荒れた屋上の庭園で、出花隼はひとり黄昏れた空を見つめていた。


 シンであるホブゴブリンのセバスチャンや、ファントム・キャットのビネガー・トム、そして生き残った小さな者たちも、放置したまま眠っている。

 少年は無気力にまかせて四肢を投げだし、仰向けに芝生の上に寝転がってじっと動かない。


 そして答えの出ない問いを、延々と自分自身に投げかけていた。


 自分がやってきたことが意味なかったのか。

 それともただ力が足りなかっただけなのか。


 このまま中野で実験を繰り返したら、いつか燕を復活させられると信じていたが、ヴァレフォールの言う通りそれは限りなく似たものに過ぎなかったわけだろうか。

 でも、限りなく似たものは、実は本物と同じじゃないのか……。


 ヴァレフォールはすべて判っていて自分に協力し、妹のフリをしていた。


 それはただ媚びるため? いや、ヴァレフォールはかなり高位の悪魔、上位悪魔でさらに爵位持ちだ。

 マダムから特別に与えられた強力なシンだった。自分に媚びる必要などない。


 じゃあ、あれは彼女なりの愛だったのか。

 それとも、面白がって遊びとして付き合っていただけなのか……。

 あるいは契約だから仕方なく、なのか。


 自分はどうしたら、良かったのか……どこで失敗したんだろうか……。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


どうぞ「小説家になろう」に会員登録し、ログイン後、ブックマークへの追加や、お気に入り登録、★での評価をよろしくお願いいたします。

本作品への評価に直結し、未来へとつながります。

SNSでのシェアなども、とても有り難いです。


 ※ ※ ※ ※


次回、出花隼がさまざまな想いをぶつけます。


6話は、令和7年2月9日公開予定!!


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