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4. 燕との別れ

― 前回のあらすじ ―


  中野ブロードウェイ隠世での戦いの後処理

  中野のルーラーは睦樹になり、ロードは狗神となった

  睦樹のシンとなったヴァレフォールの眷属であるカンビヨンたちは

  スネコスリのミナイブキで回復し、一斉に同じ姿で立ち上がった

「燕……燕だよな……」


「似てるけど、中身は違うんだよ、隼坊っちゃん」


「いや、だって……」


「前に説明したよね、似たものしか作れないんだって」


「どういうことだい? ヴァレフォール」


「んー、簡単に言うと、アカシック・レコードに刻まれた、出花(いでか)燕の魂のパターンを複写してきて、それに合うエーテル・ボディを作ったんだよ。肉体に適合するカンビヨンが召喚できれば、限りなく燕ちゃんに似た個体は作り出せるわけ」


 ちょっと待て、どこが簡単に言うと、だ?

 正確には良く分からないが、まあ、なんか燕のコピー元があって、材料はカンビヨンの霊と、ヴァレフォールが製造した肉体ってことか。

 まあ、だいたいそんなところだろう。


「じゃあ、彼女の記憶はどうなるんだ?」


「それもアカシック・レコードから引き出して、カンビヨンに書き込むの。だから、けっこう本物に近いんだよ」


 そのアカシック・レコードってのが、(いにしえ)のオーディオ記憶媒体じゃないってことは分かった。

 いや、クラブとかでは現役なのか。だが、少なくとも俺は見たことはない。


「でも、それは死者の復活じゃないってことか」

「その通り、本物の出花燕は蘇らないの。それでもかな~り高度な魔術なんだから」


「霊界から燕の霊を直接呼べなかったのかい?」

「これがねー、だめなんだよ。すでに彼女の霊は、自分の霊団に戻ってるんで無理なんだなー。そこに手ぇ出したりすると、そりゃもう大変な存在と戦わなくちゃならないんだから」


「神様クラスと戦うってこと?」

「そゆこと。それに霊団に戻った燕ちゃんは、もう燕ちゃんじゃないしね。燕ちゃんの心は、元の霊のごく一部でしかないから」


 なんか俺は霊に関して、密儀に属するような大変なことを聞いてるような気がするが、半分くらいしか分からない。


「じゃあ、あの時逢いに来てくれた燕は、何だったんだ!?」


「いつ逢いに来たの?」


「燕が死んでから、ちょうど49日だ」


「それは、お別れを言いに来たのね。日本では一般的なお約束として、50日目には霊界に行くことになってるの。一度霊界に行ってしまうと、もう現世にはなかなか戻って来ることはできないから」


「じゃあ、燕は今はどうしてるんだ?」


「自分の霊団の一員として、平和に暮らしてると思うけど? 別人に生まれ変わってるってこともあるかもだけどね」


「もし生まれ変わってたら、僕に逢いに来る……かな?」


「それはないわね。隼坊ちゃんだって、前世のことはすべて忘れてるでしょ?」


「う………」


「燕ちゃんのレプリカ遊びは、もう終わり。アタシも面白かったけど、やっぱり限界は超えられなかったものね。これからはあの子たちの、制御の研究をするわ」


「もしかして、お前ってすごい悪魔だったの?」

「当たり前じゃない。地獄の公爵様なんだってば!」


 見た目や喋り方で判断しちゃダメだってことか。

 そんな高位の悪魔が今や俺のシンって、すごくないか?

 ステイタス・チェックが楽しみだが……ちょっと気になったことがある。


「ところで、なんでお前は燕の姿なの?」


「今更そこ? アタシの人の姿は仮のものだから、まあ、変身してるわけよ。本当の姿見る? 超ドン引きすること請け合いよ!」

「いや、今はいいよ」


「最初マダム……隼坊ちゃんの師匠であり、後見人になってくれた魔術師ね、彼女に頼まれて、この姿をしたってわけ」


「マダムってのは、悪魔族の一色百合子でいいのかな?」

「そうね、悪魔族第二位で、連中の女王様みたいなものね。けっこう現世では有名人らしいよ」


「悪名高い、悪魔族の女帝ですん」

「悪名高いゆうなヤドルちゃん、ほんまのことやけど」

「ヤドゥルですん!」


 バビロン占星術師として、テレビでもよく見るタレントだ。

 俺が知ってるレベルなんだから、かなりの有名人だと思う。

 そしてトップクラスの美魔女としても知られている。


 あの肌艶で五十代なんだから、きっと処女をたくさん悪魔に生贄に捧げて美貌を保っているに違いない……知らんけど。


「そういや空夜くん、君って教授の息子ってことだよな?」

「まあ、そうなるね」

「え、でもなんで叔母さんの姓の一色なの?」

「それは芸名だからさ」


 一色あやと行動を共にしているから合わせてるってことか。

 つまり一色あやの姓は、叔母さんからもらったってことか。さらに複雑な家庭環境とか?


「澁澤家は代々魔術師の家系らしいでー。使徒は魔術研鑽の一環でやっとるとか、マダムから聞いとるわ」


 なんか、片手間に使徒やってるふうに聞こえるな。それで最大勢力になってるなんて、アリなのか?


「はーい、みんな、みんなー、隼お兄ちゃんにさよならしなさい。これからは、燕じゃなくなるんだよ。それぞれに別々の名前を付けて上げるからね」


「「「「さようなら、隼おニイちゃん。アタシたちのこと、忘れないでね」」」」


「そんな……燕……僕はこれから、どうしたら……いいんだ……」


「いい加減分かったろ? 死者の復活はできないんだ。だから、別の生きる目標を持つんだな、出花隼」


「そやで~隼ちゃん、自分にはいくらでも残り時間があるんや。どうしたらええか、悩む時間もたっぷりやで」


「……何も……ないよ……」


「今は何もないけど、世の中すぐに何か起きるのだわ。そしたらまた、すっごい面白い顔見せてなのよさ」


 どうやら、ブルーベルなりに励ましているようだ。


「ええっと、カンビヨンたちはここに置いていくしかないんだよな。――てことは、八郎丸が面倒みていいのかい?」


「なんかそれ釈然としない。アタシが居ないときは、様子をみてもらってもいいんだけど。基本はアタシが面倒見るから」


「できるのか?」

「実験室をそのまま使わせてもらえば大丈夫だしー。アタシはこの子たちをそこに連れて行くつもりだよ。でないと危険なんだからー」


 危険なのか。前に暴走するとか何とか言ってたよな?


「分かった。八郎丸もそれでいいな」

「承知ナリ」


「じゃあ、ヴァレフォールは、しばらくここに残るってことかな?」

「そうさせてもらうわ」


「そうなると、現世の人間は盗みたくならないか?」

「ロードじゃないから、そこまで影響はないと思う」

「つまり、少しは影響が残るってことかい」

「ちょっとだけだよ」


 これは、今後商業施設でない場所に、拠点を移してもらわないとだな。


「さてと、話も落ち着いたようだし、僕はそろそろ現世に戻らなくちゃならない。彩夜(あや)のライブが始まるんでね」


「え? まだ間に合うのか? じゃあ、俺も一緒に戻るよ」

「ワイも一旦戻るで。じゃあな、隼ちゃん、早う元気になるんやで」


 そこで相馬吾朗の記憶を思い出した。

 地下一階まで降りれば、現世に戻れるはずだ。

 あそこにゲートがあったはずだ。


 だが、ここからだとエレベーターを使わなければ、どこにも行けない。

 そしてエレベーターの利用券は……


「おい、ダニエル、お前エレベーターの利用券すり替えただろ? 初めから危なくなったら逃げる気でいたな?」


「貸して言うても貸さへんやろ? 保険や保険、ワイが空夜呼ばんかったら、がっつり負けてたで自分」


「いや、ちゃんと勝ってたさ。ただ、出花を殺さなくちゃならなかったけどな。だから、その分は感謝するよ、ダニエル。でも、エレベーター利用券は返せ」


「へいへい、使わせてもろて、おおきにおおきにや」


 言いながら利用券を俺に手渡した。

 今度はちゃんと本物かどうかを確かめてから、使い切った方をダニエルに返した。


「要らんわ、こんなもん」

「お前がその要らんもんを、俺に押し付けたんだろ?」

「それはそう」


 と言って、使い切った利用回数券をポイと棄てた。


「主さま、これでこの下郎とは共闘解消ですの?」

「そうだな」


「ならば殺すのですん」

「一色あやのライブがあるから、殺すのは今度にしような」


「今度殺すんかい!」

「そうならないといいな」


「ま、悪魔族と国津神族、そのうち殺し合うかもやし、そうならんかもやし」


「無駄口叩いてないで、そろそろ行かないか?」

「ワイだけエレベーター使えんから、一緒に付いてくで」


(睦樹くん、君はルーラーになったから、きっとエレベーター使い放題だよ。ここはいっそ利用券をダニエルくんに上げちゃったら?)

(なるほど、それもそうだね)


 ひとつ度量の大きいところを見せてやるか。


「さて、改めてこの利用券はお前にやるよ、ダニエル」

「なんや面倒なヤツやな、最初からくれときゃええのに。まあ、貰えるもんは貰っとくで」


 この言い草だ。上げるのがためらわれるが、一度口に出した以上覆したくない。


「ほら、ありがたく受け取っとけ」

「ほな、も一度、おおきにおおきにや」


(ヤドゥル、八郎丸はすでにロードになってるんだよな。この後どうすればいいんだ?)


(はい、狗神はもうこの中野ブロードウェイ隠世のロードですん。主さまはルーラーですの。狗神が自分の場所を、自分で作るのに任せるのがいいのですん)


(そうか、ありがとうヤドゥル)

(どういたしましてですの!)


「八郎丸、このあとお前の拠点はどうするつもりだ?」

「各階を巡り、悪しきを改め、その後決める所存ナリ」


「そうか、じゃあ頼んだぞ」

「承知仕りナリ。まずはこの庭園を直すナリ」


「確かに荒れ放題だからな。一人でダイジョブか?」

「いざとなれば、我らが眷属となりし獣霊どもを顕現させるナリ」

「それは頼もしいな」


(あ、睦樹くん、もしかして隼くんがエレベーター使えなくならないかな?)

(そうか、ヤツはルーラーじゃなくなったからか。どうしたらいいかな)

(あの捨てられたチケットを再利用、できないかな?)

(あー、なるほど、やってみるか)


 きっとそうしたのを新規発行するやり方もあるんだろうけど、今は回数を復活させてみよう。

 俺はダニエルの捨てた利用券を拾った。

 [利用回数券][残回数0/10回]と記されているのを、利用回数が増えるようにと念じてみた。


(できた、できたよ!)


 利用券は[残回数10/10回]となっていた。

 敵に対して大サービスな気もするが、まあいいだろう。


「これを使いな」


 俺は出花の手に利用券を握らせた。


「じゃあな、出花。もう少ししっかりしろよ!」

「もういいかな?」

「すまん、今シンを戻してすぐ行く」


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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本作品への評価に直結し、未来へとつながります。

SNSでのシェアなども、とても有り難いです。


 ※ ※ ※ ※


次回、中野ブロードウェイの現世に戻る睦樹と空夜

一色あやのライブに間に合うのか?

そして残された隼は?


5話は、令和7年2月2日節分の日曜日公開予定!!


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