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31. 二人の決着

― 前回のあらすじ ―


  睦樹と隼の最終決戦!

  睦樹が覚醒して新スキル炎創刃を用いて

  戦いの主導権を握り、勝ち筋が見えてきた

  両手を斬り落とし、背中から心臓を突いたところで

  アバドン隼の尻尾に捕らえられた


 背中に開いた傷からは、勢いよく黒い血が吹き上げた。

 黒い雫は銀のエーテル残滓となって散っていく。


 そして傷口が燃え始めると、すぐに激しく炎が吹き出し始めた。

 それだけアバドン隼のダメージが、クリティカルなものだったわけだ。


 炎創刃が効いている以上、心臓の回復はできないはずなんだが、それでも活動停止しないのは、まさに見た目どおり化け物だ。

 こうなっては、負けを認めるしかないのか……。


 俺は尾に縛られたまま、アバドン隼の正面に持ってこられた。


 メインの二本の手は失われたまま、傷口からは炎が上がっている。

 激しい痛みに耐え、隼は歯を食いしばりつつ、滂沱(ぼうだ)の涙を流していた。


 こいつは恐れ入った。

 これだけの痛みの中で、使い慣れない尾を操って、見事俺を捕らえたのだった。

 敵ながら、凄まじい胆力だと思う。


「僕ガ・・・マヌケ・ノ・・・役ヲ・・スレバ・・・チャン・ス・・・来・・・ル・・思・・ッタ・・・」


「ああ、すっかりハメられたよ。お前は大した役者だ、出花隼」


「おニイちゃん! スゴイ、スゴイ! 奇跡の大逆転だよ!」


「アンタ・・ハ・・イチ度・・・・死ネ・・・ソシテ・・真ノ・敗北・・カミシメ・・ロ・・・」


 言葉も苦しげで、声も小さい。

 ヤツも限界が近いのだろう。


「ハハハ……、死ぬまでもないさ。充分敗北噛みしめたよ」


 ダメだ、一貫して俺の方がヴィランっぽいじゃないか。

 しかも命乞いだなんて、雑魚感丸出しだ。

 こうなりゃ、いっぺん死んでみるか。


 このまま首を締められれば、お陀仏だ。

 悔しいが、どうにも身動きが取れない。

 首を噛み切(マミ)るとかだけは、勘弁してほしいところだが。


「犬養睦樹、負けを認めるか?」


 空夜が決着を問うてくれた。

 よし、これで出花隼も考え直してくれるか。


「主さま、仕方ないのですん!」

「無念ナリ……」

「あーあ、しょーがな」


 いや、もう負け認めるよ。認めて楽になるよ。


「俺の……ムグ!」


 言おうとした口を尻尾の先で塞がれ、敗北宣言ができない……だとっ!?


「サキ・ニ・・死・ダ!」


 耳元で隼が囁く。

 いや、ちょっと待て、隼!


 サブの両手が俺の頭部に迫る。

 クイッっと首を捻って終わりかよ! クソ!!


(僕をパージして!)

(!?)


 咄嗟(とっさ)にアストランティアのアーマーと、魔槍のトレジャー化を解い

た。


 ほんのわずかな隙間が出来、俺の体は重力に従った。

 両手を上げて、するっと尾の戒めをすり抜け、自由落下した。

 尾が頭上で絞られるが、一瞬遅い!


「ニ・ゲルナ!」


 落下したところを、アバドン隼が慌てて覆いかぶさって、押さえ込もうとする。


 そこから俺は、逃げなかった。


(那美!)


 再び炎を上げて魔槍が伸びる。

 石突が地面に達し、俺は屈んで槍をしっかり支える。

 さらに穂先が伸びるその先に、巨体がのしかかった。


 ブツンと、皮と肉を裂き、ガッと、骨まで砕く感触が伝わる。

 そして、心臓は二度(にたび)貫ぬかれた!


 そのまま俺は巨体に押しつぶされる。

 なんか、吾朗の記憶にもそれで死んだのがあったな。


 そう、レッド・ドラゴンにトドメを刺したのに、ドジ踏んで潰されたんだった。

 分霊(わけみたま)として、その死に様も継承するのだとすると、ちょっと物語性(ナラティブ)を感じる。


 だがしかし、その死をも感じさせる圧力から、俺はすぐに解放された。


 辺りには激しいアストラル風が吹き荒れ、俺はあの胃の奥が気持ち悪くなる感覚を味わっていた。

 どうやらレベルアップしたのだ。


 気がつくと、俺の上に重なっていたのは、小さな中学生の体だった。

 裸の背を槍が貫いている。


 遂に、深淵の天使アバドンを倒したのだ!


 すぐにトレジャー化を解くが、出花の傷からは、オレンジ色の炎が上がっている。


「おニイちゃん!!」


 ヴァレフォールが駆け寄って来る。


 起き上がりながら、出花を仰向きにしてやるが、ぐったりしている。

 全裸だが、まあリアル男子厨房(中坊)の産まれたままの姿くらい、別に構わんだろう。


「おい、出花、生きてるか!?」


 まだ肉体が消失する状態になってないから、ダイジョブだと思うが……


「おニイちゃん、しっかりして!!」


 ヴァレフォールがその裸体を抱き寄せた。


「勝者、犬養睦樹!」


「やったのですん!」

「なんと……なんと……ナリ」

「すごいわマスター!」

「負けたかと思ったのよさ」

「わたしくが認めただけありますわ」

「フ……ようやったで、ムッキー」


「このままじゃ死んじまう。ヴァレフォール、これを無理やりにでも呑ませろ!」


 身洗の葉を突き出すと、少女悪魔はおずおずと受け取った。

 それをヤドゥルが、口を尖らせて見ている。


「主さまを殺そうとしたですの。因果応報というものですん」

「まあ、そう言うなヤドゥル」


 俺は回復薬のカプセルを外して、傷口に粉を振りかけた。

 手首が二つ落ちてるのを拾ってきて、それもくっつけて回復薬を振りかける。


 ダメだ、炎で傷が回復しないから、まるで反応がない。

 胸の傷も回復薬では効果がないようだ。


「聞いてくれないか、俺の炎創刃の炎よ。もう充分だ、どうか消えてくれ」


 そして炎は……燃えている。

 炎創刃の炎は、説得に応じなかった。


 ヴァレフォールは葉っぱを千切って出花の口に入れていたが、うまく呑み込まない。

 すると指を突っ込んで取り出すと、自分の口に放り込んだ。

 そして噛み砕いてから、口移しだ。


 黄昏の空をバックにして、全裸のショタ美少年に、白ゴス美少女の口づけ……俺にとってはどうでもいいワケだが、金を払ってでもこの尊い光景を見たいってヤツは、現世にはごまんといることだろう。


 しばらして、出花の溜飲が下がる。

 すると、傷の炎が弱まっていき、やがて消えた。

 身洗さんエライ!


 俺は胸の傷に回復薬をかけたあと、手首をもう一度繋がるかどうかチャレンジ。

 エーテル残滓となってすでに肉体が消えた部分があるが、できるだろうか?


 回復薬を振り掛けると、傷口からは血色の泡のようなものが出てきた。

 なんか効果ありそうだぞ。


「ぎゃあああああああ~~~!!!」

「おニイちゃん!」


 激痛のあまり、出花が意識を取り戻し、弓なりになって叫んだ。


 ふむ、どうやら生き返ったな。

 よしよし、いい子だ、良くがんばったぞ――と、超~上から目線も赦されるはずだ。

 なにせ俺は勝者であって、なおかつ敗者の蘇生に尽力したのだ。

 貴重な身洗の葉まで使ってだ……でも、まあ、やったかいはあった。


「良かったな、ヴァレフォール」

「う……ありがとう……」


 泡は腕と手首とを結んでいく。

 胸の傷も赤い泡で沸き立つようになり、出花は歯を食いしばって苦痛に耐えている。


「さて、決着は付いた。深淵の天使アバドンも、天使たちの常世に還っていった。良くやってくれたね、犬養睦樹。……正直、さっきはダメかと思ったよ」


「オレ様は、自分が勝つちゅう、信じとったで」

 その根拠なさげな信頼は、俺にとって有り難いもんなのか、ダニエル張?


「でも、俺が負けてても、石板召喚は間に合っただろ?」

「フン、察しが良いね。そのために時間をかけて戦ってくれたのかい?」


「いや、あれはゲーマーとして思いつく限りの最善手を取ったまでだ」


「ゲーマーね……。これも一種のゲームのようなものだ。犬養睦樹、君はこの勝利によって、出花隼のシンを一体奪う権利を持つ。それによって、勝利は完全となり、世界は改変される」


 そうだった。

 俺としては世界を改変するために戦っていたのだ。


 誰を奪うかはすでに心に決めていた。

 あの惨劇を無かったことにする。

 それを念じながら、俺は権利の履行のための宣言をした。


「勝者の権利として、出花隼のシンから、悪魔ヴァレフォールをもらい受ける」


「ひっ!」


「ダメだ……燕だけは、ヴァレフォールは止めてくれ……」


「聞けよ、出花隼。お前の妹、出花燕は死んだんだ。神様でも燕を復活させることはできやしない。お前は妹の死をちゃんと受け入れて、前に進むしかないんだよ」


 ああ、なんか俺、綺麗ゴト言ってないかな。

 ほんとにそれが出花の為になるかどうか、確信はぜんっぜんもてない。

 でも、それしかないんじゃないかと思うのだ。


(僕もそれが正しいと思うよ)


「嘘だ! 神様は復活できるって……僕に言ったんだ!」


「在りて在る者だろ? そいつ神様じゃないから」


「違う、違う、違う!!」


「正体は何か知らんが、情報操作で使徒を動かそうとしてるだけのただの人間だから。たぶん現世でも隠世でも、それなりに力は持ってる人だと思うけどね」


「そんなわけない! 僕が神様をもっと助ければ、復活出来るんだ!」


「本当の創造主たる神様なら、きっとお前の助けなんて要らないぜ。むしろ今、お前が助けてもらえ」


「いや、だって……」


「出花隼、君は敗北した。そしてこの場は神族大戦ルールが支配している。君もヴァレフォールも、その(ことわり)に逆らうことはできない。犬養睦樹の宣言通り、悪魔ヴァレフォールは、彼のシンとなった」


「うああああ~~~、燕、嫌だ! 僕は、お前が、好きなんだ! 愛してるんだ、燕!」


「ん~、しょうがないのよおニイちゃん。いいえ、出花隼ちゃん。ダメな時はダメで、そんなときは諦めが肝心肝要、これ、とっても大事だぞ」


「そんな……あきらめるだなんて……無理だ!」


「でも、そうするしかないの。アタシのマスターはもう、この犬養睦樹さまになっちゃったんだから。今まで愛してくれてありがとね!」


「つばめ……??」


「もう燕じゃないのよ! 隼坊っちゃん」


「ぼっ……ちゃん……」


 イヤイヤイヤ、ヴァレフォールさんたら変わり身、速すぎませんか?

 出花くん、魂抜けたみたいに呆然としちゃってるぞ!

 ナマ言ってるけど、まだこいつ中学生。

 トラウマになったらどうすんの?


 ヴァレフォールはくるりと俺に向き直り、胸に手をやり、片足を引いて深々と礼をした。


「アタシは悪魔ヴァレフォール、盗賊の守護者。地獄の公爵にして十のレギオンを配下にするソロモン王が封じた第六の魔神。今後ともよろしく、マスター犬養睦樹さま。これからアタシが一番のシンになったげる!」


 これで、出花をいろいろなものから、解放できたんだろうか……。


ついに第15章が終了です!

みなさん、ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


面白かったら、ブックマークへの追加や、お気に入り登録、★での評価をどうぞよろしくお願いいたします。本作品への評価に直結し、未来へとつながります。

SNSでのシェアなども、とても有り難いです。


この章は、以前書きためてあった文章をすべて棄てて、オール書き起こしでした。

これはけっこう大変でした。

とはいえ、前の章でも、カンビヨンや犬猫霊とケルベロス、ダイスゲームはすべて書き起こしでしたが。

今後とも本作をよろしくお願いいたします。


 ※ ※ ※ ※


中野ブロードウェイ隠世の戦いは、こうして幕を閉じた。


次章は、時間を少し遡り、場所も新宿歌舞伎町隠世での物語を少し挟み、また中野に戻ってきます。


そして第16章からは、週一更新、毎週日曜日に一話公開のペースになります!

1話は、令和7年1月5日公開予定!!

どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
第15章完結、お疲れ様でした! 素晴らしい展開と流石の文章力に、脱帽です。 気がつけば210話ですが、これからも楽しみにしております!
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