2. 斥候
半壊のビルを降りると、しばらく似たような廃墟が続く。
不用意な獲物を待ち伏せするには、うってつけの地形だ。
襲われたとしても、たいがいの超常の者には勝てる自信はあるのだが、今は時間が大切だ。
安全のためというより、時間を確保するために山童を召喚した。
山童は赤銅色の肌をした矮人で、ボサボサの髪の毛は肌より濃い赤錆色をしている。
うずくまった姿は大きな猿のようにも見えるが、手脚が長くぎょろりと大きな目をした亜人だ。
「旦那、わしゃぁなんばしょう?」
「物見を頼むよ。一町ほど先行して、待ち伏せがないか探ってくれ」
「心得た、任せんしゃい」
「気をつけてな」
山童は非常にすばしっこく、目も耳も鼻もイイので、偵察に向いている。
特に廃墟のような不定形地では、その敏捷性がいかんなく発揮されるのだ。
山童は何体かの超常の者の出現を、念話で知らせてきたが、こちらを見て逃げ出すレベルなので無視だ。
ほかに待ち伏せもないとの報告に、安心して早足で歩を進める。
ヤドゥルは土蜘蛛の肩の上に乗せて、周囲を目視で警戒に当たると同時に移動スピードの遅さをカバーさせている。
警戒せずに速足で進むことで、かなりの時間を稼げた。
少しして、山童が超常の者の大きなグループを発見したと言ってきた。
(旦那、悪霊団どもを率いた悪魔が一体いやすぜ)
(レギオンは何体だ?)
(あやつら群れてひっついたり離れたりしとるで、よう分からんわ)
レギオンは自我を失った悪霊の集団だ。
怨みや嫉妬、憎悪など、似通ったダークな感情によって悪霊が結びついて、互いに自他の区別ができなくなっているキモい存在なのだ。
霊体の状態では、その情念の結びつきが体の癒着として表れている。
外部からの刺激などで、別個の思いを抱えると分離したり、逆に共鳴して合体するので不安定だ。そのため正確な体数を測りづらい。
獣などに憑依した状態ならば、獣の頭数を数えればいいのだが、そうなると戦うにはより手強い妖獣と化すだろう。
悪魔が率いているというのがやっかいだが、レギオンは穢れた邪霊なので、瀬織津姫の清めの水領巾で、一気になぎ倒せるはずだ。
みんなにも報告しておこう。
「一体の悪魔に率いられた、レギオンの集団がいるらしい」
「殲滅するのですん」
「まさか、妾の領巾をかような下品の穢れに、使おうとするではあるまいな?」
げっ、心を読まれたか?
いや、そんなはずはあるまい。にしても即反応とかナニソレ怖い。
しかしここは、セオ姫さまのご機嫌を損ねるわけにはいかないだろう。
「イヤイヤイヤ、セオ姫さまの美しいお領巾を、そんなばっちい死霊に触れさせるワケないじゃないですか?」
「フン……豪も思うことなきようにの」
ガチで勘のイイ女である。
三朗叔父さんが、勘の良い美女には気をつけろと、しみじみと呟いていたのを思い出す。




