30. ゲーマーのセコい戦い
― 前回のあらすじ ―
睦樹と隼のガチバトル開始!
激闘の中で、那美とシンクロした睦樹
さらなる力を得て、炎上継続ダメージ付与の
新たなるㇲキルを獲得する
(炎創刃はどうかな?)
アストランティアが新スキルの技名を提案してくれた。
(ソレな!)
俺は一も二もなく同意。
創には作り出すという意味の他に、傷という意味がある。
絆創膏の創は、傷の意味で使われている創なんだ。
槍のソウとかけているのも良い。
こんな意味忘れてたけど、俺の無意識女性人格――アストランティア自身はアニマといっていた――は、いろいろなことを覚えているようだ。
「新スキル爆誕! 炎・創・刃!」
アストランティアの働きを称えたくて、俺もつい調子に乗って叫んでしまった。
一瞬「絆・創・膏!」と言いそうになったのは、心の奥にしまっておく。
「まあまあなネーミングやな」
ほっとけダニエル張。俺たちはかなり気に入ってるんだ。
「隼ちゃんも、なんか新技ないんか?」
「張・次・殺・ス!!」
「その技名はないわ~」
「ナ!?」
良くわからない茶番には付き合わず、俺はダニエルとの会話によって生じた出花の隙を突いて、間合いを一瞬で詰めた。
拳が反応するのを横に避け、すれ違いざまに脚を切り裂く。
そのまま背後に走り、翅をもう一葉切り落とした。
(足がくる!)
不意を突かれた出花は怒り、傷から炎を上げる脚で、後ろ蹴りを繰り出した。
彼の攻撃は感情的なものが多いので、合理的じゃないゆえに意外性がある。
なんとか回避できたが、アストランティアの警告と、新たに獲得した敏捷性のおかげだ。
足の裏に槍を刺突したが、引いてくときになり、深くは入らない。
だが、炎で傷が回復しないので、嫌がらせ程度にはなるだろう。
足の裏の痛みで機動力に影響が出ればラッキーだ。
「セコイ・戦イ・ヲ!」
そのとおり、セコい戦いだ。
だが、急所狙いはリスクが高い。
なのでチマチマと隙を付いてダメージを入れていけば、少しずつでも炎上の継続ダメージが増える。
この蓄積は馬鹿にならないはずだ。
「頭脳プレイって言ってほしいな」
それに出花の移動速度を削ぐための攻撃を取り交ぜている。
もちろん脚ばかり狙うと、攻撃を読まれてしまうので、そこだけに集中はしない。
EP、APが減って追い詰められた出花が、乾坤一擲の全力攻撃で勝負してくるとき、速さを削ったことが効いてくれると助かる。
しかし、こちらはオレンジ色のアストラル炎が燃え続けて、炎創刃を使い続けているが、気がつくとアバドン隼の炎は消えている。
俺の方がAP切れを起こす可能性が高いかも?
スマート・ノートでステイタスを確認したいが、さすがにその間は取らせてくれなさそうだ。
一度距離を取らないとだめだ。
じりじりと後退しながら距離を取ろうとすると、相手も詰めてくる。
(背後の障害のチェックよろしく)
(任せて)
後ろに思い切ってジャンプしながら後退すると、一気に距離が空いた。
スマート・ノートを取り出そうとしたが、だめだった。
アバドン隼もダッシュで接近してくる。
仕方ない。
後退の速度をにわかに緩めると、敵が射程に入ってくるところを槍で突く。
傷付くのも構わず隼がサブの左で払うと、そのまま真っすぐ突っ込んで来るので、槍で地面を突いて、右に大きくジャンプ。
巨体の勢いが乗っているので、即対応できずに急停止しようとする。
こちらに振り返る前に、斜め後ろから左腿を切り裂いて、すぐにダッシュで離脱。
(追ってくる)
向かい風が来て、俺の速度が落ちる。
振り向くと、右腕が迫る。
姿勢を低くして右パンチの下をかいくぐり、追い風となった術式を利用して素早く左前方に回避した。
すれ違いざま、サブの右腕を切り裂いて、後方に駆け抜ける。
もうステイタス確認は後回しだ。
招気薬もまだあるし。
今みたいに、一撃離脱を繰り返しながら、チクチクと軽いダメージを与える戦術に変更だ。
今度は俺がジワっと近づいていく。
俺が敵のアウトレンジから、軽い一撃を入れようとするのに対し、アバドン隼は間を詰めようとする。
近寄ってきたところで先に一撃浴びせて、また距離を取る。
出花も風を起こして俺を引き寄せたり、翅を使って急激に距離を詰めたりと、俺の戦術を崩す試みをしながら反撃してくる。
何度か繰り返すうちに、小さいけれど回復不能の傷跡が増えていく。
こっちも何発かパンチを喰らっているが、避けながらなのであまり効いていない。
つまり、互いにあまり有効じゃない打撃は与えているが、こっちの攻撃は継続ダメージがあるから、やや有利ってことだ。
「ムッキー、何ちんたらやってんねん。出花もうバテバテやで、早う片づけぇー」
「マスター、そんなやつビビビビッて必殺技でやちゃってよ」
そんな必殺技はない。あったらとっくに使ってる。
確かに最終決戦というのに、地味なのは認める。
面白みがないのは百も承知だが、ダニエルやピクシーたちを楽しませるために、派手なバトルを見せるのは危険なだけだ。
こちとら伊達に長いこと、廃ゲーマーやってたわけじゃないのだ。
タフなボスキャラに対する、ゲームの攻略法が活かされてるってわけだ。
そもそも不用意に近づいて、あのでかい手で掴まれたり、転ばされたりしたら、それで一発アウトなんだし、慎重にはなるさ。
すでにアバドン隼は、脚だけじゃなく巨体のそこかしこで炎が上がる状態になっている。
ヤツの性格からして、決め手が出せずにイライラしてると思う。
なので、焦れて無理な攻撃を仕掛けて、こちらのチャンスにつながるのを待っているのだ。
ところがアバドン隼は、こちらへのアプローチを止め、自分の傷を爪で削り出した。なんと俺が付けた傷を周囲の肉ごと削り取っている。
すると傷は炎を吹くのを止め、代わりに肉が盛り上がり、回復していく。
俺はヤツの動きを妨害すべきだが、急いで自分のステイタスをチェック。
なんと、レベルがいきなり15になっている。
APにもまだ余裕がある。
アバドン隼のアナライズは……やっぱり妨害された。
俺よりレベルが上なのは確実のようだ。
マジでここまで戦ってきた俺とアストランティアを褒めてやりたい。
(うん、すごいよ! きっと勝てる)
(どうやったら勝てるかな?)
(相手の嫌がることをとことんやろう)
アストランティアさん、けっこうバトルにはシビアだ。
しかし、きっとそれって間違ってない。
アバドン隼は、まだ傷を削っている。
これはぜひとも邪魔しなくちゃだ。
俺は「うぉりゃあ!」と気合を入れながら突っ込んでいく。
ヤツは当然こっちの相手をしなくちゃならない。
すると、待ち構えていたように、アバドン隼は青黒いアストラル炎に包まれた。
それも今までにない、猛烈な勢いで燃え上がっている。
失われた二葉の翅が復活し、銀色に輝き出した。
もしかして、これって俺を誘い込む罠だった?!
アバドン隼は、凄まじい勢いでこちらに突進して、もう目の前だ!!
((スライディングしかない!))
俺は槍を背後に突いて、巨体のまたの間を勢いよく滑ってすり抜ける。
同時にバチン! とデカい二対の手が、蚊でも潰すかのように打ち合わされた。
遅れてたら、俺ペチャンコだった?!
アバドン隼が振り向く。
その回転の勢いで尾が俺を打ちすえる前に跳び上がり、逆に尾に斬りつけた。
着地したところに手が迫るが、突進の勢いが無いので速度が遅い。
俺は左後方に引きながら、槍を満身の力を込めて、真っ直ぐに振り下ろす。
ズンッ! と強い手応えと共に、刃は炎熱の炎を吹き上げた。
ドサリと斬られた右手首が地面に落ちた。
「ヴガアアアアア!!」
「主さま、すごいですん!」
「やったね!」
「きゃあ! おニイちゃん!」
アバドン隼が激しく炎を上げる自分の右手首を、左手で懸命に抑えて仰け反る。
俺は容赦なくその左手首にも、魔槍を振り下ろした。
再び爆炎と衝撃!
左手は右手首を掴んだまま切断され、ぶら下がっている。
両手を失って、その断面からオレンジの炎を上げるアバドン隼、サブの手でそれぞれを抑えながら、前のめりに膝を突いた。
「勝負は付いてないか?」
「まだだ」
と、一色空夜は冷徹に答える。
「おニイちゃん、もういいの!」
「マ・ダダ!!」
ヴァレフォールが訴えるが、隼は聞かない。
しかし、本人はうずくまって腕を抑えているばかりだ。
もっとやらなくちゃいけないのか……。
俺は走ってアバドン隼の背後に廻り、高くジャンプした。
そしてそのがら空きの背中の中心めがけ、槍を突き刺した。
深々と魔槍が刺さり、その心臓を貫いた。
「ガァアアアアアアアア!!!!」
「これでいいだろ!?」
(逃げて!)
「え?」
空夜の方に、勝利の確認のために振り向いた、その一瞬の隙だった。
何が起きたのか、分からなかった。
魔槍が背中から抜け、俺と一緒に宙に持ち上げられる。
俺はアバドン隼の尾に、胸から腰を巻かれて拘束されていた。
「ツ・カ・マ・エ・タ・・・・!!!」
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
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隼の計略により大逆転!!
いよいよ次回に戦いの決着が着く!!
第15章31話は、令和6年12月29日公開予定




