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27. 絶体絶命からの~!

― 前回のあらすじ ―


  睦樹とアバドンを宿した隼のガチバトルが始まる

  戦いを有利に進める睦樹だが……

  一方地下で魔法陣を描く少年のもとを訪れる

  逃げ出したはずのダニエル

  どうやら、アバドンを何とかする相談を持ちかけていた

「出花、負けを認めないか?」


「フザ・ケン・ナ・・・!」


 だいぶ人間に戻った気がする。

 受け答えが出花らしい。

 良かった、このままアバドンに取り込まれるかと思ったぞ。


 と、敵の心配してたら、いきなり ドン! っと、背中をぶっ叩かれるような猛烈な突風がきた!


 疾風(はやて)に巻かれて押し出されるまま、アバドン隼が突っ込んでくる正面に立たされてしまう。

 ならば俺も突っ込むまでだ!


 勢いにのった青龍刀が、斜めに振り下ろされる。

 その刃は魔法障壁を砕き、力を削がれながらも、俺の左肩を打った。


 しかし、そのときすでに魔槍は分厚い皮膚を貫き、巨体の心臓に達していた。


「ぎゃうあああ!!」


 俺は肩への打撃で弾ね飛ばされて、その勢いで槍が抜ける。

 敵は胸から大量の血を吹き出した。


 俺のダメージはアストランティアのアーマーに阻まれ、深刻ではない。

 すぐに立ち上がり、右に走りながら脚を撫で斬りにする。


 さすがのアバドンも心臓を再生するまで、動きが取れないようだ。

 切り返し、再度同じ場所を斬る。


(斜め右後ろ、来る!)


 アストランティアの警告。

 思わぬ方向から一撃がきた。

 それはアバドンの尾だった。


 鞭のようにしなって勢いを増して俺に襲いかかる。

 槍を取り回し、下から斬り上げ、ざっくりと尾を切り落とした。


「うわっ!」


 しかし、残った尾に(したた)かに打ち据えられた。


(そんなんアリかよ!)

 これは俺の心の叫びだ。


(想定外だよね!)

 俺はアストランティアの慰めを聞きながら、ふっ飛ばされて草地を転がっていった。


 追撃するアバドン隼は、走ると振動で心臓が痛いのか、耳障りな音を立てて飛翔してくる。

 銀に輝く翅を高速で震わせて、黄昏の空に大量のアストラル・ドットを噴出しながら、黒い影が俺の頭上に迫った。APの消費が半端なさそうだ。


 そして真上から青龍刀ごと落ちてくる。

 これは、逃げられない!


((受けるしかない!))


 がッと、持ち上げた槍で辛うじて止めるが、勢いに負けて仰向けに倒される。

 地面に両肘を付き、腕を持ち上げて耐えた。


(ぬし)よ!」

「おっと、動くんなら覚悟しなさいよ」

 狗神が踏み出すのを、ヴァレフォールが風を吹かせて牽制する。


 俺は、凄まじい力で地面に押し付けられている。

 ダメだ、このままじゃ終わる!


 こっちが力尽きて青龍刀が脳天にめり込むか、この状況のまま手でも足でも使って抑え込まれたら、身動き取れなくなって終了~。


(クソ、在りて在る者、俺にも力を寄越せっての!)


(ダイジョブ、そんなのに頼らないで! もうちょっとだけガンバって!)


(どうダイジョブだよ)


(ほら、間に合った!)


「そこまでだ、出花隼」


 突然、どっかで聞き覚えのある声が聞こえる。

 さてどちら様だったか?


「ムッキーちゃんたら、その状況ガチでヤバすぎやで。絶体絶命やん! せやけど、アバドン相手にようがんばったな~。この雷来公(レイライグン)ダニエル張様が、めっちゃほめたるで~」


 助けらしきものが来たのは理解したが、そのときの俺は、自分の戦いを諦めてはいなかった。

 限界に追い込まれる中で、迫りくる死の運命に対して、肉体的にも精神的にも、猛烈に抵抗していたのだ。


 それはヤドゥルが言っていた、目には見えぬ魂の器を打ち震わせた。

 その波動は、俺という存在に響き渡り、深い深い処に眠る何か――力の塊と俺が感じるもの――を解き放ったのだった。


 エーテルの肉体的には腹の底の底の方、性器のすぐ裏で爆発が起きたように感じた。


 熱い何かが荒れ狂ったように溢れ出して、それが背骨に沿って駆け昇ると、全身に熱が広がる。


 早鐘を打つ心臓が、力を増幅させた血流を、体の隅々にまで行き渡らせる。

 特に大きな波が来たのは、肩から腕、そして指先にまで力が(みなぎ)っていく。


 魔槍にもそれが伝わると、槍全体から炎がわっと(ほとばし)った。

 炎は青龍刀にも、それを持つ手にも燃え移り、アバドン隼は驚いて身を引いた。


 俺はすぐさま立ち上がり、槍を構えながら回復薬を飲んだ。

 こっちは臨戦態勢だが、巨大出花は自分の左手をバンバンして、炎を消している。

 手が沢山あると、武器を持ちながらでもイロイロできて便利だ。


 槍の炎は衰えず燃えに盛る。俺自身は温かさ感じる程度で熱くはない。

 これは新たなるスキル発動か?

 いや、これは覚醒を遂げたレベルかもだ。

 あとでステイタスを確認しよう。


 穂先からは特に激しく、オレンジ色のアストラル炎が上がっている。

 もしかして、APとかガンガン消費してるって?

 でも、招気薬はまだあるからOKだ。


 さて……と、改めて見廻してみると、まずダニエル張がドヤ顔で立っている。

 よく悪びれもせず、俺の前に立てるもんだ。

 それにコートがボロボロじゃないか。

 絶体絶命はそっちだったんじゃないのかい?


 その後ろには、放置されていたシンたちが従っている。

 健気なことだ。

 サマンサの横にはプリンスが付いている。


 俺のシンとヤドゥルたちも、エレベーター・ホールから出てきたところだ。


 そして聞き覚えのある声の主を見つけた。

 彼は現世(うつしよ)の階段で鉢合わせた美少年だった。


 俺に四階に行くのを止めるよう警告した、ゴス・ファッションでキメた端正な顔立ちの少年。

 彼は一色あやの関係者ではなく、使徒の関係者だったようだ。

 彼の忠告に従うべきだったかどうかは、最終的にこれから決まるのだろう。


 その美少年が、凛として響く声で、半魔となった元美少年に問う。


「出花隼、今この時点で、深淵の天使アバドンの降臨は時期尚早に過ぎる。よって、その常世への退去を要請する」


「デ・キ・ナ・イ・・・」


「おニイちゃんは、自分で召喚したんじゃないの。だから退去も自分で出来ない。そうでしょ?」


「ソ・ウ・ダ・・・ソレ・ニ・・・ナカノ・ウシナウ・ナイ・・・」


「中野を君が失地するかどうかは、問題ではない」

「自分やり過ぎたんや。部をわきまえなゆうこっちゃ」


「自ら退去させられないのであれば、こちらでその手助けをせねばならない」


「ムツキヲ・・・コロス」


「それもまた別の話だ。まずはアバドンの退去をさせて、それから好きにやればいい」


「君は……いったい、何者なんだ?」

「おっと失敬、自己紹介が遅れたね。僕は一色空夜(いっしきくうや)。使徒たちの調停者をやっている」


「一色? ってことはあやの兄弟か何かか?」

「そう、僕は彩夜(あや)の兄だ。だが、妹は僕のこの仕事を知らない。だから、もし現世で彼女に出会っても、秘密にしておいて欲しい」


「分かった。必ず秘密にする。で、調停者ってのは、どんだけ権威があるんだい?」


「使徒の皆さんに支えられて、認めてもらっているというだけだ。なので権威はない。そして、どこかの神族には属さない、中立の立場を貫いている。ただ、それをするだけの実力はある」

「理解したよ」


「さて、そういう訳だから出花隼、アバドンには退去してもらう」

「サセ・ナイ!」


 アバドン隼は、脚と翅をフルに稼働させ、目にも止まらぬ速さで空夜に斬り掛かった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 ※ ※ ※ ※


絶体絶命を自分で何とかできた感じの睦樹

空夜はアバドン隼の奇襲をどうするのか?


………どうすんだろ?


第15章29話は、令和6年12月22日公開予定!

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