23. 睦樹の作戦
― 前回のあらすじ ―
自分にアバドン隼のタゲを取らせ
その間にみんなで出花隼のシンを倒す作戦
睦樹はひとりアバドン隼に向かって突撃をかけたあと
その横を突破して、森の小径を奥に向かった
少し走ると、三人の仮面のカンビヨンが居た。
一番近くに居た[泣くカンビヨン]を槍で突くと、背後に引っ張られるように飛ぶのはいつもと同じだ。
しかし、高く飛べないので距離を稼げない。
着地するところに猛ダッシュをかける。
「アハハハハハハハハハハハ!!!」
「ヒイアアアアアアアーーー!!!」
「ふぬううううううううううーー!」
再びカンビヨンの呪声攻撃。
剣が目の前に現れ、行く手を遮る。
背後から火玉の爆発、これは魔法障壁が防いでくれた。
さらに背後からはバキバキと、枝を折りながら迫るヤツがいる。
よし、思ったとおりこの子たちを攻撃すると、出花はキレれる。
「犬養睦樹~~、てめえ死ねえ~~~!!!」
口調まで激変するのは、いつもの出花らしい。
ここでブチキレすぎて、大黒蝗を吐かれると俺は死ぬ。
だがしかし、出花にはそれができないとみている。
あの蝗には、大雑把な動きしか指示できないと推察したからだ。
ここで蝗が俺を襲えば、同時にカンビヨンたちも襲われるだろう。
案の定、彼は青龍刀を大振りして俺を叩きのめそうとした。
そんな剣、まともに受けるわけないだろう。
ここは相手の力を利用するに限る。
斜めから振り下ろされる剣筋に対して、左後ろに身を引いて躱すと同時に、今度は上から剣の峰に槍を打ち下ろした。
勢いを増した青龍刀は、舗装された赤レンガ道をぶち壊した。
刃が辺りにレンガをまき散らしながら地面にめり込むと、反動で槍がハネ上がる。
瓦礫が体に当たるのも気にせずに、俺はがら空きになった空間に槍を突き出した。
その穂先は出花の胸に吸い込まれ、血花を咲かせた。
「ぐぁ!」
素早く槍を引き抜いて後退すると、振り上げた青龍刀が眼の前で風を切っていった。
「おぃおぃ、勢いはあるけどちっとも当たらないぜ。そんなんじゃ、妹たちを守れないぞ?」
俺は[怒るカンビヨン]に向かって走った。
突然の転進に、少女の反応が遅れた。
後方ジャンプで避けるも、着地したところには俺が駆け込んでいて、仮面を突いて壊した。
「ひぃ!」
そのまま少女は仰向けに倒れる。
ゴン、と後頭部が舗装のレンガにぶつかって痛そうな音を立てた。
俺は倒れた少女に止めを刺すフリで、槍を振り下ろした。
出花からは、俺の背が邪魔になって、本当に刺したか見えないはずだ。
「やめろおおおおおおーーー~~~~!!!!」
しかし、アバドン隼は焦れば焦るほど、頭が木の枝に引っ掛かって、素早くこちらに来られない。
爪で地面を削り、青龍刀で枝を切り、めちゃくちゃな動きで迫ってくる。
倒れた少女に当たらないよう、横薙ぎでくるだろうと構えていると、逆手でこちらから見て右から左に薙いできた。
俺は右に回避する。
大振りの青龍刀はそのまま左に流れていって、木の幹に刺さった。
俺はがら空きの出花の左腹を、深く槍で突いた。
捻りながら槍を引き抜いたところ、左腕の払いが飛んできたので、槍の突きで受ける。
これも深々と刺さるが、そのまま俺は出花の左後方に弾き飛ばされた。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」
野太い声でアバドン隼が叫ぶ。
(後ろに手!)
俺は槍を抱くように転がって回避し、立ち上がって振り向きざまにその手を切る。
もう一方の手が槍をつかんだところを、左手にした毒ナイフで突き刺した。
「ひぐっ!」
どうやら、毒が効くらしい。
槍を掴んでいる右手が黒く染まっていく。
しかし、手はするすると、槍を持ったまま本体に戻っていった。
「え? なぜ? 俺、槍ちゃんと持ってたのに??」
これが盗賊の悪魔たるヴァレフォールの権能なのか。
確かにちょっとだけヴァレフォールから、視線を逸らした隙を作ってしまった。
どうすりゃいいんだ!
俺に毒ナイフ・マスターになれってことかい?!
槍兵からアサシンにジョブチェンジだ。
槍は俺とのつながりが切れたため、黒ずんだ透明な手の中で、槍は小刀に戻る。
一方で黒い筋が、透明でない少女の腕にも侵食していった。
「痛い、痛いよおお!」
ヴァレフォールは手が完全に麻痺し、持っていた小刀を落とした。
「燕!!」
声を耳にした出花が振り向く。
「きさまああああああ~~~~燕に何をしたああああ~~~~!!!」
しまった、なんか怒らせ過ぎたかも知れない。
それに麻痺毒使って女の子を襲って兄を怒らせるって、どう見ても俺の方が悪役?
まあ、悪でもなんでもいいさ。
俺は死ぬまでせいぜい足掻いてやることに決めた。
アバドン隼の周囲に怒りの颶風が渦巻き始めた。
木々が大きく揺れ、ざあざあと音を立てる。
(マスター、化け黒猫と大ゴブリンを無力化したわよ!)
(みんな、良くやった! だがしかし、こっちは出花がヤバいことになってきたぞ! 少し後退して、警戒しながら待て!)
俺は毒ナイフを右手に持ち替えて、ヴァレフォールに向かって走る。
落ちた小刀を回収するためだ。
彼女の全身に麻痺が廻っていき、立っていられずに崩れ落ちる。
止めを刺すなら今だが、俺にはやっぱ無理だ。
しかし、それを後方で見ていた出花は、そうは思わなかったようだ。
「やめろおおおおおおぉぉぉぉーーー~~~~!!!!」
出花から猛烈な風が吹いてきて、ヴァレフォールがふわっと浮き上がり、俺は違う方向に吹き飛ばされた。
小刀も、コロコロとあらぬ方向に転がっていく。
「ふわ!!」
俺の背後まで駆けつけていた狗神の八郎丸も風に煽られて転倒、そのまま押し戻されて、ヤドゥルに押さえられた。
待ってろって言ったのに!
俺は竜巻のような突風に巻き上げられて、上下逆さになっている。
完全無防備だし、ここに蝗吐かれたら詰む。
(今、コロンバインちゃんが引っ張って上げるわ)
別の風が俺を捉え、みんなの方に落ちていく。
気がつくと、出花アバドン隼はさらに巨大化していた。
周囲の木々はなぎ倒され、出花の周囲の森は、完全に失われている。
その背中にはバッタのような銀の翅が生じ、ギラギラ光っていた。
あれが風を操る魔力の発生源だと直観的に理解した。
出花隼のベビーフェイスの面影はもはやどこにもない。
悍ましい昆虫悪魔がそこに立っていた。
果たしてヤツの心はどうだ?
その両掌を上にして差し出す先に、ヴァレフォールの体があった。
「ヅバメ・・・」
トゲの生えた手が、少女悪魔を抱きとめる。
まだ出花隼は残っているようだ。
「痛い、痛いよおニイちゃん」
「イダイ・・・?」
「トゲだらけだよ、手が」
「イダイ・・・ダメ・・・」
「おい、出花隼、しっかりしろ!」
「ヅバベ・・ギヅヅゲル・・ユルザダイ・・・」
なんかこれ、ダメそうだぞ……。
「グライヅグゼ!!」
アバドンの口が大きく開き、漆黒の蝗たちが現れた。
翅音もより激しく、無数の黒い存在が辺りを覆い尽くしていく。
「嘘だろ……おい……」
(みんな逃げろ! エレベーターホールに立て籠もれ)
いや、ダメだ。もうみんなを戻そう。
(戻れ、プリンス!)
(嫌だね。僕はサマンサを守るだぬー!)
「何だと!」
帰還命令に逆らう力があるとは!
(スノウドロップ、プリンスがこんなことを言ってる、どうする?)
(まずは、エレベーターホールに戻れるか試してみましょう、それが無理なら王子、諦めて戻るのです)
(しょうがない、プリンス、もう一度呼んでやるから、まずベトベトさんたちにサマンサをエレベーターホールにまで運ばせろ)
(分かったぬー)
(ベトベトーズはサマンサをエレベーターホールに運ぶんだ)
((ベトー))
(戻れ、プリンス!)
(戻れ、スネコスリ!)
(戻れ、エルダー・ブラウニーのともぞうさん!)
(またすぐ呼んでくだされ)
小刀はアバドンの足元ってほどではないが、近くに落ちている。
真黒蝗の大群は、アバドンの風に乗り、周囲をぐるぐると回り続けながら、木々や低木の植え込みに取り付いては丸裸にしていく。
近づけば確実にやられそうだ。
どうしたらいいんだ?
コロンバインに風を起こしてもらえばいいのか?
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
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迫りくる死
それは不可避なのか?
第15章25話は、令和6年12月12日公開予定!
 




