22. 森の小径の戦い
― 前回のあらすじ ―
マイケルに裏切られ、逃げる手段を失った睦樹
死の覚悟をして、森の狭い通路で
出花隼たちを迎え撃つことにする
そうこうしている内に、敵も動き出した。
先頭にかがんで動きにくそうなアバドン隼、すぐ後方左右にセバスチャンとビネガー・トムが続く。
ヴァレフォールはその後ろで、仮面のカンビヨンの姿は見えないが、さらに向こうにいるのだろう。
「プリンス・クロウリー、もう一度来てくれ! スネコスリも来るんだ! 回復役が必要なんだ」
二体の超常の者が現れた。
「スネリ?」
「うん、まだ[ミナイブキ]は要らないよ」
「ボクは何をするんだぬー?」
「虫を沢山食べてもらう」
「それは楽しみだぬー」
「サマンサも一緒に並んで前に出てくれ」
「アイヨ」
巨大蟇蛙がペアで並ぶのは、すごい圧がある。
(もしかしたら、あのハーブ薬草が、呪いに効くんじゃないかな)
(なるほど、試してみるよ)
アストランティアの提案に従い、俺はハーブが薬草となった身洗の葉を取り出し、試しに食べてみた。
効果はてきめんで、痛みも黒い色も消え失せたのだった。
(助かったよアストランティア、ありがとう)
(お礼なんて要らないよ。睦樹くんが痛いと、僕もつらいもの)
ほんとうに痛みが消えたのは有り難い。
しかし残り枚数は六枚と多くない。
これ以上蝗に喰われたくはないし、シンたちが喰われても呪われるのだろうし、基本できるだけ防ごう。
「ニッチモ、サッチモはデバフをとにかくかけまくれ」
「「キキ!」」
お化けコウモリたちは、ホバリングしながら応える。
「ともぞうさん、スパム、出花に攻撃魔法!」
「マカセロ」
「やってみようかの」
さっそく火弾と石礫がアバドン隼の巨体を撃つ。
効果のほどは分からないが、まったく効かないということはないだろう。
「マスター、森の外で変な音するわよ」
「これは、蝗が左右の森を食い破ろうとしているようですわ」
「あやや~、後ろからも蝗がやってきたのだわさ」
くそ、動かなかったのは、周囲に蝗を吐き出していたせいか!
(スノウドロップ、コロンバイン、まず後ろの蝗をやっつけてくれ)
(はーい、マスター)
(それが正しそうですわ)
(横から食い破るやつらは、ブルーベル、眠らせてやれ!)
ピクシーたちの輪舞で、三度目の吹雪が発生し、後方からの蝗はほぼ全滅。少し残ったものを狗神と俺でおおかた片づけた。
ブルーベルの催眠術式で眠った蝗が落ちてきたのを、残ったシンたちで止めを刺していく。
それらをかいくぐって飛来する大黒蝗のほとんどが、プリンスとサマンサの腹に収まった。
二人の舌は、一度に数匹の蝗をからめ取り、一瞬で口に入れてしまうのだからすごい。
なんかこれ、上手くいけそう?
しかし、そう甘くは無かった。
正面から着実に破滅が迫っていた。
アバドンの腕の一振りを、バーゲストも狗神も避けられるのだが、それ以上前には行けない。
狗神の八郎丸が懐に飛び込もうとすると、ファントム・キャットのビネガー・トムが迎え撃つ。
バーゲストはホブゴブリンのセバスチャンに阻まれる。
さらに彼は出花の盾を手で持ってきており、眠りや多幸などの術式を弾いてしまう。
こうして少しずつ後退を余儀なくされる。
森から出てしまえば、蝗が四方八方から襲い掛かるだろう。
さらに地下の触手はさっきは大きな庭園では出なかったが、もしかしたら移動してくるかも知れない。
この小径はまだ舗装されているから、触手がでてくるとしたら、床が大きく動くので、避けやすいのだ。
さらに眠っているカンビヨンたちも、もしかすると回復して襲ってくるかも知れない。
何とかこの通路である程度敵戦力を削っておきたいのだ。そのためには主敵アバドン隼をどうにかしないとならない。
「ヤドゥル、回復薬、招気薬、治癒薬をシンたちに上手く廻してやってくれ」
「はいですん」
「那美……行くぞ」
俺は魔槍屠龍蜻蛉切を具現化させる。
「主さま!」
ヤドゥルが意図を察して魔法障壁を三枚張ってくれる。
そして火弾と礫の合間を読んで突撃を仕掛けた。
対し、出花は青龍刀で迎え撃つ。
もともと重量を載せて振り下ろしてぶった切るという野蛮な剣だ。
巨大化した出花とは相性がいい。
「出花! まだお前なのか!?」
「心配ご無用です!」
喋り方は彼だが、声はくぐもって低い。
「なら良かった!」
俺が槍を振り下ろすのを、横薙ぎの剣が勢いを載せて防いだ。
かがんだ姿勢が悪いので、強い振りはできないのがまだましだった。
それでも槍でその刃に当てた衝撃は、かなりのものだ。
俺は吹き飛ばされこそしなかったが、槍は反動で上に返され、四歩後退して踏みとどまる。
やはりこいつを広い所に出したら、かなりやっかいだ。
あの身長の高さで振り下ろされたら防ぎきれるか分からない。
何よりシンたちを守りきれるかだ。
とりあえず挑発して、俺に攻撃を集中させとこう。
「頭がおかしくなる前に、もう僕だめー! とか言ってくれよ」
「ふざけてんですか!?」
だがしかし、ダニエルのように上手くない。
今度は出花の青龍刀が下から切り上げられる。
まともに受けるとまた槍が上がって、大きな隙ができてしまう。
俺は引いて避けながら、逆に下から槍を当てて、剣筋を逸らせた。
青龍刀が上に上がり隙ができる。
そこに切り返しを入れると、二の腕に穂先が入り、血が飛び散る。
何か血も黒くてヤバそうだ。
「クッ!」
さすがに苦痛に口を歪めると、猛烈な勢いで青龍刀を振り下ろしてくる。
俺はそのまま前に出て避ける。
さらに腕を押し切るようにして、出花の脇を抜けた。
そこに待ち受けていたのは、ヴァレフォールの風の刃だった。魔法障壁に当たり、高い音を立てて刃と魔法障壁一枚が砕ける。
俺がそのまま突き進むと、ヴァレフォールの周囲に風の障壁が生まれる。
構わずそれを切り裂くと、穂先から炎が上がり、ヴァレフォール自身にもダメージを与えたようだ。
そして俺は振り向きざま槍を出花の背をに突くと同時に、その反動でヴァレフォールにミドルキック!
「きゃあ!」
悲鳴を上げて、少女悪魔の華奢な体が吹っ飛ぶ。
「燕!」
出花は妹の名を呼んで振り向くと、怒りに任せて青龍刀を振り下ろした。
そのとき、頭上の木の枝も一緒に切り裂いて、バキバキと大きな音を立てるとともに、少し勢いが削がれた。
剣を避けるのは簡単だったが、上からバラバラと枝が降ってきて当たった。まあ、ダメージはないが。
(後ろに手!)
目を逸らした隙にヴァレフォールの見えざる手だ。
咄嗟にジャンプし、ヴァレフォールを視界に入れる。
俺のその行動が、ヴァレフォールへの攻撃準備と思ったのだろう。
出花は青龍刀をブンブン振り回して迫ってくる。
その度に、周囲の木々の枝が切り落とされ、辺りは熱心な植木職人の仕事場のような有り様だ。
やばい、このまま木が伐られると、森で出花の動きを制限する意味がなくなる。
もしかしてヤツもそれに気づいてわざとやってるのか?
「アハハハハハハハハハハハ!!!」
「ヒイアアアアアアアーーー!!!」
「ふぬううううううううううーー!」
再びカンビヨンたちの叫びが頭を直撃する。
しかし、慣れてかなり耐性が付いた俺には、まったく影響がない。
そして、ダニエルのシンたちも、なぜだか狂気に囚われない。
マスターのダニエルに見放されたことで、ともぞうさんの守護が及ぶことになったのか。
しかし、剣と火玉は発生し、仲間を襲う。
大黒蝗がいると、それが邪魔でできなかったようだ。
とはいえ、出花がこっちに集中しているので、ヤドゥルとピクシーたちに任せておけば、何とかなる。
そうか、この手を使えば勝てるかも知れない。
(出花を逆上させて、俺に攻撃を集中させる。その隙に皆んなは力を合わせ、他のシンを無力化するんだ!)
(お気をつけてですの)
(承知したナリ)
(ゲップ)
((ベトリ、ベトリ))
(わしも燃えてきたのじゃ)
(任せるのよさ)
(コロンバインちゃんこそ任されるのよ!)
(良い方法ですけど、お気をつけて)
(すり~)
皆がテレパシーを返してくる。
オイリー・ジェリーは偵察専門だから、今回出していない。お前の分も頑張るからな。
というわけで、俺はひとり皆から離れ、森の小径を奥へと走った。
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本作も通算201話目で、エピソード一覧も3ページ目です。
どこまで行けるか分かりませんが、頑張りますので応援よろしくです。
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アバドン隼を自分に引き付ける作戦
果たしで上手く功を奏するのか?
第15章24話は、令和6年12月10日公開予定!




