19. 空中庭園の罠
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ屋上の空中庭園での激突
戦いを優勢に運び、悪魔ヴァレフォールに降伏勧告する睦樹
しかし、罠が待ち受けていた!
戦いは第三段階に突入す
さっきまで俺が立ってヴァレフォールと話していた場所には、トゲの生えた触手が生えてウネウネ動いて得物を求めていた。
そのままで居たら、おそらく絡め取られていただろう。
「みんな、地面からくる触手に気をつけろ!」
ダニエルたちにも聞こえるように、声に出して叫んだ。
その間もヴァレフォールから目を離せない。
彼女の見えざる手は、それぞれダニエルの青龍刀と細身の剣を持って、こちらに迫ってくる。
(あの手が見えるか、ヤドゥル?)
(はい、見えるのですん)
(そうか、ヤドゥルも気を付けていてくれ)
(はいですの)
ヤドゥルにも見えるのは助かる。
これでいろいろと、対処しやすくなってきた。
でも、ヤドゥルにダニエルのそばに付いてやれと言ったら嫌がるだろうな。
休む間はない。ヴァレフォールの操る剣を払いのける。
しかし、さすがに力はさほど強くはない。
上から勢い付けて突っ込んでくるスピードが乗った攻撃をパリィすれば、他の攻撃はさほど怖くはないのだ。
ヴァレフォールもそれは分かっているようで、一度大きく弾かれると、一旦引いてまた勢いをつけて掛かってくる。
しかし、こちらがいくら反撃してもヴァレフォールには届かない。
接近して戦うのにまだ躊躇がある。
俺はぜんぜん覚悟ができていなかった。
透明の手を切り落としても、すぐに生えてきて、落ちた剣を拾って戻っていく。
これではきりがない。
触手に囲まれるようなことになれば、詰むことになる。
俺は一箇所にとどまることのないよう、とにかく動きまくる。
「ぐはぁ!!」
背後でダニエルのうめき声が聞こえた。
くそ、振り向けないので何が起きているか分らん。
(アストランティア、俺の背後も見えるかい?)
(見えるよ)
マジか、マジ見えるのならすごいぞこれは!
(ダニエルはどうなった?)
(触手に足を縛られたところを、出花の武器でかなりダメージを受けたみたい)
(死んでないよな?)
(だいじょうぶ、触手を切って逃げ出した)
(よし、透明な手と地面の触手を警戒してくれ!)
(僕にお任せだよ!)
アストランティアの目が使えるなら、ヴァレフォールに背を向けて逃げ出しても何とかなる。
一旦引いてダニエルと合流して、先に出花を倒そう。
(さあ、みんなの所まで戻るぞ!)
(はいですん)
ヤドゥルは俺に追随する魔術障壁を二面作り出し、一緒に走り出した。
(睦樹くん、左に跳んで!)
アストランティアの指示に従いながら、坂を下る。
「はい!」
ヤドゥルも俺の動きに合わせて触手を回避する。
(振り返って剣!)
俺は振り返り、剣と戦う。
傍から見たら空飛ぶ剣とやり合っているように見えるだろう。
(みんな、誰かが触手にやられたら、助けてやれ!)
(プリンスとサマンサが縛られてたけど、毒液で触手を溶かしたのですん)
(スネコスリが捕まったけど、スノウドロップが触手を凍らせて壊したのよさ)
心配するまでもなく、連携が取れているようだ。
(ダニエルはどうした?)
(あいつ、触手を切ったあと、スタコラ逃げちゃったわよ?)
「何だって!?」
(どこに逃げた?)
(森の先に逃げちゃったのよ)
(ヤツのシンは?)
(森の入口で、敵が追撃するのを防いでいるようですわね)
何てこった。ダニエルは自分のシンを足止めに使って逃げたのか?
まあ、でもその御蔭で俺たちの退路も確保できてるわけだ。
みんなで先の大きな庭園まで後退しよう。
「ヒイアアアアアアアーーー!!!」
「ふぬううううううううううううーー!」
ここで[泣くカンビヨン]と「怒るカンビヨン]の呪いといっていい術式だ。
正面から術式剣と火玉が迫るが、ヤドゥルの魔術障壁で防いでもらう。
眠っていたホブゴブリンが、またもや剣にフレンドリー・ファイヤされて目を覚ます。
そのセバスチャンに、見えざる手が青龍刀を渡した。
これはやっかいな戦力が増えた。
俺は細剣だけになったヴァレフォールの攻撃を、大きく弾き返した。
(振り返って、隼くん!)
俺が慌てて振り返ると、出花隼が腕をボクサーの防御のように立て、盾をぴったり並べて構え、勢いよく突っ込んできた。
避け切れない!
ヤドゥルが二重の魔法障壁を展開するが、次々と破って迫る。
それを横殴りの槍で受けた。
物凄い衝撃が腕に走り、後方に二歩下がるが、何とか踏みとどまる。
そのまま振り抜き、弾き返すことができた。
槍は丈夫でびくともしていない。
だが、魔法障壁がなかったら、押し切られていたかもだ。
(後ろ剣!)
無理だ、対応できん!
(大丈夫ですん)
ヤドゥルが魔法障壁で防いでくれた。
背後で硬質な音がする。
音からすると、まだ破られていない。
そして正面から迫る出花。
「死ねえぇぇ!!!」
チェーンソー・シールドの薙ぎ払いがくる。
(足元触手!)
俺は右へジャンプ。足を触手の棘が掠め、緑のチェーンソーが左肩をこすって青い火花を上げる。
転がるようにして回避、立ち上がると――
(ダメ触手、足元!)
避けようがない!
俺は足を絡み取られ、さらに触手は這い上がってくる。
(ヤドゥル、前を頼む!)
(はいですん!)
出花のシールド・チェーンソーが迫る。
魔法障壁がバリバリ切り裂かれる。
障壁が防いでくれる隙に、俺は急いで触手をザクザク切る。
「これで終わりだ!」
ヴ……ン………と耳元に回転する無数に連なる刃の音が近づく。
(首避けて!)
頭を逸らすと肩に衝撃!
やばい、下手すると首が飛ぶところだった。
ガガガッガと嫌な音を立てて、煙が上がる。
しかし、レベル5アストランティア・スーツは出花の右の盾の攻撃を耐えてくれた。
ボルタークさんに修理出したら怒られるかな……。
魔槍を背後から右手だけで出花の頭部に振り下ろす。
左の盾が上がり迎え撃つと、ドンっとオレンジ色の炎が広がり、互いの視界を一瞬奪った。
俺は左手でナイフを取り出し、二つの盾の空いた隙に滑り込ませた。
「つっ……!」
刃先は出花のプロテクターの隙間を突いた。
咄嗟に出花はブーツ前方にアストラル爆発をさせて、後方に大ジャンプする。
(後ろ剣!)
俺は大きく回転しながら槍でヴァレフォールの剣を横殴りにした。
伸び切ったヴァレフォールの腕は、衝撃で大きく弧を描いて逸れていく。
息つく間もなくホブゴブリンが、青龍刀を上段に構えて迫る。
しかし、動作が大きい上に遅い!
俺は逆に間合いを詰めて脚を薙ぎ払った。
脚の腱を切ることができ、巨体は自重を支えられずに前に倒れた。
槍を振り回しながら後ろを向くと、出花が苦しそうに立ちつくしていた。
その美しい顔に醜い紫色の筋が幾筋も表れ、唇から血が漏れている。
ナイフの毒効果がこんなにも劇症とは!
「くそ……麻痺毒とは……意外と、卑怯な真似を……しますね」
敵戦力が即時援護できない。
そして本人も麻痺で動けない状況。
こんな千載一遇の好機はない。
俺は槍で出花隼を倒せばいい。
ほんとうに死ぬわけじゃない。
今やらなくては、こちらがやられるんだ。
やれ、犬養睦樹、今やるんだ!
「わあああああぁぁぁーーー!!!」
俺は炎を上げる槍を繰り出し、出花隼の小さな体を貫いた。
みなさん、いつもお読みいただき、ありがとうございます!
11/29の夜は友人のキッシーとワッシーの結婚披露パーティーに出席し
初めて堀井雄二先生とお話できました。
とても気さくでお優しい人でした。
※ ※ ※ ※
出花隼を貫く睦樹の魔槍!
これにて勝負あったか!
第15章20話は、令和6年12月3日公開予定です!




