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18. 中野を盗る!

― 前回のあらすじ ―


  中野ブロードウェイ屋上の空中庭園

  出花隼の守る本拠地に入り込んだ睦樹たち

  舌戦が展開されるが、睦樹が「中野は俺が盗る!」

  と決めるもののダニエルからダメ出しされる


「ええ? バシッと決めたつもりなんだけど!」


「すべりまくりやで」


「そんな~……」


「中野は……中野はぁーー、僕がーー、盗らせないぃぃぃぃーーー!!」


「ほらな、刺さってるだろ!」


「マジか……東京もんのノリ分らへんわ」


 出花隼(いでかじゅん)は、全身装着モードになる。

 白いブラウスとパンツはキャンセルされて、動きやすいものにチェンジ。

 ヘルメットのようなアンテナ付きのキャップ、ゲームのコントローラー風のプロテクター、大きな羽つきブーツ、子供向けアニメキャラ風のその姿は、高円寺隠世で見たあの装備だ。


 そして胸の前で両腕をクロスさせると、細長い盾が両腕に装着された。

 そのまま斜面を駆け下りてくる。

 ファントム・キャットのビネガー・トムと、ホブゴブリン執事のセバスチャンが脇を固める。


「おニイちゃん、ムチャしちゃやだよ」


 仮面のないカンビヨンが、心配して立ち上がるが、隼は聞いちゃいないという感じ。

 そして、盾のエッジ全体に金属質の鋸歯が現れると、明るい緑色に発光し、エッジに沿ってチェーンソーのように回転しだした。


(ブルーベル、眠らせてやれ!)


 ブルーベルのスキル[催眠の風]は範囲術式だ。

 上手くすれば前衛を全員眠らせられる。


「おーねーむちゃ~~ん!」


 しかし、術式が発動されると出花の盾が淡く光り、それが無効化されたのが分かった。

 出花だけでなく、周囲にまでその防壁は効いているようだ。


「あー、ダメみたいだわさー」

(しょうがない! スノウドロップもダメかな?)

(あれは自動的に精神系の術式を、跳ね除ける力の込められた盾ですわね)


(なら攻撃魔法は?)

(盾に当たると無効でしょうね)


(やってみて、ともぞうさん!)

(はいよ~)


 フェアリー・ボルトが放たれる。

 同時にアーク・インプの火弾が来た。ナイス連携!


 しかし出花は二つの盾を、上手く術式攻撃に合わせて無効化した。

 そして急激に加速。


 上下運動してないのでこれは走っておらず、何かブースターのようなものを使っているのだろう。


 そのままダニエルに突っ込んでいく!

 ダニエルが青龍刀を実体化させて構えた。


「今や、スニーキー!」


 出花隼はダニエルの眼の前で、ガクンとつんのめるようにして前に倒れた。

 がら空きの背中にダニエルの青龍刀が振り下ろされる。


 しかし、それはすっと手から抜け、宙を飛んでいく。

 見えざる盗人の長い手、俺にはそれが薄っすらと見えた。


 その手がするすると戻り、実体化した手に青龍刀をキャッチしたのは、丘の中程まで駆け降りてきた素顔のカンビヨンだった。


「甘いで!」


 しかし、盾を地面に付いてうつ伏せになった出花の背中を、ダニエルはサブウエポンの細剣で貫いていた。


「うああああああ~~~~!」


 ダニエルは剣をグリグリ廻して深く刺していく。


「おニイちゃん!!」

 少女が数歩駆け降りて止まる。


 大きな黒猫がダニエルに飛びかかろうとするが、横から狗神に阻まれる。

 八郎丸はずっとファントム・キャットをマークしていたのだ。


 そして驚いたことに、オイリー・ジェリーが果敢にもファントム・キャットのシッポに齧りついた。

 振り回されながら離さずにぶら下がり、ビネガー・トムの動きを鈍らせる。


 一方、下り坂を走ってきた勢いのまま、ダニエルにショルダー・アタックをかましたのが、ホブゴブリンの巨体だ。

 しかし、バーゲストが横から飛びかかり、その勢いはやや逸らされた。

 それでもダニエルは吹き飛ばされ、森の入口辺りまで転がっていく。


 出花は剣が体を貫いて地面にまで刺さっているので、なかなか立ち上がれない。

 見えないところで、シャドウ・インプのスニーキーが妨害しているのだろう。


 主人の元に戻ろうとするホブゴブリンは、ブルーベルに眠らされてしまう。


 他にも立ち上がる手助けをしようと、急ぎインプが飛来し、森からもわらわらとゴブリンやら小悪魔らしき毛むくじゃらの者が現れた。


 しかし、地上を歩く小さな者たちの多くが、コロンバインのピクシー・リッドに掛かって、外れの茂みの周りを歩き回っている。


 リッドの範囲に居なかった何体かは、巨大蟇蛙たちの良い的になってしまった。

 二体のインプたちがそれぞれサマンサとプリンスに仲良く喰われたのは、さすがに哀れさを禁じ得ない。


 ベトベトーズは倒れた出花を囲んで、上から触腕で押さえつけ、さっそくハゲタカ行動にでている。

 これはえげつない。


「アハハハハハハハハハハハ!!!」


 狂った声が頭に鳴り響いた。

 一体なのに、先ほど三体のカンビヨンの笑いより、さらに強い攻撃だ。

 ともぞうさんの加護のあるうちらでも、ちょっとキツイくらい。

 ピクシーたちも可愛い顔をしかめている。


 これはダニエル陣営には致命的だった。

 アーク・インプも、バットたちも墜落し、バーゲストもダニエルも叫びながら転げ回っている。


 これをなんとかしないと戦いにならない。

 俺は丘を駆け上がった。


「主さま!」


 ヤドゥルが飛び出して付いてくる。


「危ないぞ、みんなのところにいろ」

「ダメですん。主さまこそ、ヤドゥルが居ないと危ないですの」


「ヒイアアアアアアアーーー!!!」


 剣が来る!


「ふぬううううううううううううーー!」


 そして火玉もだ!


「させないのですん」


 ヤドゥルの笹の葉が鋭く飛んで、魔法障壁を剣と火玉が発動した直下に形作った。


 ガチャン! とガラスが割れるような派手な音を立てて、それぞれの術式は相殺し合った。


「やるな、ヤドゥル」

「このくらいフツーですの」


 と、可愛いドヤ顔を見せてくれる。


 俺の背後では、スノウドロップがダニエルとそのシンたちに、[多幸の光り]をかけていた。

 その幸せの力と狂気の混乱が相殺し、フラフラと彼らは立ち上がったのだ。

 上手くいってこちらもドヤ顔している姉さまだが、もっと早くに気づいてくれ!


 これは仮面のカンビヨンは恐るるに足りずってか?

 俺は目標を仮面の無いカンビヨン、おそらくその正体はヴァレフォールに変えることにした。


 彼女は薔薇の茂みの後ろに立ち、さっきまで出花に刺さっていた剣をつかんでいた。


 その盗み発動の条件は、おそらく盗む対象に見られていないことだ。

 なので、ダニエルからは死角になる薔薇の茂みの裏に居たのだろう。


 さらに、カンビヨンの姿をしていること、というのはどうだろうか。

 これはまだ不明だ。


 ともかく、彼女から目を逸らさなければ、武器を奪われないとみた。

 俺はじっと可憐な白い少女を見つめたままキップルを小刀に変え、さらに「那美……」と唱えて槍を実体化させた。


「覚悟せいや~!」


 一方倒れる出花に、さらなるサブウエポンの片手剣を取り出して斬りかかろうとするダニエル。


「くそ! させるか!」


 しかし、直前で起き上がり、右の盾でそれを防ぐと、立ち上がりながら左の盾でダニエルに襲いかかった。

 ダニエルは器用に左手にもショートソードを出現させそれを防ぐ。


「やるやないけ」


 さて、俺はこの期に及んで躊躇していた。

 悪魔とはいえ、少女の姿のカンビヨン=ヴァレフォールを討てるのか。

 そして駆け寄って行って、やはり留まった。


「カンビヨン、いやヴァレフォール、君らは負けを認めて、中野から退去する訳にはいかないか?」


「はぁ? 何を言ってるのかな? なぜあたしたちが負けなの?」


「実際君らは押されてるじゃないか?」


「あんた馬鹿なの? 敵の本拠地に乗り込んで、まだ何も始まってないんじゃないの?」


「え?」


 しまった、俺は何か重大な見落としをしてるってことか?


(罠よ、跳んで!)


 アストランティアの警告と同時に、俺は後方にジャンプしてした。


みなさん、いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします。


 ※ ※ ※ ※


ヴァレフォール、皆さんの思ったとおりでしたでしょうか?

そして、彼女の罠とは??


第15章19話は、令和6年12月1日公開予定です!

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