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17. 戦いにかける想い

― 前回のあらすじ ―


  中野ブロードウェイ屋上の空中庭園での決戦

  悪魔ヴァレフォールとホブゴブリンを敗走させ

  睦樹とダニエルが追撃を始める!

 シンたちをぞろぞろ従えて、俺とダニエルは森の道を慎重に進んでいった。


 小道はレンガで舗装されており、低い位置は低木が茂みを作っている。

 いくらでも潜む場所はあるし、緩いカーブを作っている場所での見通しは悪い。


 俺はいったん立ち止まり、重要なことを確認した。


「ダニエル、青龍刀を奪われたときの状況を教えてくれ」


「あー、どんなんやったかな~」

 ついさっきのことだろ……。

「まずちびジャリの後を追って、あの辺まで来たんやったな……」

「それで?」

「そしたらホブゴブのやつが、そっからもっさり現れよった。んで、ジャリんこはそいつの後ろに隠れたし、ホブは素手やしで、一太刀くらいはいけるやろおもて、切りかかったら急に手が軽うなって……。そんときには、もう青龍刀が消えてたちゅうわけや」


「すぐにホブゴブリンが持ってたのか?」


「ちゃうちゃう、まだ奴は青龍刀持っとらへん。素手で俺のことを張り倒しよったんや。そんでそこら辺まで転がされてなー、えろうやられたわ」


「ヴァレフォールは見なかったんだよな?」

「ああ、見とらんで」


「てことは、気が付かない内にヴァレフォールが奪って、そのあとセバスに渡したってことか!」

「そやけど、それがどうしたん?」


「可能性としてだけど、こちらがヴァレフォールを視認していると盗めなくて、隠れていれば盗めるのかも知れない」

「あー、なるほど」


「てことは、今盗めるってことだ」

「いったんキップルにした方がええな」

「それでちゃんとしまっておく」

「サブウェポンに換えとくわ」

「そうしよう」


「八郎丸も、小刀をしまっておくんだ」

「承知ナリ」


 俺は魔槍をキップルの金属の棒にして、ポーチにしまった。

 サブウェポンの投げナイフを抜き身で持って歩くと、毒が塗ってあるから危ないので、手ぶらで行くことにする。


 しかし、警戒した待ち伏せも、ヴァレフォールのサブウェポンへの盗みもなく、小道の終わりにさしかかった。


「なんや、拍子抜けやな。なんもなかったやん」

「そうだな、でも同じ警戒を続ける必要があるよ」


「そらムッキーさんの仰るとおりや。この先が出花の待ち受ける場所やで」

「そっか、ボス部屋ってやつか?」

「部屋っちゅうより、庭やな」

「庭ばっかだな」

「庭ばっかや」


 視界が開けると、先ほどより狭い、段差のある小庭園になっていた。

 緩やかな斜面には薔薇の茂みが幾つかあり、色とりどりの大輪を咲かせていた。


 そして丘の上には白い屋根付きの休憩所のようなものがあり、そこが敵の本丸のようだ。


 白い椅子には出花隼(いでかじゅん)と、四人のカンビヨンが座っている。

 三人は例の仮面、笑い、泣き、怒りを一つずつ付けているが、一人は仮面なしだ。


 ホブゴブリンのセバスチャンと、ファントム・キャットのビネガー・トムはその前に陣取っている。

 ほかには二体のインプが飛んでいた。


 ここにもヴァレフォールの姿が見えない。


(注意して、ヴァレフォールはここにいる)


 アストランティアが警告する。


 出花隼は、カンビヨンとお揃いの白いブラウスと半ズボンで、小さな貴公子のようだった。


 ダニエルがずかずか前に出て行って呼びかけた。


「奥引っ込んで、震えて待ってたんかいな、中野ルーラーの隼ちゃん?」

 じゃない、挑発しやがった!


 出花隼は静かに立ち上がり、屋根の外に出てきた。

 黙ってりゃホント絵になる。

 ショタ好き紳士淑女が群がる強いオーラがある。今や俺にはそれが見えるのだ――間違いない。


「そこの国津のお兄さん、犬養睦樹……」


 おっと間違えた――これは俺たちに対する、静かなる怒りのオーラだった。


「なぜ嘘を吐いたんです? 中野には買い物しに来ただけじゃなかったんですか? 狗神を手なづけ、カンビヨンの施設を襲い、ケルベロスを帰還させ……そして……彼女らの姉妹を倒し、ヴァレフォールまで傷つけた……なぜです?」


「おい、オレ様を無視すなクソガキ!」

「黙ってろゲス、話は後で聞いてやる」

「なんやと!」


「ダニエル、スマン、ちょっと話をさせてくれ」

「ちっ、まあムッキーが言うならしゃあないわ」


「ありがとな――」

「なんや、調子狂うで」


「最初に謝っとく、出花隼。済まなかった。俺も最初はこんなつもりはなかったんだ。お前に出くわしたときは、マジで買い物して戻るつもりだったんだ。

 だけど、きっかけは狗神だった。八郎丸の無念を知った。主を失ったことも知らずに、負けたので棄てられたんだっていう絶望の中にいた。俺はこいつを救いたかった。そんなわけで、この八郎丸と共鳴しちまったんだよ」


 言葉にして自ずと自覚できた。

 俺は、狗神八郎丸の魂に触れて、中野奪回の悲願を自分のもののように感じてしまったんだ。


「犬養が、犬に飼われたってことですか? ゲスな蠱毒上がりの怪異に取り込まれるとは、さすが地べたを這いずり回る国津神の使徒らしいですね」


「グルルルルルル……」

「この下郎、許さないのですん」

「控えるんだ二人とも」


 俺は言葉に霊力を込めて、今は黙ってもらった。


「もう一つあるのが、クトゥルフ信者の殺害と、彼らの生贄にされた人たちだ。俺はこれを無かったことにしたい」


「それは僕が最後にやる予定だった――」


「いや、出花、お前には出来ない。真剣にこれを変えたいなんて、ちっとも思っていないからだ。だからきっと無理なんだ」


「へえ……なら、お兄さんになら出来るんですかね?」


「出来るよ、たぶんだけど……狗神の想いを知ってるから。それに俺自身は、ぶっちゃけ大量殺人者の汚名を被りたくないってのがある。だからガチでこれをどうにかしたいって思えるんだ」


「そうですか……そこまで決意が固まってるんじゃ仕方ないですね。これも隠世の神族大戦の理です。僕も覚悟を決めましょう。……でも、そっちのクズは、どういう了見なんでしょうかね?」


「へ? ああ、オレ様のことね、クズってのはよっ! まあ、ええで、ええんやで~、クズで結構、けっこう、こりゃけっこー。

 オレ様クズ呼ばわりされ続けのどん底人生この方二十余年、ちっとやそっとの半端なクズやあらへんでー。

 その年季入りたるクズさんの了見もなんも、そんなお上品なもんは持ち合わせちゃ~あらへんのや隼ちゃんよお……。

 おめえがガキの癖に、クソでけえ面し過ぎるさかい、オレ様が躾つけなあかんやろなって、シンプルなハナシよ。人生と使徒のクズ先輩の責務としてな!」


「躾が必要なのはあなたでしょう? ……ロクに任務も遂行できず、負けてみっともないから、寝返ったことにして、後先考えず勢いだけで犬養を助けて中野を危険に晒す。僕はこれが終わったら、教授に面会を求めて、ゴミクズ使徒の悪魔族追放を願い出ますよ。


「ハッ、オレ様も自分も女帝の派閥やないか。教授が決められることやあらへんで」


「じゃあ僕が、今ここで引導を渡してさしあげますよ」


「引導いうのは仏さんの権能やで、ワイら悪魔族にはできへんこっちゃ」

「………………」


 お互い言いたいことを、ぶつけ合った感じだな。


「それじゃあ、始めようか」

「ええで」

「望むところです」


「あ、最後に言っとくことがある」

「どうぞ」


「中野は俺が()る!」

「なんやそれ」


みなさん、いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 ※ ※ ※ ※


ヴァレフォールを探せ!


第15章18話は、令和6年11月28日公開予定です!

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