16. 空中庭園の激闘
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ屋上の空中庭園
カンビヨンを無力化したあと
悪魔ヴァレフォールとホブゴブリンのセバスチャンが登場
ダニエルが挑発し怒らせ、戦端が開く!
少女の姿をした悪魔と旋風が、一体化したように見える。
ゲーム脳が、風属性の悪魔と想像する。
(ヤドゥル、みんなを守れ! 上からだ!)
「はいですん!」
よし、ヤドゥルにもテレパシーが通じた。
これで作戦がダダ洩れにならない。テレパシーの盗聴スキルとかなければ。
魔法障壁が三枚並んで、シンたち、オイリー・ジェリー、スネコスリ、エルダー・ブラウニーのともぞうさん、ベトベトさんたちが密集する上に現れる。
ピクシーたちは魔法障壁の上を飛んでいる。
やばくなったら、その下に潜ればいいか。
丈夫なプリンス・クロウリーはその前に陣取る。
少し離れた横の位置にジャイアント・トードのサマンサ。
二人はお似合いのカップルなのだろうか……。
その上にアーク・インプのスパムがフワフワ飛んでいる。
バーゲストのギネスと狗神の八郎丸が、俺やダニエルとともに前衛に出ている。
バットたちは風に巻き込まれ、あさっての方向に飛ばされて行って安否不明だ。きっと戻ってくると信じる。
「やっちゃって、セバスチャン!」
「仰せのままに」
身長2メートルのマッチョ・ホブゴブリンが、青龍刀を振り上げ迫る。
執事服のボタンがバチバチ取れて飛んでいく。
こりゃ一撃喰らったら死ぬな。
しかし、槍は引っ込めてないと奪われるらしい……どうしたらいいんだ?
(ブルーベル、眠らせてやれ! だめならスノウドロップ頼む! ともぞうさん、ヴァレフォールにフェアリー・ボルト!)
俺は後退しつつ命令を出す。
「スパム、ゴブリンなんざ焼いてまえ! サマンサ、脚を狙え!」
ダニエルも同様、命じながら後退。
ホブゴブリンにアーク・インプの火弾が炸裂し、ジャイアント・トードの舌が脛を打つが、ダメージをものともせずに進んでくる。
ヴァレフォールにはエルダー・ブラウニーの魔法の石礫が突き刺さる!
かに見えたが、旋風に弾かれてしまった。
やっぱりそうか、あれは魔法防壁も兼ねているんだ。やっかいだぞ。
「お~ねーむちゃん~♪」
ブルーベルの催眠魔法で、ホブゴブリンは眠そうにたかと思うと瞼を閉じ、数歩歩いて停止した。
「やった!」
しかし、次の瞬間ヴァレフォールの旋風から、幾つもの風の刃が放たれた。
ヤドゥルたちを魔術障壁が守る。
俺は回避しつつ、槍で風刃を受け流す。
対抗するコロンバインが風魔法を起こして軌道を逸らし、ピクシーたちは守られた。
ダニエルもサブウェポンの細身の剣を出して対処する。
インプは図体の鈍重そうな見た目に反し、華麗に回避。
バーゲストはホブゴブリンを盾にしている。
幾つかの刃が、カンビヨンを切り裂き、それが致命傷となってエーテル体が崩れていく。
「くそ、お構いなしかよ!」
ファントム・キャットにも命中し、「ギャ!」と一声上げるや眠りから覚めて、一目散に逃げていく。
「しまった、セバスも目覚める!」
数発の風刃を背中に受けたホブゴブリンが、案の定痛みで目を覚ました。
「ぐうぅぅあ!」
「寝たら殺すわよ、セバスチャン!」
「あんまりのお言葉です、マイ・ロード!」
そう嘆きながらホブゴブリンは突撃してきた。
足にバーゲストが絡みついて噛みつくが、お構いなしだ。
そして俺たちめがけて青龍刀を横殴りで振り回した。
ダニエルが剣で受けるも弾き飛ばされた。
俺も咄嗟に石突を地面に刺して、敵の剣をこちらの槍で叩きつけるようにして受ける。
もの凄い圧力だが、弾かれるのを辛うじて防いだ。
二人とも得物を使っているが、まだ獲られない。
何か盗むための条件があるのか?
防御中はできないとかか?
なら、今のうちにホブゴブリン集中だ。
ホブゴブリンは、バーゲストを追い散らしているが、素早さでは敵わない。
その隙に狗神が一撃離脱を繰り返し、確実にダメージを与えていく。
だいぶ大きくなったベトベトーズも参戦。
瞬間移動で背後に回りEPを奪う。
振り向きざまに斬られそうになると、また瞬間移動する。
その繰り返しは俺もやられた嫌なパターンだ。
動作が大きくやや遅いので、ベトベトーズにいいようにあしらわれている。
ホブゴブリンがシンたちを攻撃する隙を突いて、ダニエルが素早く一撃を与える。
俺もまたダニエルに向かうところを側面から突く。
集中攻撃されて、ロード様も危うしと感じたのだろう。
逃げていたのにいつの間に命じたのか、ファントム・キャットが不意を突いてベトベトさんに飛びかかると、一体があっという間にずたずたにされてしまった。
体液がエーテル残滓となって飛び散り消えていく。
「八郎丸、助けてやれ!」
「承知ナリ!」
再び狗神と黒猫の熾烈な闘争となる。
ベトベトーズは、やられた片方を無事な片方がEP補充で助け起こす。
その間戻ってきたカース・バットたちがキーキー叫び、呪いのキーイングを掛ける。
後で聞いたのだが、ホブゴブリンの攻撃力と防御力を落としていたのだ。
「プリンスは、脚を狙え!」
「サマンサもや!」
しかし、舌の攻撃は風の刃に正確に迎撃された。
二体とも舌を切り取られはしなかったが、傷ついてしまい使えない。
(スネコスリ、回復だ!)
「みないぶき~!」もダニエル陣営には効かない。
回復薬を使うしかないだろう。
さらに狙いすました風の刃が、俺やダニエル、バーゲスト、ベトベトーズに飛んでくる。
ベトベトーズは避けきれず、引き裂かれる。
「ベトベトさんたちは、ヤドゥルのところへ避難するんだ」
「「ベトー」」
俺とダニエル、そしてバーゲストは風刃を躱すが、その間はホブゴブリンへの攻撃は止み、その反撃が始まる。
一撃が強いので、得物で受けてしまうと、すぐにこちらも反撃に移れない。
武器で上手くいなして即反撃したり、隙を突いて懐に飛び込むほど、自分の技量を信じていない。
そして立ち直る前に次の攻撃がくる。
バーゲストは素早く回り込んで噛みつくが、ホブゴブリンはまたもや放置して、こちらに集中だ。
「そうだダニエル、青龍刀をキップルに戻せないのか?」
「あかんかったわ。盗むことで、所有権があっちに移っとるで」
「くそ! そいつはやっかいだ」
俺はホブゴブリンの薙ぎ払いを受け流しながら、右へ右へと回り込もうとする。
ダニエルも同時に左に回るので、セバスは挟まれる形になる。
目くばせした二人の同時攻撃に、俺に対しては青龍刀で防ぎ、ダニエルの攻撃には足裏キックで対応。
ダニエルは吹っ飛ばされる。なんという身体能力。
ヤバい、しばらく一対一だ。
俺は弾かれた勢いのまま、ダッシュで距離を取る。
その背中に風の刃が突き刺さった。
「痛いじゃないか!」
今回の初被弾だ。
だがまだ回復薬のお世話になるほどじゃない。
ダニエルが立ち直る間、アーク・インプが火弾で牽制。
ダメージの蓄積もかなりいっていると思うんだが、まだまだ元気そうだ。
(コロンバイン、ヴァレフォールの風防御を相殺できないか?)
(だめ、強すぎるわよ)
(コロンバイン、わたくしと力を合わせましょう)
(はい、お姉さま、コロンバインちゃん頑張ります!)
切り替わりが鮮やか過ぎる。
(たのんだ、二人共!)
これが成功すると勝機が見えてくる。
(ブルーベル、ヤドゥルから招気薬をもらって、セバスを眠らせろ! 何度でもだ!)
(人使い荒いマスターも、たまにはいいのよさ)
俺はセバスの背後をに回り込むついでに、サマンサに回復薬をぶっかけてやる。
目をパチクリしていたが、舌を出して顔にかかったのを舐めだした。
(よし、みんな! 一斉に攻撃だ!)
ブルーベルがホブゴブリンを眠らせ、コロンバインとスノウドロップが共鳴し、凍結風と春風の力を合わせた暴風を、ヴァレフォールの旋風の逆方向にぶつけた。
見事に風の魔法障壁が消える。
そこにともぞうさんのフェアリー・ボルトの礫が命中し、ヴァレフォールが空中でよろける。
「くぬぅ、妖精の分際でなにしやがる!」
ダニエルはホブゴブリンの手に切りつけ、青龍刀を落とさせた。
それをサマンサが舌でキャッチして奪取。
ホブゴブリンが痛みで目覚めたところに、さらに火弾が飛ぶ。
(プリンス、俺を舌でヴァレフォールに向けてぶっ飛ばせ!)
「ゲッゲッゲッ」
何か喜んでやがる。
俺がヴァレフォールとプリンスの間に入ったところで背中に強い衝撃!
3メートルばかり吹っ飛びながら魔槍で悪魔少女に切りつけた!
「ぎゃあ!!」
エーテル残滓をきらめかせながら、落ちていくのを、ホブゴブリンが両手でキャッチ。
「セバスチャン! 撤退よ!」
「御意」
そのまま森の道に走り去っていった。
ファントム・キャットのビネガー・トムもその後を追う。
狗神がそれを追いかける。
「待つんだ八郎丸!」
「我らが主よ、今こそ追い込むべきでは?」
「そやそや! このまま追撃するで!」
「ちょっと待ってくれ。ヴァレフォールが武器を奪わなかったが、どうしたわけだ?」
「分からへんが、何らかの条件が必要なんちゃうか?」
「俺もそう思う。だから、今後は武器が奪われるのをより警戒して進むんだ」
「了解や」
「さあ、みんなで追うぞ!」
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出花隼が不在のまま戦端が開き、ヴァレフォールが敗走!
第15章17話は、令和6年11月25日公開予定で頑張ります!




