15. ヴァレフォールの怒り
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ屋上の空中庭園
覚醒したアーマー、アストランティアの忠告で
罠を回避した睦樹
森の道から退き、庭園で備えると
ホブゴブリンと悪魔ヴァレフォールが現れた
少女悪魔ヴァレフォールは、大げさなジェスチャーを交えつつ、高みから話しかける。
ホブゴブリンのはち切れんばかりに筋肉を押し込んだ、黒い執事服。
そのセバスチャンの肩の上に座るお転婆お嬢様という、絵面からすると微笑ましくも思える高みだが。
「ああも簡単に、カンビヨンたちが敗れるとは、思ってもみなかったのよ。認めて上げる、あなたの力。でも、あれ作るの、とっても時間掛ったんだから、ほんとマジガッカリ」
「いや、殺しちゃいないから、復帰させるのは簡単だと思うよ」
「え? そうなの? あらら、みんな仮面を壊されて伸びてるのね?」
改めて、シンたちの働きが誇らしい。
彼女らを生かすことにどれだけ意味があるかは分からないが、妹の名前を付けていたんだ。
出花も思い入れがあるだろうに、殺すのは可愛そうだ。
「どういうこと? よく暴走せずに大人しくさせられたわね」
暴走するのか、眠らせたり幸せにさせて、EPをギリまで吸い取る作戦が大成功だったというわけだな。
「運よく上手くいったみたいだな」
「国津神族三位の使徒は、不運の星に付きまとわれていると聞いてたけど、違うのかしらね」
そういや相馬悟朗は不運属性だったな。俺に引き継がれていたとしたら、かなり嫌な感じなんだが……。
ヴァレフォールは、ゲキ冷たい視線を友達未満、仲間未満の方に向ける。
「さて、ダニエル張、よくもマスターを裏切ってくれたわね。マスターは人間不信に陥りそうだわ。また眠れなくなったら、どうしてくれるのかしら?」
「悪魔族にとって裏切りなんてアクセサリーみたいなもんやで。出花こそ、なんで裏切られたのか、よっく考えるこっちゃ」
「どうせチンケなプライドが傷ついたトカなんでしょうけど、せいぜい厳しい仕置きを覚悟することね」
「躾のなってないガキに、ちゃんとした社会のお勉強をさせてとんのや。それにな、闇の女帝様を裏切ったとちゃうからな。オレ様、女帝直々に、出花の躾を頼まれとんのやで。大義は我にありや」
「そのために中野を失っても、イイっていうのかしら?」
「だいじな出花ちゃんの教育費としてはお安いもんや。それにこんな中野なんざ、取り戻したきゃ、なんぼでも後から取り返しゃええんやで? そんときは、オレ様が奪ってルーラーになったるわ」
「何よそれ!」
どうやらダニエルはすぐにまた裏切りというか、表切り? するらしい。
まあ、そういう約束だしな。
中野を奪取したあとは、結局ここが防衛戦の最前線になるってことだ。
俺もここで勝てたとしても、いろいろと覚悟しなくちゃならないのか。
「中野のルーラーの下に付いた以上、その命令を守るのが当たり前よ! それを無視して、そんでもって裏切って、マスターに刃を向けるって、万死に値するわ!」
「オレ様を一万回殺すって? はぁあ? 無理無理無理~~!」
「このクソゴミ虫めがっ! いい気になってるんじゃねえぞ!」
相手を怒らせるのは、ダニエルの特技なのか、それとも性格的にアレなのか?
だが、ヴァレフォールを怒らせて、出花隼不在の今ここで決戦すれば、かなり勝ち目があるのでは?
それを考えてやってるとしたら見直すんだが……。
「あたしを怒らせるとは、いい度胸だわ!」
「怒った顔もチャーミングやで、ヴァレフォールちゃん」
あ、なんか今ピキッてヴァレフォールの血管切れる音した感じ。
じっさい赤い怒りの炎っぽいのが、ヴァレフォールから立ち上る。
しかし、地獄の公爵ともあろう者が、こんな口車に乗せられて無謀な戦いを挑むだろうか。
いくらヴァレフォールが強かろうと、こちらの多勢はやっかいなはずだ。
それだからこそ、森で罠を張っていたんだし、次の備えがあるに違いない。
出花隼がほかのシンを引き連れて、奇襲でも狙ってるんだろうか?
とにかくまだ何か策があると思って警戒すべきだろう。
(コロンバイン、ブルーベル、ジェリー、辺りに気をつけてくれ)
(わかったわ)
(あーよ)
(チュ!)
ちゃんと小声で返すのが可愛い。
ブルーベルは背後のエレベーター・ホールの方に、コロンバインは、庭園の奥へ、ジェリーは森の小道の茂みに入っていった。
ダニエルも同じ考えらしく、バットたちがヒラヒラと、上へと昇っていく。
「深く、深く……後悔させてやるわ」
少女悪魔がホブゴブリン執事の肩の上で立ち上がると、その背に悪魔の翼が現れる。
アストランティアが囁く。
(シンたちに念じてみて、届くはず、低くきへ逃れるように)
(わかった、アストランティア……コロンバイン、ブルーベル、高度を下げるんだ!)
(マスター、テレパシー強くて痛いわ!)
(あ、あいさー)
そうか、スマンピクシーたち。
「ダニエル、バットたちを下がらせろ!」
「なんやと? ニッチモ、サッチモ、下がるんや!」
そのとき、ゴウッと風が鳴り、庭園の木々が頭を揺らした。
悪魔ヴァレフォールは竜巻とともに舞い上がった。
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いよいよヴァレフォールとの正面対決始まる!
第15章16話は、令和6年11月24日公開できるよう頑張ります!




