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14. ダニエルの救出

― 前回のあらすじ ―


  仮面を被った9人のカンビヨンと戦う睦樹

  ダニエルは怒りに任せ突出、

  黄昏の森の中で何か起きたらしい



 しょうがない、ダニエルを助けに行ってやろう。

 そろそろカンビヨンも、シンたちに任せてもダイジョブそうだ。


 だが、その前に……


「ブルーベル、八郎丸を助けてやってくれ、黒猫を眠らせるんだ」

「近づくの怖いけど、まーやってみるわさ」


 狗神とファントム・キャットの攻防は、庭園をハイスピードで転がるようにして、目にも止まらぬ速さで打ち合っている。

 しばしば跳躍もするので、ブルーベルが怖がるのも無理はない。


「コロンバインは、ブルーベルを助けてあげて」

「しょうがないわねー、ブルーベル。このコロンバインちゃんが、しっかり援護してあげるのよ」


「えー? 足引っ張らないでなのよさ」

「そっちこそ、ドジ踏まないでちょうだい!」


「ヤドゥルは、みんなを守ってくれ」

「はいですん」


 そして俺は、ダッシュでダニエルを追った。


 森の道の脇の茂みから、[怒るカンビヨン]が庭園側に出てくる。

 どうやらダニエルは、彼女を取り逃がしたようだ。

 斬り殺されなくて、ちょっとホッとする自分がいる。


「ヒイアアアアアアアーーー!!!」


「ふぬううううううううううううーー!」


 再び悲しみの剣と怒りの火玉が頭上から降り注ぐ。


 しかし、プリンスとともぞうさんに仮面を壊されて、残りは[泣くカンビヨン]と[怒るカンビヨン]は一人ずつだし、二人ともダメージを受けているのか、少しふらついている。


 剣も火玉も数が少ないので、シンたちだけで対処可能だろう。

 仮面を失ったカンビヨンには、ブルーベルの眠りに替わり、スノウドロップが多幸の光のスキルで楽しくさせている。善き哉。


 俺が森の道の入口まで来ると、バーゲストが吠えかかる声が聞こえた。

 アーク・インプとカース・バットも俺の背後にまで追いついた。

 マスターが心配なのだろう。


「ひぐあっ!!」


 ヤバそうなダニエルの悲鳴?

 俺が木々の間の小道に分け入ると、少し先にダニエルが無様に転がっていた。


 奥からぬっと現れたのは、高身長かつマッチョなゴブリンだった。


「あれがホブゴブリンのセバスか」


 話に聞いたとおり、執事服を着ているが、無理やり筋肉を押し込んでいる感じで窮屈そうだ。

 その太ももにはバーゲストが噛みついたまま、引きずられている。

 さらにホブゴブリンは、ダニエルの青龍刀を奪ってその肩に担いでいた。


「ダニエル、ダイジョブか?」

「クソが、やられたわ」


 言いながら立ち上がる。


「青龍刀、取り返してやる」

「そうか、頼むでムッキー!」


 俺がホブゴブリンに向かってダッシュしようとした、そのとき……


(行っちゃダメ、罠だよ)


 囁く少女の声がした。

 思わず足を止める。


 見回しても、誰もいない。


「誰だ?」


(僕だよ、アストランティア)


 ちょっと待て、これってデジャブ?

 現世でやったあれ?


 イヤイヤイヤ、アストランティアはアーマード・スーツになっているはずだし、そもそもあのやり取りは、俺の妄想だったはず。


 今もまた妄想してるってことはない。

 断じてないぞ!


(ほら、僕レベル5になったでしょ? だから新たな機能として追加されたってことで、納得できないかな?)


「納得したいのはやまやまだが……」


(君の妄想、すなわち無意識から生まれる君の別人格的アニマな存在と、僕自身である架空世界のアストランティアとしての集合想念とが結合して、今まさに爆誕ってのでどうかな?)


「よし、それでいい」


 半分以上良く分からなかったが、これが悪いことじゃないのには間違いない。


(じゃあ、改めて……行っちゃダメ、罠だよ。ダニエルは、その罠にかかったおバカさんだから)


「分かった。助かったよアストランティア、ありがとう」


「何ひとりでぶつくさ言うとるんやー?」

「逃げろ、ダニエル!」

「な、なんやと?」

「バーゲストを呼び戻せ!」


 ホブゴブリンが、脚に噛みついたバーゲストを青龍刀で切ろうとしている。しかし、バーゲストもそう簡単にはやらせない。


「バーゲスト、戻ってくるんや!」


 アーク・インプが火弾を一発お見舞いした隙に、バーゲストがダッシュで戻って来る。

 ダニエルも俺のところまでやってきた。


「こっちのシンがいるところで迎え撃つんだ」

「あー、それもそうやな。戻って立て直すのが正解や。森ン中だと、飛んでるシンも使いづらいわ。それに、このままムッキーまで突っ込んだら、ヴァレフォールに槍取られてたかもやしな」


「お前、何でそれ先に言わないんだ。青龍刀もヴァレフォールにパクられたのか!」


「それな、ヴァレフォールのスキルや。ムッキーが青龍刀取り返してくれるいうんが、ちょっと嬉しゅうなってな。ホンマにそうならええやろな~、ムッキーならできるかも知れんな~とか、ついつい思うてしもうたんや、スマンスマン」


 相変わらず口が達者だ。

 そう言われたら、怒る気もなくなってしまう。


 開けた庭園まで戻ると、カンビヨンはすべて制圧されていた。

 仮面はみな破壊され、白いドレスの幼女たちはぐったりと横たわっている。

 黒猫も眠らされており、オイリー・ジェリーが恐る恐る近づいて行っている。


「主さま、今追いかけようとしていたのですん」

「いや、この庭園で迎え撃つぞ」

「はいですの」

「承知ナリ」


 シンたちは再びヤドゥルとスネコスリを中心に、陣形を整える。


「みんな集まってや~、体制を整え直すで~」


 ダニエルのシンたちも集合し、迎撃体制を整える。


「ダニエル、サブウェポンとかないのか?」

「もちろんあるでー。けどまたヴァレフォールに奪われるかもしれんて、今は出さへん。ムッキーも槍は使わんようにして、シンの指揮に専念するとええで」


 しばらくすると、青龍刀を引っ提げたホブゴブリンが現れた。

 その肩にはレザーをインナーのように着こなして、その上にファンシー系の可愛いドレスを纏った少女が座っていた。


「あのクソ生意気そうな女子(おなご)がヴァレフォールや。気ぃつけいや」


 かなり上位の悪魔というのに、姿とのギャップが甚だしい。

 今どきは悪魔族にまで女体化の波が押し寄せているというのか?

 それとも中野の萌文化ならではの現象か?


「あんたが犬養睦樹ね。あたしの名はヴァレフォール、地獄の公爵にして十の軍団を指揮する大いなる魔神よ。ひれ伏すがいいわ!」


「国津神族第三位使徒、犬養睦樹だ。ひれ伏したりはしない」


 なぜ少女の格好か聞いたら怒るだろうか。それとも「よくぞ聞いてくれた」とか言って語りだしてくれたら面白いんだが。


「ふん、言霊(ことだま)の力にも充分抵抗できるみたいね」


 ん? 今のってすでに前哨戦?

 言霊の力とやらで屈服させようとしていたのか。


 さっぱり感じなかったけど、それって俺が強くなったのか。それとも、ともぞうさんのお陰なのか、いまいち分からない。


(君が強くなってるんだよ)

(おお、そうか、俺つえーOK)


 このツヨツヨな感じで押してくぞ……。


「済まないが、中野を取り返すことになった。どうか尋常に勝負してくれ」


「まったく、小憎ったらしいったらないわね。せっかくカンビヨンたちを勢子にして、待ち伏せしてたのに!」


 勢子ってのは、狩りのときの追い立て役だな。

 どうやら、森に追い込むのが作戦だったようだ。

 そこでこちらを待ち受けていたらしい。


 狭い道で待ち伏せすれば、少数でも戦いやすくなるのだろうが、カンビヨンが居ることですでに彼らの方が多数だ。

 挟み撃ちにしても、カンビヨンが現れた時点で森から出てくれば、充分に挟み撃ちにできた。


 となれば、何か森で彼らの有利になることがあったに違いない。

 それが何かを知ることで対策が取れるし、逆に相手の弱点を知ることにもつながるかもしれない。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします!


 ※ ※ ※ ※


決戦というには出花隼が足りない

劣勢を強いられる彼らに秘策はあるのか?


第15章14話は、令和6年11月23日公開予定!

金曜日はお休みして、土曜日に更新します!

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