13. 笑う! 泣く! 怒る!
― 前回のあらすじ ―
仮面を被った9人のカンビヨンに
包囲攻撃される睦樹とダニエル
中野ブロードウェイ隠世
屋上空中庭園の戦いが始まる
「何があった!?」
「これは笑い仮面の、笑い攻撃ですわね」
蜂の羽を震わせ、スノウドロップが顔前に飛んできて、優雅に姿勢を見せながら俺の問いに答えてくれた。いや、それってぜんぜん回答になってないだろ。
「それはよく分るんだけれど、ではどんな攻撃なんでしょう、スノウドロップさん?」
俺はとっても優し~く、レディーに失礼のないように問い直す。
すると、何を仰っているの、このニンゲン?
とでも言うようにちょっと首をひねり、それから馬鹿にでも分るように、詳しく説明してくれた。取り込み中なんだから、最初からそうしてくれ。
「カンビヨンは、その狂った笑い声を相手の心に響かせることで、自分たちと相手の精神を共鳴させているようですわ。それにより、彼女らの内なる狂気を感染させ、笑い声を聞いた者の心を引き裂く呪術ですのよ」
「カンビヨンはそんだけ狂ってるってか? じゃあ何故今、まともに行動してるんだ?」
「さあ? きっと狂ってるくらいが、ふつうだからでしょうね。それに強い暗示で命令が書かれれば、その通りの行動くらいはとれるでしょう」
「あれ? なら俺たちは……って、あ、そうか、ともぞうさん!」
そう、エルダー・ブラウニーのともぞうさんのパッシブスキルは、精神的攻撃からパーティーを守ってくれるのだった。
ともぞうさんのレベルはカンビヨンより高い。
レベルだけじゃ指針にならないかも知れないが、とにかく強力なのは間違いない。
ダニエルとそのシンたちは、俺たちと共闘しているものの、残念ながら同じ仲間とは見做されていない、ということのようだ。
振り向くと、今は髭もじゃになったともぞうさんが、サムズ・アップをしてくれた。俺も親指を立ててサインを返す。
ダニエルのシンでも、ジャイアント・トードのサマンサには、何故か笑い攻撃が効かないらしく、強烈な舌の一撃で笑う仮面の少女を吹き飛ばしていた。
「イヒヒヒヒヒ!」
そして恐ろしい声で笑っている。
蟇蛙の口角がすっごい上がるのも不気味だ。
そもそも雌の蛙はほとんど鳴かないはずなんだが、常ならずして声を上げるほど、なんか高揚しているようだ。
つまり狂ってる?
もしかして狂気の笑いが効き過ぎで、逆に絶好調とかだったら超怖い。
それを横目で見ながら、俺はパーティーの背後に現れた笑う仮面の少女めがけて走っていく。
「那美! どうか、繋がれ!」
念じると、俺の奥底で力が漲る。
短刀は紅蓮の炎を上げながら長大になり、魔槍と化した。
槍を振り下ろすと、[笑うカンビヨン]は後方に引っ張られるような、不自然な動きで跳んで逃げた。追撃し、着地したところで仮面を狙って突く。
パン! と良い音を立てて砕けた仮面の下から、愛らしい幼女の驚いた顔が現れた。
仮面が割れたら、さっきのスキルは使えなくなるといいが。
すかさずベトベトーズが短距離空間転移で跳んできて、尻もちを付いた幼女半魔のEPを吸いだした。
ハゲタカのようでちょっとエグいが、死ぬまでは吸いつくせないのだった。
ギリまでやれば、ダウンさせて無力化できるはずだ。
狗神がカンビヨンに迫ると、茂みから影のように黒猫が現れた。
出花隼のシン、ファントム・キャットの登場だ。
猫爪と狗神の小刀の激しい打ち合いが始まる。
そして今度は別のカンビヨンが、新たなスキルを発動した。
「「「ヒイアアアアアアアーーー!!!」」」
泣き叫ぶ声だ!
精神攻撃が効かなくても、聞くだけで気分が滅入る声。
ダニエルのシンたちを見ても、新たな状態異常になったようには見えない。
まだ笑いの狂気に囚われているようだ。
突っ伏したダニエルも「キシシシシ……」と、苦しそうに顔を歪めて笑っている。
三体の[泣くカンビニヨン]の叫びは、精神攻撃ではなかったのだ。
中空に次々と鋭い剣が現れると、それが頭上から襲い掛かってきた。
「ヤドゥル、自分たちを優先!」
「はいですん」
俺は叫んだあと、直線的に落ちてくる細剣を槍でさばく。
ヤドゥルたちの頭上には、魔法障壁が現れ剣を防いでいる。
しかしダニエルの陣営は狂気に囚われたまま、回避もままならない。シンもダニエルも、何本かの剣に貫かれ、笑いながら苦痛の叫びを上げている。
ベトベトーズを見ると、片方が反撃されていた。
仮面のないカンビニヨンにのしかかられて、EPを吸われているらしく、しぼんでいる。
しかし、背後からもう片方が相棒に補充しつつ、彼女からもEPを吸っている。
うーん、コメントしずらい状況だが、とりあえずダイジョブだろうと放置。
八郎丸は剣を躱しつつ、相変わらず黒猫と交戦中。
ダニエル陣営には、まずは自分で動いてもらわないとだ。
笑う仮面がスキルを与えているのなら、それを壊せば、その効果も切れないだろうか。
「ともぞうさん、プリンス、笑う仮面を狙って攻撃してくれ!」
「心得たのじゃ」
「分かったヨ」
「コロンバインちゃんは?」
「味方も敵も危ないやつが出ないか見張ってて!」
「わかったわ」
やることないから、注意しててってのを言い換えたら上手くいった。
「ブルーベルは眠らせられる?」
「なんか仮面があると効かないのだわさ」
「じゃあ、仮面取れたやつから眠らせて」
「あーい」
と、さっそく飛んで行って、ベトベトーズが苦戦している相手を眠らせた。
そして、再び直接頭に響く声!
「「「ふぬううううううううううううーー!」」」
「上に火の玉いっぱいよ!」
さっそくコロンバインが警報を告げてくれる。意外と役立つかも。
力んだポーズの[怒るカンビヨン]の攻撃は炎だった。
頭上にバレーボール大の炎の玉が現れ、五月雨式に次々と降ってくる。
夕焼け空にそれは美しく映えるが、見とれている場合じゃない!
すると突然、庭園に雹交じりの突風が吹き荒れた。
多くの火玉が火勢を弱められ、さらに軌道を逸らされて、奥の方に飛んでいった。
そのうちの一つが、[泣くカンビニヨン]に命中し、炎上。味方撃ちとなる。
凍結の風は、スノウドロップの氷結系術式だろう。
しかし、左右に分かれて落ちた火玉は、凍風を避けてそのまま目標を捉えた。
一発はサマンサ・トードの背で爆発するものの、大して応えていないようだ。こいつめちゃ強い?
もうひとつは猿インプを狙うが、狂気の中で苦しみながら撃った火弾術式が迎撃し、ひときわ大きな爆発を起こした。
俺はその間、怒る仮面と泣く仮面を一つずつかち割ると、その後ブルーベルが眠らせるコンビネーション・プレイで、パーティー後方の脅威を排除した。
プリンスとともぞうさんの働きにより、すべての笑い仮面が破壊された。
思ったとおり、ダニエル陣営は狂気の状態異常から回復した。
「おどりゃああああ!」
体に二本の悲しみの剣が刺さったままダニエルは起き上がり、近くにいた[怒るカンビヨン]に青龍刀で切りかかる。
一撃目の横薙ぎはしゃがんで躱され、二撃目の素早い切り上げは、例の引っ張られるような後方ジャンプで空振り。
三撃目の袈裟がけも、カンビヨンは大ジャンプして後方の樹木の間に逃れた。
ダニエルは自分とバーゲストの刺さった剣を抜いて、回復薬をぐい呑みするとバーゲストにも振りかけ、幼女を追って森に踏み入ろうとする。
「おい、ダニエル! 深追いは危険だ!」
「ワイに指図すな!」
どうやら怒り心頭で、聞く耳持たない様子。
そのままギネスと共に緑の中に消えていった。しかし……
「はうぁ!」
すぐに、ダニエルの間抜けな叫び声だ。
「ほら、言わんこっちゃない」
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
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やられっ放しのダニエルだが
作者としても、もう少し活躍して欲しい!
第15章14話は、令和6年11月21日公開予定!




