表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/246

13. 笑う! 泣く! 怒る!

― 前回のあらすじ ―


  仮面を被った9人のカンビヨンに

  包囲攻撃される睦樹とダニエル

  中野ブロードウェイ隠世

  屋上空中庭園の戦いが始まる


「何があった!?」

「これは笑い仮面の、笑い攻撃ですわね」


 蜂の羽を震わせ、スノウドロップが顔前に飛んできて、優雅に姿勢(ポーズ)を見せながら俺の問いに答えてくれた。いや、それってぜんぜん回答になってないだろ。


「それはよく分るんだけれど、ではどんな攻撃なんでしょう、スノウドロップさん?」


 俺はとっても優し~く、レディーに失礼のないように問い直す。


 すると、何を仰っているの、このニンゲン?

 とでも言うようにちょっと首をひねり、それから馬鹿にでも分るように、詳しく説明してくれた。取り込み中なんだから、最初からそうしてくれ。


「カンビヨンは、その狂った笑い声を相手の心に響かせることで、自分たちと相手の精神を共鳴させているようですわ。それにより、彼女らの内なる狂気を感染させ、笑い声を聞いた者の心を引き裂く呪術ですのよ」


「カンビヨンはそんだけ狂ってるってか? じゃあ何故今、まともに行動してるんだ?」


「さあ? きっと狂ってるくらいが、ふつうだからでしょうね。それに強い暗示で命令が書かれれば、その通りの行動くらいはとれるでしょう」


「あれ? なら俺たちは……って、あ、そうか、ともぞうさん!」


 そう、エルダー・ブラウニーのともぞうさんのパッシブスキルは、精神的攻撃からパーティーを守ってくれるのだった。


 ともぞうさんのレベルはカンビヨンより高い。

 レベルだけじゃ指針にならないかも知れないが、とにかく強力なのは間違いない。


 ダニエルとそのシンたちは、俺たちと共闘しているものの、残念ながら同じ仲間(パーティー)とは見做されていない、ということのようだ。


 振り向くと、今は髭もじゃになったともぞうさんが、サムズ・アップをしてくれた。俺も親指を立ててサインを返す。


 ダニエルのシンでも、ジャイアント・トードのサマンサには、何故か笑い攻撃が効かないらしく、強烈な舌の一撃で笑う仮面の少女を吹き飛ばしていた。


「イヒヒヒヒヒ!」


 そして恐ろしい声で笑っている。

 蟇蛙の口角がすっごい上がるのも不気味だ。


 そもそも雌の蛙はほとんど鳴かないはずなんだが、常ならずして声を上げるほど、なんか高揚しているようだ。


 つまり狂ってる?


 もしかして狂気の笑いが効き過ぎで、逆に絶好調とかだったら超怖い。


 それを横目で見ながら、俺はパーティーの背後に現れた笑う仮面の少女めがけて走っていく。


「那美! どうか、繋がれ!」


 念じると、俺の奥底で力が(みなぎ)る。

 短刀は紅蓮の炎を上げながら長大になり、魔槍と化した。


 槍を振り下ろすと、[笑うカンビヨン]は後方に引っ張られるような、不自然な動きで跳んで逃げた。追撃し、着地したところで仮面を狙って突く。


 パン! と良い音を立てて砕けた仮面の下から、愛らしい幼女の驚いた顔が現れた。

 仮面が割れたら、さっきのスキルは使えなくなるといいが。


 すかさずベトベトーズが短距離空間転移で跳んできて、尻もちを付いた幼女半魔のEPを吸いだした。

 ハゲタカのようでちょっとエグいが、死ぬまでは吸いつくせないのだった。

 ギリまでやれば、ダウンさせて無力化できるはずだ。


 狗神がカンビヨンに迫ると、茂みから影のように黒猫が現れた。

 出花隼のシン、ファントム・キャットの登場だ。

 猫爪と狗神の小刀の激しい打ち合いが始まる。


 そして今度は別のカンビヨンが、新たなスキルを発動した。


「「「ヒイアアアアアアアーーー!!!」」」


 泣き叫ぶ声だ!

 精神攻撃が効かなくても、聞くだけで気分が滅入る声。


 ダニエルのシンたちを見ても、新たな状態異常になったようには見えない。

 まだ笑いの狂気に囚われているようだ。


 突っ伏したダニエルも「キシシシシ……」と、苦しそうに顔を歪めて笑っている。


 三体の[泣くカンビニヨン]の叫びは、精神攻撃ではなかったのだ。

 中空に次々と鋭い剣が現れると、それが頭上から襲い掛かってきた。


「ヤドゥル、自分たちを優先!」

「はいですん」


 俺は叫んだあと、直線的に落ちてくる細剣を槍でさばく。

 ヤドゥルたちの頭上には、魔法障壁が現れ剣を防いでいる。


 しかしダニエルの陣営は狂気に囚われたまま、回避もままならない。シンもダニエルも、何本かの剣に貫かれ、笑いながら苦痛の叫びを上げている。


 ベトベトーズを見ると、片方が反撃されていた。

 仮面のないカンビニヨンにのしかかられて、EPを吸われているらしく、しぼんでいる。


 しかし、背後からもう片方が相棒に補充しつつ、彼女からもEPを吸っている。

 うーん、コメントしずらい状況だが、とりあえずダイジョブだろうと放置。


 八郎丸は剣を躱しつつ、相変わらず黒猫と交戦中。


 ダニエル陣営には、まずは自分で動いてもらわないとだ。

 笑う仮面がスキルを与えているのなら、それを壊せば、その効果も切れないだろうか。


「ともぞうさん、プリンス、笑う仮面を狙って攻撃してくれ!」

「心得たのじゃ」

「分かったヨ」


「コロンバインちゃんは?」

「味方も敵も危ないやつが出ないか見張ってて!」

「わかったわ」


 やることないから、注意しててってのを言い換えたら上手くいった。


「ブルーベルは眠らせられる?」

「なんか仮面があると効かないのだわさ」

「じゃあ、仮面取れたやつから眠らせて」

「あーい」


 と、さっそく飛んで行って、ベトベトーズが苦戦している相手を眠らせた。


 そして、再び直接頭に響く声!


「「「ふぬううううううううううううーー!」」」


「上に火の玉いっぱいよ!」


 さっそくコロンバインが警報を告げてくれる。意外と役立つかも。


 力んだポーズの[怒るカンビヨン]の攻撃は炎だった。

 頭上にバレーボール大の炎の玉が現れ、五月雨式に次々と降ってくる。


 夕焼け空にそれは美しく映えるが、見とれている場合じゃない!


 すると突然、庭園に(ひょう)交じりの突風が吹き荒れた。

 多くの火玉が火勢を弱められ、さらに軌道を逸らされて、奥の方に飛んでいった。


 そのうちの一つが、[泣くカンビニヨン]に命中し、炎上。味方(フレンドリー)撃ち(ファイヤー)となる。


 凍結の風は、スノウドロップの氷結系術式だろう。


 しかし、左右に分かれて落ちた火玉は、凍風を避けてそのまま目標を捉えた。


 一発はサマンサ・トードの背で爆発するものの、大して応えていないようだ。こいつめちゃ強い?


 もうひとつは猿インプを狙うが、狂気の中で苦しみながら撃った火弾術式が迎撃し、ひときわ大きな爆発を起こした。


 俺はその間、怒る仮面と泣く仮面を一つずつかち割ると、その後ブルーベルが眠らせるコンビネーション・プレイで、パーティー後方の脅威を排除した。


 プリンスとともぞうさんの働きにより、すべての笑い仮面が破壊された。

 思ったとおり、ダニエル陣営は狂気の状態異常から回復した。


「おどりゃああああ!」


 体に二本の悲しみの剣が刺さったままダニエルは起き上がり、近くにいた[怒るカンビヨン]に青龍刀で切りかかる。


 一撃目の横薙ぎはしゃがんで躱され、二撃目の素早い切り上げは、例の引っ張られるような後方ジャンプで空振り。

 三撃目の袈裟がけも、カンビヨンは大ジャンプして後方の樹木の間に逃れた。


 ダニエルは自分とバーゲストの刺さった剣を抜いて、回復薬をぐい呑みするとバーゲスト(ギネス)にも振りかけ、幼女を追って森に踏み入ろうとする。


「おい、ダニエル! 深追いは危険だ!」

「ワイに指図すな!」


 どうやら怒り心頭で、聞く耳持たない様子。

 そのままギネスと共に緑の中に消えていった。しかし……


「はうぁ!」


 すぐに、ダニエルの間抜けな叫び声だ。


「ほら、言わんこっちゃない」


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします!


 ※ ※ ※ ※


やられっ放しのダニエルだが

作者としても、もう少し活躍して欲しい!


第15章14話は、令和6年11月21日公開予定!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ダニエルちゃんの、ちょっと良いとこみてみたい♪ ってくらいにはやられっぱなしですなぁw それにしてもさすがは王。 ともぞうさん、強ぇ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ