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12. 仮面のカンビヨン

― 前回のあらすじ ―


  睦樹の嘘とダニエルの裏切りにキレまくる出花隼

  一方、二人は美しい黄昏の空中庭園に到着し

  作戦会議しながら進んでいく……

 俺たちは、ざっくりと陣形を組みながら、黄昏の空中庭園を奥へと慎重に歩を進めた。


出花隼(いでかじゅん)の陣容はどんなだ?」

「まず、出花の武器は盾や」


「盾が武器になんのか?」

「盾で戦うって戦士の常識やで」


「そうなのか?」

「シールドバッシュでぶっ叩いたり、エッジで突いたり薙ぎ払ったりするんや。シールドにスパイク付いてるのもあるで」


「それは剣あっての、サブウェポン的なやつだろ?」

「そやけど、戦士はそないにして盾使うもんなんや」


「じゃあ、なんでお前は盾持たないんだ?」

「青龍刀に盾なんて、スタイリッシュやないやろ」

「そうでもないと思うけどな?」

「ふう~ん……ならいっぺん試したろか」


(知識と意識がちぐはぐな奴だな)


「ほなかて青龍刀、片手で扱うのしんどいしなあ」

「ものは試しだろ。防具屋で試着で装備させてもらえばいいじゃないか?」

「そやな、試したろ……って、出花の話やねん」

「そうだった」


「出花のは普通の盾やないんや。対になっとるでっかい盾を両腕に付けて、盾の端っこがチェンソーみたいになってて相手を削るんや。えげつないで~」


 確かに防御しながら近接で攻撃できるのは、かなり凶悪だ。


「それと、シンは悪魔ヴァレフォールと、ファントム・キャットのビネガー・トムと、ホブゴブリンのセバスチャン以外は大したことあらへん」


「そうか。でも三体も強いのがいれば充分だろ? しかしなんだ、セバスチャンって?」

「身長2メートルくらいのでっかいゴブリンでな、出花が執事をさせてるからセバスチャンって名付けたんやと」


 日本人の「セバスチャン=執事」って概念はどうなんだ?

 一番有名なセバスはヨハン・セバスチャン・バッハだぞ? G線の上でバッハ先生に謝れ!


「まあ、こいつは肉体派やから、自分のピクシーでどうにでもできるやろ」

「そうだな……そのセバスのレベルがあんまり高くなくて、上手く効くといいけどな。レベルは幾つか分るか?」


「いや~、よう知らんわ」

「知らんのかー」


 元味方の陣営の戦力くらい、ちゃんと把握しとけよ。


「ビネガー・トムは黒猫で、こいつがめっぽう速い」

「会ったことある。うちは狗神が速いから、抑えられると思う」


「問題はやっぱヴァレフォールや。こいつと戦うには、まず武器を使わんこっちゃ」


「どういうことだ?」

「あいつは盗賊の悪魔や。武器持っとると、いつの間にか奪われとるんや」


「そんな……どうやって戦うんだ」

「まあ、魔法やな。うちにはスパムがおるで。そっちは、ブラウニーができたな?」

「ああ、ともぞうさんができる」


「そんなわけで~、ヴァレフォールには、遠距離から魔法ガンガンやって動かれへんようにしといて、出花をワイと自分でボコる。ええな?」

「わかった」


「ガキだからって、手ぇぬいたらあかんで」

「覚悟するよ」


「残りの出花のシンはザコやで、手の空いたうちらのシンで充分やれるやろ」


 ざっくりとはしていたが、そこそこ理にかなった作戦会議も終わり、俺達は幻想的な空中庭園を先へと進んだ。

 ダニエルが、思ったよりちゃんと作戦を考えていたのには驚かされた。


「主さま、お気をつけくださいですん」


 それほど進まない内に、ヤドゥルが何か感じ取り、コロンバインとジェリーが慌てて戻ってきた。


「あたしたち、囲まれてるわよ!」

「イッパイいるチュー!」


「ガキんちょめ、雑魚をかき集めよったな」

「おい、ほんとに雑魚なのか? こいつら」


 周囲の茂みの中から、それらは現れた。

 同じような白い仮面を被り、揃いの白いドレスを身につけた小さな女の子たちに、俺たちは囲まれていたのだ。


「こいつらやったか。隼の雑魚シンとは別枠や」

「強いのか?」

「どうやろ、まともに戦えるんかも分からへんわ」

「九体いるナリ」


 仮面は三種類。[笑う]、[泣く]、[怒る]の表情を、象徴的に象ったシンプルなものだ。

 仮面幼女たちは、ぎこちない動きで、囁きながら近寄ってくる。

 その囁きは、離れていても直接脳に響くものだった。


「「「……つぶす……みんなつぶす……おニィちゃんのために……みんな……みんなつぶす……」」」


 まったくもって、穏やかではない。

 そしてスマート・ノートでアナライズした彼女らの正体は、あのカンビヨンだった。


 ここの三階で倒した幼女半悪魔が、一気に九体も現れたのだ。

 しかも一様に不気味な白い仮面を被っている。


 俺のレベルが上がったせいか、以前より詳しくアナライズできた。


【名称:カンビヨン】

[固有名:ラフィン・ツバメ]

[レベル:6]

[神族:悪魔族]

[分類:下魔]

[種族:ハーフデビル]

[サキュバス、もしくはインキュバスと人の間の子]


 固有名が[ラフィン・ツバメ]になっているのは、アナライズかけたのが笑う(ラフィング)仮面を被っていたからだろう。

 他のは[クライン・ツバメ]に、[アングリー・ツバメ]だ。


(ツバメ?)


 それが彼女たちの共通の名前のようだ。

 幼女でツバメ……どっかで聞いたことがあるような……。

 ううむ、思い出せない。


「ツバメって名前、心当たりあるか?」

「ああ、出花が自分の妹の名前を付けとるんやで」

「極度のシスコン?」

「そやな、妹はちっさいころ殺されたらしいんや。可哀想なこっちゃ」

「え……?」


 ……それだ、思い出した……「燕ちゃん蹴殺犯(しゅうさつはん)」の獄中怪死事件!


 燕ちゃんが殺されたのは確か8年前。そして犯人の男が服役中に異常な死を遂げたのが2年前だったか。

 一時期ネットで話題になっていたあれだ。


 出花だ……そう、燕ちゃんは、出花燕だった!

 ということは、出花隼は、燕ちゃんの兄に間違いない!!

 半分都市伝説じゃないかと疑っていたけど、本当だったようだ。


 もしかして、男の不審死も、出花の魔術絡みか……?


「そんで出花は妹を復活させようと、カンビニヨンに燕ちゃんの魂を招魂する魔術を繰り返してたんや。まあ、今集まっとるのはその失敗作みたいなもんやで」

「ちょっと待て、それって業が深すぎてどうしたらいいんだ?」


「そんなもん、殺るか殺られるか、それだけや」


 仕方ない。毎度のことだが、覚悟を決めるしかないのか。

 だが、なるべく殺さないで無力化できたらしたい。


「あの仮面には何か意味があるのか?」

「ワイは知らんで~」

「仮面によって、何かスキルや特性をカンビニヨンに与えている、と思われますん。お気を付けくださいですの」


「てことは、[笑う]、[泣く]、[怒る]で、別々のスキルで攻撃してくるってことか!」

「はいですん」


 残念ながら、スキルまでアナライズは成功していなかった。

 スキルのコンビネーションがヤバいかも知れない。今どきの中学生なら、そうしたRPGの基本は抑えていそうだ。


「ごちゃごちゃ考えんと動きや! 足止まっとると、やられるで! ほな行くで、ギネス、スパム!」


「我らも参るナリ!」


 青龍刀を引っ提げたダニエルと伴走するバーゲストを、狗神が追い抜いていく。アーク・インプがそれを追う。


 攻撃方法不明な敵に、無闇に突っ込んで行ってダイジョブか?

 しかし、ダニエルが前に出るので、狗神を止めるのに一瞬躊躇してしまった。


 しかも、味方は背後も囲まれているんだ。

 俺が一緒に前に出るわけにはいかなかった。

 予想外の敵の出現に、先ほど立てた作戦もなし崩しだ。


「みんなはヤドゥルとスネコスリを中心に輪を作るんだ! プリンスとベトベトさんたちは外側で守れ!」


 俺はパーティーに一番接近して来ている、後方の[笑うカンビニヨン]を迎え撃つべく、踵を返した。

 その時脳内に、不快な声が響き渡った。


「「「アハハハハハハハハハハハ!!!」」」


 (やかま)しいことこの上ないが、それ以上俺の身に、何か起きることは無かった。しかし……


「ギャン!」

「うあああああ~~~!」


 突っ込んでいったバーゲストのギネスが一声叫んでひっくり返って泡を吹いて痙攣しだした。

 ダニエルもまた、耳を両手で塞いで膝を付き、叫んでいる。


 蝙蝠たちも、猿インプも飛翔が乱れ、相次いで地面に落ちていく。

 ジャイアント・トードのサマンサは、特に変化なし。

 シャドウは影の中に入っていて、どうなってるか分からない。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします!


 ※ ※ ※ ※


仮面のカンビヨンによる包囲

これが悪魔ヴァレフォールの罠なのか?


第15章13話は、令和6年11月20日公開予定!

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