6. 俺がそんなに金持ちのわけがない
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ隠世1階商店街
ダニエルを仲間にして中野攻略を進める
ピクシーたちのひと騒動があったが
商店街はすぐに日常を取り戻す
さて、やっと落ち着いて買い物ができる。
しかし、俺はジェムをどのくらい持っているのか?
超常の者を倒して手に入れるときも、ヤドゥルが管理しているからちゃんと把握していなかった。
「ヤドゥル、ちょっといいかい?」
「はいですん」
ダニエル張に聞かれないよう、顔を近づけて耳元で囁いた。
「現世での俺のお金、可愛い石ころになってるんだけど」
「現世でのお金は、価値が低いですの」
「だよな。それで、これまでジェムを少しは稼いだじゃないか、あれってどのくらいになるんだ?」
「主さまが倒した分は、8万1315ジェムですん! 始めてからの短期間としてはすごいですの」
「しーー! 声がでかい!」
良かった、ダニエルは他の商品を見ていて気づいていない。
俺自身としては、使徒成り立てを恥じる気はない。
ヤドゥルの言うように、ルーキーにしては頑張ってるんだと思う。
だがしかし、流石にそこまでド素人なのを、奴にだけは知られたくはなかった。ずっとネタにされて、何かにつけて言われるに違いない。
「生霊を倒したときが一番大きくて、6万1230ジェムもあったのですん」
ほとんどが売人倒したときのジェムじゃないか。
あれは運良く勝てたようなもんだからな。
かなり強かったから、まさに桁違いってことか。
これだけあれば、もしかしてちょっとした装備も買えるかもしれない。
「そういやジェムって、お金以外に何かに使えるんだっけ?」
「詳しい事は知らないのですん。たしか錬金術で使えるエネルギーになりますの」
「錬金術ね…――」
しばらく関係はなさそうだ。
「8万1315が全財産か、何が買えるかなあ……」
「違いますん」
「え? 違うの?」
「今の財産は、155万9642ジェムですん」
「ええ??!!」
思わずでかい声を出してしまった。
トンデモ無い額が出てきて、俺は一瞬頭真っ白になった。
この世界の貨幣というかジェム価値がどのくらいかは分からないが、けっこうすごい額に違いない。
ちらとダニエルを見ると、俺と目が合うが、ニカッと爽やかに笑いサムズアップすると、カワイイ猫耳店員さんとの会話に戻った。
「何やらトラブったらしいけどドンマイ」とでもいう感じだ。
俺は声を抑えて聞いた。
(どうして、そんなにあるんだい?)
(相馬吾朗さまの財産を、引き継いでいるのですん)
装備は槍以外引き継げなかったが、ジェムはヤドゥルが管理していたからだろうか?
(槍は引き継げたのに、防具は何で引き継げなかったんだ?)
(なぜか槍は宿得の手にあったのですん)
「な~にさっきから、ひそひそ話ししてん?」
「な、何でもない。何を買おうか相談してただけだ」
「そやそや主さま~ん。さっきの情報代の替わりに、回復薬5個買うてんか~」
「そんな誰でも知ってる情報に高すぎですん!」
「幾らだ?」
「5個でたったの1000ジェムやで」
「いいだろう」
俺はさっきダニエルが話していた、獣耳の紫系ゴスロリ店員さんに声をかけた。
「回復薬10個ください。半分はこいつにやって」
「主さま~~~」
遺産が150万もあるんだ。買うたる、買うたる。
こんくらいなんぼのもんじゃい!
回復薬は筒状カプセルで、呑ませなくても振りかけるだけで効くそうだ。
「支払い頼むよヤドゥル」
「もう~~しょうがないですの……はい、2000ジェムちょうどですん」
「はい、ありがとうございまっす~ん」
ヤドゥルは懐から巾着のようなものを袖から取り出し、キラキラ光る青く小さな石、ジェムを2個、膝をかがめた紫のゴスロリお姉さんに手渡した。
彼女の手はふつうの人の手とほぼ同じだが、指先だけ猫のように爪の出し入れができるように見える。
もっとよく見てみたいが、あんまりジロジロ見ると、やっぱり失礼なんだろう。
「えええ? なんじゃそりゃあ~~?!」
ダニエルがいきなりテンション爆上げで、驚きを表現する奇妙なポーズをとった。
ジョジョ立ちの元祖、いにしえの伝説の決めポーズ、「シェー」に良く似ている。
いや、ほぼほぼ「シェー」だ。上手いもんだダニエル、出っ歯だったら完璧だぞ。
「なんでシンが財布もっとんのや?」
そんなに顔寄せんなダニエル、うっとうしい!
俺はダニエルの顔を片手で押しのけてから、冷静に反応した。
「いや、こいつシンじゃないから」
「宿得は案内人ですん」
「ええええ? いったい何やのん? 超常の者やない上にシンでもなくてパイロット? しかも金払うてくれて? 犬養くんどんだけ特別待遇なん?」
「え、そうかな?」
「あー、なんか真面目に使徒やっとんの、馬鹿らしゅうなってきたわ」
「そこまでのことか?」
「ほんま差別や。あー、現世以上の人種差別や」
ダニエルは、大げさな嘆きのジェスチャーで空を仰ぐ。
「人種関係無いだろ。だいたい人種って言ったら俺とお前は同じ黄色人種だ」
「え? そうなん?」
「基本常識だ」
「だって日本人、俺たちのこと差別しとるやん」
「してねえよ。中国人も香港人も」
ごく一部にそうした奴はいるけど、日本人の大多数にそんな気持ちはない。
だけど、そのとき俺は、あの殺テロ狩りを思い出していた。
差別というより、対立が確実に生じ始めているのは事実だ。
対立がさらに広がれば、それは根深い差別を生むようになるだろう。
だが、まだそこまでは行っていないと信じたい。
「それに正確に言うなら民族差別だしな」
「ああん、そうなんか? でもええなあ、自分も嬢ちゃんみたいなお財布欲しいわ」
「宿得ですん」
「何でこないな子ぉ持てたん自分?」
「気がついたら、パソコンのモニターの横に置いてあった」
「何それ、ずるくね?」
「きっとお前は現世で見つけても、気がつかなかったんだよ」
「えー、そうなん? マジで? オレ様としたことが、何か見落としてもうたか~?」
そうは振ってみたものの、たぶんそれは無いだろう。
何故ならヤドゥルはもっと特別な何かのような気がするからだ。
この幼女傀儡の正体を知ることも、きっと大きな謎を解く鍵になる気がするんだが……
「あ、そう言えばお前、俺にシンを一体寄越すんじゃ無かったのか?」
「あーあれな。あれは無しや、ノーカンや」
「無しぃ?」
「相手のEPギリまで削ってダウンさせんと、ほんまもんの勝利にはならんで」
別にどうしてもシンが欲しい訳じゃないが、こいつの言い草が気に入らない。
「そうなのか、ヤドゥル?」
「そんな決まりはありませんが、大概はそうですん。でも、負けを宣言した時点で、ダニエル張の負け。主さまの勝利ですん」
「やっぱお前の負けじゃないか」
「ちゃうちゃう、あれはちょっとした小手調べや。ご挨拶みたいなもんやで。それにもう、うちら仲間やろ。仲間でシンの奪い合いは無しや」
「仲間になる前の分ですん」
「負けを認めると同時に仲間になったんや。仲間にならなかったら、オレはとっととシンを戻して逃げとるわ。わかったなヤドルちゃん?」
「宿得ですの!」
もう面倒になってきた。こいつに何か誠意ある態度を期待した、俺が間違っていた。
「わかった、もういいよ」
「主さま~~」
「ほら、仲間思いのムッキーちゃんは、物わかりええで」
こいつ、俺の幼少の砌の渾名を当てやがった。
クソ気持ち悪いが、ここはスルーしとこう。
「もう面倒になっただけだ」
物わかりイイ人というレッテルは、こいつにとって都合のイイヤツってことじゃないか。
どっかでビシッと言ってやらなきゃだめなんだろうけど、苦手だし面倒くさい。
「ううー……主さま人が良すぎですんー」
ヤドゥル、お前までそう言うなって。
「そやそや、自分TReEとかやっとるん?」
「ああ、やってるけど」
「そんじゃID交換せえへん?」
「なんで?」
「現世でも連絡取り合えるで。いろいろ情報交換できるやろ」
現世での使徒同士の情報交換は、意味があるかも知れないな。
那美の情報を手に入れる機会を少しでも増やしたい。
「分かったよ、俺のIDは過浪レフターだ」
「けったいな名やなあ、自分は世界のダニエルや。よろしゅうな」
俺たちは、不思議ノートと化したスマホを出し合って、IDを交換した。
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いきなりお金持ちになった睦樹
何でも爆買いし放題だ!
第15章7話は、令和6年11月13日公開予定!




