5. 消える魔法
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ隠世1階
やっと商店街にやってきた睦樹である
一階の商店街はそこからすぐだった。
「ギネス、スパム、スニーキー、サマンサ、ニッチモ、サッチモ、みんなーおつかれさん。あっちに戻っといてーな」
入口のゲートのところで、ダニエルがシンたちを戻した。
シンたちはエーテル残滓の光を残して消えていった。
そうか、ショップではシンを戻すのがマナーだったな。
みんな名前付けて呼んでたが、超常の者の名前も気になる。後で召喚したときにアナライズさせてもらろう。
ギネスが黒犬、スパムが猿インプ、スニーキーがあの真黒いので、ニッチモ、サッチモが大蝙蝠の二体だと思うので、するとサマンサが蝦蟇かよ。メス蛙だったのか、サマンサ。
うちのプリンスと番いとか、ならないよな。
だいたいうちの子は王子様だし、身分が違うし、そもそも種族が違うと思う。
もしかしてあっちも王女様だったりすると釣り合うのか?
角が生えてたから、鬼娘とかかもしれないな。
西洋だとオーガか。
でもオーガに角あるの、日本だけの設定だったりするしな。
オーガの王女様だったら、巨乳のナイスバディ確定だ。
ガチムチ筋肉ゴリラだったら笑……などと、脱線していると……。
「主さま、シンを戻さないとですん」
おっと、分かってることを指摘されてしまって、ちょっと悔しい。
「そうだったな、ヤドゥル。ぼけらっと考え事してたよ」
俺は背後を振り返り、シンたちに命じる。
「狗神八郎丸、オイリー・ジェリー、ベトベトさんたち、プリンス・クロウリー、ともぞうさん、スネコスリ、みんな戻ってくれ」
シンたちはそれぞれ応じながら、常世に戻っていく。
再召喚には、超常の者のレベルに応じてAPを消費するのを[思い出す]が、それはしょうがない。
俺は残ったピクシー三人を目に焼き付ける。
うむ、美しい。また後で会おう、美の化身たちよ!
「さあ、スノウドロップ、コロンバイン、ブルーベルも……」
「マスター待って、コロンバインちゃんはお店見てみたい!」
「あーしも、コロンバインがみんなを引っ掻き回すのを、ぜったい見たいのよさ」
ぜったいダメだろ、それ!
「残念だけど、隠世人のお店には超常の者は入れないんだよ」
「じゃあ、姿消す魔法で入るわ」
「姿消す魔法って、お前のステイタス画面見たけど、そんなの無かったぞ」
「無ければ作ればいいのよ。さあ、姿を消すわ! インビジブル・シェイド!」
なんかキラキラしたアストラル・エフェクトがコロンバインに降り注いだが、姿は消えない。
「消えてないぞ」
「マスターや同じシン仲間には見えるのよ」
「コロンバイン、あーしにもかけてよのさ」
「よくってよ、ブルーベル。インビジブル・シェイド!」
同じようにブルーベルにキラキラが掛かる。
相変わらず姿は見えているが。
「お姉さまにも掛けますわ。インビジブル・シェイド!」
「あら、ありがとうコロンバイン」
「さあ、参りましょう、お姉さま」
俺にはアストラルドットをまき散らしながら、ピクシーたちが舞うように商店街を飛んでいるように見える。
だが、隠世人たちはそれに気付いていないようだ。
ちゃんと姿が消えてるってことだ。
それにしても、無ければ魔法を作るって、どういうチートだ?
「おやぁ? 嬢ちゃんは付いてくるんかい?」
ダニエルが、ヤドゥルが堂々と俺に付いてくるのを見て尋ねる。
「ヤドゥルは特別なんだよ。超常の者じゃないんだ」
「隠世人はシンにしたりできへんのに、ありかいな? まあ、店員さんに何も言われなきゃええけどな」
ダニエルはヤドゥルを隠世人と勘違いの上乗せをしたようだ。まあ、ほっとこう。そして彼もピクシーたちには気付いていないようだ。――ってことは、奴はコロンバインに仲間と思われてないってことかい?
「お姉さま、これ可愛い! ビクビクした石があるわ!」
「ちょいと、このナイフってば呪われ方エグいのよさ。コロンバイン触ってみな」
「触るわけないでしょ!」
「二人とも、あまり騒いではいけませんよ」
声も聞こえてないのか?
ピクシーたちは、一応邪魔にならないようにか、上の方から商品を覗き込んで騒いでいる。にしてもビクビクした石って何だ? こっちは胸がドキドキだわ。
何かやらかさなきゃいいが。
商店街は通路に沿って店が並ぶ、中野ブロードウェイと同じ様子だ。
しかし、店の作りや雰囲気がぜんぜん違う。
全体的にゴシック趣味で、デコラティブな装飾を施された店が多い。
店員たちの服装も、それぞれの店の雰囲気に合わせて、ゴスロリだったり、ちょっと悪っぽかったりだ。
こうした店員さんたちは、もとから隠世の住人で、隠世人と呼ばれている。
「この商店街は以前はもっと落ち着いた和風だったのですん。今は悪魔に支配されているので、こんなケバい悪趣味な感じなのですの」
「なるほどね、でもこれはこれで悪くないかも……」
「主さま~」
「あ、そうだね、国津の落ち着いた店の方が断然良かったよ」
俺はかつての和風の店の佇まいを、吾朗の記憶から思い出していた。
初めて見るのに懐かしさを感じさせる、美しい町並みだった。
街を奪われるというのは、こういうことか。
良いものが失われるというのは、とても心が痛むものなのだ。
ヤドゥルはまだ不機嫌そうに、ほっぺたを膨らませている。
俺に幼女趣味は無いというのは、繰り返し主張したいが、それでも可愛いものは可愛いぞ。
俺はヤドゥルの背丈まで屈んで、頭を撫ぜてやった。
「いっしょに中野を取り戻そうな」
珍しく俺は、自然にニッコリと笑えていた気がする。
うん、ダイジョブだ。ほっぺ引きつってない……たぶん。
「むぅ~~主さま、真剣味が足りませんの」
「うん、頑張るよ。でもちょっとまだ自信ないんだよなー」
「主さまなら、大丈夫なのですん」
「そう……かな。まあ、ほんとは装備を強化したいんだけど……」
店にはいろいろな装備が売られている。
今の防具と比べて、売られているのが良いのか悪いのか分からない。
ゲームなら数値をすぐにチェックできるんだが、どうしたらいい?
店員に聞いてみればいいだろうけど……そういうの苦手だが、やるしかないか。
その時、黄色い悲鳴が聞こえた。
「キャア! ピクシー、ピクシーよ!」
「キャハハハハ!」
「お姉さま~~!」
どういうわけだ?
彼女たちは、見えなくなってたんじゃないのか? 術が一定時間で解けるやつなのか?!
女性店員が慌てて何かをひっくり返したらしく、大きな音がして騒動になっている。
「殺虫剤撒け!」
効くのか、殺虫剤?
「おい、自分とこのピクシーやらかしとるで」
「わかってる」
だが、ここはぜひとも他人の振りをしたい。
「ピクシーがそっち行ったぞ!」
「叩き落せ!」
なんか、かなり濃くて白い煙が上がった。これが殺虫剤か?
「ケホケホ、コロンバイン、大丈夫ですか?」
いかん、これは風魔法がくると思った途端、白い煙が一気に四方に広がった。
突風が白い霧を運んでくる。商店街は大混乱だ!
「キャハハハハ!」
「付いてきなさい!」
ピクシーたちは、スノウドロップに率いられ、煙を撹拌しながら商店街の外に出て行った。
俺もそれを追いかけた。
「コロンバイン! 魔法のタイムリミットか?」
「違うけど……?」
「じゃあどうして?」
「気持ちだけでも消えてれば、あんまり見えないのよ」
「え? てことは?」
「自分が見えていないと信じることで、妖精は相手に認識されずらくなりますのよ」
自己暗示かよ。
「注目集め過ぎると、バレちゃうのだわさ」
「それじゃあ、魔法を作ったってのは嘘か」
「嘘じゃないもん」
「まあ、魔法みたいなものだわさ」
「まったくお前たちときたら……」
「宿得が言ったとおりなのですん。邪悪な妖精は信じちゃいけないですの」
追いついてきたヤドゥルが、腕を組んで俺を睨んでいる。
しでかしたピクシーより、それを信じた俺が悪いってことか。
まあ、そうだろう。
「あーおもしろかった!」
「そうか、良かったなコロンバイン。ならもういいな、ちゃんと帰るんだ。スノウドロップ、コロンバイン、ブルーベル」
「それではお暇しますわ、マスター」
「じゃあねー」
「キャハハ! またなのよさ!」
俺たちが店に戻ると、騒動は収まり、白い煙もだいぶうっすらとなっていた。
「ピクシーちゅうのはああいうもんやさかい、気ぃつけんとあかんで」
「ああ、肝に銘じるよ」
隠世人たちも落ち着き、ふつうに商売が始まる。
人間の客は、俺たちだけのようだ。
あとは隠世人の冒険者風の人たちが、いろいろ買い込んだり、売りに来たりしている。
使徒とは別に、超常の者を狩って生活している人々の存在を思い出す。
彼らは、倒した超常の者の肉体から得た、部位アイテムを売っている。
そう、エーテルの気化を止め、部分的に残す技術を持っているのだ。
そうしたハンターの姿は、新宿のイメージで見たように、さまざまな姿をしているが、獣人の系統が多いようだ。
獣耳モフモフ系もいれば、リザードマン系も多い。
エルフのような姿の人もいるが、エルフはゴブリンのように超常の者ではないのだろうか?
それとも、超常の者のエルフは別に存在するってことか?
とはいえここのエルフは、それほど美しくない。
大きな目はアーモンド型でつり上がっており、ほとんどが黒目なのでちょっと怖い。
逆に鼻と口がすごく小さい。
顔色も薄いオリーブ色で、ダークエルフか? と思えるよう雰囲気だ。
耳も日本のアニメ設定で多い水平ではなく、上に伸びるタイプだ。
体は華奢で、手指も長く、すごく繊細そうではある。
「ヤドゥル、あれは妖精のエルフじゃないのかい?」
「違うのですん。あの人たちは隠世人で、超常の者ではありませんの」
「じゃあ、その種族は?」
「宿得は、隠世人についてあまり知らないのですん。ごめ……いえ、何でもないですの」
「アナライズかけてもダイジョブかな?」
「すごく失礼に当たるので、隠世人の了解を得なくてはだめですん」
そうだよな。もし現世にプライベート情報が撮影できるスマホがあったら、向けただけでガチで警戒されるだろう。
使徒はここでは異邦人として、彼らとは一定の距離を保っているのだった。
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ピクシーとはそうしたもの。
騒動のお陰でできなかったけど、次回は必ず買い物!
ぜったい買い物するぞ編です!
第15章6話は、令和6年11月12日公開予定!




