3. 刀槍交わる
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ隠世1階
目的の商店街を眼の前にして
ついにダニエル張との戦いが始まる!
ダニエルの青龍刀が動くのと同時に、ヤドゥルの魔法障壁が現れた!
打ち下ろされる青竜刀の刃を、八角形の青い魔法陣がしっかり受け止める。
グッジョブ!
この辺の華麗なコンビネーション・プレイは、お互い阿吽の呼吸で出来るようになってきた。
一瞬後、障壁は音を立てて砕けたが、剣は弾かれて完全に動きが止まっている。
その隙にオレンジ色の炎が閃いた。
俺は大きくなった魔槍を、コンパクトな動きで突き出す。
ザンッ、と手応えあり!
居合い抜きと同じように敵に間合いを錯覚させる、俺ならではの槍技、「幻槍推呼伝」爆誕の瞬間だ。
「ひ、卑怯やでそんなー、ナイフがいきなり大きゅうなるなんて!」
「もともとこういう武器なんだ。悪く思うなよ」
ダメージを受けて飛び退いた張のレザースーツは腹を切り裂かれ、血がにじんでいた。
人を斬るのはやはり良い気持ちはしない。
敵もそう思ってくれればいいが、たぶん違うんだろう。
「早よぅ行かんか、ギネス! スパム!」
敵の中で一番強そうな使い魔二体、黒く大きな犬と猿顔のインプが飛びかかってきた。
犬は大人の人間よりでかい。
インプもふつうのやつの倍、小六の子供くらいの大きさで、太っているので迫力がある。
「八郎丸! ブルーベル!」
通路は天井の高さが知れているので、飛んでいても狗神のジャンプで充分に届く。
インプが飛びながら術式を手でこねるのに対して、素早く小太刀で斬りつける。
術式を邪魔されて、爪で応酬するも、逆に返す刀で腕を切られて悲鳴を上げながら後退。
「いまだスニーキー!」
降下する狗神に対して、いきなりインプの影から真黒いものが飛び上がり、攻撃を加えた。
体に比して長く大きな爪を持った小さな怪物で、もの凄い速さでその爪を振り回すように攻撃を仕掛けてくる。
狗神は一撃を背中に食らうが、即反転。落ちながら攻撃を小太刀で弾く。
着地すると、その反動を活かして突進。
猛烈な速さの攻撃で、大爪の怪物を押しまくる。
一方、禍々しい唸り声を上げて跳躍する黒犬を、ブルーベルはひらりと空中で躱した。
「お~ね~むちゃ~~~ん」
ブルーベルが青い鈴を鳴らし、催眠術式が発動。
着地して向き直ると同時に、黒犬は眠りに落ちてコロリと倒れた。
「良くやったブルーベル! その黒いのもやっちまえ!」
「させへんで!」
「こっちもな!」
ダニエルがブルーベルを横から切りに行こうとするのを、俺が槍で受け止めた。
そのままつば競り合いとなる。
チャラ男に見えて、膂力は俺と互角だ。
まあ、俺も基礎筋力は言えたことではないが。
後方に下がったインプが、火炎術式を放つが、エルダー・ブラウニーのともぞうさんが、フェアリー・ボルトを撃って相殺させる。
スノウドロップのハッピーホワイトの光がインプを照らすと、猿顔をニヤけさせて、フラフラと下に降りて横になってしまった。
俺と押し合っていたダニエルは、すっと退いて体を離すと同時に、引き技で青龍刀を下から切り上げる。
俺は余裕で躱して、逆に槍を繰り出す。
穂先が奴の肩を切り裂く。
長柄武器のリーチ差が、ちょっとした攻防で有利だ。
ダニエルは反撃に出られず、一旦退く。
その間に真黒いのもブルーベルの術式で眠らされてしまい、フリーになった狗神はダニエルの後ろに回り込んだ。
ダニエル張の他の使い魔、角のある大蝦蟇と大蝙蝠は、こちらのプリンス・クロウリーとオイリー・ジェリー、さらにベトベトーズと牽制しあっており、本格的戦いに入っていない。
コロンバインはスノウドロップを称えている。
少しは働け。
スネキチは待機。うん、こいつはこれでイイ。
ダニエルは青龍刀を振り回しながら回転して、後ろからの攻撃に素早く対応し、狗神ごと弾き飛ばした。
俺が突く槍も回転で戻りながら上手くいなすが、背後の狗神を警戒して、そのまま反撃には出られない。
俺もすぐ槍を引いて次を入れるが、それを避けつつ戻ってきた狗神の鋭い一撃を横に弾いた。
ここまで前後からの攻撃に対処するのは、敵ながら見事な動きだ。
しかし、そこまでだった。
今度は背後から迫る俺の薙ぎ払いを避けきれない。
倒れるようにして青竜刀で弾くが、不充分だ。
斜めに入った穂先が腿を切り裂いた。
倒れながら回転して逃れ、立ち上がったところに、俺と狗神が挟み込んで追撃を掛けようとする。
「ちょい待ちぃや!」
青龍刀を右手で上に掲げ、左手も上げて、こちらの動きを制しようとする。
「何を今さら」
「戦闘やめ!! やめー!!」
奴の行動可能なシンたちがすっと退く。
仕方ない。
俺も警戒しながら、皆に命じる。
「みんな待機しろ」
「我らが主よ、聞く必要はあらざるナリ」
「下衆は生かしてはおかないのですん、主さま」
「いいから、みんな止まれ」
「参った参った~。ワイの負けや。なんや犬養くん、けっこうやるやないか~」
青竜刀を背中に収めながら、ぬけぬけと言う。
正直拍子抜けもいいところだ。
「自分見かけによらず強いわ~。オレ様がちょいと油断したのもあるけどな。そんでも負け認めるでー。それどころか、自分の力になったるわ」
「は?」
「だから、自分の力になる言うてんねん」
「え? ……どういうことだ?」
「オレ様と組もうってことや。使徒が二人揃たら強いでー」
「主さまは、お前のようなうろんな輩は近づけませんの」
「まー、そう言いな嬢ちゃん」
「じょ、嬢ちゃん?」
「そやで~嬢ちゃん、自分らこの館のロードのヴァレフォールとルーラーの出花隼を倒したいんやろ?」
「もちろん悪魔族から中野を奪還したいのですん!」
アチャ~、ヤドゥルさん、こっちの意図は誤魔化してきたのに、カミングアウトですか、そうですか。
でもまだ、個人の感想ですって言って、誤魔化しきれるのか……!?
「ちゅうわけや、主さま? ごっつ可愛いヤドルちゃんの悲願、叶える気でおるんやろ?」
「いや……それは……さすがに……」
「我らが主よ、どうか我らが悲願を成就させたまえナリ」
「狗神ちゃん、オレ様の協力がなきゃ悲願成就はできへんで~」
「我らが主は天下無双ナリ!」
「ヤドルちゃんに、ワンちゃんよぉ、君たちヴァレフォールの強さ知っとるの? 知らんやろ? ワイは知っとるで。あいつごっつ強いんやでー。しかも出花との相性抜群や。一緒に来られたらぜったいに無理や」
「主さまはもっとお強いので、下郎の心配には及ばないのですん」
「嬢ちゃんヴァレフォールに遭うたことあんの? 無いやろ? 自分ら想像でもの言うとるちゃうか?」
「ない……ですの」
「グウウ……」
「ワイは遭うたことあるで。あれはソロモン王の七二柱の魔神でむちゃくちゃ強いんやで。しかもスキルがえげつない。ワイが仲間になるっての断って、もし負けたら嬢ちゃんとワンちゃんの責任やで」
「主さま~~、ここはビシッと言ってくださいの~~」
いや、ヤドゥル、俺はお前に言いたい。
なんでヴァレフォール&出花討伐を前提で話を進めてるんだ?
それ、敵に言っちゃだめだろ。
だがしかし、今それを嘘を吐いてまでして否定をして、二人が混乱して話が余計ややこしくなるのは勘弁して欲しい。
(ええい! もうなるようになれ!)
「そうだよ。俺達は、中野を奪還することに決めたんだ」
「そやろ? はなからそう言うてくれりゃええんよ。こっから話は早いで。一緒に出花しばいたろやないの」
ダニエルの真意はどこだ?
俺を罠にハメて、出花の眼の前まで来たら裏切るとかか?
それは充分あり得るだろう。そうなったら負けは確実だ。
それにこいつは悪魔の使徒と自ら名乗ってる。
ガチで意味が分からん。
「お前って、悪魔使徒じゃないか? ……寝返るのか?」
「あー、悪魔使徒同士の潰し合いは良くあることやでー」
「主さま、悪魔族同士が足を引っ張り合うのはその通りですの。でも、こやつは信用できないのですん」
「グルルルル……」
「まあまあ、嬢ちゃんもワンちゃんも聞いたってーな。あの出花のガキにゃあ、ワイももう我慢ならんのや。ほんま偉そうに指図しよって、人のことをガチで見下しとるんや。
こっちは闇の女帝様に頼まれて、しゃあないからサポートしてやってるだけやのに。まるでオレ様のことを手下扱いや。あーゆー勘違いしたガキには、お灸すえんとあかん」
こいつの言うのも、一応は判る。
出花のあの態度には、確かにムカつくだろう。
「じゃあ、出花を殺すつもりなのか?」
「半端はアカンし、お灸にもならん。殺す気でやらんと、こっちが殺されてまうがな」
まあ、殺したとしても、きっと出花は現世に戻れるだろう……と、思う。
「中野は国津神が、奪い返してもいいってことかい?」
「そやなあ、ワイに対しての報酬次第やな」
「報酬って……今、そんな金持ってないぞ」
「かまへんかまへん、出世払いや。出花潰して~、ジェムとシンを奪ったのを、貰えれば充分やで」
そういや、俺はダニエルとふつうに会話できてる。
こんなのは、対男性では久しぶりな感じがする。
「主さま、騙されちゃ駄目ですの」
「グルルル……悪魔族は信頼できぬナリ」
確かにちょっと話せたから、根拠のない仲間意識が芽生えていた。
「その通りや、悪魔族を信頼したら痛い目に遭うでー」
「自分で言うのか?」
「ニヒヒ、そやけどな、利害が一致したら、悪魔族は信頼できるパートナーになるんや。とはいえ、その場限りやけどもな」
なるほどな、そのあと裏切る前提で、今回はこっち側と考えればいいのか。
となれば、心強い味方になるかも知れない。
「分かった。ダニエル張、お前を仲間に迎え入れるよ」
「そんな……主さま……!」
「我らが主よ!」
「ほなよろしゅうな、主さま、嬢ちゃん!」
「ボクは宿得ですの!」
「はいはいヤドルちゃん」
「ヤドゥル!」
というわけで、俺は妙なヤツと行動を共にすることになった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
面白かったら、応援よろしくお願いします!
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こんなの仲間にして大丈夫かと作者も思う
しかし異物を容れることにより、新しきを知ることもまた真
第15章4話は、土曜日のお休みを挟み、令和6年11月10日公開予定!




