2. ダニエルの揺さぶり
― 前回のあらすじ ―
中野ブロードウェイ隠世1階で
ダニエル張の待ち伏せを受けた睦樹
そのマイペースぶりに調子を狂わされる
ダニエル張が、そのイケメン・マスクに薄ら笑いを浮かべ、身振りも大げさにこう宣った。
「だっさー、国津神かいな。どうせなら日本支配しとる天津神にしときゃあ、なんぼかマシやのになぁ」
「この三下風情が、二度と無駄口叩けぬようして差し上げるのですん」
「即刻成敗してくれるナリ、我らが主よ、ご裁可を」
「待つんだ、みんな……もうちょっとだけ」
いつもの人形系と犬系、沸点超低いのが早くも限界だ。
まあ、無理もないが、もう少し様子を探りたい。
我慢してくれ。
「ん? なんやそいつは? フツーのシンとちゃう感じやな」
ダニエル某は、我らがヤドゥルに目をつけたらしい。
まさかの幼女趣味じゃあるまいな?
「イヤ……その、ちょっと変わったやつだ。……気にするな」
「で、国津神族の自分、何しぃに来たん?」
「たまたまだ。たまたま通りかかったついでだ……。買い物でもしようと思って、ね……」
「たまたまの割に、狗神までしっかりシンにしとるやん? 中野潰す気満々ちゃうん?」
「そ、それなら一人で来ないだろ?」
まだ、ヴァレフォールと出花隼を討って、中野を解放する意図は知られたくない。「何しに来た」ってところに関しては、嘘ついてないしな。
「あぁー、それもそやなー。でもまあ、あのガキンチョがな~、ぶっ倒してこい言うてうるそうてうるそうて。ま、悪ぅ思わんといてや~」
「ガキンチョって、出花のことか?」
「そやそや、あいつ中野を任されたゆうて、そらもうえらいテンパってんねん。ちょっと他所ん使徒が入って来たゆうてもなぁ……そんなくらいで、なんぼのもんや~って、自分も思わへん?」
「ああ、そうだな……俺も戦うつもりはない…し」
「なんや、ヘタレやなあ、国津の使徒ちゃんは」
いちいち失礼な奴だ。もしかしたら、わざと怒らせようとしているのかも知れない。
だとしたら何故? 意図が分からないから、余計気をつけなければ。
「べつに、無駄な争いが嫌いなだけだ」
「無駄かどうかは、オレ様が決めることやで」
国籍不明の優男はそう言うと、酷薄そうに口の端を歪めた。
嫌な感じだ。
しかし、気を見てもまるで殺気が感じられない。
あれか、殺気を抑える修練とかしてるのか? ――たぶん違うだろう。
単にこいつは、やる気がないだけだ。
「ところでケルベロスっておったやろ? なんかその狗神さんが、上手いことやって、常世に還したそうやな?」
「あ……うん、あれは……ヤバかった。死ぬかと思った」
「自分、どうやってケルベロスなだめたん?」
「どうやってって……真剣に話し合っただけだ」
「話す?? 話し合う??? ケルベロスと???」
「変か? ケルベロスと話すのが……」
「勇気あんなぁ~自分。その喋りでケルベロスと話したんか? 信じられへんわ」
「超常の者の方が、人より話しやすい」
「そらえらい変わっとるわ、自分」
そうか、やっぱり俺は変わってたのか。自分では良くわからないからな。
「ところで、さっき触っとった武器、ちょっとだけ見してみぃ?」
「なんでだよ?」
「いいから、見せぇな。チラ見せだけでええから」
まあいいか、見せるだけなら。俺は短剣になっているトレジャーを毛皮の鞘から抜いて、眼の前に掲げた。
「なんや、武器は短剣かいなー。しょぼっ」
やっぱり、なんか怒らせようとしてるのか?
なんでだ?
「この無礼者め!」
ヤドゥルの髪の毛がぶわっと逆立つ。
そら、怒るよな、フツー。
狗神も小太刀を抜いて、唸っている。
「お前たち、こんなのに怒ってもしょうがないぞ」
ダニエルはそれを歯牙にもかけず、背中に背負った剣をゆっくりと引き抜いた。
あれはたぶん中華伝来の刀に違いない。
「青竜刀か。ってことはお前、中国人なのか?」
「ちゃうちゃう、一応ワイは香港人や」
と、指を顔の前で左右に振る。
「それって違うのか?」
「ぜんぜんちゃうで~、一緒にされたら香港人みなブチ切れるわ」
「でもなんで関西弁?」
「大阪の方で産まれたからや。いちいち細かいこと、気にせんでええって」
大阪産まれの香港人って何だ?
まあ、細かいことは気にしちゃいかんのか。
それが隠世のマナーっていうのならそうする。
確かに国籍と神族に関しては、人によってはいろいろ複雑なのかも知れない。
他人がとやかく言う筋合いにないのだろう。
「ちゅうわけでっーー! おっ楽しみ~、デュエルの時間やで~」
「え? 戦うのか?」
もしかして、俺の得物が弱そうだと確認したんで、戦い挑んできたってのか?
だとしたらセコ過ぎるぞダニエル。
「せやで~、出花にも頼まれとるし~勘弁な~。そんでもこの際やから、自分しばき倒して、シン一匹、きっちり頂戴させてもらおか~」
くそ、結局戦闘か……負けたくないが、俺の実力でどこまでやれるのか……。
でもそれを試してみたい自分がいる。
そうか、俺ってば実は戦闘狂?
イヤイヤイヤ、そうじゃない。
さっきからこのダニエルに、俺も頭にきてるんだ。
だからこいつをぶっ倒せたら、気持ちイイだろうなと思ってる。
それって、ヤツの術中にハマってるのか?
怒ると奴に何か有利な術が働くとか?
えい、余計なことは考えず、自分の実力を充分に発揮することに集中しなきゃだ。
そうか、たぶん怒りは俺と吾朗の共通の長所だと思える、シンへの指揮能力を低下させるんだ。
内面の感情にフォーカスが行って、自分で戦うのを頑張ってしまい、外に注意が向きにくくなる。
分かってみれば、単純なことだ。
いつものように、冷静に戦えば良い。
「その珍しい幼女シンがええかもナ。ま、悪ぅ思わんといてーなー」
「主さま、必ずブチ殺すのですん」
ヤドゥルはシンじゃないから、報奨の対象外だ。
でも、説明面倒だからほっとこう。
しかし、余計なことを言い出す妖精さんがここにいた。
「え~? 超絶カワイイこのコロンバインちゃんさまじゃないの~?」
「確かに~、君も可愛いやないの~~」
「でしょでしょ~~!」
「我らが主よ、かような下郎、我らのみにて返り討ちにしてくれるナリ」
「ダメだ、みんなで協力して勝つんだ八郎丸」
やはり、シンたちも怒るとコンビネーションより自分の戦い優先になりそうだ。
「八郎丸、冷静になるんだ。敵の術中にハマるぞ」
「ほないくで!!」
ダニエルは青龍刀を構えて、キメポーズらしきものを取っている。
超マイペースにこちらが合わせてばかりだ。
どこかで意表を突いてイニシアティブを握りたい。
その鍵が、俺の魔槍屠龍蜻蛉切だと思ってる。
「那美!」
小刀が大きくなる前に、青竜刀が上からブンッ!
とおっかない唸りを上げて振り下ろされた。
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※ ※ ※ ※
いよいよダニエル張との戦闘が始まった!!
勝敗の行方は……!?
第15章3話は、令和6年11月8日公開予定!




