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1. ゆるい待ち伏せ

― 前回のあらすじ ―


  ドリンキー+を呑んで、小さいおじさんが

  エルダー・ブラウニーへと覚醒!

  ヤドゥルが踊ってラブ・ドリンキーもゲット

  パーティーの気力は充実した

「コロンバンちゃんをどれだけ待たせるつもり? もし悪魔が襲ってきたらどうしてくれるのよ」


「すまんすまん、プリンスを運ぶのに手間取ったんだ」


 ようやく下り階段を見つけた俺たちは、一階に降りてきた。

 プリンス・クロウリーは例によってベトベトさんたちに運んでもらったのだけど、途中引っ掛かって時間を取られたのだ。


「でも、コロンバインはとっても素早いし、頭も冴えてるから、悪魔なんかには簡単にはやられないだろう?」


「まあ、コロンバンちゃんにかかれば、下魔の一匹や十匹は、なんてことないんだけどね!」


「オイリー・ジェリーも付いてたしな」

「こんなバッチいネズミ、むしろ足手まといだわ」

「きぃ……」

「ほら、ジェリーも寂しそうだぞ、少しは優しくしてやれよ」

「ふん、だ」

 ほぼ子供だ。


「やっと一階に着いたのですん」

「すりりー」

現世(うつしよ)では、今何時だろう?」

「宿得も、今は現世にとっかかりが無いので、分からないですの」

「そっか、まあしょうがない」


 もしライブに間に合わなくても諦めるしかない。

 これだけの体験を積んだんだ。

 当初の目的が達成できなくても良しとしよう。


 それに、これから買い物をして、ヴァレフォールを討つという、一大イベントが控えてるんだ。まず、間に合わないだろう。


「みんな揃ったな。じゃあ行くぞ」


 俺達パーティーも、そこそこの戦力となったようだ。

 三回続けてインプやら、シャドウやらの下級悪魔どもに遭遇したが、こちらはほぼノーダメージで蹂躙してしまった。


 相手が弱いのと、連携がまるで取れてなかったので、ほとんど俺と狗神の八郎丸だけで、片がついてしまった。

 弱った奴らをベトベトさんとプリンスで美味しく処理するという、実にえげつない勝ち方だった。


 楽勝すぎて、ピクシーたち補助系とのコンビネーション・バトルを試せなかったのが残念だ。

 新たにシンを得ることはできなかったが、商店を前にして、超常の者を倒して得られるジェムも少しは稼げた。


「このフロアに商店があるんだよな」

「はいですん」


 今の駆け出し状態では大したものは買えないだろうけど、回復薬とかあったはずだ。

 装備とかはチェックだけしておいて、欲しいものあれば購入を目指して頑張ればいい。


「確かこの二つ先の角を、左に曲がると商店街だな」

「主さま、だいぶ記憶がお戻りですの」

「そうだな、ヤドゥル」


 記憶というより、記録に近いのか。

 中野の商店というキーワードで、相馬吾朗の記憶を、夢見の俺が記録として引っ張り出せるのだ。


 俺、犬養睦樹は相馬吾朗の分霊(わけみたま)でもある。

 こうやって彼の記憶を共有していくことで、俺は相馬吾朗との同化を深化させていくのだろうか……。


「キキキ!」

 先行するオイリー・ジェリーが叫んだ。

 警告を発したと思ったら、ダッシュで戻って来る。


「シト! アブナイ!」

「おっと、お客さん~、えろう遅かったやないの」


 脇道からのっそりと現れたのは、どうやら人間だ。


「きゃ、ナニこの変なの!」


 さらに先に行っていたコロンバインは、現れた奴の背をガン見しながら、飛び越えて戻ってきた。

 飛び越えてからも振り向いてガン見してた。ほぼほぼ子供だ。


 その人間は歳の頃は二十歳前後、一見K-POPアイドル風の、(なま)(ちろ)いイケメンだった。


 髪の毛の七割くらいを金髪に染め、グレーと茶の二色のレザースーツで身を包んでいる。

 無駄に体中を締め付けている何本もの赤いベルトが目立ちまくるが、何の効果がある?

 それに首の周りを白いマフが包み、やけに温かそうだし。


 やっかいなことに、悪魔系と思われる使い魔たちを、数体従えていた。

 強そうなでかい黒犬と、大型で猿顔のインプっぽい蝙蝠(こうもり)(よく)の二体が、いかにもヤバそうだ。


 うちのプリンスと似た大蝦蟇(がま)も、のっそりと出てきたが、王冠を載せていないが小さな角がある。うちの子の方が強そうだ。

 他にはバタバタと大蝙蝠の化け物が二体飛んできて、天井に逆さになって留まった。


 今アナライズのような敵対行動はできない。


「グルルルルル……」


 黒犬が牙をむき出して唸る。

 ケルベロスほどではないが、ふつうの犬の大きさではない。

 攻撃力だけじゃなく、機動力を警戒しないと、後方が狙われたらヤバそうだ。


「お気をつけを、悪魔の使徒ですん」


 覚悟はしてたが、ついに敵対使徒との初遭遇だった。

 俺は腰の短刀の柄に手をやる。

 シンたちにも緊張が走っ――てなかった!

 ぜんぜん普段どおりだった。


 身構えているのは、俺と狗神とジェリーだけ。

 いいのか、お前たち。


「ファッションが致命的ですわね」

 とスノウドロップ。


「ダッサダサッ~」

 コロンバインも容赦ない。


「みんな見る目がないのよさ~? 痛々しいくらいに頑張ってて外してるのが、もう超カワヨイのだわさ~」

 ブルーベルがさらに深く(えぐ)る。


「あったかそうなマフじゃ」

 ともぞうさんは、ブラウニーになっても癒やし担当で、ほっこりくる。


 ヤドゥルは、無言で氷点下まで凍てついた視線を送っている。


「シンの躾がなってねえやんか。このダヌーのチビども、たいがいにせいや~」


「う……あの……」


 何か言い返したかったんだが、口ごもってしまう。

 忘れてたが、俺ってば人間はガチで苦手なんだった。


 超常の者にはふつうに話しかけられるのに、どうしたもんだか。


 那美のときは、さいしょ自分の夢だと思っていたから、そこそこは喋れたけど、これは隠世とはいえ現実だ。

 こんな威圧的な男性には、思わず引いてしまうポンコツだ。


(それでも、ガンバレ俺! ヒーローになるんだろ?)


 そのためには、こんな恥ずかしいセリフまで、脳内にスッと出てくるんだぜ!


 情け無いマスターの姿は、シンたちに見せたくない――特にコロンバンとブルーベルには。


 それに俺は隠世で強化されているはずだ。

 精神的にもタフになっているはず!


 イケメンだって、ただの人間だ!

 超常の者に比べたら、俺たち人間は、どんだけ等しく卑小なものか!

 だから、頑張ったマスターだけが、シンに認められるんだ。


「お、俺はシンにも……その……自由を……言論の自由を認めてるんだ」


 やった、言い返してやった!


「ダハハハハ、何やそれウケるで。シンの言論の自由なんて初めて聞いたわ」


 なんか、関西弁だとちょっと緊張感が薄れる。

 もしかして、ちょっとはふつうに喋れるかも知れない。


「……で、戦うのか?」

「まあまあ、慌てなさんな。慌てる乞食は貰いが少ないゆうて、日本の諺にもあるやろ?」

「話し合いをしたいのなら、お、俺はそれで構わない……ぞ」


 俺は短刀から手を離した。


「まずは自己紹介から始めなァカンて。人類共通のコミュニケーション事始めや。さあ、いくで」


 そう言うと、イケメンは何やらポーズを決めた。


「オレ様は悪魔の使徒やっとるダニエル(チャン)いうもんや。死んでも忘れんよう、よう覚えときー」


 左手を腰に、そして敬礼のように右手を上げて、手のひらを顔の前でひらひらさせている。

 視線はこちらに向けつつ、斜め下を見ている。


 これって、もしかしてもしかすると、カッコよかったり、耽美的な雰囲気を醸し出してるやつなのか?

 それとも、関西芸人のネタっぽいやつなのか?


 俺にはさっぱり理解できない。

 どうリアクションすればいい?


 チラと後ろを見ると、ブルーベルが笑いをこらえて痙攣している。

 そこまでか、ブルーフラッパー?

 じゃあ、俺が分からなくて正解ってことだな。


「自分名前は?」

「自分? ああ、名前ね、ダニエル張だろ。ちゃんと……覚えた」


 いったい何人(なにじん)なんだろう? 日本語がすごく上手い。しかも関西弁だ。


「ちゃうちゃう、ちゃうねん、自分ゆうたら、アンタのことや。大阪人の喋りぃ覚えとき~」


 そうなのか?

 大阪弁、日本語としておかしくないか?


「……分かりにくいな。俺は、犬養睦樹(いぬかいむつき)。国津神の使徒だ」


 どうもテンポが狂わされっぱなしだ。

 もちろんこっちはポーズなんかしてやらんが。そも、できんし。


みなさん、いつもお読みいただき、ありがとうございます!


面白かったら、ブックマークへの追加や、お気に入り登録、★での評価をどうぞよろしくお願いいたします。評価に直結し、本作品を未来の可能性へとつなげます。

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 ※ ※ ※ ※


いよいよダニエル張との戦いが始まる!……か?


第15章2話は、令和6年11月7日公開予定!

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― 新着の感想 ―
とうとうきましたね、ダニエルちゃん。 同じ関西人としてその辺も見逃せない戦いになりそう!
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