13. 水の領巾
これはさすがにヤバイ!
俺は一対一を諦めて助けを呼んだ。
「うわあ、疾く来よ、瀬織津姫さま~~!!」
セオ姫さまの助けより早く、勢いに乗った手刀が繰り出される。
あの首を刎ねた鋭いヤツ!
すかさず俺は、ブーツ裏のギミックを発動させた。
小さくて鋭いアストラル爆発が靴底で発生し、俺は後方にジャンプ。
脚は動かせないが、土蜘蛛が急速接近したせいで、糸にゆとりができたのだ。
一瞬遅れて、土蜘蛛の必殺の手刀が宙を切った。
ついでに炎上する白糸が、ざっくり切られて助かる。
しかし別の腕からさらなる炎の糸が放たれて、俺に殺到した。
再び、脚が、腕が捕らわれる。
これはマズい。
「吾が君よ……なんという無様な成りじゃのう」
耳朶に冷たい吐息が吹きかけられる。
声の主の姿は見えないが、召喚に応えた瀬織津姫だ。
彼女が編んだ水気の防壁が、俺を包み込む。
炎が鎮火した上に、白い剛糸はするりと抜けていった。
全身を水の膜で覆われた身体は、いかなる束縛をも流してしまうのだ。
体の自由を取り戻した俺は、速攻で土蜘蛛に向かって飛び込んでいった。
紅蓮の炎をまとった朱槍が振り下ろされる。
土蜘蛛のたくましい両腕の甲殻が迎え打つ。
ドン! という衝撃とともに炸裂する爆炎!
さらなる火勢に炎上するも土蜘蛛は怯まず、残りの二本の腕が、がら空きの俺の腹に向け刺突した。
後方ジャンプを想定しての、素早い直線的攻撃だ。
しかし、土蜘蛛の鋭く伸ばされた手刀は、またしても空を切った。
ブーツの爆炎が、今度は俺を上方に回避させていたのだ。
敵の腕甲を捉えた槍の穂先を支点にして、俺の体は円を描いて舞い上がる。
「なんと!?」
この動きは予想外だったようだ。
俺はそのまま高々と前方宙返り。土蜘蛛の頭上を飛び越えて背後に降りると、横殴りに槍を振るった。
ガツンと強い手応え!
槍は土蜘蛛の胴を深々と抉るも、最後の二本の腕がそれを途中で抑え込んでいた。
槍を封じられたが、以前これでドジ踏んだので対処法を編み出していた。
朱槍はエーテルの残滓を残してふっと消える。
俺の手の中には、槍が我楽多化した、小さな銀色のアイテムが残された。
槍に掛けられた咒もキャンセルされる。これ以上火焔が伝染することはない。だが、得物を取られるよりはずっと良い。
それにすでに燃えている炎は、伝染力は失うが燃えているので、有効にダメージを与え続ける。
俺はバックダッシュで距離を取ってから、再び朱槍を宝具化させた。
「さあ来い土蜘蛛!」
なおも燃え立つ土蜘蛛は、腹部から派手に血を吹き出している。追加ダメージも半端ないが、まるで気迫は衰えていない。
赤いほとばしりは、床に落ちる前にエーテル残滓の銀色の飛沫と変じて、美しく輝いた。
その飛沫を嬉々として浴びたオレンジ光の精霊虫の生き残りどもが、金色に輝きケラケラと笑っている。
ゆっくりこちらを振り向くと、土蜘蛛は片膝を付いた。
そして六つの手を地に付け、怒髪天のような蓬髪の頭を深く垂れたのだった。




