8. 冥府の守護獣
― 前回のあらすじ ―
デッドリー・ドッグの集団に遭遇!
後方の守りを固めさせ
睦樹は狗神と二人で敵に突っ込んだ
ゾンビ犬どもが、凶悪に唸りながら牙を剥く。
正直おっかない。
だがしかし、俺はみんなの主なのだ。
ビビってるところは見せられない。
特にピクシーたちには!
雑種の中型犬に混じって、レトリバーが、紀州犬が、ハスキー犬が、牙をむき出し、口に泡を吹いて襲いかかってきた。
魔槍が紅蓮の炎を翻し、飛びかかる犬たちを薙ぎ払い、返す槍で第二波も討ち払う。
火属性の相性が良いのか、ほぼ一撃で戦闘不能にさせることができた。
だが、トドメを刺す余裕はない。
とはいえ、犬たちのキャンキャン鳴き叫ぶ声は聞いていてツラい。
心を鬼にして打ち据える。
「しまった!」
大きな犬たちを相手をする間、足元をすり抜けて、小型犬たちが後方に迫る。
豆柴が、ダックスフンドが、マルチーズが、チワワまで、化け物のように牙を剥き、悍ましい形相で突っ込んでいく。
俺は振り向いて追うが、間に合わない。
それどころか、俺が守りを空けたところから入り込み、背中に飛びかかられた。
さらにそこから、次々と駆け込んでくる。
「主よ! 只今!」
狗神が俺の背中のヤツを切り払い、戦線を下げたお陰で穴は塞がるが、後方は任せるしかない。
俺も止むなく正面に向き直る。
プリンスが舌で弾いた犬が、次々と飛ばされていくのが横目に見えるが、手数というか舌数が足りない。
さらに猛烈な速度で、犬たちの後方からすっ飛んできたのが、なんと猫たちだ!
足元を滑るように抜けて行くが、狗神も俺も、対応できない!
「ベトベトさんたち、防いでくれ!」
「「ベトー!」」
犬猫合わせて十数体に突破されたせいで、俺の周囲にも瘴気が満ちてくる。
ガスのような匂いと腐敗臭が立ちのぼる。
これはヤバい!
この匂いだけでも、かなりの精神的苦痛……これってAPにダメージとかあるんだろうか?
狗神は鼻が良いからキツイだろうに、気にする風もなく、鬼のように敵を切りまくっている。
「スノウドロップ! 冷気で敵を止められるか?!」
「まだ大丈夫ですわよ」
「そんな余裕あるのか!?」
こっちは吐きそうな匂いだ……だがしかし、あまりEPにダメージがない感じ。
妖精の加護が再び発動しているようだ。腹の底からの熱い力を再び感じる。
今気がついたんだが、俺はうっすら緑色に発光していた。
妖精の加護発動全開かよ?
「きゃあああぁぁーーー! 来ないでえぇぇーーーー!!」
その当の妖精さん、コロンバインの叫びとともに、猫と犬たちが、突風とともに飛ばされてきた。
何ごとかと思えば、すごいぞ! コロンバインのスキル、春風の悪戯だ!
今は秋だけど、春一番クラスだ! いや青嵐だ! 瘴気も一緒に吹っ飛ばされた。
「ほらご覧なさい、言ったとおりでしたでしょ?」
「偉いぞ、コロンバイン!」
「フン、このくらいは楽勝なのよ」
後方は、今のところ任せておいて良さそうだ。
狗神は瘴気が有ろうと無かろうと、動きは変わらない。
目にも止まらぬ速さで切りつけ、犬たちを倒しまくっている……が、何故か致命傷を与えていない?
脚を切断して、動けなくさせているのだ。
同族の犬だからか?
「どうした、八郎丸? 同じ犬だから殺せないのか?」
「我らが主よ、これらは同じ狗というだけではござらぬナリ。我らと同じ、集められて殺められし者ども。人に裏切られ、捨てられ、殺された者ナリ」
つまりそれって……殺処分された犬たちなのか?
「出来得るならば、彼奴輩の脚を奪い攻めの手を失わせて調伏し、我らが同胞として迎え入れたく所望するナリ」
「これみんなシンにするってことか?」
「否、我らの身に取り込むナリ」
「そんなことが出来るのか?」
「ぐるるるる……試してみねば、判りませぬが……」
「よし、やれるだけやってみよう。やつらを無力化し、戦う意思を削げばいいんだな」
「是ナリ」
さっきから一撃だと倒しきれず、気化して消えずに、横たわっている。
この調子でやればいいのだが、首とかに入ってしまうと、一撃死してしまう。
相手はレベルが低いが、そこそこ素早いので、加減が難しい。
そこで俺は槍の石突きの方で殴り倒し、止まったところで斬り伏せることにした。
相変わらず犬たちの悲鳴が痛々しい。
そして、猫は無理なので放置!
猫を盾にして攻められた、古代エジプト軍の気持ちが分りすぎる。
「我らが主よ、彼奴輩が回復するナリ! 再び討たねばなりませぬ!」
見ると、倒れたデッドリー・ドッグの脚に黒い瘴気がまとわり付き、回復させているのだ。
こいつはキリがない……いや、手があるぞ。
「ベトベトさんたち、倒れたやつらのEPを奪うんだ!」
「「ベットー!」」
「殺しきっちゃダメだぞ!」
「「ベットー!」」
通じたらしい。
よし、倒した奴らは任せて、残敵討伐だ。
とはいえ、まだかなり残っている。
「八郎丸、ぜんぶやらなきゃ出来ないのか?」
「否、我らが主よ、あすこに首領がおりまする。あれ倒すナリ!」
見ると、一番奥にひときわ大きな影がある。
堂々とした体躯の妖犬は、三つの巨大な頭を持っていた!
「ちょっと待て! あれってケルベロスとかいう冥府の番犬じゃないのか?」
「あれなる魔獣がすべての獣を統べしナリ。我らが呼びかけに応じぬは、あれが為ナリ。いざ倒さん!」
どのゲームでもケルベロスは難敵だ。今アナライズするからな。
【名称:ケルベロス】
[固有名:ケルベロス]
[神族:ガイア]
[分類:守護獣]
[種族:魔獣]
[レベル:測定不能]
[スキル:測定不能]
[三つ首を持つ冥府の番犬。冥府へと通じる三つの道を監視し、死者や生者が通らぬように見張る。甘いものが好き]
「ちょっと待て八郎丸!」
「はっ!」
「交渉する」
「何と!」
「交渉だ!」
冗談じゃない。
レベル測定不能の強敵と正面切って戦えるわけないだろ。
ここは話し合いで解決だ。
……イヤイヤイヤ、こっちが倒しまくってるわけで今さら……いや違うぞ、ほとんど殺してない! どころか、致命傷を与えたやつも復活してたから、ぜんぜん殺してはいないんだった。
まだ交渉の余地は充分にあるとみた……で、あって欲しい。
俺は槍の炎を抑え、前に出た。
飛びかかってくるやつは、とにかく殴って蹴って、噛みつかれて、さらに噛みつかれて……って痛いだろ!!
とにかく前に出た。
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地獄の番犬ケルベロスに立ち向かう
果たして睦樹は、交渉が出来るか?
第15章9話は、令和6年10月31日公開予定!




