7. 死者たちの呪怨
― 前回のあらすじ ―
スノウドロップからゲッシュを受け、妖精の加護を得る睦樹
覚悟を新たにし、ヒーローとなる決意をする
出発してからまもなく、階段を見つけて二階に降りることができた。
というのも、新たな案内役がいたからだ。
「ニンゲンのシッポ……じゃなくって、えーっと……」
「コロンバイン? ちゃんとなさい」
「えっと……その……マスター……階段はこっちなのよっ!」
「おう! コロンバイン、ありがとう。お前についてくよ」
「フン! 何さ! マスターの癖に、コロンバインちゃんに頼るなんて!」
そう怒りながらパーティーを先導してくれた。
この程度の嘘っぽい怒りは、ゲッシュに抵触しないよな?
今後ともコロンバインが、ツンデレへと成長するのが楽しみである。
オイリー・ジェリーがそれを追って猛然と駆けていく。
偵察役を奪われるのが嫌らしく、必死にコロンバインの一歩先を行こうとするが、道を先に行き過ぎて駆け戻り、違うルートへ曲がったコロンバインの後を追いかけていた。
実に微笑ましい光景だが、この先トラブルがなければいいが……。
二階に降りると、現世なら隣に一階まで降りる階段があるわけだが、ここではそう甘くはない。
階段のある場所は壁で塞がれていた。
コロンバインの先導で慎重に進んでいくと、以前感じた嫌な感覚に襲われた。
それは背中を下の方から冷たいモノが這い上がってくるような、おぞましい感覚だ。
そう、最初に隠世に迷い込んだとき、高円寺の霧の中で、あの顔の潰れたサラリーマンに近寄られたときに感じたあれ。
そしてこの現世の中野でも、この二階、フィギュアショップの近くで感じた怖気だ。
シンたちがざわつく。
だが、それに対抗する俺の中のものもあった。
妖精の加護だ。
怖気がくると同時に腹の底の方で熱を感じる。
思ったよりEPを持っていかれてない。
嫌な気配の方を振り向くと、だいぶ離れたところに、何か黒いわだかまりを感じた。
辺りは暗く、目にははっきりとは映らないものの、何かいるのが判る。
「主さま、攻撃を受けてますの!」
「ああ、そうみたいだな」
俺はその存在との距離を詰めていく。
「主さま、不用意に近づくのは危険ですん」
「ダイジョブだヤドゥル」
妖精の加護もあるし、俺自身強くなっている。
もうこの程度の攻撃で、やられる気がしない。
その黒いモノはゆらゆら揺れながら、次第に形を明瞭にしていった。
太った男で、異常に首が長く、肩ががくりと下がっている。
そしてその足は宙に浮いていた。
全身からは、猛烈な怨念の気を発している。
間違いなく怨霊だろう。
あの噂にあった、店を畳んで自殺をした店主かも知れない。
しかし、こうなっては同情は禁物だ。
そう冷静に考えられる俺も、この世界の理に、少しは馴染んできたようだ。
膨らんだ顔面の中で、視点の合わない眼球がぐりっと動き、こちらを睨み付ける。
暗い中、かなりの距離があるのに、はっきりと明確にそれが見て取れるのだ。
その眼光がぼうっと赤く光るように感じると、また強い悪寒に襲われた。
「邪眼ナリ!」
狗神がそう断じてすっ飛んでいく。
俺も狗神に引っ張られるように駆けだした。
タンっと、狗神が暗がりで跳躍した。
怨霊の胸辺りに達すると、小太刀が乱舞する。
血飛沫がびゅうびゅうと飛び散り、辺りを黒く穢す。
「ひぐうぅぅぅぅぅう!」
怨霊が低い唸りを上げながら、頭部全体が歪んでもの凄い形相となる。
灼眼がギラリと強く光って、己を攻撃する者を睨み付けた。
しかし狗神には邪眼が効かないのか、動きはまったく止まらない。
右に左に刃が閃いた。
俺が一撃を入れる前に、戦いは終わっていた。
「狗神は主に仇成す者があれば、己の力を何倍にもして復讐できるのですん」
光の滴になって消えていく超常の者を見つめながら、ヤドゥルが解説してくれた。
何で知ってるんだそんなことまで。
ああ、そうか。以前中野を国津神が支配していた時、狗神はここの守護をしていたんだった。
俺は哀れな店主の最期を思うと、思わず手を合わさずにはおられなかった。
(悔しいかも知れないけど、この後はどうか安らかに、眠ってください)
俺達は、さらに先に進んだ。
「チチチー!」
「こら、ドブネズミ、このコロンバインちゃんの先行ってどうするのよ!」
「おい、二人とも、本隊からあんま離れんなよ!」
やれやれ、何を競ってるのやら。
先頭争いをする二体が、角を曲がって消えて行ったと思ったら、その勢いを増してすっ飛んで帰って来る。
同時に、チャッチャッチャと、床に何か当たる音が聞こえる。
さらには異様な臭気が漂い出した。
「なんだ? ガス漏れか?」
「ヂヂー! イッパイ、イッパイ!!」
ジェリーが鳴きながら全速力で俺の横を駆け抜ける。
速度はジェリーの方が速いようだ。
少し遅れてコロンバインも泣きそうな顔で飛んでくる。
「お姉さま~、コロンバインちゃんが食べらちゃう~~!」
「キャハハハハハハハハ!!! コロンバイン泣き顔がブスで、超可愛いのよさ!」
ブルーベルさん、もう少し優しみをな……。
「コロンバイン、あなたったら、いったい何を連れてきてしまったのです?」
追いかけるようにして現れたのは、獣の集団だった。
しかもかなり多い。
よく見ると、野犬の群れのようだが、全体に黒い靄をまとっている。
しかし、ペットで飼われているような犬種も多い。
大きさも小さいのから大型犬までまちまちだ。
チャッチャッチャという音は、犬たちの爪が床に当たる音だった。
俺はその集団から、極めて邪悪な気を感じ取ることができた。
さっきの怨霊や高円寺のリーマン死霊と似たものだった。
この犬たちは、現世で死んだのだ。
急いでアナライズを掛けてみる。
【名称:デッドリー・ドッグ】
[固有名:ロスト]
[神族:なし]
[分類:アンデッド獣]
[種族:妖獣]
[レベル:2]
[犬の死霊。殺された犬たちが集団で現れることが多い。人に裏切られたことに対しての怨念を抱えている。この群れに囲まれると、瘴気でダメージを受ける]
何体かアナライズすると、レベルは1から4までまちまちである。
固有名はみなロストなので、生前の名前がすでに失われた、ということらしい。
レベルは低いが数が多い、囲まれたら瘴気を食らうだけじゃない。
背後からも襲われて、かなりヤバそうだ。
「みんな、一箇所に固まれ! プリンスを真ん中にして、両脇にベトベトさんで、防衛線を引くんだ。その後ろにスネコスリとヤドゥル、さらに後ろにピクシーたちとジェリー。八郎丸は俺と一緒に前に出るぞ」
「承知!」
シンたちが応えながら、配置に着く。
「プリンスは抜けてくるやつを弾き飛ばしてくれ! ベトベトさんたちは、単独になった奴を囲んでやっちまえ! さあ、八郎丸行くぞ!」
「応ナリ!」
俺と狗神は、ツートップで死霊獣の集団に突っ込んで行った。
通路は広くない。二人で何とか防げるはずだ!
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初めての集団戦!
睦樹の指揮は、上手く働くか?!
第15章8話は、令和6年10月30日公開予定!




