表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/244

7. 死者たちの呪怨

― 前回のあらすじ ―


  スノウドロップからゲッシュを受け、妖精の加護を得る睦樹

  覚悟を新たにし、ヒーローとなる決意をする


 出発してからまもなく、階段を見つけて二階に降りることができた。

 というのも、新たな案内役がいたからだ。


「ニンゲンのシッポ……じゃなくって、えーっと……」

「コロンバイン? ちゃんとなさい」


「えっと……その……マスター……階段はこっちなのよっ!」

「おう! コロンバイン、ありがとう。お前についてくよ」

「フン! 何さ! マスターの癖に、コロンバインちゃんに頼るなんて!」


 そう怒りながらパーティーを先導してくれた。

 この程度の嘘っぽい怒りは、ゲッシュに抵触しないよな?

 今後ともコロンバインが、ツンデレへと成長するのが楽しみである。


 オイリー・ジェリーがそれを追って猛然と駆けていく。


 偵察役を奪われるのが嫌らしく、必死にコロンバインの一歩先を行こうとするが、道を先に行き過ぎて駆け戻り、違うルートへ曲がったコロンバインの後を追いかけていた。

 実に微笑ましい光景だが、この先トラブルがなければいいが……。


 二階に降りると、現世(うつしよ)なら隣に一階まで降りる階段があるわけだが、ここではそう甘くはない。

 階段のある場所は壁で塞がれていた。


 コロンバインの先導で慎重に進んでいくと、以前感じた嫌な感覚に襲われた。

 それは背中を下の方から冷たいモノが這い上がってくるような、おぞましい感覚だ。


 そう、最初に隠世に迷い込んだとき、高円寺の霧の中で、あの顔の潰れたサラリーマンに近寄られたときに感じたあれ。

 そしてこの現世の中野でも、この二階、フィギュアショップの近くで感じた怖気(おぞけ)だ。


 シンたちがざわつく。


 だが、それに対抗する俺の中のものもあった。

 妖精の加護だ。


 怖気がくると同時に腹の底の方で熱を感じる。

 思ったよりEPを持っていかれてない。


 嫌な気配の方を振り向くと、だいぶ離れたところに、何か黒いわだかまりを感じた。

 辺りは暗く、目にははっきりとは映らないものの、何かいるのが判る。


(あるじ)さま、攻撃を受けてますの!」

「ああ、そうみたいだな」


 俺はその存在との距離を詰めていく。


「主さま、不用意に近づくのは危険ですん」

「ダイジョブだヤドゥル」


 妖精の加護もあるし、俺自身強くなっている。

 もうこの程度の攻撃で、やられる気がしない。


 その黒いモノはゆらゆら揺れながら、次第に形を明瞭にしていった。

 太った男で、異常に首が長く、肩ががくりと下がっている。


 そしてその足は宙に浮いていた。

 全身からは、猛烈な怨念の気を発している。


 間違いなく怨霊だろう。


 あの噂にあった、店を畳んで自殺をした店主かも知れない。

 しかし、こうなっては同情は禁物だ。


 そう冷静に考えられる俺も、この世界の(ことわり)に、少しは馴染んできたようだ。


 膨らんだ顔面の中で、視点の合わない眼球がぐりっと動き、こちらを睨み付ける。

 暗い中、かなりの距離があるのに、はっきりと明確にそれが見て取れるのだ。


 その眼光がぼうっと赤く光るように感じると、また強い悪寒に襲われた。


「邪眼ナリ!」


 狗神がそう断じてすっ飛んでいく。

 俺も狗神に引っ張られるように駆けだした。


 タンっと、狗神が暗がりで跳躍した。

 怨霊の胸辺りに達すると、小太刀が乱舞する。

 血飛沫がびゅうびゅうと飛び散り、辺りを黒く穢す。


「ひぐうぅぅぅぅぅう!」


 怨霊が低い唸りを上げながら、頭部全体が歪んでもの凄い形相となる。

 灼眼がギラリと強く光って、己を攻撃する者を睨み付けた。


 しかし狗神には邪眼が効かないのか、動きはまったく止まらない。

 右に左に刃が閃いた。


 俺が一撃を入れる前に、戦いは終わっていた。


「狗神は主に仇成す者があれば、己の力を何倍にもして復讐できるのですん」


 光の滴になって消えていく超常の者を見つめながら、ヤドゥルが解説してくれた。

 何で知ってるんだそんなことまで。


 ああ、そうか。以前中野を国津神が支配していた時、狗神はここの守護をしていたんだった。


 俺は哀れな店主の最期を思うと、思わず手を合わさずにはおられなかった。


(悔しいかも知れないけど、この(のち)はどうか安らかに、眠ってください)


 俺達は、さらに先に進んだ。



「チチチー!」

「こら、ドブネズミ、このコロンバインちゃんの先行ってどうするのよ!」

「おい、二人とも、本隊からあんま離れんなよ!」


 やれやれ、何を競ってるのやら。


 先頭争いをする二体が、角を曲がって消えて行ったと思ったら、その勢いを増してすっ飛んで帰って来る。


 同時に、チャッチャッチャと、床に何か当たる音が聞こえる。

 さらには異様な臭気が漂い出した。


「なんだ? ガス漏れか?」

「ヂヂー! イッパイ、イッパイ!!」


 ジェリーが鳴きながら全速力で俺の横を駆け抜ける。

 速度はジェリーの方が速いようだ。

 少し遅れてコロンバインも泣きそうな顔で飛んでくる。


「お姉さま~、コロンバインちゃんが食べらちゃう~~!」

「キャハハハハハハハハ!!! コロンバイン泣き顔がブスで、超可愛いのよさ!」


 ブルーベルさん、もう少し優しみをな……。


「コロンバイン、あなたったら、いったい何を連れてきてしまったのです?」


 追いかけるようにして現れたのは、獣の集団だった。

 しかもかなり多い。


 よく見ると、野犬の群れのようだが、全体に黒い(もや)をまとっている。

 しかし、ペットで飼われているような犬種も多い。

 大きさも小さいのから大型犬までまちまちだ。


 チャッチャッチャという音は、犬たちの爪が床に当たる音だった。

 俺はその集団から、極めて邪悪な気を感じ取ることができた。


 さっきの怨霊や高円寺のリーマン死霊と似たものだった。

 この犬たちは、現世で死んだのだ。

 急いでアナライズを掛けてみる。


【名称:デッドリー・ドッグ】

[固有名:ロスト]

[神族:なし]

[分類:アンデッド獣]

[種族:妖獣]

[レベル:2]

[犬の死霊。殺された犬たちが集団で現れることが多い。人に裏切られたことに対しての怨念を抱えている。この群れに囲まれると、瘴気でダメージを受ける]


 何体かアナライズすると、レベルは1から4までまちまちである。

 固有名はみなロストなので、生前の名前がすでに失われた、ということらしい。


 レベルは低いが数が多い、囲まれたら瘴気を食らうだけじゃない。

 背後からも襲われて、かなりヤバそうだ。


「みんな、一箇所に固まれ! プリンスを真ん中にして、両脇にベトベトさんで、防衛線を引くんだ。その後ろにスネコスリとヤドゥル、さらに後ろにピクシーたちとジェリー。八郎丸は俺と一緒に前に出るぞ」

「承知!」


 シンたちが応えながら、配置に着く。


「プリンスは抜けてくるやつを弾き飛ばしてくれ! ベトベトさんたちは、単独になった奴を囲んでやっちまえ! さあ、八郎丸行くぞ!」

「応ナリ!」


 俺と狗神は、ツートップで死霊獣の集団に突っ込んで行った。

 通路は広くない。二人で何とか防げるはずだ!


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします!

ブックマークへの追加や、お気に入り登録、★での評価をどうぞよろしくお願いいたします。本作品への評価に直結します。

SNSでのシェアなども、有り難いです。

この作品の出版への足がかりになります。

また、ご感想をいただけると励みにもなり、参考とさせていただきます。


 ※ ※ ※ ※


初めての集団戦!

睦樹の指揮は、上手く働くか?!


第15章8話は、令和6年10月30日公開予定!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ