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6. 妖精のゲッシュ

― 前回のあらすじ ―


  ゴブリン店長からいわゆる榛の杖をもらった睦樹

  中野ブロードウェイ隠世の二階を目指す


「ところで、スノウドロップたちは、どうして日本の、しかも中野なんかに来たんだい?」


「そうですね……まず第一に、ティル・ナ・ノーグ※1)と日本島の隠世が、つながっていたのです」

「そうそう、簡単に来れたのよさ」


「そして、わたくしたちは、ブリテン島の隠世では、生きづらくなりました。何故かと言えば、他の神族が強くて攻撃的だからです」


「アース神族は暴れん坊で怖いしー、天使族は何でもきびしいしー、かといって悪魔族はさいしょ優しいけど、やっぱり怖いしー、コロンバインちゃんは、超絶可愛いからいつも狙われちゃうのよ」


「あちらでは、現状維持さえ難しい状況でした。なので、少しでもダヌー神族の力になりたいという願いもあり、こちらに来たのです」

「え? 日本でそれができるわけ?」


「ええ、できるのですよ。有力な神族、たとえばマスターの国津神族に付いて、勢力拡大に寄与するのです」

「国津神族のシンになっても、ダヌー神族的にはいいのかい?」


「その状態で国津神族が力を増せば、シンになった神族にも恩恵があるわけです」

「なるほど、そうだったのか。よし俺はダヌーのためにも頑張るぜ!」


「そうよ、世界的に超可愛いコロンバインちゃんのためにも、せいぜい気張りなさいよね」


「でも、なぜ中野?」

「なんかカワイー絵がイッパイ動いて、楽しかったのよさ」

「きゅんきゅんくる可愛いさだもの」


 あの壁絵か! ピンク・パープルは、オタク文化大好きガイジンか?


「聞いたところによると、日本列島は世界のひな形になっているらしいのです。そうなると、巨大な呪力が二者の間に生じます。日本の隠世を支配できれば、世界に大きな影響を持てるのです。故に、いろいろな国の常世(アストラル)界が、ここの隠世につながっている、とのことです」


「日本が世界のひな形ねえ……」


 良くわからないこと積みすぎだろ。


「ってことは、俺も隠世から、ヨーロッパに行けたりして……」

「行けないです。まず常世を通らなくてはなりません。ニンゲンのあなたには、おそらく無理でしょう」


 半ばジョークのつもりで言ったのに、ガチで否定されてしまった。

 でも何となく整理できたぞ。


[現世日本==隠世日本==常世ダヌー==隠世英国==現世英国]


 といったつながりの構図であって、人間は常世には入れない、というルールがある。


 分かったよスノウドロップ、と声をかけようとしたら、いつの間に離れたところで他のピクシーたちを呼び寄せて相談している。


 何やら良からぬことでも企んでいるのだろうか?

 そうだとしても、彼女らのことだ。

 きっと楽しいプランに違いない。


 スノウドロップが戻ってきて、俺の眼の前で静止した。


「マスター、あなたに呪いを掛けて差し上げることにしましたわ」


「え? ちょっと待て、それ、やめてお願い」

「それは出来ないのですん。犬養睦樹さまは、今やスノウドロップ・ピクシーの主さまですの」


「フフフ……祝福と言っても良いですのよ」

「どういうことだい?」


「呪いと祝福は、もともとは同じもの。願いを強く結びつけ、言葉の絆で縛り、その結果として、何らかの力を与えるものなのです」

「なるほど……」


 今ひとつどころか、ぜんぜん分からないんだが。


「犬養睦樹よ、スノウドロップ・ピクシーの聖誓約(ゲッシュ)をお受けなさい」


(え? え? なに!? もう始まったの?)


「あなたは次のことをせぬ限り、妖精の加護を手に入れ、危機に際しさまざまな恩恵を授かることでしょう」


 そいつは有り難いが、せぬ限りってのが気になる。


「スノウドロップを笑わせないこと。コロンバインを怒らせないこと。ブルーベルを泣かせないこと。これらを同時に破ると、犬養睦樹への妖精の加護は失われ、多くの災いが降りかかるでしょう」


「俺に拒否権なし?」

「ゲッシュ※2)はなされました。すでにありません」

「ああ、主さま!」


 俺を白い光が包む。光はピンクになり、そして青になり、消えた。


 俺の腹の奥底で、かっと燃えるような熱を感じた。

 すぐにそれは収まるが、本質的に消えることなく、燃え続けているようだ。


「これが、妖精の加護?」


 妖精のイメージからすると、かなり激しいんですが。


「あなたはダヌー神族の王と王子を臣下にしたのです。覚悟を持って、ダヌー神族を導き、そしてお守りください、マイ・ロード」


「お、応……」


 なんか、おおごとになってきちまったぞ。

 だが仕方ない、なるようになるさ。


 使徒になってからずっとそんな感じだ。

 もう慣れた………


(イヤイヤイヤ、ぜんっぜん慣れてねえーー!!)


 ダヌー神族を導き守るって、俺はいつダヌーの騎士になったんだか。

 あ、さっきか。きっとそうだろう。

 でも俺がマスターってのが逆転してないか?


 ……まっいいか。もう、どうでもいい。

 ダヌーと国津一蓮托生。さほど悪い感じはしない。


 ならば、まず味方の情報をちゃんと知っておかなくちゃだな。


 スノウドロップのステイタスをチェックすると、かなり強いお姉さまだったことが分る。

 俺みたいなマスターでいいのか?


【名称:ピクシー】

[固有名:スノウドロップ]

[神族:ダヌー神族]

[分類:小人]

[種族:妖精]

[レベル:13]

[スキル:多幸の光り:対象を多幸感に包み癒やす。このときすべての欲望を奪う]

[スキル:冷気の風:風を使い冷気を操る。対象を凍結させることもできる]

[スキル:力の声:言葉によって、現実に影響を与える。主に対象の力を増したり、減らしたりする]

[自然の力が花の精の形をとって顕れた精霊。冷静沈着で頭脳明晰。正義を愛する]


 俺より4レベル上だ。

 いいのか、それ? ほとんどのゲームではNGだぞ。


 コロンバインも、もちろんチェックだ。


【名称:ピクシー】

[固有名:コロンバイン]

[神族:ダヌー神族]

[分類:小人]

[種族:妖精]

[レベル:7]

[スキル:春風の悪戯:突風を操り、さまざまな力を行使する]

[スキル:ピクシー・リッド:結界術。道を行く者を迷わせ、一定範囲から出られないようにする。あるいは入れないようにする]

[自然の力が花の精の形をとって顕れた精霊。明るく無邪気。親切でお節介]


 やはり同じところを歩き回されたのは、コロンバインの悪戯だったようだ。

 同じスキルでも、うちのパーティーとしては、外から入れないようにする方が役立ちそうだな。


 再確認だが、ブルーベルのステイタスも見てみよう。


【名称:ピクシー】

[固有名:ブルーベル]

[神族:ダヌー神族]

[分類:小人]

[種族:妖精]

[レベル:9]

[スキル:催眠の風:一定範囲の対象を眠らせる]

[自然の力が花の精の形をとって顕れた精霊。好奇心旺盛で気まぐれ。楽しいことが好き]


 うむ、コロンバンよりレベルは高いが、スキルが少ないのだ。

 ほかのダヌー神族も念のため確認。


【名称:小さいオジサン】

[固有名:ともぞう]

[神族:ダヌー神族]

[分類:小人]

[種族:妖精]

[レベル:6]

[パッシブスキル:精神障壁:精神的な術式から、常にパーティーを守る]

[正体不明の妖精。現世でも夢見がちな少女に目撃されることがある]


【名称:フェアリー・トード】

[固有名:プリンス・クロウリー]

[神族:ダヌー神族]

[分類:下魔]

[種族:魔獣]

[レベル:10]

[スキル:タン・パンチ:舌の攻撃で、相手を吹き飛ばす]

[スキル:タン・プレデター:舌で捕食する]

[スキル:ポイズン・スウェット:背中から毒の汗を撒き散らす]

[醜い蝦蟇に姿を変えられた王子。乙女のキスで呪が解けるといわれる]


 這いずりの王子は、俺よりレベル1高い。

 ヤドゥルが自分より上のレベルの超常の者をシンにすることは通常ないと言っていたが、この当時の俺のレベルはかなり低かったはずだ。


 スノウドロップなんて、4レベル・オーバー。


 やっぱり俺って、最初からヒーローだったってことか?


 これはジョークとか自惚れとか、厨二病的にそう思うとかじゃなく、ちゃんと客観的に考えた方が良いかも知れない。


 せっかく相馬吾朗から国津神第三位の使徒を継いだんだ。

 国津神ひいては日本のために、俺の力が活かせるなら、それは喜ばしいことだ。


 とはいえ、果たしてそれって、俺の本心からなのか?

 多少なりともネトウヨを自負する俺としては、それは悪くないポジションだ。

 だがしかし、本当のところはどうなんだろう?


 やはり、水生那美にもう一度会いたい、彼女を救いたい、というのが一番の俺がここにいる動機だ。

 ひいてはそれが国津神族のためになるとはいえ、那美のためというのが俺の望みに違いない。


 その次に、やはりこれは正直に見つめなくちゃならない。

 隠世での出会いと戦いが、すっごい楽しいからだ。


 俺は今めっちゃ楽しんでる。

 今までの人生の中で一番楽しい。


 そこで最初のテーマに戻る。

 俺はヒーローなのか、と。


 そうかも知れない。


 ただ、この隠世には、きっと他にもヒーローがいるに違いない。

 俺はその中では、ヒーロー候補の一人に過ぎないだろう。

 たぶんそんな気がする。


 那美を助けるためにも、俺が隠世で楽しむためにも、俺はヒーローでありたい。

 俺にとって、俺自身が特別でありたい。


 よし決めた。

 俺はヒーローになる!


 悪くないだろ?

自宅警備員(ニート)が神々の使徒となり、やがてヒーローになる』

 これだ!


註)

※1:ティル・ナ・ノーグ:ダヌー神族の国。妖精たちが住んでいる。本作品では、常世=アストラル界である。妖精たちはそこで永遠の生を享受する。


※2:ゲッシュ:ケルト神話における、呪術的誓約。これを誓うことにより、強力な力を得るが、ゲッシュを破ると災いが起き、最悪死を招く運命が訪れる。


 ※ ※ ※ ※


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします!

この作品の出版への足がかりになります。


 ※ ※ ※ ※


中野ブロードウェイの冒険再開!

だけどほとんど先に進まず済みません!

次回はきっと進みます!!


第15章7話は、令和6年10月29日公開予定!

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