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4. 力の声

― 前回のあらすじ ―


  襲ってきた蔓は巨大な筒状の怪物から生えていた

  レギオンがその筒に喰われてしまう

  誠士郎はレギオンを助けようと主張するが

  ストラスは霧の中がより脅威と尻込みする


 ※ ※ ※ ※


 15章のコープスをレギオンに修正しました!


 オペラの塔は高台に建っており、その前に立っていても、南から来るレギオンたちを見下ろす形になる。

 誠士郎とストラスは、全体の状況を良く見ることができた。


 彼らが助ける助けないでもめる間にも、最後尾のレギオンが捕まると、すぐに足の下に穴が空き、そのまま落ちていった。


「てめぇら、何やってるんだゴルァッ!? ダチが喰われてんぞ!!」


「「ダダダダダ………チチチチ……?」」」」


「いや、もう助けらんねえから振り向くなよ!」

「レギオンには後ろにも顔あるから、振り向かなくても大丈夫だよ」


「そいつぁ良かったな! んだけどっ!! てめぇらは逃げキレ、ゴラァ! 死ぬ気で走れ、このタコ!!」


 今回の声も、しっかりレギオンの走力を上げた。

 低次元の存在であるレギオンは、誠士郎の暴力的な言霊の波長に、より強く共鳴するのだった。


 これは「力の声」というべきものだろう。


 今発生している効果は、ゲームでいえば、いわゆるバフ――味方の能力を上げる力だ。

 しかし、この声はそれ以上の力を秘めているのだが、それはまだ誠士郎にも、ストラスさえも、意識していない。


「誠士郎には、あれタコに見えるの? 確かに手足いっぱいだね」

「ちげえよ! マヌケヤロウって意味だよ、タコはよー」


「タコはああ見えて、頭良いし器用で……」

「チクショウ! また捕まりそうだ、クソが!」


「あー、もうしょうがないなぁ~。誠士郎はあの塔にまで自分で走って行って」


 ストラスは、背後の巨大な建造物を指さした。


「おい、てめぇストラス」

「ぜったい来ちゃダメだからね、足手まといだから」

「クソッ!」


 少女は黒翼を広げると、男を残して巨大な敵に立ち向かっていく。

 すでに筒は三体目を呑み込んでいるところだ。

 そして四体目が絡み取られていた。


「届くかな~」


 ストラスは上空から風の剣を一閃する。

 見えざる刃が、蔓の根本を狙って飛ぶ。


 しかし、蔓が思わぬ反応をした。

 その何本もが一斉に地面を払うと、無数の石つぶてが跳ね飛び、刃を迎え撃った。


 怪物には刃の軌道が見えているのだろうか?

 多くの攻撃が逸らされ、数本の蔓を断つにとどまった。


 そして四体目が穴に放り込まれる。

 ストラスの支援を嘲笑うかのように、さらに五体目、六体目と捕縛される。


「こんなの命懸けでやるもんじゃないのにな~」


 ストラスは低空飛行に移り、さらに剣を薙ぐ。

 蔓の反応は間に合わず、五体目が解放されて、勢いよく走り出す。


 旋回して六体目に向かおうとすると、蔓が迫ってきた。

 剣の一閃でそれを粉砕した時だ。


「ストラス後ろだ!」

「いけない!」


 背後から翼を絡め取られたのだ!

 腕を後ろに回して蔓を何本か切るが、戒めは解けない。


 さらに今度は足まで縛られる。

 そのまま地上に引きずり降ろされた。


 土煙を津波のよう起こして、巨大な筒がストラスへと迫る。


「バカヤロウ!」

「誠士郎!?」


 少女が飛び去ってすぐに、忠告をガン無視して、黒シャツの男は走り出していたのだった。

 ナイフが灼光し、ストラスの戒めを断ち切った。


「捕まって!」

「いや、オレの足をつかめ」


 すぐに察した悪魔少女は、男の足をつかみ空に飛んだ。

 彼女の背後から迫る蔓を、彼は正面に捉える。

 輝くナイフが切り裂いて、届かせない。

 正面からくる蔓は、ことごとく風の刃の餌食となった。


 二人が蔓を引き付けている間に、レギオンたちは続々と塔にたどり着くことができた。


 蔓は蛇のように執念深く追いかけ、遅れていた三体を同時に捕捉するも、塔から次々と火弾が放たれた。


 水分が多いとはいえ植物である蔓は、火炎に弱かった。

 射程内の蔓はすべて焼き払われ、三体のレギオンは解放された。


「助かったよ誠士郎。お陰でレギオンの損害も、最小限だった」


 逆さに誠士郎をぶら下げながら、ストラスが微笑んだ。


「そっか……喰われた奴には可哀想なことをしたな」

「救った分を自慢していいんだよ?」


「ストラス、お前もう一人運べっか?」

「え? なんで? 人間二人くらい楽勝だけど」


「一人女がはぐれてたろ? それを助けに行くぞ」

「はあぁ?!」


「はぁーじゃねえ。舎弟が危ねえなら助けにいくだろ、てめぇ!」

「しょうがないなあ……で、場所どこだっけ?」

「ああ、あっちだ!」


 誠士郎が体をひねって指差す場所は、霧の中だった。


「えええ~、霧の中は無理だよ!」

「それでも、ちょっとだけ近づいてくれ」


「やだ!」

「頼む、このとーりだ」


 誠士郎は逆さ吊りされたまま、ストラスに手を合わせた。


「もう、ちょっとだけだよ? 危ないと判断したら、すぐ帰るからね?」

「それでいい」


 二人は濃い霧の塊に近づいていった。

 その大きさは五百メートル四方もあろうか。

 歩くより速いぐらいの速度で移動を続けている。


 よく見ると、霧はこちら側、塔の方ではなく、左手に見える瓦礫町の方に方向転換していた。

 そのため、手前の霧が少しずつ晴れてきている。


「あそこだ!」


 霧が晴れたところに、個体に分離したレギオンの女が、うずくまったままでいた。


「おお~、よく無事だったな~」


 そう言うとストラスは足を持つ手を離した。

 誠士郎の体がすっと落ちていく。


「わああああーーー!」


 ストラスは落下スピードに合わせ、誠士郎の顔を覗き込み、ニンマリ笑った。


「イヒッ! びびりー!」


 そして彼の左手を捉えると、女の元に急降下していった。


「てめぇなああああ~~~~!!」


 降り立った場所は、すっかり霧は晴れ、近くに蔓も無かった。


「シャレんなってねえぞゴルァ!」

「え~? すっごいスリルも楽しめるくらいじゃないと、隠世じゃ生きてけないよぉ?」


「ざっけんな!」

 誠士郎は肩を怒らせながら、先に立って歩いた。


 彼らが近くに歩いてきても、女は身動きひとつ取らない。


「おい、ダイジョブか?」


 誠士郎が、全裸でうずくまる灰青色の女に声をかける。


「……ジニダイ……」

 女がつぶやいた。


「はぁ? 死にたいだと? ざっけんじゃねえぞ、せっかく助けに来てやったのに!」

「この子は自殺した死霊ね」


「え? そうなのか……じゃあ、どうやったら……」

「自殺したお仲間の霊がみんな喰われちゃったから、一人で孤独になって、また死にたくなってるわけ。君、そうだよね?」


「ウゥ……ジニダイ……」

「クソ! なんだそりゃ! じゃあ自殺した他の死霊とやらを見つけてやればいいのか?」


「君が自殺して仲間になってやる?」

「アホぬかせ! こっちがどんだけ必死になって、こんなクソみたいな場所で生き残ってきたと思ってやがる!」


「まあ、とりあえず連れ帰えろ。さあ、君、立ちましょうね~」


 痩せぎすの女は、肩をすぼめて立ち上がった。


「クソ、しゃあねえな。とりあえずこれでも着とけ」


 誠士郎は銀の龍の刺繍の入ったお気に入りのシャツを脱いで上半身裸になると、はぐれレギオンの痩せた女に渡した。

 不思議そうにそれを見ているだけの女に業を煮やした彼は、シャツをひったくると、女に着せてやった。


「ふーん、優しいんだ」

「んなんじゃねえ。こっちが目のやり場に困るだけだ。さあ、行こうぜストラス」


「ウブじゃん」

「ち、違っ! このクソアマ!」

「アハハハハハ! なんか、良いことした気分!」


 二人の手を引っ張って、ストラスが暗い空を駆ける。


 上空から見ると、霧はレギオンの集団からは、もうかなり離れていた。

 瓦礫町の方へとかなり進んでいる。


 燃やされた蔓を切り離した巨大な筒の怪獣も、その霧を追うようにして去って行くのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

面白かったら、応援よろしくお願いします!

この作品の出版への足がかりになります。


 ※ ※ ※ ※


オペラの塔と北誠士郎の話は、また後ほど

次回は中野ブロードウェイ隠世の探索に戻ります


第15章5話は、令和6年10月27日公開予定!

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