12. 火炎呪
「ああ~~、もうこうなったら、ちゃっちゃっと終わらせて、時間どおりに密会してやんよ!」
言い終わるを待たず、何本もの白いワイヤーが横や背後など、思わぬ方角から伸びてくる。
予め仕込んでおいたんだろう。
戦う前に必勝を期する――やるじゃないか、嫌いじゃないぞ。
だがしかし、俺という使徒はそれを凌駕する臨機応変さで、これまで生き残ってきたそれなりの強者だ。
国津神使徒序列第三位は伊達ではない……と思いたい。
スーツの首周りからヘルメットとバイザー型のフェイスシールドが生じて頭部と顔を守る。
相手から俺の視線は見えないが、自分の視界は全く妨げられない。
すでに右手には橙に輝く長得物が現れていた。けっこう由緒ある業物で、銘を屠龍・魔槍蜻蛉切りという。
厨二病爆裂で大いに気に入っている。
俺は魔槍を素早く振り抜き、思いっきりぶっ叩いた。
土蜘蛛じゃなくて足元の床をだ。
一瞬にして建造物に致命的な亀裂が八方に走る。
二十センチものコンクリート状不活性エーテルの厚みが、一撃で打ち砕かれる。
足に伝わる衝撃とともに床が崩落、俺とヤドゥルとクズ一男は崩れた床材といっしょに一気に落下していった。
殺到する白いワイヤー――土蜘蛛の硬質な縛糸は、ギリ俺の頭上で目標を見失い、互いに交錯して絡み合った。
落ちる俺を新たな糸が追ってくる。
これは瞬時に穴の縁まで迫った、土蜘蛛本体から放たれたものだろう。
一緒に落下する床を支えていた鉄骨入りコンクリートをひっつかみ、振り回すようにして蜘蛛の糸を絡め取る。
糸に引っ張られ落下速度が落ちたのを幸い、手を離して階下に着地した。
ここまで戦闘開始からわずか三秒。
ふわりと隣に着地したヤドゥルが、先に落ちた男を看に行く。
しかし、今度は糸に操られた鉄骨コンクリートが、勢いをつけて俺に向かって飛んできた。
ここまでは読みどおり。そして……
「……畏み畏み乞い願い奉ります火之迦具土神!」
俺は魔槍を構えたときから、ブツブツと唱えていた火之迦具土神火炎咒を詠じ終えていた。
槍に強力な咒を載せて、迫るコンクリート塊をいなす。
このとき穂先は糸も打っている。
塊は咒の感染により、たちまち高熱化しながら俺の横を飛び去った。
そして縛糸は炎の導火線となって、発し手の元に走る。
当然土蜘蛛は糸を切り離す。
燃える白糸に巻かれた鋼材が、すごい音を立てて背後に転がっていった。
白糸に触れた床が熱を帯びていく。
「だがしかし、切り捨ててももう遅いんだな」
土蜘蛛は穴から降下しつつ手から新たな糸を射出。
しかし、途端にそれは炎を発した。
火炎は土蜘蛛にも燃え移る。




