1. 荒野の男
― 前回のあらすじ ―
シージ・ゲートの第5セットで見事勝利
スノウドロップと、コロンバインをシンとして
手に入れた睦樹
しかし、さっそくピンクと青紫が喧嘩を始める
先が思いやられるパーティーだ
※ ※ ※ ※
さあ、新章開始です!!
舞台は、がらっと変わり・・・・・・
暗黒の無窮には星々がばら撒かれ、互いに輝きを競い合っていた。
暗緑色のアストラル雲が、低く空を横切り、慈愛の雨を降らす場所を物色している。
その下に広がる大地は、荒れすさんでひび割れているものの、たくさんの生命が息づいていた。
それは物質世界の生命とは異なった命だ。
そのエーテル・ボディには、物質界の肉体はない。
あったとしても、その身体は希薄であり、透明でほぼ重さの無いものでしかないのだ。
そう、ちょうど現世で幽霊がそう感じられるように。
エーテル・ボディは生命力の塊でもある。
その体に、精神力の塊であり、命の設計図でもあるアストラル・ボディが重なる。
それらは、この世界の空気を呼吸することによって、活性化されるのだ。
仙人が霞を食って生きるように。
隠世新宿郊外の荒れ野には、水の精霊たちの青い光がさんざめいていた。
波打つようにその群れは、繰り返し揺ら揺らめきながら、ゆっくりと移動して行く。
その様子を、物陰から一人の男がじっと見守っていた。
こんなところに珍しく、人間である。
黒いシャツには見事な銀龍の刺繍が施されており、右手にはナイフを握りしめていた。
「やっと行きやがったか……」
男は立ち上がると、辺りを用心深く見回した。
(ダイジョブそうだな)
本当に安全が確かめられたわけではない。
何が起きるか分からない場所だ。
大丈夫だと自分に言い聞かせて動かなければ、瓦礫の陰から一歩も踏み出せないでいただろう。
男は摩天楼のような光を目指し、荒れ地を進んだ。
どうして自分がこんな目に合ってしまったのか?
これまでのできごとが頭を過る。
※ ※ ※ ※
そもそもあの妙な中国人の女に、歌舞伎町で出会ったのからしておかしかった。
いきなり街なかで、オレらみたいなヤクザもんに声かけるか、フツー?
最近歌舞伎町に来たものだから、いろいろと教えて欲しいだの。
まあ、ちょっとキツめ目の美人だったし、カタギじゃねえとは思うわな。
だが、あれだ、なんか断れなかった。
話だけでも聞いてやるってなって、飯おごられてウマかったし、横に座った姉ちゃんもイケてた。
井口のやつなんざ、ガキみたいに盛り上がりやがって、ナイフまで見せびらかして、こっちまで恥ずかった。
だが、オレもいつもよりハイになってかも知んない。
何かヤクでも盛られたんか?
問題はその後だ……オレたちゃ浮浪者をボコってたんだ。
なんか知らんが、あのジイさんを見たら急にムカついてきた。
……そう、女がテルテル坊主を持ったジイさんが、悪さしてるとか言ってたんだ。
「なんでオレは、そんなの真に受けたんだ?」
ふだんなら浮浪者なんざほっとく。
あんなのボコっても、カッコ悪いだけだ。
ガキじゃあるめーし。
それからクソガキが、いきなり現れて写真とりやがって……サツにチクられるより、あんなのさらされたら恥ずいと思ったんだ。
で、さらにムカついて、追っかけた……。
雑居ビルに逃げ込んだヤツを追いつめたら、カベにドアができて……
「クソ、入るんじゃなかった!」
なんか嫌な感じがしたんだった。
ドアが消えて戻れなくなった。
そのあと、龍が空飛んでるのを見て……襲って来やがったのを、あのガキに助けられたのか? オレたちは……。
だけどその龍は、城に近づいたら攻撃されて落とされて……。
「チクショウ、思い出したくもねえ!」
オレがナマイキなクソガキをシメ上げてたはずが、なんか逆になってた。
「そのあと……いったいどうなっちまったんだ?」
オレは意識を失って、気づいたらガレキにまみれてた。
その横じゃあ、バケモンとあのガキがバトルしてた。
マジで太刀打ちできるレベルじゃなかった。
オレの直観は逃げろといってた。
落ちてた井口のナイフを拾って、とにかくあの場を離れたんだ。
「よく生きのびたもんだぜ……」
それからが、ホントのジゴクだったんだ。
辺りはバケモンだらけだ。
何度か死にかけた。
井口の奴は、どうなったか知らねえ。
奴は口ばっかだから、こんな世界じゃ生きてけねえだろう。
だけどヤツのナイフには助かった。
使うと光るし、とんでもなく良く切れるし、スゲエ武器になってた。
オレはそのナイフひとつで切り抜けたんだ。
ガチでヤバい敵のときは、息を潜めてじっと隠れ、ザコといえど油断せず、戦うときは不意打ちで殺った。
それを卑怯だとは思わねえ……。
「相手は人間じゃねえんだし――」
そうやってオレは、何匹かの弱っちそうなバケモンを倒すことができた。
なんか光る石が出てきたんで、それを拾っといた。きっと役に立つだろう。
だが、あれからどんくらい時間がたったんだ。
スマホでは時間が狂ってて分からねえが、ロレックスでチェックしてると、一週間とかヘーキで過ぎてやがる。
「ジョーダンじゃねえし」
喉はひりつくし、胃はぺったんこだし、今もゲキつれえのに、なぜだか生きてる。
ぜってーオレは、生きのびてやる。
「なんか食う、そんで飲む」
あの龍を落とした城、あそこには人間がいるんだろう。
クソガキは歌舞伎城とか言ってたな。
あの歌舞伎城までたどり着けば、なんとかなる……たぶんそうさ。
この隠れるトコもねー荒野を、急いで突破しなくちゃなんねぇ。
オレは体力を温存するため、焦って走るんじゃなく、早足で歌舞伎城を目指した。
※ ※ ※ ※
「あれ? 人がいるよ」
黒き翼持つ者が、呟いた。
享楽の悪魔ストラスは、屍の合体した軍団と呼ばれる死霊どもを率い、新宿隠世の荒野を、初台の塔目指して歩いているところだった。
ストラスは地獄の公爵であり、本来知的な雰囲気の男性か、大鴉の姿を取るのだが、今の彼、いや彼女は、なぜだか美しい少女の姿をしていた。
長い黒髪、スラリとした手足。
フレアスカートが広がった真っ黒なゴスロリドレスに身を包み、腰には細身の剣を履いていた。
「なかなか活きが良さそうだし、回収していこうかな~。お前たちは、そのまま歩いてきなね」
「ゔ~~~」
「あああ~~~~」
「分かった分かった、痛くても苦しくても、楽しいことを考えて歩き続ければ、きっと良いことが待ってるって。だから頑張ってね」
生ける屍どもに優しくそう語りかけると、ストラスは背の黒い翼を広げ、空へと駆け上がった。
羽ばたく羽根からは、青いアストラル・ドットが吹き出して、星空にさらなる彩りを加えた。
大地には、その姿を追って哀訴のうめき声を上げながら歩き続ける、26体のレギオンたちが残された。
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相馬吾朗を追って隠世を訪れた
あの生死不明のクズ一男は生きていた!
しかし、彼は荒野を渡り切ることができるのか?
第15章2話は、令和6年10月24日公開予定!




