10. 続シージ・ゲート
― 前回のあらすじ ―
シージ・ゲートの出目は睦樹が不利!
最後の3投目で挽回できるのか?!
「さあ、最後一投で逆転だ!」
国津神様那美様仏様お願いします!
俺は黒くてカッコいい赤目ダイスを振った。
「それ!」
ダイスは転がり、転がり、そして出目は……⑥だ!
「やったぞ!」
「フン! ニンゲンのしっぽの分際で、あたしのダイスちゃんを上回るとは!」
「だいじょうぶよ、コロンバイン。わたくしは勝ちますよ」
「はい、お姉さま。もちろんですのよ」
スノウドロップは、平然と言い放つ。
いいね、こんなクール・ビューティーな妖精をシンにできるとは、じつにイイ!
……と、心の中で自分自身を鼓舞する俺を見て、お約束のブルーベルのニマニマだ。
お前俺の心読めるのか?
いや、表情からいろいろ想像してるんだな、クソ!
俺はクールを装い、黒いダイスをゲートの前に置く。
「さあ、ゲートを閉じさせていただきます」
ゴブリンがパチンと指を鳴らすと、三つのジオラマの門は、コン、コン、コン、と軽い音を立てて上からの落とし扉が閉じた。
すると城壁の上の小さなゴブリン歩哨たちが、槍を立てて気をつけのポーズをする。これはたまらん仕掛けだ。
「ダイスを移動させてくださいませ。先に申しましたように、一つのゲートに複数のダイスを置くこともできます。その際ダイスの置かれなくなったゲートの数値は0となります」
「わかった」
さあ、こちらは②・⑤・⑥。
敵は、⑥・③・⑤だ。
総合計でこちらが13で、あちらが14。僅差だ。
お互い平に並べれたとして、こっちの勝ち筋は、こちらの②が、あちらの⑥に当たり、こちらの⑥とあちらの⑤が当たる。確率的には1/6といったところか。かなり低いな。
負けのケースは、こっちの②とむこうの③がぶつかると、どうあっても負け。確率1/3だから不利だ。
こちらの弱点は②だ。
これを⑤と一緒に置けば、②+⑤=⑦となり、相手のどの目より強くなる。
相手が③と⑤を重ねて⑧にすると、⑦とぶつかると負け。残りのダイスは双方⑥・〇だから、どうあっても引き分けて、
スノウドロップがそういう戦法で来たとして、その負け確率は1/3だ。
それでも、⑥と②⑤でゲートを守れば、相手が平で置いたときの勝率は、相手が②⑤に⑥を置けば必勝、⑤か③を置くケースでも半分は勝利で半分は引き分け。負けが無い!
相手も馬鹿じゃないだろうから平置きはしないと思うが、もしやってくれればほぼ勝利だ。よし、この手で行こう。あとはどのゲートに置くかだ。
俺はヤドゥルを手招きすると、近寄ってきた耳に小声で囁いた。
(ヤドゥル、相手の思考を読むような力は、感知できるか?)
(できるのですん)
(じゃあ、しっかり監視していてくれ)
(承知ですの)
それじゃあ、腹を決めてダイスを置くことにする。
一番右のゲートの前から②のダイスを持ち上げるフリをする。
次に真ん中のゲートの⑤も持ち上げて、左に移動し、⑥も持ち上げる。
再び中央に戻り、さらに右に戻り、⑤を置く。
そして真ん中で⑥を置き、左に移動し終える。
スノウドロップも、フェイクの動きを入れながら、軽々とダイスを入れ替えている。
これは互いに動きで読むのは難しそうだな。
「さあ、いいぞ」
「わたくしも終わりました。ゲートを開いてください」
店主が手を叩くと、右のゲートの扉が上がる。
すると、右のゲートの上の2体のゴブリンが、互いにカチンと槍を合わせる。
もう一度、反対側からカチンと槍を合わせると、一歩後退し向かい合った構えのまま止まった。
右のゲート:スノウドロップ:◯ 俺:②⑤:勝ち
敵のダイスは無い! しまった、そのケースもあったんだった。
あとは1/2の確率で、引き分けか、敗北かだ。
俺の⑥に対して、敵の⑥がぶつかれば、引き分けに持ち込める。
中のゲート:スノウドロップ:⑤③ 俺:⑥:負け
「やら……れた……」
左のゲート:スノウドロップ:⑥ 俺:◯:負け
すべての扉が上がると、勝敗の結果が眼前で明らかになった。
歩哨たちは、全員でエイエイオーとばかりに槍を振り上げる。
店主と店員のちびゴブリンたちは拍手だ。
「やりましたわ! さすがはお姉さまですのよ!」
左側の壁の上に、白い旗がひとつ上がる。
スノウドロップ一勝の印なのだろう。
「あらら~、やられちゃったわさ、にしても……マスターの顔ったら……クフフ……キャハハハハ!!」
「不正はなかったのですん。……残念ですの、主さま。こうなったら絶対に逆転勝利なのですん」
「ああ、頑張るよ」
反対してたのに、応援してくれる。うん、ヤドゥルいい子だ。
仲間ってのはこうじゃなくちゃね。
「スノウドロップ、何で俺の手が分かったんだ?」
「まだ勝負は終わっていません。傲って手の内を明かすような、愚か者ではありませんのよ」
くそ、敵が勝つ配置は、俺の②⑤に、③⑤を当てれば必勝、◯を当てれば1/2で勝てたんだ。
けっこう俺はドジ踏んだのかも。
もっとちゃんと考えなくちゃだ。
ダイスの番号を1~3として、3個のゲートでの配置の組み合わせは、次の 6種類しかない。
[1・2・3][1・3・2]
[2・1・3][2・3・1]
[3・1・2][3・2・1]
ダイスを重ねたやつにも、〇にもダイス番号が割り当てられるので、問題ない。
つまり、6つのケースの中で、何種類の勝ちケースを想定できるかで、勝負の確率が分るのだった。
さっきのだと、敵の勝つケースは3種類あったので、敵の勝率は3/6、つまり1/2というわけだ。
俺の勝ち筋は
[ス:俺]で[⑥:②⑤・〇:⑥・③⑤:〇]
の1ケースしかなく、1/6だった。圧倒的に不利だったのだ。
むしろ思い切って、俺のダイスを⑤⑥としてしまえば、
[ス:俺]で[③⑤:⑤⑥・〇:②・⑥:〇]か、
[⑥:⑤⑥・〇:②・③⑤:〇]
の2ケースの勝ちパターンがある。
勝率1/3、敗率1/3、引き分け率1/3のイーブンにまで持ち込めたか。
これは、ちゃんと読まないと負ける。
「お姉さま、次で決めちゃってくださいませ!」
第二セット。
俺は②を出した螺鈿ダイスを引っ込め、代わりにボーン・ダイスで振った。
出目は、[③・④・⑤]と、真ん中やや上。
敵の出目は、[④・①・⑥]と、極端振り。
さっきとは逆に俺が+1有利となった。
すべてのゲートに1個ずつ置くのが良いのか?
相手が同じように平置きすれば、勝率はイーブンだ。
相手が①④=⑤と、重ねて来た場合どうだ?
[ス:⑥・⑤・〇] 対 [俺:⑤・④・③]
敵の〇に最弱の③で当てて有利にしたとしても、こっちの最強は⑤・④しかなく、⑥・⑤を持つ敵には勝てないのだ。
勝ちケースはゼロになる。
となると敵は必ず重ねてくる。
やはりここは、こっちも重ねるべきだろう。
すると、③④=⑦か。
こちらの勝率は1/3だが、敵は1/6で不利だ。よし、それで行こう。
右のゲート:スノウドロップ:① 俺:⑤:勝ち
え? ①がそのまま来るのか? じゃあ、むこうは平置き?
中のゲート:スノウドロップ:⑥④ 俺:③④:負け
な……んだと!?
左のゲート:スノウドロップ:◯ 俺:◯:引き分け
壁の中央辺りに、三角の小さめの黄色い旗が上がる。
引き分けの意味なのだろう。
「命拾いしたわね! でも次でお終いなのよ!」
やばい。
俺の〇に向こうの①が当たったら、負けていた。
若干不利なときは、思い切って強い目を作ったほうがマシというのは、さっき俺が負けたときと同じケースだ。
つまり、スノウドロップは、このゲームを良く分かってるってことだな。
まあ、向こうがこれで挑んでくるんだからそりゃそうだ。
ここでこちらが最強の⑤④を作ったとしても、相手の⑥④には負けるのだから、勝率は変わらない。
計算と、あとは何をどこに置くかという勝負というわけだ。
俺の真剣に思考するときの表情を見て、ブルーベルがニマニマしている。ほっとけ。
しかし、次の第3セットでも、相手が勝利すればゲームセットだ。
俺は負けずにこの後二回勝たなくちゃならない。
2セット先取戦は、当たり前だが、最初に1セット取られるとかなりキツイ。
第1セット敗北
第2セット引き分け
第3セットは勝って次につなげたい!
作者もそう思う!
第14章11話は、令和6年10月20日公開予定!




