9. シージ・ゲート
― 前回のあらすじ ―
ゲーム用のダイスを五個購入した睦樹
シージ・ゲートがセットされ、ゲームの席に着いた
いよいよデュエルが開始される!
テーブルに着席して改めて店内を眺めると、とても落ち着いた雰囲気だ。
漆喰で塗られた風の壁には木の棚がしつらえてあり、さまざまなゲームが並べられている。
見知らぬゲームが多いが、チェスなど良くあるものも置いてある。
テーブルの上には、城壁と門がセットされている。
城壁の上では、ゴブリンの歩哨が槍を担いで歩いていて、時々ぶつかってケンカをしているが、すぐに仕事に戻る。
これも一種の魔法のようなもので動いているのだろうか?
俺が見入っていると、店主が説明してくれた。
「お気に召しましたか?」
「ええ、このゴブリンの兵隊が凄いなと。どうやって動いてるんです?」
「この小さな歩哨どもは、人形に術式が込められて、仮初の生を与えられたものでございます。簡単な呪ですので、大したことはできません。それに……」
店主はゴブリン歩哨の頭をつまんで、テーブルの上に置いた。
すると、先程生きていたようなゴブリンは、木でできた小さなマリオネットとなって、力なく倒れた。
「……城壁の外に出ると、術式の効果が切れて、元の人形になってしまいます」
「おおー、そうなのか……」
そのとき俺は、ヤドゥルのことを考えていた。
あの子も魂が抜けて、上位ヤドゥルが入ったとき、球体関節人形になってしまった。
もしかしたら、似たような術式で動いているのだろうか?
でも、ヤドゥルはこのゴブリン歩哨とは違い、ちゃんと心があるはずだ。
歩哨を城壁に戻すと、店主がゲームの説明を始めた。
「シージ・ゲートは、基本は六面ダイスの目の大きさを競う、シンプルなゲームでございます。
双方ダイスを互いに見えるようにして、一個ずつ振ります。開いた三つのゲートの前に、順番にダイスを置きます。これを三回繰り返します」
「全部置かれたあと、ゲートが閉じられます。その後、ダイスを自由に移動させることができます。
お互いどのダイスを、どのゲートの前に置いたのかは、分かりません。このとき、一つのゲートに複数のダイスを置いても構いません。
双方ダイスを置き終えたら、ゲートを開きます」
「一つのゲートに置かれた互いのダイスの目の合計を比べ、大きい方が勝ち、同じなら引き分けです。
もちろんダイスを置いていない場合の目はゼロです。勝ちを得たゲートが多い方が1セット勝利です。もちろん引き分けもあり得ます。
これを繰り返し、先に2セット先取した者が、ゲームの勝者となります」
「スノウドロップ、お前が扉を透視できるとか、無いよな?」
「誓って無いと申しましょう」
「妖精が誓ったら、それは絶対だわさ」
「ほかのイカサマも無しな」
「もちろんです」
「誓ってだな?」
「当然です」
「そんじゃ、始めようか」
「人間の方、お名前をお教え頂けますか?」
「ああ、俺は犬養睦樹だ」
「では、スノウドロップ・ピクシー様と犬養睦樹様の、シージ・ゲートのデュエルを開催いたします」
店主が胸に手を置き深々と一礼すると、ちびゴブリンたちが拍手する。シンやピクシーたちも拍手するので、俺も合わせておく。
「アンティとして、スノウドロップさまからは、ご自身と、コロンバイン様を、睦樹様のシンとする権利を。睦樹様からは、小さいオジサンと、プリンス・クロウリーと、ブルーベル様を、シンから解放することが定められました。
よろしいですね?」
「はい、承認いたします」
「俺も、それでいい」
「では、ダイスはこのダイス・ボードの中で、振ってくださいませ。先行後攻は、コイントスでお決めになりますか?」
「いや、ここはレディーファーストで、お先にどうぞ」
「うふふ、では参りますよ!」
スノウドロップはやけに嬉しそうだ。
彼女にとって、ボーリングの玉くらいの大きさとなるダイスを、胸の前に抱く。
彼女はふわりと飛行しながらダイス・ボードに向かい、爆撃のように投擲。
白いダイスが緑のボードの上で舞う。そして出た目は……⑥。
「やったわ、お姉さま!」
いきなり⑥の目とは、まさか念動力はイカサマに入らない、とかナシだよな。
でもまあ、こうなったら変な疑いは止めよう。
きっと彼女の願いが、この出目に込められているんだろう。今後も白ダイスは要警戒だ。
こっちの心中を察したか、不敵にほほ笑むスノウドロップだ。
「俺がダイスを置いてやるよ」
ピクシーにとっては重そうなダイスを、俺はゲートの前に移動させる。
「それじゃあ、俺の番だ」
頼むぞキラキラの螺鈿ダイス。お前が二番目に高かった。⑥を出してくれ!
気合を込めて転がす。……ダメだ、出目は②だ。
「勝ったわね!」
コロンバインは早くも勝利宣言だ。
まあ、どうみても不利だが、まだ挽回はできる――と思いたい。
チラとヤドゥルを見るが、不安そうな目と目が合う。
「妙な力は使われていないのですん」
「そうか、サンキュなヤドゥル」
「当然です。まだお疑いでしたか?」
「いや、どこまでがイカサマなのか、分からなかったのさ」
「わたくしは、純粋に勝負を楽しんでましてよ」
「お姉さま、二投目をどうぞ」
次の青いダイスを受け取ったスノウドロップは、再びダイビング・スロー。
ダイスが踊り終えると、③の面を上にした。
「問題ありませんのよ、お姉さま! しょせん裏切り者のブルーベルのダイスですわ。それでも圧倒してますもの」
圧倒かどうかは分からんが、すべて俺の出目、②を上回っているのは確かだ。
③のダイスをゲートの前に置いてやる。
「俺も二投目だ」
一番高かったバルローグ・トットさん頼むぜ‼️
「頑張るのよさ、変顔の君!」
「行くぞ!」
ダイスが跳ね、転がり、そして出目は⑤だ。
「よっしゃあ!」
「まあまあね……さあお姉さま、コロンバインちゃんのダイスで決めてください」
「ふふ、もちろん……ですわよ」
スノウドロップがダイブしてピンク・ダイスを投げる。出目は……⑤!
「コロンバインちゃんのダイスったら、なんて奥ゆかしくて賢いのかしら。お姉さまのダイスに一歩譲り、かつ最高の出目。オーホホホ、これで勝ちましたわ」
お前は悪役令嬢か。
まあ、それも含めて可愛いといえるんだが。
だがしかし、俺の出目が悪いのは確かだ。ここで一発何とかしないといかん。
第1セットはちょっと不利な出目
第3投に勝負を賭ける睦樹!
第14章10話は、令和6年10月19日公開予定!




