8. 隠世のゲームショップ
― 前回のあらすじ ―
小さいオジサンとプリンス・クロウリーが
ダヌー神族の王族であった事実が判明!
シンの帰属を賭けて、スノウドロップと
睦樹は勝負をすることになった
スノウドロップとコロンバインの魔法で、突如お店が現れた。
「これは、どういった仕掛けなんだ?」
「お店を召喚したのです」
スノウドロップは、こともなげに言う。
彼女は、かなり高位の力を持つ超常の者なのかも知れない。
にわかに中野ブロードウェイ隠世三階で開店した店は、アナログ・ゲーム・ショップのようだった。
売っているゲームは、パッケージされたものはなく、木や石など自然の材料で作られたものばかりだ。
店主と覚しき人物は、俺の胸ぐらいの背丈の亜人だ。
緑色の肌をしていて、鼻と耳がとがり、大きな口と目をしている。
服装はこざっぱりとしていて、革の前掛けをし、黄色っぽいとんがり帽子を被って、先っちょが折れている。
この超常の者は、もしかしてゴブリンでいいのか?
昨今の日本のコンテンツに登場する、化け物じみた凶悪なゴブリンとはまるで違う雰囲気だ。
姿かたちはそれに近いのだが、彼の佇まいは、知的で物静かな感じなのだ。
「ようこそいらっしゃいませ、ハックル・ゲーム・ピットへ。スノウドロップの大姉さま」
言葉遣いも丁寧だ。なんか俺の知ってるゴブリンのイメージと違う。
こっそりアナライズをかけてみる。
【名称:ゴブリン】
[固有名:ホーハックル]
[神族:ダヌー神族]
[分類:小人]
[種族:妖精]
[レベル:7]
[人に近い世界に潜む精霊。多くの亜種がおり、人間に親しいものも、敵対的なものもいる。数も多く、隠世で街を作ることもある。働くことに抵抗のない珍しい妖精たち]
何かゴブリンに対する認識を変えなくちゃだ。
いや、某スライムの王国に住んでいるゴブリンは、凶暴じゃなくて、こんな感じか。
「今日は何を、お求めでしょうか?」
「シージ・ゲートを1セット、ここのプレイング・コートをお借りしてプレイさせて頂戴。ダイスは別途購入させてもらいます」
「承りました、大姉さま」
ゴブリン店主が大きな手を叩くと、より小さなゴブリンたちが現れた。
ちびゴブリンたちは、自分より大きな椅子やテーブルを、頭に乗っけるようにして抱え、たちどころに店の奥の空いたスペースにセットした。
店主が城壁っぽい大きな模型を三個、ガラスケースの中から大事そうに取り出して、セットされたテーブルの中央に並べる。
精巧にできたジオラマのようだ。
岩石を積み上げた城塞の一面だけを切り取ったようで、高さは20センチほど。
長さは30センチくらいで、中央に立派な門がある。
店主は三つの城壁を組み合わせて、一つの長い城壁にした。
一つの壁の上には、鎧を付け槍を持った歩哨のゴブリン兵士が二体ずつ乗っていたが、組み合わせるとそれは、命あるもののように歩き出した。
これは凄い。俺はゲームがあるのも忘れて、見入ってしまった。
「どうぞ、ダイスをお選びください」
店主は、体に不釣り合いな大きな掌で、店のダイスコーナーを示した。
色とりどりのダイスが、木のケースにきれいに並べられている。
「お好きな6面ダイスを三つ購入なさい」
「えっと、ジェムで買うんだよな? 幾らくらいするの?」
「はい、1個10ジェムの格安のものから、10,000ジェムを超える高級品まで取り揃えてございます」
「ヤドゥル、買えるかな?」
「仕方ないのですん。お任せくださいですの」
「ダイスと持ち主には相性があります。良い相性のダイスを選べば、ダイスは持ち主の望みに応えて、良い目を出してくれる確率が上がります」
「マジか……それイカサマとは違うのか?」
「いいえ、望みの力とは、この世界の理。その力がダイスにも及ぶのです。それだけのことですよ」
ってことは、俺の願望の強さで、ダイス目が変えられるってことか?
しかも俺の願望の属性みたいなのによって、ダイスとの相性で良し悪しがあるわけだ。
ダイス選びがかなり難しいな。
これはダイスを買うときから、もうゲームが始まっているといっていいだろう。
「やっぱ高いダイスの方がいいのかな……」
「100ジェム以上なら、値段にはあまり関係ありませんわ。材質が良くなるだけですね。でも、それより安いと、さすがに望みを受ける力も弱くなるでしょう」
「ダイスは3個以上買ってもいいのか?」
「お求めになるのは自由ですよ。でも一度に使えるのは3個です」
「ゲームの中では、何回ダイスを振るんだ?」
「3個のダイスを、ふつう2回から4回振ることになります」
なら、最初に振ったあと、相性が悪いやつは変えるって手もあるな。
さて、どれにしようか?
スノウドロップは、さっさとダイスを選んでいる。
ピクシーたちの色に合わせて、白、青、ピンクのダイスだ。
さっそくコロンバインが、自分の色のダイスを嬉々として振って、遊びだした。
このアホっぽいけどめっぽう可愛い妖精さんを、是非とも俺のシンにしてやるのだ!
さあ、俺の望みよ願望よ、ダイスに宿れ!
と、俺がひとり気合を入れていると、ブルーベルがニマニマしてこっちを見ている。……やりずらい。
「どうぞ、ごゆっくりお選びなさいな」
言われなくても、迷ってごゆっくりになってしまう。
なにせたくさんのダイスがあって、どれも悪くない気がする。
「100ジェムしないやつは、小さいのかい?」
「左様でございますが、こちらの箱の中のものは、小さくとも2,300ジェムのものでございます」
「なぜ高価なんだい?」
「それは名細工師バルローグ・トットの手によるものだからです。材質ももっとも硬質な木材、アイアンウッドを用いております」
いかにも硬そうな名前だ。
「こっちの黒くて目が赤の、カッコいいのは幾ら?」
「その箱のものは、いずれも260ジェムでございます。材質はオーク材になります」
黒以外にも、色とりどりのダイスが並んでいる。
大きさは同じではなく、若干違いがある。
おそらく値段で合わせているのだろう。
「なぜ値札を貼らないんだい?」
「値札を付けてしまうと、安いダイスがいじけてしまい、高いダイスが高慢になってしまいますので……」
ダイス、生き物なのかい。
「値段聞かれるのはいいの?」
「聞いてもすぐに、忘れてしまいますので、だいじょうぶでございます」
どうやら生き物のようだ。
「このキラキラしてるのは?」
「こちらは、塗料に螺鈿を混ぜ込んだもので、1,200ジェムになります」
「ちなみに一番高いのってどれですか?」
「こちらの、ドラゴンの牙を用いたダイスになります。1個47,000ジェムでございます」
貨幣価値分からんけど、きっとかなり高い。
それに今まで現世でもあるような材質名だったのが、いきなりドラゴンときたもんだ。
さんざ迷った挙げ句、カッコいい黒いやつと、バルローグ・トットさんの木彫ダイスと、螺鈿のまざったキラキラのと、象牙っぽい肌触りの店主も何の骨なのか不明という謎のボーン・ダイス、そして大理石のダイスの五つを購入した。
持ってみて、転がしてみて、じっと見つめてみて、なんとなくしっくり来るものを選んだつもりだ。
ヤドゥルが巾着から、キラキラ光るジェムを出して支払ってくれる。
俺たちは、テーブルを挟んで対峙した。
俺は着席しているが、スノウドロップはホバリングしたままだ。
ゲームの席に着いた両者
いよいよシージ・ゲートの戦いが始まる!
第14章9話は、令和6年10月18日公開予定!




