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7. 堕ちたる王と王子

― 前回のあらすじ ―


  青紫の花のピクシー、ブルーベルをシンにした睦樹

  しかし、コロンバインとスノウドロップをギャフンといわせる約束をした

  さて、どうやってそれをなし遂げるのか?

「そこのニンゲンのしっぽ! 覚悟するかしら!」


 次のピクシーを探しに行こうと思った矢先、甲高い声が頭の上から降ってきた。


 見上げると、天井あたりに、ピンクのひらひら妖精さんが浮いている。

 最初に出会ったコロンバインだ。


 探す手間が省けたが、いきなり覚悟せねばならぬらしい。

 さあ、どうやってギャフンと言わせよう。


「超絶カワイイ妖精コロンバインちゃんサマの舎弟ブルーベルちゃんに、何しやがるのよ!」


 コロンバインがくるりと空中回転する。

 しまったと思う間もなく、強引な空気圧に体を回転させられた!


「さあ、ブルーベルちゃん、今のうちなのよ!」

「させぬわ!」


 ひらりと着地した狗神が刃を抜く。


「やめろ、八郎丸!」


 狗神はビクリと痙攣のように震えて動きを止めると、恨めしそうにこちらを振り返る。


「我らが(ぬし)よ、どうか……」

「だめだ」


「早く、ブルーベルちゃん!」

「何言ってるのよさ、コロンバイン」


「え? ブルーベルちゃん……?」

「あーしがいつピクシー・ピンクの舎弟になったってのいうのだわさ」


「そっちこそ何言ってるの。助けに来たのよ!」

「助けるってなぜなのよさ?」


「それは、あんたがお下劣な国津神の(やから)に、捕まっちゃったからに決まってるじゃないの!」


「お馬鹿さんね、コロンバイン。あーしは自分でこのお兄さんのシンになったのよさ!」


「え? いま、なんて言ったの? まさか、あたしの耳どうかしちゃったのかしら?」


「耳じゃなくて、おたくの頭が悪いのよコロンバイン。あーしはこの人のシンに自ら進んでなったの!」


「ひぃ~~~!!」


「分かったらとっととお帰りなのよさ! お馬鹿なコロンバイン!」

「そんな、そんな……ブルーベルちゃん!」


「それじゃあね、コロンバイン」

「おね~さま~~~!!」


 ピンク妖精は泣きながら飛び去っていった。


 その時の引きつったコロンバインの泣き顔と、勝ち誇ったブルーベルの笑みに、俺は思わずクスリと笑ってしまった。


 ブルーベルの変顔好きの気持ちが少~しだけ分かった気がしたが、そこまでは落ちていない……つもりでいたい。


「やったーっのだわ!! コロンバインをギャフンと言わせてやったのだわさ!」


「うん、君の勝ちだな、ブルーベル」


 どうやってギャフンと言わせてやるか、凄まじく難しそうな課題と思ったが、こうも簡単に解決して却って拍子抜けだ。


「よーし、次はスノウドロップなのよさ!」


(あ、まだいたんだった)


「そ、そうだな。どうやってスノウドロップをギャフンといわせようか?」

「彼女はとっても潔癖症なのだわさ。だから、バッチイものを喰らわせてやればイチコロさね」


 バッチイものか……手頃なバッチイものといえば……俺はオイリージェリーに視線を送る。


「キ?」


 ベトベトさんも、触感がバッチイ感じだ。


「ベトリ?」

「ベトン?」


 気配を察して応えるシンが可愛い。

 彼らをスノウドロップに投げつけるとか……ちょっと可哀そうな気もするが……いや、べとべとさんは投げなくとも触手状となった手を伸ばして巻き付ければいい。


 と、しっかり作戦を立てる間もなく、例のピクシーたちがやってきた。

 スノウドロップとコロンバインだ。


「コロンバイン、さっそくお姉さまに言いつけたのよさ。ほんと、可愛くておバカだわさ」


「ブルーベルちゃん、正気に戻ってよ!」


「ブルーベル、あなたは本気でこの蛮族のシンになったっていうのですか?」


「そうさね。あーしはこの国津の変顔持ちが気に入ったのよさ。このマスター一緒なら、楽しいことをたくさんできそうだわさ」


「そう、ならば仕方ないですわね」


「やる気か! 望むところナリ!」

(はや)るな八郎丸、まずは話し合いだ」


「話し合いの機会を頂き、感謝いたしますわ」


 そういうとスノウドロップはすっと俺たち前衛をすり抜け、小さいオジサンの前に降り立ち、その前に(ひざまず)いた。


「お館さま、あなた様までシンになってしまわれるとは。どうかお答えください。その本意(ほい)は何処にあられるのかを……」


「お館さま?」


「このお方は、小さいオジサンなどという、珍妙なお名前になっておりますが、その本体は私たちダヌー神族の王、オベロン様の零落したるお姿なのです」


「え? ちょっと待て、このともぞうさんが妖精の王様?」


「はい、恥ずかしながら、悪魔族に敗れ、かような姿に封じられているのです。そちらの蝦蟇(ガマ)もまた同じく、私どもの王子様なのです」


 スノウドロップは、プリンス・クロウリーに視線を向ける。

 この巨大カエル、ホントに王子様だったのか!!


「わしは……この人の子に名を与えられた。わしの名はともぞうとなった。わしは、ようやく己が何者かを、見ることができるようになったのじゃ」


「おお、王よ、何と嘆かわしきこと……」

「封じられたのを、元に戻す方法はないのかい?」


「王オベロンを戻す方法は、封じた悪魔を倒すほかありません。王子様も同じですが……もしかしたら、人間の乙女の愛の力によって、封印が解けるやもしれません」


「その悪魔はヴァレフォールなのか?」

「いいえ、もっと上位の七大悪魔の一人のはずです」


 今のところ手はなしってことか。

 乙女もいないしな。


「さて、王オベロンが、あなたたちの手にある以上、私は戦いたくはありません」


「それは俺も同意見だ。俺たちは戦う必要などない。むしろ手を取り合って、君たちが俺のシンになればすべて解決だ」


「では、それを賭けてゲームをいたしましょう」

「ゲーム?」


「主さま、邪悪な妖精の言葉に耳をかしてはなりませんの」

「ダイジョブだよ、ヤドゥル。説明してくれ、スノウドロップ」


「はい、私とあなたでゲームをし、私が勝ったら王と王子と、ブルーベルを返していただきます」


「俺が勝ったら?」

「私とコロンバインが、あなたのシンとなります」


「ちょっと、スノウドロップ、あんたって、どうしていつもいつも自分勝手なのよさ! マスターも勝手にあーしを賭けの対象にするって、酷くないわけ?」


「すまん、ブルーベル。ぜったい勝ってみせるから」


「マスターが勝っても負けても、またピンクとシロと一緒ってなぁ~」


「何よブルーベルちゃん! あたしたち、いつも一緒で楽しくやってたじゃない?」


「ハイハイ、あんたらは楽しかったんのよさ~」


「ブルーベルちゃん!」


「その辺にしておきなさい、コロンバイン。あとでじっくり話し合いましょう、ブルーベル」

「はぁ~……」


 ちょっとベットが二対三でこっちが不利だが、これは面白い展開だ。

 俺はゲームは得意だしな。


 それにこんなワクワクのシチュエーション、蹴る道理がない。


「主さま、ダメですん! 罠ですん!」

「いいんだ、ヤドゥル。負けても三人を失うだけだ」


 そう、そのときはまた、頑張ってシンにすればいい。


「いいだろう、どんなゲームだ?」

「では、プレイング・コートを開きましょう」


 スノウ・ホワイトは、ふわりと飛んで、近くのシャッターを降ろした店の壁に触れた。

 すると床から蔦がみるみる生え、シャッターを囲むように広がっていった。


「コロンバインちゃん、お願いね」

「はい、お姉さま!」


 コロンバインが、華麗に宙返りを決めると、突風が巻き起こり、シャッターをがたがたと揺らす。

 すると、ガラガラと音を立てて、シャッターが開いていった。


スノウドロップにゲームを挑まれた睦樹

どんなゲームなのか、お楽しみに!


第14章8話は、令和6年10月17日公開予定!

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