6. ティル・ナ・ノーグより中野へ
― 前回のあらすじ ―
青紫の花妖精を喜ばすために、カオスな踊りを踊った睦月たち
何とか妖精さんのご機嫌を取ることが出来たようだ
俺はドサクサに紛れて、しっかり妖精さんをアナライズしておく。
【名称:ピクシー】
[固有名:ブルーベル]
[神族:ダヌー神族]
[分類:小人]
[種族:妖精]
[レベル:9]
[スキル:催眠の風:一定範囲の対象を眠らせる]
[自然の力が花の精の形をとって顕れた精霊。好奇心旺盛で気まぐれ。楽しいことが好き]
この娘の名前はブルーベルというのか。
今日出会った妖精たちはみな、ピクシーという一族の仲間なのだろう。
そしてそれぞれが皆、花の名前だったようだ。
あ、ともぞうさんは別だな。
踊りに巻き込まれた皆が落ち着いたところで、おもむろにブルーベルは話しだした。
「あーしらピクシーの世界は、常若の国――ティル・ナ・ノーグってのよさー。女王の女神ダーヌさまが知らしめす楽園なのだわさ」
「常若ってことは、もしかして、そこに住む者はみな不老不死ってことかい?」
「もちろんさ~! 誰も老いず、死なず、花咲き乱れ、蜜の川流れて蜂蜜酒も飲み放題ってなもんだわさね~」
「なぜそんなに良いところから、わざわざ日本の隠世にやってきたんだい?」
「だって~チョーゼツ退屈なのさよ~。毎日毎日ず~~~~っとなんにも変わらないのだよ」
「毎日楽しいことばかりしていればいいじゃない?」
「とっくにネタが尽きちゃって、何やってもスカスカなのさ~」
「ネタ切れか。う~ん、それなら、みんなの記憶をリセットするとかできないのかい?」
「おーそれだわ! 忘却の魔法かけまくれば良かったのだわさ! って、それじゃ~レテの天然水飲むニンゲンと同じってことじゃね?」
後半何言ってるのか良く分からなかったが、停滞した世界でいつまでも永らえる生というのは、けっこう辛いのかも知れない。
せめてMMORPGでもあれば、違ったろうに。
インターネットだけでもイイかもしれない。
こうした話は、生きるという意味を、問いかけられるような気がする。
彼女は永遠に平和な世界を捨てて、危険な世界に飛び込んだのだ。
妖精さんたちにとっての死生観は、俺たち定命の者には考えも及ばぬ理があると思ってよいのだろう。
逆に死があるからこそ、人間は次世代につなげるために、あがきまくった結果、進歩してきたってことだろうか? そんな気もする。
となると、妖精さんたちも、無意識的に進化みたいなものを、求めているってことなのだろうかね?
「それにしてもだ。なんで日本、しかも中野?」
「たまたま絆がつながってたしな~、楽しそうだったし~。それに壁とかにカワイイ絵が動いてたのよさ!」
日本のサブカルにハマるガイジンか! 確かにカワイイは、世界共通の正義と言われて久しいが。
「でも、俺は妖精さんの方が、断然可愛いと思うのだけどな」
「う……ま、まあ、あーしのカワイイのは必然だわさ。それと、妖精さんじゃなくて、あーしのことはブルーベルって呼んでいいんだわよ」
ここは勝手にアナライズしたのを伏せて、初めて聞いた風にした方がいいだろう。
このくらいの嘘は許せるよな?
しかし、その演技ができるかどうかだ。
「お、おお、ブルーベル! ブルーベル! 君は花の名前なんだね。とっても可憐で似合ってるぜ。俺は犬養睦樹だ、よろしくな」
だめだ、超不自然だ。
顔もひきつった笑いだった気もする。
ダメだ。人の情けない顔で楽しむブルーベルの目には、すっかりお見通しなのだろう。
「キャハハハ、よろしくなのだわさ、犬養睦樹。あんたの顔はとっても面白くて、飽きないのよさ」
どうやら、面白ければ何でも良いらしい。
よし、ならばここはもう一押しだ!
気合を入れた俺の鼻孔が広がるのを、ブルーベルはニマニマして見ている。
「俺たちと一緒にいると、けっこう面白いと思わないかい? ブルーベル」
「ん~~、まあまあ面白いかもだわさ」
「じゃあ、俺たちと一緒に冒険してみる気はないかい?」
「ん? それってばもしかして、シンになれってことかね?」
「そうだよ。俺たちと一緒に、いろんな体験をしてみないか?」
「そうだわねー」
即否定がないってことは、脈ありだな! あと一押し!
「君の友達のコロンバインとスノウドロップも、一緒になれるとイイしね」
「え? 違うのかい?」
「あいつらは不倶戴天の敵だわさ! 意地悪で意地っ張りで意地汚い! 妖精の面汚しさね!」
しまった、地雷踏んじまったか!?
「同じダヌー神族なのに仲良くできないのかな?」
「フン、あいつらを一緒にギャフンと言わせるためだったら、シンになってもいいのよさ」
おっと、そいつは面白そうだ。
「よーし分かった。あいつらを思いっきしギャフンといわせてやろう!」
「ヒャッハー!! そんならあーしはあんたのシンになるよ。
春には森の下地を青く染め抜く乙女、あーしは妖精ピクシーのブルーベル、こんごともヨロシク!」
「ああ、今後ともよろしく、ブルーベル」
やった! ついに美少女フィギュア的超常の者をゲットだぜ!
ブルーベルがにんまりする。
俺の喜ぶ顔が可笑しいらしい。
しかし、どうやって彼女たちをギャフンといわせるかって?
う~ん……まあ、まずは敵を知ることだな。
ブルーベルからいろいろ情報を聞き出して対策を練ろう。
「主さま、おかしいのですん」
「ん? 何がだいヤドゥル」
「またしても、超常の者とお話だけして、シンにしてしまったのですん」
「うんうん、すごいだろ?」
「すごいですの。同じ神族でさえ、戦って屈服させる必要があるのですん。狗神だって屈服したのじゃなく、エーテルを与えてシンにしたですの」
「だけど八郎丸は、主を求めてたからな」
「我らが主の仁慈に屈服いたしてナリ」
狗神が片膝を付いて額づいた。
精神的に屈服したってことか。
「おう、八郎丸、苦しゅうない面を上げよ。そして立ってのんびりせよ」
狗神は立ち上がり、どうやってのんびりしたらいいのか、きょどっている。真面目過ぎだぞ。
「それでも、ともぞうさんに続き、よその神族の超常の者を、お話しだけでシンにするのは、すご過ぎるのですん」
「そうなのか?」
「ふつうは殺して封魔するですの」
「殺すよりいいじゃないか?」
これはラッキーな結果なのか? それとも俺だけの、特別な力なのだろうか?
「ブルーベル、君はこんな風にシンになるの、変だと思う?」
「あーしはニンゲンのシンになったのは初めてだから、さっぱり分からないのよさ」
「そうか、さっぱりかい。でも、痛い思いするよりいいだろ?」
「もちろんだわさ」
「ヤドゥル、相馬吾朗も封魔でシンにしていたのかい?」
「吾朗さまの臣は国津神ばかりでしたので、戦って勝って臣従させていたですの。他の神族のは、使徒を負かしてもらったのですん」
ということは……俺に超常の者を会話だけでシンにできる、特殊な才能があるってことか。
またしてもヒーロー度アップか!?
これって、ガチで主人公っぽい特徴じゃないか。
今後ともシンにするには封魔剣を使わず、ぜひとも対話で進めよう。
睦月の主人公的特性が明らかになってきた
さて、どうやってスノウホワイトとコロンバインを
ギャフンと言わせることができるのだろうか?
第14章7話は、令和6年10月16日公開予定!




