表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/244

5. 妖精に捧げるナニカ

― 前回のあらすじ ―


  小さいオジサンをシンにしたあと

  青紫の花妖精が現れ、睦月は己を捨ててヨイショする

  妖精さんのお話を聞きたいと乞うのだが

  その対価を行動を求められる

 話で盛り上げるのは、はっきり言って苦手だ。

 なので、さっきもかなり無理をして、ああなってしまった。


 パソコンを前にしてなら、きっとチャットでスラスラと、妄想とかが出てくるはずなのに、今は望むべくもない!


 妖精さんが、俺が無理している表情を面白がってくれたのか、褒め倒したのが良かったのか、今のところさっぱり分からない。


 とりあえず、ここまでは何とかきた。


 さあ、どうする? 妖精さんを喜ばすために、何をしたらいい??

 なんか楽しいこと、今できる楽しいことだ。


 歌う? ――俺高校で同じクラスやつと行ったカラオケ、トラウマレベルだし。


 漫才? ――なんでやねん、問題外。


 踊る? ――イヤイヤイヤ無理でしょ。


 でも、そういやヤドゥルの動きは踊りみたいで可愛かったな。

 うん、そうだ、それしかない。

 それでいけ! ヤドゥルさま、どうかお願い!


「このヤドゥルという、とっても可愛いオートマタが、踊ってみせます!」


「え? え? えええ? どうして宿得が踊るのですん?」


「ヤドゥルしか、この状況を救える存在がないんだ! どうかお願いしますヤドゥルさま!」


「宿得は踊れないですの」


 いや、何とかならんのか、そこ……じっとヤドゥルを見つめる。

 とても困惑している。


 妖精さんをチラ見する。

 なんかニマニマしている。


 ダメ出しか?

 詰みか? これで詰みなのか?


 ええい、ならば仕方ない!!


「じゃあ、俺と踊ろう」


 もうヤケだ。

 失うものなど何も無い!!


 俺はヤドゥルの手を取ると、回りながら踊り出した。

 時折両手を引っ張り上げてヤドゥル・ジャンプ! とても軽いのでひょいと高く持ち上がる。


「わ、わ、わ、わわわわわ」


 もうテンション、上げ上げでイクしか無い!


「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」


 音痴とか、音階とか、そういった既成概念を超越した、俺の歌を聞け~~!!


「わひ、ひ、ひ、ひひひひ」


 そうだ、妖精の踊りといえば、なんか輪になって踊るイラストを見たことある。

 それがイイかもだ。


 いや、それで間違いない。

 それしかナイ!!


「さあ、八郎丸も!」

「我らが主よ、我らは、かような……」


「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」

「ふしゅるるるる~」


 狗神の左右の歯の間から漏れる、空気の抜けた音だ。

 空気と一緒に抵抗する力も抜ける。


 押し切られて狗神も輪に加わった。

 鼻にしわ寄せながら、でも尻尾はシュンと垂れている。


(ゴメン、八郎丸。だが、頑張れ!)


「ベトベトさんたちもだー」


 ぬらりとした体からひゅいーっと触腕が伸びて、俺とヤドゥルと手をつなぐベト1。

 ベト2は俺と狗神と手をつなぐ。

 ちょっと不気味だ。


 しかし、ベトベトさんたちは、嫌そうには見えない。

 もちろん表情はないのだが。


 オイリー・ジェリーは、どうやらこういうのは嫌いじゃないようで、自らベト1の頭の上に飛び乗って跳ねだした。


 足にベトベトさんの体がひっつくので、ヌッチャヌッチャ糸を引いて奇妙なことになっている。


「チュキキッー!!」


 しかし、どうやら楽しいようだ。


 スネコスリとプリンス・クロウリーは、踊りの輪の中に入ってしまう。


 スネコスリはどうしたらいいのかキョドっていて、なるべく俺を正面に捉えようと、うろうろするように回転しだした。

 その姿、とても愛らしい。


 それに対してプリンスは不動のまま、足をパタパタさせている。

 なんか、参加したいようだ。


「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」

「ぶお、ぶおおおおおおお~~~~」


 プリンスが吠えた?


(ウロウロ……)


 スネコスリは、俺を見ながらプリンスの周りをウロウロ回っている。


「さあ、ともぞうさんも」

「「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」」

「ぶおおおおおおおお~~~ん」

(ウロウロ……)

「キキーキキー!」


 ちいさいオジサンは、か細く唱和してくれた。

 オジサンの歌の方が、断然音取れているので、俺はそれに合わせることにする。


 オイリー・ジェリーは、よほど楽しいのか、興奮して叫びだした。


 背丈のギャップで、もう輪はガタガタだが、いよいよ俺は最終ターゲットを巻き込もうとする。


「さあ、君も一緒に!」


 俺は妖精の小さな手を指先でそっと持ち上げ、一緒に回る。


「「「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」」」

「ぶほぶおおおおおおおお~~~ん」

(ウロウロ……)

「キキ?」


 妖精も歌いだした。じつに美しい声だ。

 しかし、もうカオス、カオス過ぎる。


「「「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」」」

「ぶ、ぶほおおおおおおおお~~~ん」

(ウロウロ……)

「主さまあ……」

「クーン」

「キキキキー!」


「「「妖精さんのお話し聞きたいな~~!♪」」」

「ぶぶぶほおおおおおおおおお~~~ん」

「チキキキキー!」

(ウロウロ……)

「キャハハハハハハ!」

「妖精さんが笑った~~」


「キャハハ、あんたたち、どんだけバカなのよさ?」

「「妖精さんのお話聞きたいな~~♪」」

「ぶっおおおおおおおお~~~ん」

(ウロウロ……)

「チュキッキキーキー!」

「キャハハハ! こんなドイヒーなダンス初めてだわさ!」


「え? やっぱダメだったのか?」


 こんなに己を捨て去り頑張ったのに!


「キャハハ! その顔!! サイコー! それにあんたのシンたちの情けない様子ったら! キャハ、キャハハ、キャハハハッ! こいつぁたまんねーさねー」


 妖精は宙で転げ回って笑っていた。

 どうやらご満足いただけたようだ。


 だがしかし、俺の精神的HPへのダメージは振り切れてる。


 俺は俺という人格をどこぞに放り投げ、すでに俺ではない何かになってしまっていた。

 さらば俺……。


 では俺とはいったい誰だったのだ?


 いつの間に相馬吾朗の夢的共鳴者になっていたり、国津神の使徒になっていた時点で、そんな深層に紐づけられるアイデンティティの諸問題など、俺にとってはもはや贅沢品といっていいのだろう。


 もう、どうにでもしてくれ。


何とか妖精の興味を惹くことができた

この流れでシンにすることができるのか?


第14章6話は、令和6年10月15日公開予定!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ