3. 青紫妖精の歪んだ愉しみ
― 前回のあらすじ ―
白い妖精スノウドロップと出会い
幸せにされて蹴飛ばされた睦樹
さらにまた翅妖精が……
現れたのは、青紫系の花の妖精だ。
明るい緑色のショートヘアの上に、可愛い帽子を被っている。
それは小さな釣り鐘型で、青紫の花を象っているようだ。
口角がきゅっと上がり、可愛いくとがった鼻先をしている。
目は大きくやや切れ長なのだが、目力がすごいのが特徴だ。
衣装も帽子と同じ青紫で、ミニスカートは花びらのように可憐。
背には蜻蛉のような四枚翅があって、ホバリングしながら敏捷に動いている。
彼女の四肢も細くて長く、その華奢な美しさは翅とのバランスが絶妙に良い。
細部も繊細で、トータルでも素晴らしい造形美を見せてくれているのだ。
できるなら時を忘れて、ずっと愛でていたい。
「おのれ妖虫!」
「八郎丸、ハウス! じゃない、控えろ!」
「ぐるるるる……」
狗神は刃を抜き、歯をガチガチ言わせながら唸っている。
都合三度目なんで、かなり苛ついているようだ。
「ダメだぞ、八郎丸。みんなも手を出すなよ」
プリンスも口をムニュっとするが、我慢している。エライぞ。
「主さま、まだ妖精を信じるのですん?」
「ヤドゥル、別に騙されたって、良いじゃないか」
「主さまぁ~~」
「ふうん、シンをちゃんといい子に育ててるのかも?」
「そうかな? でもまだ二日目だけどな」
「え? ガチマジで? あり得ないかもだわさ」
「ヤドゥル、そんなにシンに言うことを聞かせるのは難しいのか?」
「それなりに難しいのですん」
(ってことは、俺ってもしかして超スゲー使徒?)
「おー、なんか鼻の穴が膨らんでやがるのだわ! ちっと面白い顔かも」
「もしかして、お前オモシロイ顔を見にきたのか?」
「それ以外に、ニンゲンに遭う理由なんてあるんかよのさ?」
こいつはまた、かなり歪んでるな。よし、ならば目にもの見せてくれるわ。
「それじゃあ、よーく見てろよ」
俺はぐいっと頭を下げて、顔を妖精から見えなくさせる。そして手で思いっきり頬を上にお仕上げ、唇を突き出すようにして歯をむき出して、さらにベロンと舌を出した。
目はひん剥いて寄り目にする。
ニートになる前、高校時代に鍛え上げた、鉄板で爆笑取れる変顔を作り上げると、ぱっと顔を上げた。
「プッ……あ、主さま……や、やめて……ぷひっ……ぷいっひひひひ……」
ヤドゥルは口を抑えて耐えている。
やった、これで妖精の受けをばっちり……
「なんじゃあそりゃ? さいてーにツマラネエのだわ!」
「え? 自信作だったのにな? なぁ、笑えただろ、ヤドゥル?」
「くぴひひひ……」
ヤドゥルはまだお腹を抱えている。しかし……
「ぜーんぜんダメダメなのだわさー。わざと笑わせようとした面なんて、何の面白味もねーじゃないのよさ!」
「それって、ただ俺のマヌケ面を楽しみに来たってことか?」
「別にマヌケじゃなくてもイイのよさ。人として、こう……なんか味わい深~い……顔ににじみ出てくるぅ~、無様さーとか、惨めさーとかがぁ、上物なのだわさ!」
この妖精、性格最低だ。
だがしかし、こんな可愛い妖精に蔑まれるような言動をとられても、憎みきれないわけなのだが……さては俺は変態なのか?
うむ、変態でもイイ!
それに、こんな娘たちを斬って封じるなんて、想像もつかない。
何とか会話でシンにできないものかと考える。
「我らが主よ、ここまで虚仮にされて見過ごすナリや?」
「この程度、可愛いもんだと思わないか? 八郎丸」
「主さま、侮辱をそのまま許しては駄目なのですん。舐められるですの」
「なんか、あんたのシンどもはやる気みたいなのよさ」
「いや、俺は戦うつもりはないんだ。もっと話し合ってみないか?」
「話し合っても馬鹿にされるだけなのですん」
「左様ナリ。時間の無駄ナリ」
「なんか飽きてきちまったから、もういいだわさ。お疲れ様だね~~」
妖精の体がふわっと青白く光ると、俺の意識がふっと暗くなる。
気がつくと、ヤドゥルの心配そうに覗き込む顔がすぐ目の前にあった。
「主さま~~、だから言いましたのですん」
「あれ? 俺どうしたんだ?」
「あの妖精の術で眠らされていたですの」
「まいったな。彼女たちの術を封じないと、なんともならないな」
タイミングがうまく取れず、アナライズを仕掛けることもできなかった。
今度はぜひスマート・ノートを活用して、攻略法を考えたい。
起き上がって傍らを見ると、狗神もやられたらしく、いぎたなく床で眠りこけて鼾をかいている。
ジェリーもペタンと潰れたように寝ている。これはこれで可愛い。
少し後ろに離れていたスネコスリ、ベトベトーズ、プリンスたちは無事だ。
「ヤドゥルは眠らされなかったのか?」
「宿得にはあんな術は効かないのですん」
「すごいぞ、ヤドゥル」
人形だから効かないのだろうか?
久々に見たヤドゥルのドヤ顔も可愛いぞ。
その後、再び妖精に出会えないかと歩き回っていると、いかにも小悪魔っぽい姿の蝙蝠羽根で飛ぶ奴らが三体現れた。
(これじゃあ無いんだよなあ……)
偵察で先行していたジェリーが慌てて逃げ帰ってくる。
背後に三つの火が現れ、火の玉となって追いかけてきた。
「ジェリー、避けろ!」
飛来する火玉を右に左に避けつつ、二個までは躱したが、三発目が尻尾に命中した!
どうやら火玉は目標をロックオンして、追尾するように向きを変えるのだ。
それを二個まで避け、最後のも体に当たらなかっただけでも、かなりの上出来だろう。
尻尾が燃えながら「キーキー」言ってこちらに突っ込んでくるのを、俺はパンと手で押さえて消火してやる。
さあ、集団との遭遇は初めてだ。
距離があったので早速アナライズすると……
【名称:インプ】
[固有名:なし]
[神族:悪魔族]
[分類:下魔]
[種族:ファミリア]
[レベル:5]
[最下層の悪魔で、魔女、魔法使いの使い魔としてもよく使役される。]
「インプか……種族ファミリアってことは、出花に使役されてるってことなのか?」
それが使い魔のことだというのは、記憶から思い出していた。
黒猫のビネガー・トムもファミリアだった。
だが、使役し得る種族ってことなのかも知れない。
あるいは魔法で作り出されたってことなのかな?
まあ、この辺は当てずっぽうだけど。
その姿は褐色の醜い小人に、蝙蝠風の翼がついていて、空を飛べる。
体の割りには小さな翼で、あれで良く飛べるのかと思うのだが、現世の物理法則とは違うのである。
その辺をヤドゥルに尋ねると、「たくさんのアストラル・ドットを、翼から湧出しているのですん」とのこと。
なるほど奴らがパタパタとやるたびに、埃みたいなのが翼から出ている。
あれを浮力にして飛んでいるのか。
新たに作られた火玉が、俺めがけて次々と飛んでくるが、大きさも速さも野球のボールぐらいだ。
動体視力も向上している俺は、難なく槍で切り裂いて消滅させる。
「さあ、みんな! 今回は思いっきりやっていいぞ!」
さきほどの我慢がストレスになっていたのか、プリンス・クロウリーと、狗神八郎丸が大活躍で、俺は止めを刺すくらいしか役割がなかった。
プリンスの舌が、素早く飛び回るインプを絡め取る。
引っ張られるのを飛翔で抵抗するので、地面に叩きつけられた。
俺が駆けつけて止めを刺す。
残念ながら封魔には失敗したが、同じ感じでさらに一体を仕留め、そのあとプリンスが美味しくいただきました。
哀れなりインプ。
その間残る一体には、狗神がジャーンプ! アンド、スラッシュ!
素早く翼に切り付けて叩き落した。
そのまま切り刻まれる横で、ベトベトーズがおこぼれを頂戴する。
哀れなりインプ。
妖精たちは三人で打ち止めか?
しかし、睦樹はまだ諦めてはいないだろう
第14章4話は、令和6年10月13日公開予定!




