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2. ダヌー一族の白い妖精

― 前回のあらすじ ―


  ピンクの翅妖精コロンバインと出会い

  すぐに風で転ばされて逃げられるが

  絶対コレクション――ではなく、シンにすると誓う睦月

  そしてふたたび妖精が……


 それは先ほどの蝶の翅の可愛いらしいコロンバインとは、別の妖精だった。

 白色系の清楚で可憐な雰囲気の美少女だ。


 長い金髪を優雅に風になびかせている。

 伏し目がちで切れ長、その涼やかな目の内に秘めたる瞳は、憂いを帯びた深い緑だ。


 少し大人びた細い顔立ち。

 そして口元には、謎の微笑(びしょう)を浮かべている。


 白い袖なしのワンピースは、裾が花びらのように広がり分かれて、そこから色白のしなやかな手足が伸びている。


 蜂のような前翅後翅が重なった美しい翅を震わせて、ホバリングしている。

 ときおりこちらを確かめるように素早く動くのだけれど、乱れぬ姿勢が実に美しい。


 さきほどのコロンバインとは、まったく趣の違う清廉なる美だ。

 輝くようなこの美しさを、いろいろな角度から鑑賞してみたい。


今度(こたび)こそ返り討ちにしてくれるナリ」


「待て、八郎丸! ヤドゥルも、みんなも手を出すなよ!」

「ぐるるるるる……」


「主さま、妖精を信じてはだめですん! あれは邪悪な存在ですの!」

「まあまあ、まずは落ち着けみんな」


「ニンゲンにしては、紳士的な振る舞いを心得ているようですわね」


「紳士ってのは、人間社会の階級のことじゃないのかい?」


「私たちダヌー神族が、イングランドの野卑な獣のような人たちに、教えてさしあげたことですのよ」


 ダヌー神族は初耳だ。あとで調べよう。


「ああ、なるほど。君ら妖精がイギリス人を導いたってことなのか」


「むかしむかしの話ですわ。そう、まだケルト人はまともでした。彼らは自然を深く敬っていましたし、私たちを尊崇していたのですのよ。しかし、その後に来た輩ときたら、卑しむべき盗人ばかりでしたわね」


 この辺なら知ってるぞ。ケルト人ってのはヨーロッパの先住民族で、後から来たゲルマン人に支配されたり、追いやられたりした。


 イギリスではウェールズやアイルランドに残っている人々だ。

 スコットランド人もケルト系だ。


 要するにイギリスの端っこに追いやられて残された人たちがケルト人で、イギリスの中心にはゲルマン人がいる。


 歴史を紐解けば、ゲルマン人でもアングロ=サクソン人と、ノルマン人とで戦ったりとかいろいろあるが、超大雑把にいうと、そういうことだ。


「彼らは森を壊し、人からも大地から奪うばかり……」


 この妖精さんは、ゲルマン人がお嫌いらしい。


「その点、日本は、国土の七割が森なんだぜ」

「あら……日本はハイテクの世界で、そのくせスマートとはほど遠い、ごちゃごちゃしたビルディングばかりかと思っていましたわ」


 なんかこの妖精さんの知り得た情報、偏ってないかね。


「都市部はそうかもだけど、未だに山や森や島が、信仰の対象になったりするしね。自然を敬うということは、そのまま精霊信仰に通じるでしょ? 日本の八百万(やおよろず)の神への尊崇へとつながってるんじゃないかなぁ」


「まあ、さすがは国津神の使徒ですわね。理解が早いようですわ。私たちダヌー神族も、そうした自然と結びついた神々ですのよ。トゥアハ・デ・ダナーン、女神ダヌの一族は、かつてはヨーロッパ全土で崇拝されていました。日本の八百万の神々のように、人々の身近に存在し、息づいていたのですわ」


 白い妖精は、遠くを見るような目で、しばし虚空を見つめていた。


「……ところで、その後ろで担がれているプリンス・クロウリーは、あなたのシンでらっしゃるの?」

「え? そうだけど?」


「いったいどこでその方をシンにされたのかしら?」

「高円寺の隠世だよ。そこで一番強い超常の者だった」


「大事にされてるかしら?」

「そりゃあもう。何度も助けられているしね。頼りにしている」


「素晴らしいわ。ではこのスノウドロップが、ご褒美をさしあげてよ」


 言うが早いか、俺は何か不思議な温かい光に包まれた。


 緊張の糸がふっと緩む。

 ほうっと大きな吐息が自然に漏れる。


 今まで抱え込んでいた苦難や絶望やかすかな希望さえも、もうどうでも良くなり、とっても気が楽になった。


(なんか幸せだぁ……)


 そうか、そうなのか。

 幸せってのは、こうして何もかも捨て去れば簡単に手に入るものなのか……

 そんな多幸感に満たされていたときだ。


 頬に突き刺さる痛みと共に、罵声が飛んできた。


「ニヤけた顔が気持ち悪いのですわ!」


 スノウドロップが俺のすぐ目の前ゼロ距離にいる。

 衝撃で歪んだ俺の頬には、その細い足先が深々とめり込んでいた。


「んがっ……」


 俺がリアクションを取る前に、飛翔妖精はブンッと鈍い羽音を立てて、すでにどこかへ飛び去っていた。


「なんだなんだ、なんだったんだ、いったい!」


「主さま、だから信用してはいけませんのと……」


「ダヌー神族ってどんな奴らだ?」


「欧州土着の神々ですの。北欧の乱暴なアース神族や、中東から来た悪魔族、天使族に追われて、今では数が少なくなっているのですん」


「なるほどな」


 ダヌー神族は国津神族に、ゲルマン人のアース神族は天津神族に対比できるのかもだ。知らんけど。


「それが何で日本に?」

「不思議ですん、なぜでしょう?」


「お前も知らないのか、かなり謎なんだな」

「ごめんなさいですの……」


 かしこまって頭を下げるヤドゥル。


「イヤイヤイヤ、知らなくても謝らないって約束たぞ。ほんと、謝ることじゃあないんだから」


「あぁ……はいですん」


 どうやら忘れていたようだ。それとも、今も謝ろうとしたのかもしれない。


 スノウドロップと名乗る妖精が語っていたように、日本の八百万の神々――ほぼほぼ国津神だろう――と、ダヌー神族とが近い信仰を集めていたから、日本に親和性があったってことだろうか?


 しかし、ダヌーの妖精たちが、他の直接攻撃してくる連中と、一緒に現れないで良かった。

 その組み合わせで来られたら、かなり危険な戦いを強いられたろう。


 この戦闘バランスはRPGと変わらないわけだ。

 こちらのチーム編成でもそれを考えていくべきだろう。


 ますます、彼女らを手に入れたい。


「なーんだ、そんなに変な顔じゃねえのだわ」


 唐突に失礼な言を放つのは、またしても新手の妖精さんだった。


妖精たちの気まぐれに翻弄される睦月だが

それをも楽しんでいる様子

さらにまた、新たな妖精が現れたがが……


第14章3話は、令和6年10月12日公開予定!

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