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1. 花咲ける桃色の妖精

― 前回のあらすじ ―


  悪魔カンビヨンの情報を少し大黒猫から聞き出す

  中野ブロードウェイ隠世三階の通路で

  ループのトラップを見破ると、妖精が現れたところ


 その大きさは、俺の肘から伸ばした指の先までくらい。

 小さくて愛らしい妖精の姿だ。


 明るい赤毛のショートヘアを揺らす、まごうことなき美少女である。


 大きな赤茶色の瞳は、ややたれ目で愛くるしい。

 ちょこんと乗った小さな鼻とは対照的に、大きな口はいたずらっぽく微笑んでいる。


 ピンク系の蝶の翅をゆっくりと羽ばたかせ、目の高さより少し上に浮いている。

 手足が細くて長く、とても繊細な印象を与える。


 うす紅色の短衣(チュニック)には、二枚の花びらのような上スカートが付いていて、その下からは黄色の柔らかそうなフレアスカートが覗いている。


 日本で最高峰に出来の良いフィギュアでさえ、比ぶべくもない絶対的可憐さだ。

 フィギュアを超越した造形美といえる。


 なんたって、生きてるし、それだけに緻密だし、可動するし。


 俺は状況も何もかも忘れて、しばし見とれていた。


「何ジロジロ見てるのよ! このドスケベ!」


「主さま、これは邪悪な妖精ですん!」

「ちょっと待て、みんな……」


「我らが手柄を頂戴したいナリ」

「いや、ダメだ。待つんだ八郎丸」


 いかん、ヒラヒラ飛ぶ姿を見て、プリンス・クロウリーが色めき立っている。

 あ、今、口をムニュっとさせた!


 俺は慌てて巨大蝦蟇の前に、両手を広げて立ちはだかった。


「ダメだ! 食べちゃダメだプリンス、まずは話し合おう」

「話シ合ウ、ボクワカッタ……ヨ」


「ふう……エライぞ、プリンス」

「話シ合ウノアト、食ベルネ」


「それもダメだ! 妖精さんとは話すだけ!」


「話? この超絶かわいいコロンバインちゃんサマとお話したいの?」


「そうだよ、超絶かわいいコロンバインちゃんサマと、俺は是非ともお話がしたいんだ」


「ハァ? ニンゲンのしっぽみたいなあんたが、超絶かわいいコロンバインちゃんサマとお話ができると思ってるの?」


「今すでにお話しているよ」

「ハッ! あたしとしたことが!!」


 コロンバインが、にわかに空中でくるりとバク転すると、ゴウッ! と突然の激しい風音が耳を(ろう)した。


 俺の体がふわりと浮く。


「わわわ!!」


 世界が回転して、俺は仰向けにひっくり返り、後頭部と背中をしたたか打ち付けた。


 頭をさすりながら起き上がると、シンたちも皆ひっくり返されている。

 狗神だけは一回転してひらりと床に舞い降りた。


 ベトベトーズはひっくり返っているが、プリンスは重かったのかそのまま落ちて、何事もなかったかのように佇んでいる。


 コロンバインの姿は、影も形もない。


「何が起きたんだ?」

「風の術式ですん」


 尻もちを付いたヤドゥルが、ぴょこんと起き上がりながら言う。


 どうやら突風を引き起こし、俺たちはみな足を(すく)われたようだ。

 その間にコロンバインは、どこかに行ってしまったというわけだ。


「だから言ったのですの。妖精とは、邪悪な存在なのですん」


「このくらいでは、邪悪とは言わないよ、ヤドゥル。俺たちダメージすら受けてないんだぜ? さっきのカンビヨンとかが、邪悪だってのは分るけどさ」


「むぅ~~、とにかく妖精は意地悪なのですん!」

 ヤドゥルは過去に妖精たちと、何かひと悶着(もんちゃく)あったのだろうか?


 それにしても、ニンゲンのしっぽとは何だろう?

 もともと人には尻尾はない。

 あり得べからざる余計なものって意味か。


 あったとしても邪魔で意味がない。

 そう解釈すると、酷い言われようだな。


「まあ……意地悪かも知れないな」

「それに、主さまが話し掛けているのに、いきなり風術で襲うなんて、ひどい輩ですの」


 いや、それほどではないだろう。

 きっと、かなり気まぐれであるだけだと思う。


 それがヤドゥにとってはひどい輩、ということになるのだろうけど……。


「ひどい奴かも知れないけど、俺はそんな悪い奴だと思わないよ。むしろコロンバインをシンにしたいと思うんだが……どうでしょうか、ヤドゥルさんとしては?」


「あんな凶暴でヒラヒラしたのは、信頼に足らないですん」

 どうにも虫が好かないようすだ。


「でもほら、うちのパーティーに飛べるやついないだろ?」


 実はコロンバインの美少女フィギュアを超える、見事な造形美に惚れ込んだってのがホントのところなんだが、正直に言ったら確実に呆れられるだろう。

 俺の株落ちまくりでストップ安だ。

 ここはシンにしたい理由付けを、ちゃんとしておかなくてはだ。


「だから……シンにしたらいろいろ使えそうじゃないか。あの風魔法だって、転ばせるだけじゃなく、ほかにも応用が効きそうだし……」


 ヤドゥルは呆れることはなかったが、ちょっと哀しげな表情で考え込んでいる。こんな表情は珍しい。


 どうしたヤドゥル……まさかのジェラシーとかか?

 コロンバインがパーティーに加わって、「今日から始める隠世ハーレム生活」になることでも懸念しているのだろうか。


 美少女フィギュア的妖精に幼女人形、それに本当の美少女フィギュアのアストランティア――だがしかし、俺は手を出しようが無いので――倫理的には何の問題もないのだが、趣味的には偏り過ぎだろう。


 幼女人形は別に俺の趣味ではないが、押しかけ女房的な亞人キャラ設定としては悪くない。

 超メシマズ属性とかも付与すれば、今どきのドタバタ・ラブコメの出来上がりだ。


 などと、愚にもつかない妄想に逃げてはいかんのだった。

 ヤドゥルはなぜ哀しいのか?


 ……ううむ……分からん。

 ならば……聞いてみるしかないか。


 現世の俺には、こうした他者とのコミュニケーション能力が欠けていた気がする。

 もしかしてキップルだった俺が、隠世ではトレジャー化したとかアリなのか?


 確かにレベルが上がるにつれ、運動能力的なものは確実に上がっている気はするのだが、精神的なものも向上してるんだろうか。

 いや、今はその考察は後回しだ。


「ヤドゥル、妖精をシンにするのがそんなに哀しいのか?」

「そんなのは哀しくないのですん」


「じゃあなんで、哀しい顔してたんだい?」

「宿得が哀しい顔を? ……むぅ……それは……きっと、飛べないからですの」


「飛べないって……そんなことなのか?」

「主さまにはそんなことでも、宿得には残念なことですん」


 意外な答えだった。

 デスペナルティで能力が落ちたことを、けっこう気にしたのだろう。


 本来のヤドゥルなら、もっと俺の役に立てるのにとか、思っているに違いない。

 内心では、さぞ悔しいんだろうな。


「ヤドゥルは、今のままでも充分役に立ってるぞ」

「むうぅぅ……」


「そうだ、ヤドゥルが以前の力を取り戻すには、どうしたらいいんだ?」

「それは……仮面を手に入れるのですん」


「仮面? その仮面はどこかで売ってるのか?」

「売ってることもあるですの」


「じゃあ、中野のショップにはあるかな?」

「たぶん無いのですん」


「どこならありそう?」

「あるときが来れば、あるのですん」


 なんだ、その禅問答は?


「難しいな、それ……」


 何か仮面を得てランクアップ的なイベントが必要で、そのためには、条件が揃わないとならない……と、俺のゲーム脳は語るのだが、まあ、今はそういうことにしておこう。


 より優先順位の高い事態が、ただ今発生したところだ。


 再び翅妖精が、現れたのだ。


第14章がスタートしました!


面白かったら、ブックマークへの追加や、お気に入り登録、★での評価、SNSでのシェアなど、是非ともよろしくお願いいたします。


  ※  ※  ※  ※


再び妖精さん登場!

もしかして、14章の方が出会いを求める系だったかっ!?


第14章2話は、令和6年10月11日公開予定!

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