12. 閉じられた萌え萌えロード
― 前回のあらすじ ―
幼女悪魔カンビヨンを狗神が倒し
捉えられていた睦樹の精神は戻って来た
睦樹は倒れていた大黒猫を回復させる
化け猫がまだ倒れているのをいいことに、アナライズもさせてもらう。
【名称:ファントム・キャット】
[固有名:ビネガー・トム]
[神族:悪魔族]
[分類:下魔]
[種族:ファミリア]
[レベル:8]
[魔女、魔法使いの使い魔としてよく使役される黒猫。影をよく用いる]
レベル8って俺とタメかよ。
俺はもっとレベル上げないと、やってけないな。
「おい、お前は出花んとこの黒猫か?」
「うぅ…余計なことを……」
「余計なことって、回復させたことか? お前このまま死ぬところだったぞ」
「不覚を取った(ニャ)」(ニャ)は俺の妄想付加語尾属性だ。
「お前は出花のシンだよな? どうしてこうなった?」
「カンビヨンの実験体に、給餌しに来ただけだ(ニャ)」
「餌やりに来て、自分が喰われてりゃ世話ないな」
「ヂューヂュー! ぶっ殺チュ!!」
「ジェリーはしばらく黙ってるんだ」
「チュー……」
「で、カンビヨンの実験体って、何をやってたんだ?」
「ニャ、口を滑らせた(ニャ)。聞かなかったことにしてくれ(ニャ)」
(ニャって自分で言った!)
「すまんが俺もその実験体に襲われたんで、殺してしまったぞ」
「構わない(ニャ)、代わりはまだ幾らでもいる(ニャ)」
その言葉の正しさを補完するかのように、遠くで幼女の泣き声がする。
「あーん…あーん…あーん…」
「分かったか(ニャ)? 詳しくは説明してやれないが(ニャ)、ここは構わず、立ち去ってくれ(ニャ)」
ちょっと弱気になった化け猫を弄りたくはあったが、ここは大人しく引こう。ただし……
「その代わり教えてくれ。安全な下り階段に行くにはどのシャッターを開けたらいい?」
「いいだろう(ニャ)……」
俺は不満爆発のオイリー・ジェリーを、プリンスの舌で捕縛してもらいつつ、教わったシャッターの錠を内側から外し、通路に出た。
「ヂューヂュー!! 化け猫ぶっ殺チューー!!」
「分かった、分かった、今度遭ったらぶっ殺すよ」
その後は超常の者に出くわすこともなく、狗神の案内で階段に向かって進んでいた。
ホントは戦ってレベル上げないと、ボス戦で詰むんじゃないかと心配なのだ。
もはや見慣れたリリカルなシャッターの動画を、鑑賞する余裕までできた。
ピンクのキャンディーとアイドル美少女、水着の美少女たち、ミントのカップアイスと無口系美少女、オレンジのマカロンと眼鏡っ子、ダンスをするツインの美少女、マシュマロとマフを身に着けた美少女、ピンクのキャンディーアイドル美少女、水着の美少女たち……
なんかちょっと前に、似たものを見ていた気がする。
「なあ八郎丸、俺たちさっきから同じところをぐるぐる廻ってないか?」
「我らの鼻も同じことを感じておりますナリ」
「どういうことですの?」
「八郎丸の案内があるっていうのに、なぜか俺たちは同じ場所を何度も歩かされてるってことだよ」
「どういうことですの??」
ヤドゥル、お前までループしてどうすんだ。
「おそらく何らかの仕掛けにはまり、我らは惑わされているナリ」
「ということは、仕掛けを見つけなくちゃな。ジェリー、なにか怪しいものがないか、探ってみてくれ」
「チチイィッ!」
油染みた毛をした大ネズミのオイリー・ジェリーが先駆けていく。
少し行った先の丁字路の角を右に折れて、姿が見えなくなった。
俺たちも仕掛けがないか探りながら、慎重に進んでいく。
ジェリーが曲がった丁字路は、左右に分岐している。
どういった理由でジェリーはここを右と判断したんだ?
左はなぜあっさりと却下された?
俺が立ち止まって考えていると、水干に烏帽子姿の狗神八郎丸に先導されたシンたちは、ジェリーと同じように右に曲がる。
俺は急いで角まで走り、狗神を呼び止めた。
「八郎丸、ここは右で合っているんだな?」
「左様ナリ」
「分かった」
ならいいだろうと、俺も皆に付いていく。
次の丁字路はまっすぐと右に道が別れているが、ジェリーは迷わず右に曲がって行った。
すでに何らかの罠が発動されているのかも知れない。
この段階で、最初に進んでいた方向と真逆に、ジェリーは進んでいるのだ。
一行は角までやってきて、疑問も持たずにやはり右に曲がっていく。
周囲の壁面は見慣れたものだ。
「八郎丸、ここも右に曲がるのかい?」
「左様ナリ」
「分かった」
角を曲がって少し行くと、ジェリーは少し先で立ち上がってこちらを振り向いて待っていた。
俺を確認すると、再び前を向きチョロチョロと走っていく。
そして左右に道が別れた丁字路で立ち止まり、再び立ち上がって少し周囲を警戒した後、また右に曲がっていく。
どうもぐるっと一周しそうだ。
俺たちも角までやってくる。皆右に曲がっていく。
「八郎丸、ほんとうにここも右に曲がって良いんだね?」
「左様ナリ」
「分かった」
やれやれ、完全になにかの術中にハマっている。
どうにかしないと、一生ここを抜け出せないぞ。
角を曲がると、ジェリーはときおり辺りを伺いながら壁沿いに走っている。
そしてまっすぐと右に曲がる丁字路で立ち上がり、空気をかぐように鼻をヒクヒクさせると、右に曲がって行った。
これで確実だ。これで元の場所に戻る。
急ぎ足で進んで角を右に曲がると、全速力のジェリーの後ろ姿が見えた。
「ジェリー、そこの角で待て!」
「チ?」
「我らが主、いかがなされしナリや?」
追いついてきた八郎丸が尋ねる。
「分からないのか? 今いるのは、俺達が仕掛けがあるんじゃないかと話し合った通路だ。そこから右回りにぐるっと一周してきたんだよ」
「なんと!」
「だから、この角を右じゃなくて左に行けば、少なくともこの罠から外に抜け出せるんじゃないかな」
こんな風に客観的に観察しているだけで抜け出せるような、簡単なトラップだったのだろうか?
そこにちょっと引っかかったが、まずは試してみることだ。
「主サマ、ドウしたっチュ?」
ジェリーが足元にやってきて聞いてくる。
見た目は汚らしいネズミなんだが、足元から見上げるその姿は、もはや俺の目には、豆柴なんか軽く超えるくらいプリチーに映じる。
「お前が行こうとした方向じゃない方に行ってみようと思う。悪く思うなよ」
「思わなイチュ!」
「よしよし、いい子だ。じゃあ、俺に付いてきてくれ」
「キキッ!」
今度は丁字路を左に折れた。
という気でいたら、思わず右に折れて数歩進んでいた。
いかんいかん。
踵を返して丁字路に戻り、まっすぐに進んだ。
つまり最初の位置からすると、左に折れた。
周囲は何度も見た壁とは違うようだ。
どうやら上手く行った。
俺はひと仕事終えた感じで、ほっとため息をついた。
すると可愛らしい声がする。
「なーんだ、もう抜け出ちゃった」
薄闇の中空に、輝くばかりに麗しい小妖精が、ほわっと現れた。
今回で第13章が終了です。
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迷いのトラップをクリアした睦樹
次なる出会いは、妖精さんだった!
新章第14章1話は、令和6年10月10日公開予定!




