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11. カンビヨンの望み

― 前回のあらすじ ―


  新たな出会いは、不気味な邪悪幼女カンビヨンだ

  お腹が空いていたり、だっこして欲しかったりする

  睦樹はそれを叶えてやるのか???


「ぐるるるるる……我らが(ぬし)よ、殺らせてくだされナリ」


 近づいてくる幼女悪魔、カンビヨンを前に、鼻にシワを寄せ狗神が猛る。


「ダメだ八郎丸ステイ!……じゃなくて待て!」


「だっこ……おニィちゃん……だっこ……オカシ……くださいナ」


 なんか壊れた人形のようだ。


「だっこ……だっこ……あーん、あーん……」


 危なっかしい歩き方だ。ダイジョブか、そんなんで……


「あーん、だっこ……おニィちゃん、だっこ……」

「そうだな……だっこ、してあげないと……」


 こんな可哀想な子を、ほっとけるわけないじゃないか。

 抱きしめて、たっぷりと愛情を与えなくちゃ……ならない。


 俺はその小さな可愛い赤い手を取ろうとした。


「――じさま!!」


 俺の直ぐ目の前で、何かが弾けた。

 青い……これは魔法障壁――が、割れた。


 俺はその子の手を取り、引き上げて、抱きしめた。


「ああ、お前って、なんて可愛くて可哀想な子だろう……」


「おとうさんに、ぶたれたの……おかあさんに、くびしめられたの……」


「もうダイジョブだ……安心しろ……お兄ちゃんが付いてる」


 だけど、どうしてこうも重いのかな?

 子どもって、こんなに重いもんなんだ。


 そりゃそうだろう、命の重みだ。

 大切な宝なんだから、重いのは当然だ。


 どんどん重くなる。

 命の重みが増していく。


(でも、これは……きつい)


 俺は重さに耐えきれず、膝を付いていた。

 さらに重くなる……ついに、仰向けに倒れてしまった。


 しかし、俺の可愛い妹は、俺の上に乗ったまま、ぎゅっと抱きしめてくれている。

 なんてけなげで、いたいけなんだろう……。


「おニィちゃん……うれしい……オカシほしい」


 俺がずっと守ってやるからな……。

 お菓子だって、幾らでも食べさせてやる。

 だから、俺から離れるな……


「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 耳元でつんざくような女の子の悲鳴がした。


「どうした?!」


 俺は目を覚まし、上半身を起こした。


「イタイ、イタイ、おニィちゃん、イタイよおおおおおおおーーー」


 俺の上には、あの幼女悪魔カンビヨンが乗っかっていた。

 その頭部が、醜く肥大化している。

 顔の幅は1メートル以上だ!


 巨顔幼女が、その大きな顎に手をやって、苦悶の表情を浮かべていた。

 あまりにシュールな光景に唖然とする。


 見ると、首が半ば切断されており、血が勢いよく吹き出している。

 その頭が落ちそうなのを、両手で支えているのだった。


「おい、ダイジョブか?」


 一閃、二閃、眼の前を銀の光が走った!


 華奢な手首が切断され、さらに首もまた完全に断たれた。


 ゆらりと巨大な頭部は倒れていき、ゴンッ! と重い音を立てて床にぶつかると、そのままゴロゴロと転がっていく。


「あーん……あ、あ、あーん……あ、あ、あ……」


 俺にしがみついた体は、シュウシュウと銀色のエーテル残滓となって散華していく。


「我らが主よ、ご無事ナリや?」

「主さま、だから申し上げましたですん」

「ああ、すまん、何が起こったんだ?」


「主さま、不気味幼女にデレデレして手を出そうとしたですの。ヤドゥルが魔法障壁で守ろうとしたら、幼女の邪眼で割れてしまったのですん」


 その後幼女が俺に抱きつくと、頭部がどんどん大きくなり、俺はその重さに耐えきれず仰向けに倒れてしまったようだ。


 もう放置してはおけぬと、狗神八郎丸が小刀で切りつけ、討滅したのだった。


「八郎丸、助けられたな」

「我らが主の御為なれば、造作もありませぬナリ」


 瞬間移動したベトベトーズが、カンビヨンの頭部を、触腕をつないで囲みながら、不思議なステップを踏んでいる。


 どうやらEPを吸い取っているらしい。

 彼らのシルエットが少しずつ大きくなっていく。


 そして俺にくっついていた体は、プリンスの舌がくっつけて剥がすと、そのまま食ってしまった。


 ダンジョンに優しい、エコなシンたちである。


「だけどこいつ……何だったんだろう?」

「カンビヨンですの?」

「ああ、なんだか……後味悪い」


 カンビヨンがしがみついている間、児童虐待の痛々しい映像が、朧気(おぼろげ)に伝わってきたのだ。

 俺はそれに深く同情してしまい、取り込まれてしまったようだ。


 この子は、そうした虐待を受けて死んだ子どもの霊の、成れの果ての姿だったのだろうか?

 だったらもっと、何か救ってやる手はなかったんだろうか?


 しかし、考えても良い手が思いつかない。


 お菓子でもどっさり持っていたら、もしかしたら別の道が開けたかも知れない。

だが、現世のお菓子持ってきて、それがそのままお菓子でいてくれるかな?


「ヂューヂュー!! ぶっ殺す!」

「どうしたジェリー?」


 俺が駆けつけると、オイリー・ジェリーが倒れた獣の尻尾に食いついて、引きずっているところだった。

 血溜まりからペイントしたように赤が線引かれ、銀色の光を散らしている。


 それは大きな黒い猫だった。

 あの出花のシンの化け猫だろうか?


 全身からエーテルが散逸しだしてはいないので、まだ死んでない。

 気を失っているのか、ぐったりして、もう抵抗する気力も体力も無いのかだ。


「スネコスリ、この葉っぱを食べるんだ」


 俺はハーブの変化した[やくそう]を取り出し、スネコスリに食わせる。


「ふまふま……ふま……」


「どうだ?」

「チカラわくわく」


 スネコスリは何度も術を使い、APがほとんど無くなっていた。

 この葉はEPだけじゃなく、APも回復させるのだ。


 すでに何度かの[ミナイブキ]で、シンたちのEPは足りているのだが、対象は俺と、そしてこの猫だ。


「俺とこの猫に、ミナイブキをかけてくれ」


 スネコスリはちょっとその太い首をかしげたあと、うなづいた。


「ミナイブキ~」


 緑色の光の粒が、俺と化け猫の下から立ち上る。


「ぐうぅぅ……」


 大黒猫が唸り、意識を取り戻そうとする。


幼女悪魔カンビヨンを倒し、大黒猫を助ける

二階への階段は、あと少しだ!(と思う)


12話は、令和6年10月9日公開予定!

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