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10. 哀れなる幼な子

― 前回のあらすじ ―


  中野ブロードウェイでスライム・キューブの罠から逃れた睦樹

  そこを通るのは諦めて、別の階段を探し始める


 俺たちは、中野隠世ブロードウェイの三階を探索していた。


 プリンスは相変わらずベトベトーズに担がれている。

 小さくなったのに、こいつらは意外とタフだ。


 今度は左右から、それぞれがプリンスの前足と後ろ足を、触腕で吊り下げながら、スタスタ歩いている。


 狗神が他の階段を案内してくれたんだが、悪魔族の支配になって、壁が増えたりして行き止まりになっているところがいくつもあった。


「こうなったら、道を作るしかないな」

「道はダンジョンのルーラーでないと、作れないですん」


「ふふん、それができるんだな。シャッター開けて店の中を通れば、そこが道になる」

「大きな音が出るし、危ないですの」


「そうかぁ? 他に何か手があるのか? ヤドゥル?」

「むぅ~~~……」


「八郎丸、シャッター開けてもダイジョブだよね?」

「恐らくは……問題はないかと思われるナリ」


 ちょっと狗神がしょげ気味だ。

 さっきから地形が変えられて、案内が上手くいってないのを気にしているのなら可哀想だ。ちょい励まそう。


「悪魔族がこれだけ地形変えちまったんだ。だけど、方向はお前が示してくれるんだから、助かるよ」


「かような愚狗(ぐく)に、もったいなきお言葉ナリ」

「そんなに気にすんなって」


 しかし、さらに彼が落ち込むことになる。

 狗神は、かつては守り手(ロード)としてどんな鍵も開けられたそうだが、すでに権限を失っていたのだ。


 そりゃそうだ。支配が国津神族から悪魔族に変わったのだから、当たり前だ。


「八郎丸、お前の気にすることじゃないぞ」

「くぅう……」


 ダメだ。かなり落ち込んでいる。

 なんか美味い肉でも見つけて、食わせてやったら元気出るかな?

 都合よく黒毛和牛モンスターとか、現れないもんかね。


 さて、シャッターに錠が施されていれば、ピッキング・スキルを誰も持ってないチームは、ぶっ壊すしかないってことになる。


 俺は壁の隣の店舗のシャッターの錠部分を、槍でドンと突いた。

 バシッと何か青い電気のようなものが走り、錠が壊れたようだ。


 俺はシャッターを少しだけ持ち上げて、オイリー・ジェリーに偵察してもらう。


「どうだ、ジェリー?」

「キキ! ダイジョブっちゅー」


 ガラガラと、でかい音を立ててシャッターを持ち上げた。


「主さまぁ、ここは危険な感じがするのですん」

虎穴(こけつ)()らずんば虎子(こじ)を得ずってな」

「むぅ~~~……」


 お、こんな言葉がヤドゥルにも、ちゃんと通じたようだ。

 それにしても変な(ことわざ)だ。

 虎子ってのがそんなに大切なもんかい?


 内部はがらんとした空間になっており、照明は無い。

 通路からの明かりが届く範囲の向こうには、静かな闇が広がっていた。


 スマホだった不思議ノート、それ自身の機能、アイテム・リストで確かめた名称は、スマート・ノート……まんまやん――の、サーチライトで奥を照らしながら進む。


 これ、俺のAPを消費して使われるようだけどな。

 まあ少量だし、ここは使いどころだ。


 店内には、商品棚のようなものが隅の方に雑然と置かれているが、品物は無く淋しい感じだ。


 勇敢なジェリーは、光の及ばない場所まですっ飛んで行き、戻ってきては「ダイジョブっちゅ!」と報告してくれる。

 ちっさい癖に頼もしいけど、気を付けて欲しいぞ。


 不意に闇の中に壁が浮かび上がる。

 光をずらすと、壁に出入り口がある。行き止まりではなく、隣の部屋との仕切りの壁のようだ。


 出入り口には扉がなく、ただ四角い黒い闇が、壁を穿っているだけだ。

 ジェリーは躊躇なく隣室に突っ込んで行った。


「おい、危ないからあんまり離れるなよ」


 ちょっと心配になり、早足で追いかける。

 と、出入り口の手前に差し掛かると、何か声が聞こえてきた。


「あーん、あーん、あーん……」


 隣室の奥から、子どもが泣くような声がするのだ。

 そしてオイリー・ジェリーの気配が感じられ無い。


「ジェリー、ダイジョブか?」


 俺は泣き声のする方に近づいていく。

 シンたちも、警戒しながら無言で付き従った。


「あーん、あーん、あーん……」


 見ると、四、五歳くらいの幼女が、しゃがみ込んで泣いていた。


 またしても幼女か。

 俺のせいじゃないぞ。


 ジェリーはその手前の棚の裏で、固まっている。

 良かった、危険を察知して気配を殺し、隠れていたのだろう。

 俺が光を当てると、一目散に駆け戻ってきた。


「ヂヂヂ、危なイ、女の子!」


「主さま、お気を付けを、邪悪な存在ですん」


 俺にもそのダークネスな気は感じ取れるのだった。

 QRコード取得の要領で、スマート・ノートをかざしてその正体を確かめる。

 ちなみに、このスマート・アナライズにもAPを消費するのだ。


【名称:カンビヨン】

[固有名:不明]

[神族:悪魔族]

[分類:下魔]

[種族:ハーフデビル]


[サキュバス、もしくはインキュバスと人の間の子。詳細不明:アナライズに抵抗強]


 アナライズに抵抗ってことは、それなりにレベルが高い超常の者ってことになるんだろう。


 もっと強い奴だと、ろくに情報を拾えないかも知れない。

 そしたら逃げ出せ! ってことだ。


「カンビヨンって、どんな悪魔だ?」

「ごめんなさい、知らないのですん」

「我らも初めて見るナリ」


「ヤドゥル、これからは、知らなくても謝らないでいいからな」

「はいですの」


 その間も、カンビヨンは弱々しく泣き続ける。


「あーん、あーん、あーん……」


 こいつは確かに邪悪な奴だ。


 サキュバス、インキュバスってのは夢魔とされてたと思う。

 夜に男や女の寝所に現れて、交わるというエロい悪魔だ。


 それでできた子供ってことは、どうも陰湿なイメージが付きまとう。

 望まれぬ子供、悪魔の子……。


 しかし、こんな格好で泣かれたんじゃ、どうにかしてやりたくなるじゃないか。

 それを察したか、ヤドゥルが釘を刺す。


「主さま、(しら)()(おに)を思い出すですの」

「そうだな、ヤドゥル。分かってるよ」


 ちゃんと三体目ってカウントしてるしな。

 一体目の幼女はお前だ、ヤドゥル。

 二体目の白木鬼は、高円寺隠世で倒した、赤い着物の幼女の振りをしたナニカだった。


 三体目カンビヨン――こいつはいったい何者だ?

 どうもホラー系のヤバい奴って気がする。


 だがしかし、俺はやっぱりまずは声をかけたい。


 俺はライトを幼女の足元に当てて、間接光で観察しながら尋ねた。


「おい、そこのカンビヨン、なぜ泣いてるんだ?」


「主さま、問答無用で滅ぼすのですん!」

「ヤドゥル、少し時間をくれ」

「むぅ~~~……」


 幼女は顔を上げる。


「ああ……ん、うぇええん……おニィちゃんが……いないのぉ……ひっぐ」


 しゃくり上げるその口は血まみれで、喋ったために、何か下に落ちた。

 ベチャリと嫌な音を立てたそれは、何かの肉片だ。


 背後を照らすと、そこには血溜まりがあり、何か黒い生き物が沈んでいる。


「おなが……すいたのぉおお……あーん、あーん、あーん」


 真っ黒な両目から、血の涙を流しながら近づいてくる。

 その両手はべったりと血で汚れていた。


 そんな絶対ダメな光景を目にしながら、俺は食えるもの何か持ってなかったっけと、ダメなことを考えていた。


新たなる出会いはまたしても幼女

カンビヨンを殺さずに、何とかできるのか睦樹?


11話は、令和6年10月8日公開予定!

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