8. 階段ゼリー
― 前回のあらすじ ―
狗神を正気に戻し、新たなるシンに加えた睦樹
中野のロードである悪魔ヴァレフォールを倒す決意を固める
動機は自己の保身のためかも知れないが、国津神族の役に立ちたいって気持ちはもちろんあった。
当然日本のためにもなる。
サブカル・コンテンツが、海外から日本のものに戻るかも知れないしな。
正直あちらのアニメとかはイマイチ乗れない。
キャラの感情の動きが、なんか違うのだ。
ただし、心苦しいことがある。
出花に対しては、嘘を吐くことになってしまった。
さんざ罵られそうだが、謝るしかあるまい。
そして何より今の戦力で勝てるのかどうかだが……。
「ところで八郎丸、国津神第一使徒の水生那美はここに居ないか?」
「いいえ、お姫さまは、この中野館にはおられませぬナリ」
「やっぱり、ここじゃなかったか」
彼女が仲間に加われば、恐らく楽勝で勝てたと思う。必勝を期す一縷の望みだったが、居ないのならば是非もなし。
そして今回は那美を助けるのも諦めるしかない。
せめて何か手掛かりでも掴めればいいんだが……。
ふと気がつくと、足にスリスリする生き物がいる。
スネコスリだ。
「ああ、俺のEPが、まだまだ削れまくってるのを心配してるのか」
(スリスリ……)
「それじゃもう一回頼むよ、スネコスリ」
ミナイブキで俺のEPはそこそこ回復できた。スネコスリの残APを考慮して、一回だけにとどめておく。
「さて、行こう。案内を頼めるか八郎丸?」
「お任せあれナリ」
狗神の八郎丸の案内のお陰で、それからの探索はだいぶ楽だった。
それでもときおり構造が、さらに改変されているところもあったり、悪魔族が設置した新たなトラップがあった。
多分スイッチかセンサーか何かに触れたんだろう。
先行していたオイリー・ジェリーに反応しなかったのは、重さとか、大きさとか、そうした設定があったんだろう。
「主さま、上!」
ヤドゥルの危機察知能力は大したもんだ。
トラップが作動するより前に警告してくれた。
お陰で俺は、とっさに後ろに飛び退いて、頭から串刺しにされるのを免れた。
三本の槍が上から落ちてきたのだった。
床に突き刺さった三本は、俺の胸の辺りで互いに交差していた。
左右に避けていても、どれか当たっていただろう。
そこを抜けると、やっと降り階段にたどり着いた。
しかし、狗神がその先にエレベーターがあるというので、行ってみる。
「やった、これで一気に一階に行けるな」
と思いきや、奇妙なことが起きた。
下へ行くボタンを押すと、エレベーターの扉の隙間から女性の頭部だけが、広がるようにして現れたのだ。
「うわ! なんだこれ」
「存じませんの」
「我らも知らぬ者ナリ」
整った顔立ちだが、やけに憂鬱そうな表情。
伏し目がちな瞳をこちらに向けもせず、喋りだした。
「残念ね、あなたには、このエレベーターを利用する権利がないわよ」
呟くようにそれだけ言うと、すっとまた扉の隙間に消えて行った。
「何だったんだ!?」
「分かりませんの」
「前にはかようなことは、無かりしナリ」
もう一度ボタンを押してみる。
しかし、反応はない。
どうやら、一回だけ警告を告げる霊的(?)な仕掛けのようだ。
「エレベーター利用できないって、国津神だからか?」
「そんな差別――あるかもですん。国津神族だからじゃなく、悪魔族じゃないからかもですの」
「支配権を奪われるってのはそういうことだな」
仕方なく階段で降りることにした。
三階に階段を降りきる手前の暗がりを、光るなにかが飛び去っていくのが見えた。
大きさは50センチほどで、翼を持つ小人のようだったが、一瞬のことでよく判らなかった。
警戒して階段の中程で止まる。
「今のは何だったんだ?」
「邪悪な小妖精ですん」
妖精で飛ぶやつっていうと、羽根の生えたフェアリーみたいなのか。
それは是非ともシンにしたいところだが、どうやらヤドゥルは嫌っているみたいだ。
三階に降りると、ふつうに二階に降りる階段が、すぐ隣にあるにはあったが、それはゼリー状の半透明の柔らかい壁で塞がっていた。
「この壁切り裂いて下に行けないかな?」
「主さま、これは壁じゃなくて超常の者ですん」
「なんだって? じゃあ、倒したほうがいいか」
こんなもの、シンにして連れて行けんだろうしな。
俺は未だ槍の状態を保つ得物で、サクッと切りつけてみた。
壁は簡単に裂け、ブルンと震えて下方へと後退していく。
裂け目からはじくじくと粘液状のものが溢れ出している。
さらに踏み込んでサクッとな。
壁はまたも下がる。
まるで手応えがない。
オイリー・ジェリーは、俺の足元でちょろちょろ動き、ゼリーの欠片を齧ったりしている。
このゼリーの塊は、超常の者とはいえ、だいぶ特殊な存在のようだ。
俺はジェリーを伴って、少しずつだが調子よく降りていく。
「主さま、何やら危ないのですん。引き返してくださいですの」
他のシンたちは、五、六段上の三階に残り、心配そうに覗き込んでいる。
「このまま進めば二階にたどり着けそうだ。皆も降りてこいよ」
言いながらサクッと切る。
「主さま!」
「上をご覧じろ!」
二人に言われて俺は天井を見た。
すると、壁と同じものが分厚くへばりついていて、しかも俺の上に落ちかかるように一部剥がれて下がってきている。
しかも退路を断つかのように!
「やば!」
「キキキー!」
俺とジェリーが踵を返し、階段を駆け上ると同時に、ゼリーの塊がどさっと落ちてきた!
頭の上でバンッ! と破裂音のような音がした。
プリンスの高速の舌攻撃で、ゼリーが弾けたのだ。
バラバラになったゼリーが俺に降り注ぐ。
意外と重みがある上に、バラバラになった奴らが動き出した。
気持ち悪いことこの上ない!
今は三階に戻るのが優先だ。俺は階段を駆け上がった。
しかし、あと二段のところで、足が滑った!
ゼリーの塊に足を取られた、というより引っ張られたのだ。
俺は派手にすっ転ろぶ。
その背中をジェリーが駆け抜け上がって行った。
OKジェリー、お前がまず助かるのは正しい。
さらに上からゼリーの塊が落ちてくる!
ヤドゥルの笹の葉が飛び、俺の頭上に魔法障壁を作った。
ゼリーの塊はプリンスの舌攻撃で半ばで弾けたが、俺は魔法障壁ごと、残った大量のゼリーの下敷きになった。
ゼラチンに食われる睦樹
呼吸もできぬ絶体絶命状況をどう切り抜ける?
※これは『D&D』の◯ラチナス・キュ◯ブじゃないんだからね!
9話は、令和6年10月6日公開予定!




