7. 討伐の決意
― 前回のあらすじ ―
闇落ちした狗神にEPを吸われるがままにした睦樹
ついに意識を手放してしまう!
ちょっとばかり俺が、冷たい死の淵を覗きこんだとき、温かい血が血管に注がれるような感覚がして、意識を取り戻した。
目を上げると、ようやく狗神は満足したのか、エーテル・パワーの吸引が終わったところだった。
絆が光を失い消えていくのが見える。
スネコスリが回復してくれたのだ。ありがとう……。
そして狗神の姿は、見違えるようになっていた。
一回り大きくなって衣服もよみがえり、白の狩衣姿が様になっている。
黒い烏帽子をきりりと頭に乗せた、堂々とした白狗の容貌だ。
それが不意に膝を屈し、両手を床に付けて低頭した。
「申し訳もござりませぬナリ!」
「どうした狗神、正気に戻った途端に土下座なのか?」
「ははっ! 物狂いの見苦しき姿、晒しましてナリ」
「お前も仕方なかったんだ。それより良く戻ってこられたな、偉かったぞ」
「慈悲深き有難きお言葉、もったいのうございますナリ。されどお手打ちにするナリなんナリと、どうかお気の済むよう仕置きくだされ」
「噛みついてエーテル奪ったくらい何でもない。許すよ」
ちょっと死にかけたカモだけどな。
「深き慈恵、下賤の我らが身に染みて有難きナリ」
「我らって、なぜお前は複数形になってるんだ?」
「多くの霊が、この身体に封じられている故ナリ」
「それがぜんぶ、狗神なのか?」
「左様ナリ」
「それで、お前の主さんは誰だったんだ?」
「はっ、国津神族四位使徒、新渡大地殿ナリ」
「その新渡は悪魔族に敗れて、しばらく隠世に現れていないらしい」
「左様でありもうすか……無念ナリ……我らの臣たる縁が切れしナリ」
「心配だな。だが敗れたせいで、お前が奪われたのかも知れないぜ。それとも何らかの術に囚われて、この隠世の番犬として、縛られていたのかもだし」
「お恥ずかしき限りナリ……」
「狗神、今の主人は誰なのですん?」
「ぐるる、デク人形は黙るナリ」
「で、デクにんぎょう!!??」
「ヤドゥル、挑発に乗っちゃだめだ。狗神もヤドゥルを二度と木偶人形などと呼ぶんじゃない」
「はい、ですの」
「承知仕りナリ」
「改めて聞こう。お前の今の主人は誰だ?」
「おりませぬナリ」
「ならば俺がお前の新しい主人になろう。どうだい?」
「はっ! 有難き幸せナリ! 我ら、国津狗神八郎丸、使徒犬養睦樹様の臣とナリて、霊尽きるまでお仕え候ナリ」
「封魔なしで臣を従えるとは、やっぱり主さまはすごいのですん!」
「それって、なかなか無いことなのか、ヤドゥル?」
「はいですの」
体を張って説得すれば、何とかなるかもとは思ったけど、上手くいって良かった。
それに、これが俺だけの特殊能力なら、ちょっとは第三位らしくなってきたってところだ。ワクテカもするってもんだ。
「よし、八郎丸、今後ともよろしくな」
しかし、狗神は顔を上げようとしない。
「どうした? 八郎丸」
「実を申さば、お願いしたき義アリ……」
申してみよ、とか調子を合わせて言いたくなるが、ここはふつうに対応。
「そう固くならずに、言ってみなよ」
超常の者が、人にお願いってのも興味ある。
「我らはこの館の守り主ナリしが……」
「守り手ってのは、ロードだったのかな?」
「その通りですん」
「守り手がやられたから、現世の街が寂れてるのか」
「面目無きこと……しかし、我らが敗れ去りし故のみではなきナリ。クラボッコ様がおられなくナリし故に、この街は活気を失いし次第ナリ」
「クラボッコさま?」
「国津神の妖怪ですん」
「クラボッコ様は悪魔ヴァレフォールに襲われ、今は行方知れずナリ。爾来館は盗賊の住み処とナリにけり。店では盗みの被害絶えずして、怪しげなる邪宗の輩まで出入りする始末ナリ……我らが力及ばず、あな口惜しや……ぐるるるるるるぅ……」
悪魔支配ってのは、やっぱり邪悪なのか。それとも出花の管理不足か?
「されば我らが主よ、どうかお頼み申し上げる次第ナリ」
「ああ、言ってみなよ」
しまった、ノリで応えてしまった。
この話しの流れから、何を頼まれるのかだいたい見当は付くけど、それ引き受けちゃうとマズいやつに違いない。
「憎っきヴァレフォールを討ち果たし、館を悪魔の支配から解放してくだされ」
やっぱり……。
可哀想だが、ここは引き受けるわけにはいかない。
「そんないきなり言われてもな。それに敵は強力なんだろ? 俺は使徒としてまだまだ力を付けなくちゃならないんだ。すぐってワケには……」
「いいえ主さま、ここは国津神の使徒として、同じ国津の狗神の願い、聞き届けるべきですん!」
ちょっと待てヤドゥル、お前までいきなり乗せられるのか。
ダメだろそれ。
「お願いでござりますナリ! どうか我らに仇を打たせてくだされナリ」
「その悪魔を倒せば、クラボッコが戻って、さらに世界は改変されるのかい?」
「クラボッコ様はいかになるやは判りませぬが、お戻りになる場所を用意せねばなりますまいナリ。そして国津神族が中野の支配を取り戻さば、日ノ本にも善きこと多くありしは必定ナリ」
「具体的に、善きことってどうなるんだ?」
「ここの状態が悪魔ヴァレフォールのせいなら、少なくともその影響と思われる現象は、改変されますの」
「ってことは、俺がぶち殺した魚人たちも、ここに居なかったことになる、ってことはないかな?」
「インスマスの輩ですの? う~ん、そうなるかも知れないですん。――でも、せっかく倒しましたのに……」
何を言うかヤドゥル。
倒してなかったってことで、諸問題が解決できるのなら、それに越したことはないに決まっているだろう。
何たって俺は現世であそこに連れ込まれたんだから、俺が居た証拠が残ってるのは間違いない。
もし、あいつらが現世でも同様、あの部屋で死んでいたとしたら……
―――ぜったいに俺は、大量殺人容疑者になるに違いない。
しかも最も疑わしい人物にだ。
だったらこれは、世界改変で無かったことにするしかない!
「分かった、俺が引き受けてやるよ」
「嗚呼、我らが主よ、有り難きことこの上なしナリ」
狗神がやっと顔を上げた。
すると同時に右手の壁が光り、等身大以上のでっかい猫耳美少女のバストショットが、両手首を曲げた猫ポーズを取って現れる。
「みんなにゃか良く、冒険してるかニャ~!? ケンカはだめだにゅ! ウニャニャニャニャ~ン!! ♫ ウッ ニャ! ウニャニャーー! ニュー! ♫」
リズムに合わせて踊りだした。
感動の中野奪還を目指す主従決意のシーンが、薄く楽しい感じになった。
悪魔ヴァレフォール討伐を決意した睦樹
こんなレベルで勝てるのか?
作者もちょっと心配である
8話は、令和6年10月5日公開予定!




