2. 初めての世界改変
― 前回のあらすじ ―
中野隠世を探索することになった睦樹
ダンジョン構造はブロードウェイの建築を元にしているが
いろいろと改変されていた
そこで睦樹が精神的ダメージを受けたものとは?
そう、思い出した。
中野ダンジョンは、こんなんだったのだ。
相馬吾朗は、それをまったく意に介さずスルーしていたのだ。
「ルーラーの意思と、ここに集まる人や超常の者の思念によって、隠世の在り方は影響されるのですん」
「ルーラーってなんだ?」
「この隠世の支配者ですの」
「今は悪魔族なんだよな?」
「はいですん」
「それにしても……」
この世界の壁は、基本下ろされたシャッターと、そしてコンクリートの打ちっ放しのような、俺好みの殺風景な廃墟を思わせるものだ。
その上に長い矢印がペイントされていたり、一面にドット模様が描かれていたり、あるいは直線的な図形でレイアウトされていたりする。
ちょっとアートっぽい感じだ。
しかし、ときおりシャッターの壁面が輝き出すことがある。
そしてその面には、二次元美少女の明るい萌キャラ映像が現れるのだ。
彼女らは愛らしいポーズでアニメーションし、何か一言二言喋る。
「今日もダンジョン探索ガンバッテね! 冒険者さん!」(キラリ~ン☆)
チョキ+親指立てて突き出すと、効果音付きで星が舞う。
その背景もいろいろで、ハートとか羊さんとかロリポップキャンディーに埋め尽くされて、少女の背後でどわ~っとスクロールしたりするのだ。
さらには歌い出す奴までいる!
「ああ~、めっちゃうっとうしい!」
「主さま、何がうっとうしいのですん?」
「え~? ヤドゥルはこの萌えキャラが動くの、邪魔に思わないんだ?」
「別に、何か仕掛けてくるわけでもないですの。安全ですん」
「そうか、安全ね」
「はいですのー」
どうやら害にならないものは、気にならないようだ。
夢の記憶でも中野の風景は同じだったので、この萌え萌えダンジョンは、ルーラーと目される出花準の趣味ではないのだろう。
俺は萌え文化を決して嫌いってわけじゃない。
嫌いじゃないどころか、むしろ好きな方なのだが、それだけにこの痛々しさがガチで分かる。
超常の者と命を賭して戦ってる背景に、こんなのが表れたらシュール過ぎるだろ。
他の隠世は、それぞれ街の思念によってどんな風に彩られていたのだったか?
立ち止まって俺は思い出してみる。
すると、幾つかの隠世の風景が思い浮かんだ。
それぞれの個性はあったが、秋葉ダンジョンがほぼほぼ似た感じだった。
池袋は東西でまるで違う。
西はチャイナ風であり、ヲタク文化の街である東は、もっとダークな世界が広がっていた。
そして気がついたことがある。
確かこれほど現実の建物の構造に沿った世界は、ここと高円寺しか無かったはずだ。
この差は何だろう?
「ヤドゥル、この中野の隠世は、けっこう新しかったりするのかい?」
「はい、現世の時間では十数年前に出来たばかりの、新しい隠世なのですん」
十数年で新しいのか。
でも、やはりそうか。高円寺は出来たてだから、ほとんど現世と構造が変わらなかった。
古い隠世ほど、現世の構造と違ってきているのだろう。
それはおいおい確かめていくとしよう。
それより俺はヤドゥルに聞きたいことが、まだまだあるのだった。
「教えてくれヤドゥル。現世に戻ったら、俺が撮影したハーブの売人の画像がすっかり消えてたんだ。これって何か隠世と関係があるのかな?」
「そのハーブの売人とは、いかなるお方ですの?」
「あー、ドレッドヘアっていう髪の毛で……えーっと、髪が絡まり合って紐みたいになったのがいっぱいあるやつで、痩せてて……って」
ヤドゥルは小首を小さく傾げている。外見の説明がまどろっこしい。
「ほら、高円寺で戦った生霊の魔人だよ」
「嗚呼、あの邪なる生霊めでしたか。ふぅーむ、恐らくそれは主さまが、あ奴めを倒したがゆえに、世界が改変されたのですん」
「え?」
「はい、その売人とやらは、現世ではすでに、死んだことになっていたのでは?」
確かに、メガロニュースでは、あいつにそっくりな奴が事故に巻き込まれて死んだって報道されていた。
あれはやっぱり、本人だったのか?
「そ、そうかも……知れない」
「改変された世界では、主さまが撮影したとき、すでにその者はそこに居なかった、という事になったのですん」
「イヤイヤイヤイヤ……」
「それがお嫌なのですん?」
と、今度は愛らしく小首をカクンと傾げる。
「違う、あり得ないだろってこと」
「何がですの?」
今度は逆側にカクン。
可愛い。だがしかし……
「世界がそんなことで変わるなんて」
「あれ? お伝えしませんでしたか? 使徒とは世界を改変するために戦っているのですん」
「それは知っていたけど……」
隠世で戦えば現世に影響し、勝利した神族が有利になるというのは聞いていた。
過去をも変えられる。中野の陥落では、一年以上前まで改変されたとも推測できるのだ。
しかし、俺が行った行動で、即ここまで変わるとは思いもしなかった。
俺が隠世で斬り殺したことにより、本人はトラック暴走事故に巻き込まれて、現世で死んだことになってしまったようだ。
間接的とはいえ、俺は殺人を犯したってことになるのか?
だがあの時は殺らなきゃ殺られる状況だったわけだから、正当防衛とは言えるだろう。
――それでも後味が悪い。
「気になさらないでくださいですの。どうせあ奴めは、現世にのさばらしていても、罪咎をいや重ね、多くの無辜の人々を害し、新たな災禍ばかりを生んだのですん」
「そうは言ってもな……」
「世直しも、使徒のお役目ですの」
「しかし、俺は人殺しをしたことにならないか?」
「何がいけないのですん?」
「………って、人殺しはダメだろ?」
「それに主さまが殺した訳ではないですの。世界改変により、運命によって魔人は死んだのですん」
「そう……なのか」
どうもヤドゥルの善悪の常識は、現世の人とは異なるようだ。
ちょっと心しておいた方がいいかもしれない。
だとしても、もっとイロイロと聞かなくちゃだ。
そこで、大変なことに気が付いた。
さっき殺した半魚人たちは、もしかして現世では、ただの人間ではなかっただろうか?
彼らは現実ではどうなってしまったのか?!
まだまだゆるゆるしてました!
すにでやっちまったことが、オオゴトだったのかも知れないですが
新たなトラブルも出会いも無い!
看板に偽りありですが、ボチボチ参りますので、よろしくお願いします
3話は、令和6年9月30日公開予定!




