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1. 中野隠世の冒険が始まる

― 前回のあらすじ ―


  中野ブロードウェイ四階で、邪教の魔術儀式に巻き込まれる睦樹

  生贄にされそうなところ、隠世に部屋ごと転移し、逆襲開始!

  敵の半漁人インスマスをすべて殺戮してしまう


― 第13章開始 ―


 血と魚の臭気に、まるで酔ったみたいだ。

 あるいは邪教の儀式の瘴気にでも、当てられたのだろうか。

 廊下に肩をぶつけながら、俺は玄関にたどり着いた。


 不気味な触手が絡まったように変化したドアノブをひねる。

 フジツボだらけの扉を開けて、通路に出た。


 部屋から出ても、現世には戻れなかった。


 中野隠世の濃厚な空気を、思いっきり吸い込こむ。

 中の空気より断然マシだ。

 少し重い感じはするものの、あれに比べたら爽やかでさえある。


 殺戮と血で昂ぶり、臭気にクラクラしていた精神も、やっと落ち着いてきたようだ。レベル・アップ酔いもあったのかも知れない。


 俺がぐったりしている間、大ネズミのオイリー・ジェリーが真っ先に飛び出して来て、ちょこまか走り回りながら、辺りの様子を伺っている。元気なやつだ。


 続いてスネコスリがトコトコと現れ、俺の足に体をすりっと(こす)りつける。()いやつめ。チームのEP(エーテル パワー)はまださほど削れていない。


「出番はもう少し後だから、のんびりしていいぞ」


 丸っこい首で頷く姿も可愛い。


「むー、臭かったのですん」


 ヤドゥルがすぐその後に、鼻をつまみ、文句を言いながら出てくる。

 廊下でスネコスリに追い抜かれたようだ。


 それに続くベトベトさんは、敵のEPを吸いまくり、大きくなりすぎて扉をくぐれない。

 廊下を進むのも、体を縦に伸ばしてスリムになって進んできたのだ。


 外に出ようとしてひっかかり、戸口いっぱいに、ベトベト・ミント・ブルー

がみっちり詰まっている状態だ。


 すると、手を作るときのように、前方にその体の一部が伸ばされた。

 その腕部はどんどん大きくなり、伸びた先の方に足が生えた。


 そしてすたすたと通路を歩き出した。

 後ろに続く体は、トルコアイスのようにヌヌーンと長く引き伸ばされている。


 そして真ん中あたりで、ぷっつりと体が切れてしまった。

 そのまま前後の二体に、伸ばされた体が吸収されていく。


 分裂したベトベトさんは、後ろのやつが通路に出て来ても、そのまま合体せずに二体のままだった。


 それでも背丈は俺の胸くらいまである。

 体格は、人間の体積を超えていそうだ。


「増えたのですん」

「ああ、増えたな、ベトベトさん」


 スマホだったものでチェックしても、名前は同じでも別ページに登録されており、個別の超常の者として認識されているようだ。

 まさか、これがベトベトさんの増殖方法なのか?


「ベトベトさんたち、これからもよろしくな」


 彼らは、くいっと体の上の方を折り曲げ、挨拶を返した。

 エーテルを吸収し続けたら、このまま増え続ける可能性もある。いいのか、それで?


 ぞろぞろと何体ものベトベトさんを引き連れてゆく姿を想像して、それもアリかと思う。

 まあ、そのときはそのときだ。


 最後に巨大蝦蟇(ひきがえる)のプリンス・クロウリーがのっそりと出てきた。

 彼は横幅が引っかかりそうだったが、ヒュンと体を伸ばし、少し細くなることで事なきを得た。


 

 さあ、俺自身にとっては、初めての本格的な隠世だ。


 眼前には、もともとダンジョンのようなブロードウェイの商店街が、さらにダークな感じに変貌し、ひっそりと息を潜めている。


 暗く緑色がかった照明が、シャッターと無機質な壁でできた迷宮街をぼんやりと照らしていた。


 さて、問題はこれからの計画だ。そして思わぬ形で隠世に来てしまったが、今度は帰り道が分からない。


 しかし、優先度第一位はまた別だ。


「ヤドゥル、ここに那美がいるか分かるかい?」

「むぅ~ん……お(ひい)さまの気配は……感じられないのですん」


「この隠世にはいないのか……」

「ぜったいに居られないと、分かったわけではないですの」


「そうか、察知できないけど、絶対に居ないってわけじゃないのか」

「はいですん」


「じゃあ、ここからどうやって現世に戻るか知ってるか?」

「一階にゲートがあるのですん」

 そうだった。言われて俺も思い出す。


「なら探索しながら階下に降りて、那美の気配を探ってみるか」

「はいですん」


 大雑把な計画がなったところで、俺たちは慎重に動き出した。


 大蝦蟇のプリンスは歩みが遅いので、でかくなって歩くのが速くなったベトベトさんに、前後から二体で担いでもらうことにした。

 どうやら王様気分でご満悦のようだ。


 スネコスリは小さくてずんぐりした体型に似合わず、けっこう素早く歩けるから問題ない。


 大ネズミのオイリー・ジェリーはもちろんすばしっこい。

 チョロチョロ先を進んでは立ち止まり、辺りを警戒してまた先に進む。

 言われなくても偵察をしてくれるのが、頼もしい。


 歩きながら夢の記憶を喚起させていくと、どうやら隠世の建物の構造は、ほとんど現世と変わらないように見える。

 ならばと、俺は下り階段を求めて、来た道を戻って行く。


 しかし、そう簡単にはたどり着けなかった。

 中野ダンジョンは、現世の建物に沿って構成されているというのは基本的に合っていたんだが、部分的に変化していたのだ。


 階段に向かう通路には、壁があって行き止まりになっていた。

 壁を叩いてみたが、反応は特にない。何もない、ただの行き止まりだ。


「行き止まりには、宝箱置くくらいのレベル・デザインにしないとダメだろ」

「誰が宝箱を置くのですん?」


「そうだな、たぶんゲーム・プランナーの仕事だ」

「中野では、そのゲーム・プランナーさんがサボってるって訳ですの?」


「そうだと思うぞ」

「ヤドゥルも宝箱見たかったのですん」


「そのうち見つけような」

「はいですの」


 残念ながらダンジョンの記憶では、いわゆる宝箱を見かけることは滅多に無かった気がする。


 宝箱を見つけても、まず間違いなくそれらしく化けたミミックだ。

 しかし、ミミックを倒せば、奴らが溜め込んだアイテムを手に入れることができたはずだ。ヤドゥルはそれでも満足してくれるだろうか?


 さて、通路を引き返して回りこもうとすると、今度は床面いっぱいに穴が開いており、下は暗くて良くわからない。

 ジャンプして渡るには、ギリギリの距離に思えた。


 階下に落ちるだけなら、ショートカットにはなるが、落下ダメージがあるかも知れない。

 それに穴の中が棘だらけのトラップだったら目も当てられない。


 中を照らしてみようと、スマホだったものの機能を探っていたら、すごい強力ライトになった。

 それで光を当ててみても、真っ暗で何も見えないのが気に入らない。


 避けるに越したことはないだろう。

 さらに遠回りを強いられた。


 だが、この隠世の特徴はそれだけじゃなかったのだ。

 ひと目見て、俺はかなりの脱力感――というか精神的ダメージともいうやつ――を覚えた。


「なんじゃこの隠世は?!」

さあ、新たに第13章が始まりました!

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!


最初はゆるゆるとスタートしましたが

当然主人公とは、さまざまなトラブルに巻き込まれるものです

どんな試練が待ち受けているか、どんな出会いが待ち受けているのか

どうぞご期待ください!!


2話は、令和6年9月29日公開予定!

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