12. 中野ブロードウェイ☆真の価値
― 前回のあらすじ ―
高円寺隠世で襲ってきた中学生悪魔族使徒、出花準に捕まる睦樹
彼をほっといて、今思い出した相馬吾朗の記憶……使徒の戦いと
世界との関わりに集中
こんだけマイペースだと、確かに友達できないぞ
中野の陥落は、現実の日本の現状が、国津神族にとって都合が悪く、悪魔族にとって有利になるように働いた。
それは悪魔族の支配する国にとっては有利に、日本にとっては不利になったということなのだ。
これは国津と悪魔だけに限らない。
隠世のあるエリアを特定の神族が支配すると、現世がその神族とその神族が支配する国にとって、有利な状況へと変化するのだ。
支配する土地によって、何が変化するかがある程度決まってはいるらしいが、詳しくは分からない。
吾朗の記憶にないのか、単に俺が思い出せないのか。
拠点となるエリアを奪い合う、神族大戦だけじゃない。
使徒同士の戦いでも、どちらかが勝利すれば、それも現世に影響する。
使徒はそのために戦っているのだった。現世を、現実を、背負って立つ勢力にとって有利にするために、隠世で戦争しているのだ。
では中野が奪われると、どうなるのか?
具体的に詳細なできごとは、思い出せない。
それは現世で吾朗が確認した記憶だからだ。
しかし、隠世でもその話題は語られていた。
そこから察するに、今のように中野ブロードウェイが寂れただけじゃなかったのだ。
日本のサブカル全体が衰退し、アニメ、ゲーム、コミック、ラノベなどの産業にダメージがあったようなのだ。
その代わり、海外のそうしたコンテンツが大量に日本に入ってきた。
俺はそんなものかと思っていたが、確かに四月からの地上波の日本アニメが減って、アメリカや中国のものアニメや、『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』系のドラマが吹き替えされて、放映されるケースが増えた気がする。
最新のコミックとかは金がかかるので、あまりチェックしてなかったけど、そういうのがマンガ業界でもあるのかも知れない。
中野だけでこれだけの影響なんだ、もし秋葉が堕ちたらどうなっちまうんだろう?
(イヤイヤイヤ、ちょっと待てよ?)
中野が陥落したのが五月だ。それなのに、四月のアニメからそれらしい影響出てるのはどうしてだ?
世界改変ってのは、時を遡って起きるってことなのか?
だいたいTVアニメの放映計画なんて、ずっと前から決まっていることのはずだ。
となると、その影響が遡る時間は、かなり長いものになる。
神族大戦による世界改変、これはいったいどういった仕組みなんだ?!
ヤドゥルなら詳しく教えてくれるだろうか?
「おい、聞いてるのか? 犬養睦樹さんよ? とっとと、このブロードウェイから立ち去ってくれないですかね? 国津のおエライお兄さん?」
続く長雨のせいで土中の酸素が足りなくなって、地上に這い出たはいいけれど、間違ってアスファルトの上に移動してしまい、行場を失ってのたうつミミズでも見るかのような目つきで、長考する俺を睨めつけると、隼は退去勧告を突きつけてきた。
まるでこの建物が、自分のものであるかのように。
イヤイヤイヤ、現世の中野ブロードウェイで永久非課金買い物を楽しむ俺を、排除する権利はお前には無いはずだ。
いや、さっきちゃんとお買い物しちゃったので、さらにだ。
たとえ、お前がこのビルの所有者であっても、それはできない。
それにもともと中野は国津神族のものなのだから、いつでも奪回する権利は、こちらにこそあるのだ。
それを言うと、こいつは完全にブチ切れそうだ。
とっても面倒くさいことになるかも知れないし、暴れて暴力を振るうかも知れない。
………でも、
ちょっと試してみたくなってしまったのだ。
それはこの出花隼が、けっこう可愛い顔してたせいかも知れない。
お兄さん、ちょっとイジメたくなっちゃったかもだ。
反撃喰らって、見事轟沈するかもだけど。
「やれやれ……だいたいここは、もともと国津神族が支配していた拠点だぜ」
「はぁ? テメエらクソ国津から実力で奪い取ったんですよ。文句ないですよね?」
「ならば、実力でこちらが取り返しても、何の問題もないだろ?」
「やれるもんならやってみな。その代わり全面戦争覚悟しろよ」
「全面戦争って、オイオイ……先に悪魔族が仕掛けてきたんだろ? その返礼に渋谷ぶっ潰してやっての忘れたのか? すでに戦争してるんだぜ?」
「う……だって、国津だって今戦力不足なはずだろ……」
「戦力不足も何も、中野にいるのは俺ひとりだぜ? そんなに焦ってるのは、そっちも今ひとりってことかな?」
「そ、そんなこと、あるわけ無いだろ!」
「でも、戦力不足は否めないと……でも安心しろ、俺は今戦いに来たんじゃないって言ってるだろ? なのに何でそんな噛みついてくるんだ?」
「それは……」
隼が一瞬言いよどむ。
「僕が中野ダンジョンのルーラーだからですよ。僕はマダムからここを任されてて、責任重大なもんで」
マダム? 誰だそれ?
「そうか、若いのにたいへんだな。頑張れよ」
「言われなくてもやってますよ」
「でも、悪霊が放置されてるぞ、客からEP奪ってる」
「チッ」
リアルで舌打ちする奴、久しぶりに見たな。
さすが中坊だ。
どうやらそうした現世に悪影響を及ぼすのは、ルーラーにとっては汚点のようだ。
悔しそうに顔を歪める隼も、なかなか可愛い。
俺の中でS属性が芽生えて来たってか?
まあ、大人しくしてりゃ、ショタとして充分素質がある男子だからな。
イヤイヤイヤ、跳ねっ返りのショタをねじ伏せるのも充分ありだ。
俺が邪念を抱きながらニマニマしていると、出花少年の表情が何か小狡そうに歪んだ。
「はは~ん、もしかして一色あや?」
「え?」
「一色あやじゃないですか? お兄さんの目的って」
「いや………それは違うって……」
しまった不意を突かれた。
俺は適当にあしらえず、動揺を顔に出してしまったに違いない。
今は那美のことを優先しなくちゃならないのに、アイドルのライブを観にくるのに後ろめたさを感じていたんだろう。
「ふ~ん……国津第一使徒という立派な恋人がいながら、アイドルにうつつを抜かすんですね」
いや、その通りなんだが、ふつうなら別に恋人いてもアイドル観に来たっていいだろ?
それを咎めるっとことは、つまりコヤツはやっぱり中坊なんだ。
アイドルを観にくるのも浮気と判断してしまうほどに、純粋だ。
小憎らしいガキと思っていたが、案外可愛いところもある。
だがしかし、油断できないんだった。
那美が行方不明なんてこと、絶対こいつには知られてはならないしな。
それにしても、俺を相馬吾朗に置き換えて考えているようだ。
この辺、世界の認識はどうなってるんだ?
なんか分からんが、捻れがあるように思える。
とはいえ言い訳は、ちゃんとだけはしておこう。
「いや、別に一色あやはそんなんじゃなくってだな……」
ダメだ俺、これじゃあますます出花を図に乗らせるだけだ。
「じゃあ、どんなですかぁ?」
右の口角を吊り上げた冷笑が、可愛い顔にまるで似合わない。
むしろ怖いじゃん。
(中坊怖がってどうするムッキー。ここはガツンと大人の対応でいこう)
そうは言っても、俺はマウント取りに来る大人が嫌だからなぁ、それっぽいことはできない。
だから、正直に、誠意をもって、そして朴訥に俺の現状を理解してもらうことに努めよう。
まあ、ちょっと脚色加えてな……子供にも分かるように、易しくそして優しくだ。
俺はとっておきのスマイルを顔に張り付かせて、ナントカここに来た理由の説明を始めた。
「いや……その、あれだ。在りて在る者が課すクエストがあってだな……」
何を言ってるんだ俺。どこにも分かり易いい要素なしだ。
途端に隼の表情がこわばる。
「それの第一関門である暗号を解き明かしたので、ついその答えを確かめたくなったというか……」
「在りて在る者…………」
「あ、ああ、知ってるか? 神様のことだぞ。嘘でも冗談でも無く、ちゃんとTReEでメッセージが残ってる………ほら!」
俺はスマホをさくっと操作して、隼にその画面を向けた。
すると、劇的な変化が表れた。
カァ! ここまで、読んでいただき、ありがとうでござるカァ!!
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出花準と「在りて在る者」の関係は?
もうブロードウェイ探索に残された時間は僅かだ。
次回13話は、令和6年9月27日公開予定!




